020***さおり

 

 

 

”幸村クン、入院したって聞いたけど、大丈夫なん?”

 

 

 

幸村の入院の事は、全国で話題になっているらしい。

それもそうだ。

だって、幸村は、全国一の選手だったから。

幸村が倒れたと聞いて、もしかしたら喜んでいる人たちもどこかにいるかもしれないと思うと、憎らしくも思えてくる。

 

 

 

(白石くんは、きっと、本気で心配してるんだろうけどね…)

 

 

 

息が白くなった季節。

11月に学園祭で女装したよって、白石くんが女装の写真を送ってくれた。

 

思わず笑っちゃったけど、手紙に書いてあった幸村のことで、また落ち込んでしまう。

 

 

 

あれから数ヶ月たった今も、幸村は入院していた。

退院の見込みなんてない。

いつ退院できるかもわからない。

そんな状況だった。

 

 

 

私は、あれから週に1回は必ずお見舞いに行っていた。

それも1人で。

 

テニス部の人たちは、テニス部の人たちでお見舞い行ってるんだけどね。

私はテニスとは関係ない話をしているから。

 

幸村が大事にしていた花壇のお世話の話とか、

テニス部以外の学校のこと。

たまに、まぁちゃんが一緒に来てくれるんだけど、まぁちゃんが一緒に行くと、幸村はいつもよりもとても楽しそうにしてくれる。

だから、自然とまぁちゃんの話になることも多い。

 

本当はもっとたくさん来てあげたいんだけど、家が遠いから部活の後は難しいし…

だから休みの日しか来れなくてごめんねって言ったら、「休みの日にわざわざ来てくれるほうが嬉しいよ」って言ってくれた。

 

私は幸村の病気のことよくわからないし、ここまで長く入院してるのは何か怖い病気じゃないかって恐ろしくなるけど、

それでも幸村が会いに行くたびに嬉しそうにするから、できるだけ会いに行きたいと思っているんだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「幸村、今日ね、お花でしおり作って来たの!」

「え、本当かい?」

「これね、プリムラって言うんだよ。幸村の名前に似てるって教えてもらって、花言葉も調べたら「運命を切り開く」っていい言葉だったから」

「そっか…ありがとう、大事に使わせてもらうよ」

「うん」

「このプリン美味しいムシャムシャ」

「まぁちゃん…それ幸村のなのに…」

「ふふっ、いつも助かってるよ。食欲そんなにないのにいただいてしまって、困ってるから」

「甘いものなら処分は任せろ!」

「うん、まなみにはいつも助けられてるよ」

「もーまぁちゃんは!」

 

 

今日も幸村のところに来ていた私とまぁちゃん。

幸村、やっぱりまぁちゃんいると楽しそうだ。

 

 

「じゃ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「うん、わかったよ」

「ちょっと遠くのトイレ行くから、待っててね」

「うん…わかったけどその情報はいらなかったよ」

「ふふっ、迷子にならないでね」

「おう!気を付ける!」

 

 

「まなみはいつも元気だね」

「うん、そうだね」

「さおり、いつもありがとう。さおりが来てくれるの、本当に楽しみになっているんだ」

「え、そうなの?」

「うん…他のみんなは、気を使ってそんなに来ないから」

「幸村…」

「わかってるんだけどね、怒鳴ってしまったのは八つ当たりだって」

「…」

「でも、やっぱり、すぐには気持ちの整理がつかなくて…」

「…うん」

「…やっぱり、テニスがしたいよ…」

 

 

そう呟いた幸村の横顔は本当に悲しそうだった。

 

 

「で、でも!」

「…」

「真田が言ってたよ、幸村と約束したって、無敗で全国に行くんだって!!だから、みんな前よりも、すごい張り切って練習してるんだよ!」

「…うん、知ってるよ」

「…だから、待ってるから…私たち待ってるから、ちゃんと帰って来てね…」

 

 

ポロッと涙が出てきた。

幸村の前では泣かないように我慢してたんだけど、どうしても我慢できなくて。

幸村は、「うん」と言いながら、私の頭を撫でる。

 

 

 

「ちゃんと、戻るから、泣かないで」

「うん、待ってる、いつまでも待ってるから、」

「うん、」

 

 

 

泣きそうな幸村の顔を見て、また涙があふれた。

どうして、神様はこんなに優しくて、テニスが大好きな彼にひどいことをするんだろう。

幸村の病気を治してくださいって、いろんな神社にお願いに行っているのに、今のところ全く効果が見られない。

いつになったら治るの?

幸村はまたテニスが出来る?

 

 

 

そんなことを考えながら、私は、涙していたから、

 

 

 

 

('ェ')ジーーーーーーーーーー

 

 

 

 

まぁちゃんの存在をすっかり忘れていた。

 

 

 

 

「…きみたち付き合ってるの?」

「え!?まぁちゃん何言ってるの!?」

「はは、さおりは俺にはもったいないよ」

「幸村、それ断る時の決まり文句って知ってた?」

「え、私なんかよくわからないけどフラれたの?え?なんで?」

「残念だったな、さおちゃん」

「うーん、さおりはなんだか妹みたいな存在だからなぁ。大事だけど・・・」

「妹・・・」

「私は!?」

「まなみは猫・・・」

「やったー!可愛い!」

「え、まぁちゃん動物だけどいいの・・・?」

「うん!」

「ふふっ、まなみはいつでも楽しそうだね」

「うん、さおちゃんと一緒にいれるし楽しいよ」

「そっか、俺もまなみとさおりと一緒にいれると楽しいよ」

「じゃあまた来週来るわ!」

「本当?楽しみに待ってるよ」

「甘いもの用意しててね!」

「こら、まぁちゃん!」

「ふふっ、いいよ、もらいもので良ければたくさんあるからね」

 

 

 

こうして、真っ白い病室に、賑やかな笑い声が響いていたのであった――――――――――

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