体育祭が終わったらすぐに中間テスト。
テスト期間1週間前から部活動は禁止となる。
私もバレー部がお休みで今週はみっちりテスト勉強だ。
(少し生徒会室寄ってたらもうみんないないや)
(テスト期間だもんね)
(部活ないしみんなさっさと家に帰るよね)
机の中に1冊教科書を忘れたな、って思い出して取りに向かう。
まだ16時くらいなのに誰もいない学校はちょっと変な感じがする。
カタン
教室に入るとすぐに驚いた声が聞こえた。
「あれ!?前?どうしたんだ?」
「澤村くん!」
私の前の席の澤村君が驚きながら顔をあげた。
「どうした?忘れ物か?」
「うん、教科書忘れちゃって・・・澤村くんは?」
「俺も、ペンケース忘れて」
2人で顔を見合わせて笑った。
(あー、澤村君って落ち着いてるなぁ)
(雰囲気が超大人・・・)
「・・・部活ないのも変だけど、こんな明るい時間に学校が静かなのも変な感じだよな」
「ふふ、私もそう思ってた!テスト期間ってすごい静かだね」
「な。普段じゃ考えられないよな」
「部活もないし、勉強がんばらないとね!」
「そうだな」
「私、英語苦手なんだよね・・・今回のテスト範囲の文法もちょっとよくわからなくてさ・・・」
「英語かぁ・・・どこ?」
「え?」
「わかる範囲なら教えられるかも」
「ほんとに!?」
わー、やったぁ!澤村くん、頭いいもんね!助かるよぉ!
と、私は自分の席に座って英語の教科書を広げた。
澤村くんはクスクス笑いながら 自分の席に私の方を見るように座った。
「・・・だからここがHadになるだろ?Haveの過去形の」
「うん」
「だからここはI had dinner with my family last week.で~しましたって文章になるんだよ」
「そっか、過去形にしなきゃいけないんだね!じゃあここはこうなって・・・」
「そうそう」
「で、ここがこれで・・・」
「・・・」
「・・・こうなるのかな?」
「・・・なぁ、前」
「何?あ、間違えてた?」
「いやそっちはあってる。・・・ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「え?何?」
「あのさ」
「うん」
「・・・白石となんかあった?」
(・・・・)
まさかそんなこと聞かれるなんて思わなくて
思わず固まった私を覗き込むように あー、言いづらかったら答えなくていいから、 と澤村くんは気を使って言ってくれた。
(・・・なんかあった、というか)
(え)
(なんでわかったんだろう・・・)
(すごいな澤村くん・・・)
「えっと・・・」
「ごめんな、変なこと聞いて」
「ううん!大丈夫だよ!」
だいじょうぶ・・・
そう いったん呟いてから
「・・・あのね、私ね」
ウン、 そう 真剣に話を聞いてくれる澤村くんの目が真っ直ぐで
これは私もごまかしたり隠したりはできないな、と 彼に向き合った。
「私、白石くんに告白されたんだよね」
「え!!?」
「それで一応OKしちゃったんだけど、」
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ!え!?オッケーしたのか!?」
「うん・・・なりゆきで・・・」
「え、ってことは 今付き合ってるのか!?」
「・・・そうなるね」
ウソだろ!?
澤村君はガタンと大きな音を鳴らしてその場に立ち上がった。
「え、う、ウソじゃないよ・・・?」
「あ、わ、悪い・・・つい動揺して・・・」
「だよね・・・私もものすごい動揺してるもん・・・」
「前が?なんで?」
「え・・・だって、私ね」
「うん」
「告白されたの気づかなかったんだ」
「・・・え?」
「付き合ってって言われたの・・・どこかに行くことだと思ってて・・・」
「は!?」
「それで、ウンって言っちゃって・・・付き合うことになって・・・」
「なんだよそれ!じゃあ勘違いしてたって言えばいいじゃないか!」
「それが・・・白石くんがすごく喜んでたからなんだか言い出しにくくて・・・しかもそれサマーキャンプでの話なの」
「・・・もう2か月前じゃないか」
「うん・・・もう2か月前・・・今更言えない・・・」
「ちょっと待ってくれよ、ほんとにそんな・・・・・付き合ってるのか?」
「一応・・・」
「でも・・・すごいよそよそしいぞ?」
「だよね・・・上手く話せないしなんか気まずくて避けちゃってさ・・・」
「・・・本当に付き合ってるのか?」
「もう!そうだってば!・・・ねぇ、どうしたらいいと思う?」
そう私が言うと、澤村くんは うーん と何か一生懸命考えてくれた。
やっぱりいい人だなぁと そんな風に思った。
「普通に付き合えないのか?」
「え、無理だよ・・・」
「白石のこと嫌いか?」
「き、嫌いではないよ・・・!」
「じゃあ好き?」
「・・・・・・うーん」
「・・・わかった」
「わかった?」
「あぁ、これは第三者の意見だけど」
「うん」
「白石が可哀想だ」
「え?」
(白石くんが)
(可哀想・・・?)
困ってるのは私だとばかり思っていた。
そう思っていたのに 可哀想?白石くんが?
「・・・どーいうこと?」
「あぁ、まぁ単純に俺が白石の立場になって考えたんだけど」
「うん」
「例えばずっと好きで告白して 付き合えたのに彼女はとてもよそよそしいし自分を避けてて」
「・・・」
「すごい嬉しかったと思うんだよな。これからのこと色々考えて。どこ行こうかとか、何したら喜んでくれるかとか」
「・・・」
「なのに全然話もしてくれないし、本当に付き合ってるのかわからなくて」
「・・・」
「むしろ・・・なんかお前全然楽しそじゃないし・・・」
「・・・」
「それを見てる白石ってすごい可哀想だな、って、俺の意見」
敵に塩を送るわけじゃないけどこれはさすがにな、と澤村くんは言った。
(・・・可哀想)
(そうか)
(白石くん・・・確かに可哀想だ)
告白してくれたとき、すごい真剣だったし
返事したときも嬉しそうだったし
一生懸命最初の頃も話しかけてくれてたし
連絡もくれるのにあんまり返してないし・・・
(あぁそうか)
(白石くんを苦しめてるのは私なんだ)
(・・・だから私も)
(こんなに苦しいんだ)
「・・・前?大丈夫か?悪いな、キツイこと言ったか?」
「ううん。ありがとう・・・澤村くんってすごいね」
「え?そうか?いや感謝されることは何もないけど・・・」
「澤村くんも彼女いるの!?ほんとすごいと思った!恋愛のプロだね?」
「え・・・プロじゃねぇし・・・俺今まで付き合ったことないし・・・」
「そうなの!?めっちゃすごいと思ったよ!!」
「いやそれお前がいっぱいいっぱいになりすぎなんだよ・・・みんなわかるから・・・」
「え・・・そうか・・・」
「ってか、すごい鈍いよな前って!!彼女いるの?って俺に聞くか・・・?」
「そう?にぶいかな・・・まぁちゃんにはよくにぶいって言われるけど・・・」
「ほんっと・・・プッ 告白気づかないとか(笑)」
「もお!笑わないでよ!!」
「だって、そんなの初めて聞いたぞ!みんな恋だのなんだのって女子はよく話してるのに、全然気づかないんだもんな(笑)」
「しょーがないしょ・・・!」
「・・・ああ、そこが前のいいところだと思うよ」
でも、俺は大変だけど
小さく彼が呟いた言葉は よく聞こえなかったけど
澤村くんに話を聞いてもらえたことがすごく気楽になって
なんだかスッキリした。
色々考えることはあったけど
とりあえず今は中間テストに向けて勉強がんばることにした。
英語教えてもらったしね!!
(家にも強力な講師陣が待ち構えてます)
私は澤村くんと 一緒に学校を後にした。