027***蔵ノ介

(あーまいったわ)

(前さんとおるのめちゃめちゃ楽しい・・・)

 

 

 

去年の全国大会での立海との試合のあとから、俺たちはめっきり会わなくなった。

練習試合だなんだって、それまではなんだかんだ会ってたのに、この1年はそんなこともなかった。

幸村くんが病気で倒れてもうたし、立海はほとんど練習試合もせんかったから、それは仕方ない。

俺たちも立海に負けた後で、少し思うところがあって、立海の面々とあまり会いたくなったのは本音や。

 

手紙でも、あれからテニスのことはほとんど書けんくなって、他のくだらない話ばかりしていた。

もちろん、俺たちは友達なんやから、他愛もない会話でもええんやけど、

それまではやっぱり、俺たちを繋いでくれたのはテニスということもあって、なんとなくテニスの話は多かったかもしれん。

部長になって悩んでいたこと、テニス部に新入部員が入らなんくて廃部になりそうなこと、テニスに対する俺の想い・・・

そんなことを書いていたのに、いきなり書かなくなって、不自然やったと思う。

それでも、彼女は優しいから、彼女自身もテニスの話は避けて、普段の日常での出来事を書いて送って来てくれたんや。

 

 

次に会うのは、全国大会。

せやから、次は、この1年の努力を彼女に見てもらえたら良い。

そう思ってたんやけど・・・

 

 

今回の合宿に彼女がいたことに驚いた。

っちゅーか、正直、最初ほんまに誰かわからんかった。

 

背中まである長い髪、

少しだけヒールのある靴、

キレイなドレスに身を包んだ彼女は、

幼さはまだ残るものの、美しい1人の女性のように感じた。

 

雰囲気が違って、正直めっちゃビックリしたけど、

ふんわりと笑うあの笑い方は、去年と全く変わってなくてホッとした。

 

(うん、やっぱり前さんや)(この穏やかな気持ちにさせてくれる感じ・・・)

(ええなぁ)

 

 

そう思っとったんやけど・・・

 

 

前さんに虫よけスプレーをするっちゅー話になった時、

彼女が見せたうなじに正直ときめきすぎて身動きがとれんくなった。

これはホンマに驚いた。

今まで女の子のうなじとか、全く興味なかった俺がやで!?

なんで!?って思ったし、もっと見てたいとも思ったし・・・

そういう目で彼女を見たことなかったのに、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった・・・

ホンマにすまん前さん・・・

別に悪いことしてないのに、悪いことしてる気分や・・・

 

 

 

と、まぁ、そんな感じで彼女のことは一旦置いておこう。

これは合宿や。

全国大会でこのメンバーと戦うんや!

せやから、しっかりと合宿で精神と肉体の鍛錬をせなあかん。

そう思って、気持ちを切り替えることにした。

 

 

 


 

 

 

「白石ー!ワイ、肉くいたいー!」

「我慢せぇや金ちゃん、今は肉は無理やって」

「えー!!肉くわな、たんぱくしつが無くなって筋肉落ちるんやろ!?」

「肉の代わりに魚あったやろ?ツナ缶もあるし、タンパク質なら大丈夫やで!」

「でもワイ肉がええねん!あとたこ焼き!!」

「無理言うなや金太郎」

「金ちゃん、帰ったらたくさん食えばよか」

「う~~~~肉~~~~」

 

 

海と山で分かれた俺たち四天宝寺は、いつもよりも賑やかさが半分・・・

まぁ金ちゃん1人でも充分騒がしいんやけど・・・

みんなで探索が終わって夕飯を食べている時、俺らがワイワイ賑やかに食べていると・・・

 

 

「じゃあ私洗い物するね~」

「え?お前もう食べたのかよ」

「うん」

「全然食ってないじゃん!」

「元々あんまり食べないよ」

「普段から小食ですからね前さんは」

「じゃあ、どんどん食器持って来てね~」

 

 

率先して、手伝いをする彼女の声が聞こえる。

 

 

(ああ、ええなぁ・・・)

(そういうところがたまらんなぁ・・・)

 

 

普通なら、怖がってもいいと思う。

大人が誰もいない状況で、サバイバル生活を強いられてるんやから。

 

けど、彼女は、

怖がっている様子もなく、どこか楽しそうに、俺たちの手伝いをしてくれている。

本当は、不安なのかもしれないけど、

そんなこと感じさせないくらいの笑顔で。

 

 

(ええ子やなぁ・・・)

(ええ子やんなホンマに・・・)

 

 

早く食べ終わって、それを手伝おうとした。

 

 

・・・ん、や け ど、

 

 

「手伝うよ」

 

 

青学の不二クンが、彼女の隣に立ったのだった。

 

 

「え、えっと・・・不二くん・・・だよね?」

「うん、そうだよ」

「あ、ありがとう、でもご飯もう食べたの?」

「うん、食べたから大丈夫」

「そうなんだ、じゃあ私洗うから、布巾で食器を拭いてもらってもいいかな?」

「わかったよ」

 

 

そんな会話が聞こえてくる。

 

 

(ソワッ)

 

 

ん、ん~~~~~~

なんやろ、この気持ち・・・

不二クンは悪ないねん。

うん、ほんまに悪くない。

 

せやけど、

 

めっちゃ、

 

気になる!!!

 

 

 

「めっちゃ美味かったな!摂れたての魚ってうまいんやな!」

「けど、足りひん~もっと食いたい~」

「とりあえず今日は我慢ばい」

「なんか動きたいな!ちょっと海の方まで行ってこようかな!?」

「ええけど・・・暗いから気をつけなあかんで」

「おう」

「ほな、皿片付けとくわ」

「ええの!?」

「ええで(話せるきっかけになるし)」

「おお!ほな俺ちょお走ってくるわ!!」

「おん、食後に走ると脇腹痛くなるからほどほどにな」

「わぁっとるわ!」

「ワイもー!コシマエと試合しよー!」

「俺は食後はのんびりするけんね」

「みんな・・・ほどほどにな」

 

 

俺は、食事を終わらせて、みんなの食器を持って前さんの元へ向かった。

 

 

「まえさん」

「あ、白石くん」

「やぁ白石」

「食器、洗うの手伝うで」

「あ、いいよいいよ、そこ置いといてー」

「え、ほな不二クン、代わるで?」

「え、いいよ。特にやることもないんだし」

「そ、そう?」

「不二くん、続き聞かせて!」

「うん、一眼レフはね、いろいろなモードがあってね」

「うんうん」

「それで一瞬を逃さないように、いろいろモード変えて撮るのがいいんだよね」

「へえ!」

「色味も変えれるから、自分で変えて雰囲気を出すんだよ」

「すごいね~私もそのうち一眼レフ欲しいなぁ」

「前さんがどんな世界を写真におさめるのか興味があるよ」

「ほんと!?じゃあ写真撮ったら見てくれる!?っていうか、カメラ教えてくれる!?」

「うん、もちろん僕でよければ」

「やったぁ」

 

 

 

え・・・

なんなんこれ・・・

この疎外感何・・・?

めっちゃ前さん楽しそうやん・・・

不二クンとめっちゃ楽しそうやん!!

 

 

なんだか、楽しそうな2人の姿を見ながら、胸にモヤモヤしたものが広がっていった。

ホンマになんなん・・・

こんなん、まるで、

 

(ヤキモチ、やんか・・・)

 

 

何となく、そんな気持ちを認めたくなくて、

おれはその場からすぐに離れたのだった。

 

 

 

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