「無敗で全国大会まで導いてみせる」
真田がそう、幸村と約束した。
それから、毎日毎日、みんなは頑張って練習して。
私もそれに付き合っていた。
幸村が退院するまでは、お休みをもらってお見舞いに行ったりもしたけど、
でも、部活も頑張った。
(3年生だもん…)
(最後も優勝したい…)
(幸村が帰って来る場所を、きちんと守ってあげたい…)
そうして、順調に県大会を優勝した私たちは、関東大会に勝ち進んだ。
もちろん、一度も黒星はない。
全試合、今のところ勝っている。
(これって)
(すごいことだよね!?)
7月。関東大会。
1回戦の銀華中。
2回戦の名士刈中。
3回戦の不動峰中。
全ての試合で、立海は一度も負けずに決勝まで行った。
このままいつも通り決勝で勝って、そして幸村との約束を果たすって、みんなで思ってた。
のに。
青学との決勝戦。
1回戦はブンちゃんとジャッカルが、2年生の桃城くんと海堂くんに苦戦しながらも勝った。
2回戦は仁王くんと柳生くんが、3年生の大石くんと菊丸くんにギリギり勝った。
そして3回戦。
これで勝てばストレート勝ち・・・のはずだった。
だけど、
柳が、乾くんに負けた。
それをかわきりに、4回戦の赤也も不二くんに負けてしまったし、
5回戦目の真田は、1年生の越前くんに負けてしまった。
(そんな・・・)
約束したのに。
幸村と約束したのに、その約束は果たせなくなってしまった。
幸村は全国大会に向けて、必死にリハビリとトレーニングを頑張っていると言うのに。
関東大会で、まさかの準優勝という結果は、
私たちの考えを改めるきっかけとなったのだった。
「こんなもんでは生ぬるい!!本気でこんか!!!!」
パァァァァン!!!!
????????????
うん?
ごめんね?
多分、ここ、マネージャーとして「みんな負けちゃった…グズッ」って泣くところなのかもしれない。
でもね、いきなり始まったビンタ大会に頭の中が混乱している。
真田は何言ってるの???
制裁????
全くもって意味がわかんない。
「今年は挑戦者として全国へ乗り込む、むろん王座を奪回する為に!」
すごい真田真剣だけど、ビンタ大会怖すぎて、震えていた私・・・
全員本気で真田を殴ったけど、殴る必要あった????
おかしいなぁ・・・私よくわかんない。
「さぁ、前、お前も俺を殴ってくれ!!!」
「嫌だよ!!真田何言ってるの!!??負けたの悔しいし、悲しいけど、でも殴る意味が全くわからないよ!!!」
私は意味のわからなさに、そのままカバンを持って走って逃げた。
真田、ホント意味わからないなって思った瞬間だったわ。
幸村と約束を果たせなかったことは私もツライ。
それから、王者立海は関東大会をいつも優勝していたのに、負けてしまったことは悔しい。
だけどね、こういう体育会系のノリ私ついていけないなって最近感じてる…。
なんか、1年生の頃は純粋に「体育会系ってこんなもんなのか~」って思ってたけど、やっぱり暴力は良くないと思います。
3年生になったら尚更そう思う。
よく真田が赤也を殴るから、それを止めるの大体私。
でも、周りは「ほっとけって」って言うの。
意味わからなすぎる。
後輩殴ったらダメでしょ。
なんだか、最近ついていけないよ…。
私、最近すごく立海と自分の温度差に悩み始めてる。
多分、このまま立海の高校に入学する予定だけど、もう体育会系は入らないんじゃないかなぁ…。
まぁちゃんにも、赤也が入部してきてから真田の暴力が目立つって言ったら「やめちまえ!そんな部活!」って言ってたし。(まぁ別に本当はまぁちゃん的にはどうでも良いけど、私がやめるきっかけを作るためにやめちまえって言ってるの知ってる)
この、関東大会でのやり取りが原因で、のちに私のテニス部に対する考えが変わっていくのだった…。
「と、言う事があった」
「やめちまえ!そんな部活!」
「いや、きみ本当はどうでもいいと思ってるしょ」
「うん。でも、狂ってるとも思ってるよ。別にきみには何もしないと思うからいいけどさ」
「まぁ私にはみんな優しいよ」
「軍隊かよ、狂ってるな立海」
「私もさ、きみとか氷帝みてたらおかしいなって思って来たんだよね」
「それは良いことだね」
「うーん、今までなんで気付かなかったんだろう。白石くんの話聞いてたら、四天宝寺もとっても仲良しだし」
「・・・」
「こないだも、みんなでカラオケ行ったって書いてたよ」
「・・・」
「四天宝寺はね、なぜかツッコミとかボケの練習があるって言ってたよ!面白すぎるよね」
「・・・」
「白石くん、今年は関西大会優勝出来るかなぁ、まだ何も聞いてないけど」
「・・・」
「四天宝寺は仲良しだし、白石くん部長じゃん?人を殴ったりとか絶対しない人だから、そういう人が部長のがいいよね~。あ、真田は副部長だった」
「・・・」
「あれ?きみどうしたの?」
「・・・別になんでもないよ」
「え!?そうかい!?」
「うん、それよりそろそろ忍ぺんまん丸やるよ」
「あ、それは見なくちゃね、そのあと烈火の炎一緒に見よう」
「うん、見る」
「忍ぺんまん丸の歌すごい良いよね、MDに入れよう」
「うん、そうしよう」
まぁちゃんも何か心境に変化があったようだけど…
でも鈍い私は、何もわかっていなかった。
この時の私は子供から少しずつ成長してはいたけれど、
まだまだわからないことも多かったんだ。