「さおちゃん」
「あ!まぁちゃん!」
マンゴーを持って行くと、ちょうどご飯が出来たらしく、さおちゃんがいた。
さおちゃんにマンゴーを見せると、喜んでくれて、一緒にご飯を食べることになった。
「飯めっちゃ美味い~~~!」
「え、お前・・・さっきマンゴー木一本分食ってたやないか」
「え、そうなんか金ちゃん!」
「あ、あ~~~謙也、言うたらあかんて言うたやないか!」
「いや、言うで。金太郎が悪いやんか」
「・・・金太郎・・・あとで毒手やで・・・!」
「毒手いやや~~~!」
「はは、ばってん、食べるんば止めん金ちゃんらしかね」
「さおちゃん、ご飯食べないのかい?」
「マンゴー食べるよ!」
「うん、良かったよ、きみが喜んでくれて」
「冷たくて美味しい~~~」
「きみが喜んでくれてよかったよ!アタシもご飯食べたら食べよーっと」
「きみ、午後からどうするの?そっちも午後から作業開始するのかい?」
「ん?しらん」
「知らんの?」
「何が?作業ってなに?何も聞いてないよ」
「説明していた時にはまなみは寝ていた確率100%」
「そうだった!寝てたわ!」
「そうだったね…きみなんかのん気でいいね…」
「10時間寝た!」
「じゃあ元気だね」
「うん!元気!」
「ジロと同じくらい寝てんな」
「ほな、午後から作業手伝うん?」
「え、絶対手伝わないけど何言ってるの」
「元気っていうから…」
「元気だけど手伝わないよ、何しようかなぁ」
「ふふ、怪我だけはしないようにね」
「わかった!誰か知らんけど心配してくれてサンキュ!」
「しらねーのかよ」
「さおちゃん、海で遊ぼう」
「海かぁ」
「さおちゃんだって、手伝う義理はないんだから別にいいじゃん」
「んー」
「前さん、行って来たら?ずっと手伝ってくれとるし…少し息抜きせな」
「うーん…でもみんなこれから作業なのに、私だけ遊ぶのはちょっとなー」
「お前も見習えや」
「うっせ黙れメガネ」
「それに、私白石くんのお手伝いするって約束したし、白石くんの側にいたいからごめんね」
さおちゃんのその言葉に、一瞬その場の空気が凍りつく。
何言ってんださおちゃんは。
え?これで付き合ってないってマジかよ。
え?さおちゃんヤバすぎない???
どんだけ鈍感なの?
多分ここにいる全員、今の言葉でさおちゃんの気持ちわかったよ???
白石のほうを見ると、顔を真っ赤にしてさおちゃんを見ている。
「・・・いって!!」
なんかムカついたから、思い切り足を踏んでおいた。
これは、お前への罰だ。
・・・アタシからさおちゃんをとった罰だ・・・
「え!?どうしたの白石くん!?」
「あ、いや、なんでも、ないで」
「ええ~どうしたのかな?あ、なんか虫に刺されたとか!?」
「いやいや、大丈夫やで!まえさんたくさん虫よけスプレーしてくれたしな!」
「ホント…?」
「おん、元気元気!」
「でも、顔赤いし…」
「いやー…これは…ホンマに平気やから、な!」
「うん…」
「あ、あー、そういえば洗剤どこやろなー?あとで作業の合間ぬって洗濯行こうな!」
「あ、そうだね!まぁちゃん、洗濯ものあったら洗ってくるから出しといてね」
「ラッキー」
「・・・ここに精一がいなくてよかった」
「・・・プリッ」
「青春ですね」
「嘘だろ・・・まえ先輩・・・」
「なんだ、まえはしっかりと手伝っていてえらいではないか」
「真田って鈍いのな」
「そら、色恋沙汰には無頓着なんやろ」
「わかりやすいよなー…これで無意識かよ…」
「仲が良いことは良いことだな」
「すげー・・・漫画みたい・・・」
やはり、さおちゃんの発言でその場がガヤガヤうるさくなる。
おう、お前達の気持ちわかるぞ・・・
意味わからないよな・・・
これで無意識なんだぜ・・・?
でも、見てたらあれだな
白石は自覚してるっぽいな!
問題はさおちゃんだけだから、あとはさおちゃんの問題だけど、
そのさおちゃんの問題が一番ややこしいんだわ~~~
まぁ、応援はしたくないし、ほっとくわ
長年さおちゃんと文通していた行為は賞賛に値するとは思う
ご飯を食べ終わり、とりあえず食器だけは下げたぞ!(アタシえらい!)
そんで、このあとどうしよう、独りで海もなーって思いながら、海のほうに歩いてた。
グッ
「なぁ!」
腕を掴まれて、振り返ると、走って来たのか少し息が切れた謙也がいた。
「ん?何?」
「あんさ、やることないんやろ!?」
「うん、ないね」
「俺も3時まで何もないねん」
「うん」
「・・・良かったら、一緒に遊ばへん?」
「え」
「・・・いや?」
(いやじゃないけど・・・)
(さおちゃんが遊べないから、気を使ってくれたのか)
(・・・ほんと、コイツは・・・)
「・・・遊んでやってもいいぞ」
「!? ほんま!?」
「じゃあ、小魚とろう」
「昨日蟹で、今日は小魚かいwww」
「川のほうに小魚めっちゃいた」
「おん、わかった」
「勝負だぞ!」
「おん!絶対負けへんで!」
ほな、小屋にバケツと網とりにいかなー
そういって、歩き出した謙也の隣を軽い足取りで着いて行った。
「まえさん、ちゃんと軍手した?」
「しました!」
「長袖長ズボン着た?」
「着ました!」
「ほな、薪拾いに行くで!」
「はーい!」
午後は、2時から作業。
白石くんは、2時に薪拾い、2時半から山菜取りなんだ。
だから、一緒に行くことにしたよ。
白石くん、私と一緒にいたいって言ってくれたからね!
(へへへ)(私も白石くんと一緒に話してるの楽しい!)
立海と一緒にいるのも楽しいけど、白石くんといると、落ち着くというか、なんだか安心できる感じがするんだよね…
立海のみんなとは神奈川に帰ったらずっと一緒にいられるけど、白石くんとはまた文通に戻っちゃうから、白石くんと一緒にいようと思うよ!
「そういえば、さっき『毒手』見れた!」
「ああ、毒手な」
「春くらいの手紙に書いてた毒手!」
「毒手ってことにしたの、金ちゃんが来てからやからなぁ~」
「毒手って言わないと金ちゃん暴れちゃって大変だもんね~」
「せやねん・・・」
「金ちゃん自由すぎるから、毒手で抑えるって言うのもわかるよ」
「ほんま、大変なんや・・・オサムちゃんのいう事も全く聞かんしな・・・」
「大変だねぇ・・・でも毒手信じちゃうの可愛いけどね」
「金ちゃん純粋やしなぁ。そこがええとこでもあるんやけど・・・」
1年生の頃からずっと包帯してるから、昔手紙で聞いてみたんだよね。
そしたら、怪我じゃないって言ってたからホッとしたよ。
利き腕なのに怪我してたらテニス出来ないもんね!
でも、何ともなくてよかったよ。
メンテナンスが大変そうだけど。
「ほな、ここら辺で薪拾いしよか?」
「うん、わかった!」
「まえさん、無理せんでな。枝とかでええからな」
「うん、無理しないよ」
「ほな、作業開始!」
「は~い!」
白石くんの合図と共に、2人で薪拾い。
薪拾いの時間30分しかないから、早く拾わないと今夜のご飯に間に合わないよ!
薪は多めに拾って、貯めとくって言ってたから、頑張って集めないと!
大きな木は私には運べないから、小枝を拾う。
一生懸命集めて、カゴに入れる。
私が持てる量のカゴ。
チラッと白石くんを見ると、
太い木を拾って、薪にするために斧の横に持って来ていた。
白石くんが、薪割りを始めたら、私はその薪を集めようと、目の前にあった小枝に手を伸ばす。
ニョロッ
その瞬間、目が合った。
私の嫌いな
ヘビと。
「きゃーーーーーーーーーー!!!!」
「まえさん!?」
私の叫び声を聞いて、白石くんが木を放り投げてこちらへ向かってくる。
私は思わず白石くんに抱き着く。
「どないしたん!?」
「ああああ、あそこ」
「あ、ヘビか!噛まれてへんか!?」
「か、噛まれてない、けど、」
「とりあえず、毒のない種類やな・・・けど、噛まれたら危ないわ、どっか行くまで近づいたらあかんで」
「や、やだ、ヘビ、」
「こんだけ自然があればヘビくらいおるよな・・・」
「こ、怖い・・・」
私はもう無我夢中で、
本当に怖いし気持ち悪し、
白石くんに助けを求めて、必死に抱き着いていた。
そんな私を、白石くんは、抱きしめ返してくれた。
「・・・大丈夫やで」
そういって、今にも泣きそうな私の頭を優しく撫でる。
「もう向こうの茂みのほうに向かっていったから、大丈夫やで・・・」
白石くんの手が私の頭を撫でるたび、あれだけ恐ろしかった恐怖心が薄れていく。
(・・・白石くんて、すごい)
(私、あんなに怖かったのに・・・)
普段なら、きっと怖くて、もっとパニックになってるはずなのに。
私が落ち着くまで、ずっと優しく撫でてくれている白石くんの腕の中が心地よくて、
こんなに安心したのは、今まであっただろうかと考えてしまった。
もう少しだけ、白石くんの腕の中にいたくて、私は白石くんに抱き着く腕に力を込めた。