「サークルのみんなでキャンプに行こう」
そう言いだしたのは友達と友達の彼氏だった。
この病院は規模が大きく、従業員への対応も手厚い。
企業の中でもけっこう優秀なレベルだと思う。
申請すれば費用を病院側で持ってくれるサークルもいくつか存在していた。
友だちの付き合いで入っていたサークルは、バレー部。男女一緒のサークルでバレーを楽しむってだけのサークル。
たまにキャンプをしたり、バーベキューをしたりしてたけど、私は一度も参加したことがなかった。
「まなみももちろん来るでしょ?」
「うーんどうしようかな」
「まなみいないとつまんないよ~!一緒に行こうよ!!」
「彼氏いるからいいしょ別に」
「まなみと行きたいの!!ね、一生のお願い!!」
なぜ私が・・・と思ったけど、まぁタダ酒飲ませてくれるっていうし、遠出は割りと好きなんだ。
湖でボートも乗れたりするっていうから、たまにはいいかなってことで行くことにした。
――――――――――――――
「ねー、そろそろだよねー?」
友だちと、友達の彼氏と一緒に先に来た私。
バーベキューやるって言うから材料を買って来たのはいいけど、そのバーベキューのコンロ等をつんだ車が来ない・・・
「メンバー誰?そろそろ来るの?」
「まぁまぁ今来るから」
「もう遊びに行っていい?」
「待ってって!」
なんだろ?
なんかやけに引き留めるな・・・
怪しい('ェ')
(なんだよ、結局来ても遊べないなら意味ないじゃん!)
(湖でボート乗りたいのに!)
そう思っていると、「あ、来た!」と友達の声が聞こえた。
(やっと来たのか、待つの嫌いだよ!)
(どんな奴か見てやる!)
そう思って友達の視線と同じ方向を見てみると・・・
(あ!)
例の、研修医の姿が・・・
「いや~すまんすまん」
「ごめんね、急に山下先生から電話があって・・・」
「お仕事大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言って話すのは、例の研修医と同じく、”イケメン研修医”として人気な爽やか研修医だった。
イケメン研修医と爽やか研修医。
(いや、興味なくて知らなかったけど、仲良いのか)
(2人一緒に来るってことはそうだよね…?)
すると爽やか研修医が近づいて来て、「まえさん、待たせてごめんね?」と声をかけてきた。
ゾワ~~~~
(あ、嫌いなタイプ)
さおちゃんだったら好きなんだろうけど、なんていうの?
この「ごめんね?」って疑問形な感じ・・・あと小首をかしげて私の顔を覗き込む感じ・・・
最高に嫌い
「あ、大丈夫です」
「もう、まなみったら早く遊びに行きたいってうるさかったんですよー、三浦先生」
「じゃああとで一緒に遊びに行こうか」
「・・・」
「行ってきなよまなみ~2人きりで♥」
(これは・・・)
すぐに気付いた
きっと友達はこの先生と私のために、今日の日をセッティングしたんだということに
(あちゃ~どうしよう)
「えーっと・・・メンバーってこれだけ?」
「うん、そう!」
「え、バレーサークルってもっとメンバーいるよね??」
「あはは、他には声かけてないよ!多いと荷物大変だし!」
「あ、そう・・・」
「前さんもバレー部だったんね、スポーツ好きなの?」
「いやぁ、そんなことはないんですけど・・・」
「じゃあ、私たちあっちで炭おこしてるから、2人は野菜切っててくれる?」
そう言う友だちは去り際に「お医者さんゲットだよ♥」とこっそり耳打ちして去って行った。
(なんか♪マークが見えるわ・・・)(なにあの楽しそうな感じ・・・)
(私なんてシムでいうとストレスで真っ赤になってるよ今!)
「前さん、野菜切ろうか?包丁持ってきたんだ」
と荷物をあさる三浦という爽やか研修医。
(あ~やばい最悪だわこれ)
「あ、じゃあちょっと水汲んできますね!」
「え、いいよ、力仕事は俺に任せて?」
「(いちいち小首かしげんなよ)大丈夫です!先生まだ来たばっかりだし準備とかもあるだろうし!」
「じゃあ一緒に行こう?」
「(鳥肌)私ちょっとトイレも行ってきたいんで、帰りに持ってきますから!」
「でも・・・」
「じゃ!」
とりあえず、その場から逃げるように水を汲みに向かった。
(最悪・・・マジやばいわ)(いや~2人きりとか超キツイ)
かっこいいのかもしれない
けど、全く受け付けない
(最悪だわ、家でアンジェやってるほうが何百倍も有意義だわ・・・)
はぁ・・・
そうため息をつきながら大きなタンクに水を入れていた時だった
「おう、大丈夫か?」
そうやって来たのは
(あ、)
イケメン研修医のほうだった。
「ちょっと!あの人なんなの!?」
「あ~、すまんな、なんか俺ら3人同期やねんけど・・・ほら、あの彼女できたレントゲン技師と三浦と俺と」
「いや、ちょっとこのメンバーないわ!」
「ホンマ申し訳ないわ・・・三浦の奴、あの懇親会でお前のこと気にいったみたいでな」
「はぁ・・・魅力的すぎる自分が恐ろしいわ・・・」
「はは、ほんまやな」
(あれ、)(自分で言うなや!)(とか、ツッコミはないわけ?)
「・・・で、なんでアンタここにいんの」
「いや・・・やって、あいつら2人の世界なんやもん・・・おれ邪魔やん・・・」
「ああ、あのバカップルね」
「それになんか悪いな~思うて」
「何が?」
「お前、困っとったみたいやから」
(ドキッ)
なんだか、心を見透かされてるような気がした
(そんなの、私の友だちだって気づいてないのに・・・)
「爽やかな王子様タイプっちゅーんか?あーいうの女子はみんな好きやと思うてたけどな」
「・・・みんな好きだろうね」
「苦手なんか」
「うん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「素直やな」
「うん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・うん、よし、わかった!」
「・・・何がわかったのさ」
私がそう言うと、研修医は笑いながら
「2人きりにはさせへんから」
そう言った。
「・・・ホントだろうね?」
「おん、三浦には悪いけど苦手なもんはしゃーないよな」
「もう、ホント無理だわ!鳥肌立つレベル!」
「そんなにかい!(笑)」
「・・・だから頼むよ、」
2人きりになりたくない・・・
そう呟いた私に
「任せとき!」
研修医は万遍の笑みでそう言った。
「・・・じゃ、この水運んでね」
「え!?あ、まぁそりゃ運ぶけども!」
「あーあ、ボートで湖の上爆走しようと思ってたんだけどなー」
「何それ!?めっちゃ楽しそうやん!!」
「楽しそうだろ、アヒルボートでどれだけスピード出せるか実験を・・・」
「最高やなそれ!!!最高やん!!!」
「うるさい、興奮しすぎ!」
「ああすまん、けどそれホンマにめっちゃ楽しそう!やりたい!」
「だろ!?」
「おん、ええなぁ、やりたいわぁ」
楽しそうやわぁやりたいわぁ
そういう研修医は何だか楽しそうで
(やっぱり、こいつノリはいいな・・・)
(関西人すごいよな)
(私絶対関西人と合うわ)
(あ、)(そういえば)
「あ、あのさ、」
「おん」
「こないだ、」
「ん?」
「飴ありがと」
私がそういうと、研修医は
「・・・・・・・・・ん」
と少し照れたような返事をした
「うける、なんだその間は!」
「ええやん!びっくりしたわ!今それ言うか!?」
「思い出したからな」
「義理堅いやっちゃな」
「なんだそれ」
「はは、めっちゃ意外」
そう言いながら2人で元のキャンプ地に戻った。
これから苦行が待ってるかもしれないというのに、なぜだかこいつの隣は居心地はいいと感じ始めていた。