クロスオーバー47【さおり】

朝教室に入って

「お、おはよう、白石くん」

思い切って挨拶してみた。

白石くんは目を丸くして驚いた後
嬉しそうに おはよう と言った。

彼の事を避け続けて一週間。
なんだかようやくまともに顔が見れた気がする。

 

「あ、あのな、前さん、連絡先交換しぃひん?」

 

そして、彼からのこの申し出にも う、うん と私はぎこちなく頷いたのだった。

 

正直、彼との向き合い方はいまだによくわからない。

 

今までどうやって話してたんだろう?
どんな話をしてたんだろう?
どんな顔をしていたんだろう???

 

すごく簡単で単純なことだったはずなのに
それが全くわからなくなってる。

 

でも、むっちゃんと話してから少しだけ気持ちが楽になって
慣れればなんとかなるのかな、なんて少し前向きな気持ちにはなったんだ。

私は例えば
私たちを守ってくれる家族のこととか
幼馴染のみんなのこととか
まぁちゃんとか
この学校に入って出来た友達とか
そういうの全てに充実していたから
”現状を変えること”が怖いのかもしれない。

そこまで、冷静に考えることが出来た。
出来たけど

 

 

できたけどさぁ・・・!!

 

 

(いや、私に彼氏って・・・!)
(しかもこんなイケメンって・・・!)
(全然もう誰かとお付き合いするとか考えたことなかったから冷や汗出るわ!!)
(あー、どうしよ)
(こわい・・・)
(こわい・・・!!)

 

 

 

「前さん?」

 

 

なんだかオロオロと、彼が私の顔を覗き込む

 

 

( ゚д゚)ハッ!

 

「あ、う、うん、そういえば連絡先交換してなかったもんね」
「せやねん、交換、してもろても ええ?」
「う、うん」

 

私はスマホを取り出して 彼と連絡先を交換した。

 

(・・・これでもう)
(逃げられない)

 

 

ゴクリ

 

 

いいよ、と言ったのは私だ。
きちんと相手の話を理解せずに頷いてしまったのも私だ。

 

 

(あぁだけど)
(これで私本当に彼氏持ちになったんだなぁ~( ;∀;))
(あああ付き合うってなんじゃ)
(あああ困ったよぉ)

 

「家帰ってから連絡してもええ?」
「う、うん」
「ほんま?よかった!」

 

彼はホッとした様子で
また嬉しそうに笑った。

 

そして私はその日一日ガチガチに緊張して
家に帰ってからは正座して携帯の前で待機するのだ。

 

 

(連絡が来る)
(返さねば)
(ちゃんと、しなければ・・・!)
(自業自得、なのだから・・・!!!)

 

ガタガタガタ(震え)

 

ま「さおりくん、お風呂入ろうよ」
さ「あ、ウン、そ、そうだね・・・先に入ってていいよ・・・」
ま(これ白石からの連絡待ってんだろうな・・・やっと番号交換したのかよおせぇ・・・てかここまで緊張する必要あるのか?)

 

コンコン

 

謙信「ちょっといいだろうか?あの、もじのかきかたでわからないものがあるのだが・・・じじょをかしてほしい」
さ「!?け、謙信くん!!!お勉強してたの!?えらいね!」
謙信「じしょを・・・」
さ「わかった!辞書!持って、一緒に行く!お勉強教えてあげるね!!」
謙信「ぼ、ぼくはひとりでおべんきょうできるんだぞ!つよいこなんだからぁ・・・!」
さ「(デレデレ)うんうん、謙信くん強い子だから一緒にお勉強しようねー」
ま(あかん、もう謙信にデレデレし始めた・・・のか、嫌な気持ちをごまかしてるのか・・・どっちにしても悩んでるなあれは)

 

こうして謙信くんにお勉強を教えるって大役を担って携帯を部屋に置いたまましばらく何も考えずに過ごせたのだ。
やっぱり携帯のことを忘れてる時間はとても穏やかに過ごせて

 

付き合うことに何の意味があるのか

 

更に私の頭の中はこんがらがっていた。

+2