第25話:サオリ

 

 

 

「そこで賢者シライシはかけられた呪いを進ませないため、姉の時間を止める魔法をかけました。彼は、姉を必死に守っていたのです」

 

 

 

シライシの処刑を巡って会議が開かれた。

 

ハッキリとクラノスケの無実を主張するアタシを、みんな 驚きながら見つめていた。

 

 

 

「・・・第二皇女、ずいぶんと立派になられて・・・今まで公務は嫌で走り回って逃げていたというのに」

「人の命がかかってるんだもん、逃げてる場合じゃないでしょ!ねぇ、お父様お母様・・・聞いたでしょ?彼は無実なの、お願い、処刑しないで」

 

 

 

そう言ったアタシを口々に責めるのは他の大臣たちだった。

 

 

 

「・・・しかし、その証拠がない」

「それに一体誰が呪いをかけたというのだ」

「呪いは強力な魔術や知識が入り混じった複雑なもの・・・そんなものかけられるのは最上級の魔術師か賢者しかいない」

「我が国一番の魔術師は城にいた・・・ということは呪いをかけたのは賢者しかいないのではないか?」

「自分の呪いを隠すために 上から魔法をかけたのかも知れん」

「なんて恐ろしい男だ・・・」

「処刑しろ・・・今すぐ処刑だ!!」

 

 

 

処刑 処刑 処刑 処刑

 

 

 

会議室が 処刑 という叫び声で溢れた

 

 

ゾクッ

 

 

 

(・・・なにこれ)

(何かがおかしい・・・)

(人の顔じゃない・・・)

(みんな鬼のような顔をしている)

(いつもはみんな真っ先に刑を軽くしてやりましょうだなんて笑って言うのに・・・)

(おかしい)

(まるで・・・操られているような・・・)

 

 

 

両親も、とても戸惑っていた。

 

 

 

しかし、

「満場一致で処刑決定ですな。近いうちに決行いたします」

と、議長が宣言してしまったのだ。

 

 

 

(・・・そんな)

(救えなかった・・・)

(クラノスケを・・・サオちゃんを・・・)

(救えないの・・・?このまま・・・?)

 

 

 

アタシがこの前抜け出したことで、更にアタシたちの部屋の警備は強くなっていた。

クラノスケの檻も、看守がただの兵士から第二騎士に変わった。

第二騎士・・・クロオのところ。あそこは何があってもごまかせない・・・。クラノスケに近づけもしないのだ。

 

 

 

(・・・結局、会いにいけなかった)

(クラノスケに・・・)

(ちゃんと話を聞きたいのに)

 

 

 

悔しくて 涙がこぼれた。

 

 

 

おかしい。

記憶は取り戻したはずなのに、何にも真相がわからない。

何にもできなかった。誰も救えなかった。

 

 

 

アタシには 何も、出来ないの・・・?

 

 

サオちゃんに全てを伝えることさえ・・・・

 

 

 

ううん、まだ 何かあるはず・・・例えば、サオちゃんの記憶を取り戻せればクラノスケの無罪が証明されるんじゃないか・・・?いや、呪いを解いてしまえればクラノスケも心置きなくサオちゃんを連れて逃げ出せるかも・・・

 

 

 

アタシはそれから24時間監視付きのもと、城の図書室にこもった。

昔、本に書いてあるのを見たことがある気がする・・・それさえ見つければきっと・・・

その日から寝ずに 必死に何かを 模索していた。

 

 

 


 

 

 

(これ、どうしたんだろう?)

 

 

まぁちゃんとの、ノートがあった。

朝起きて、ここがどこかわからなくて、でも部屋にはまぁちゃんがいて、ノートを見て、自分がこの国の姫で毎日記憶を失くすのだと知る。

何もわからない、誰も覚えてない、自分の事すら何も・・・

けれど不思議と、まぁちゃんの顔を見ると恐怖はなくなるのだ。

そしてノートを見て 色々なことを知るのだ。

 

 

お城のこと、友達のこと、色々なこと。

 

 

なのに、数ページ 破れたページがあった。

この破れたページはどうしたんだろう?

なにがあったんだろう。

何が書いてあったんだろう?

 

 

でもノートには誰にも見せないように って書いてあったから、誰にも聞けなかった。

まぁちゃんも何も知らないと言って 教えてはくれなかった。

 

 

昼前にはお父さんとお母さん という人が会いに来てくれた。

それからサワムラという私の婚約者という男性も。

なんだか胸がザワザワとして違和感を覚えたけど それを言葉にもできずに 私はただ頷くだけだった。

 

 

記憶がない

 

何も覚えてない

 

自分も誰かわからない

 

 

そんな状況でも、おかしいな、と思うことがあった。

 

 

まず、まぁちゃんが何か考え事をしていること。

ノートを読む限り、まぁちゃんはとても明るく面白い人なのに 今朝起きた時からずっと何かを考えこむように暗い顔をしていた。そしてしばらくするとまぁちゃんは私に ごめん と謝ると、図書室に行くと部屋を飛び出してしまった。侍女のひとりが慌てて着いて行ったのが印象的だった。

 

 

それから、婚約者のサワムラくん。この人ではない、となぜかそう感じていたのだ。

 

 

わからない・・・

わからないことがたくさんある・・・

けれど、おかしいと思うこともたくさんあるのだ。

 

 

 

(・・・私、誰か・・・忘れてる・・・?)

 

 

 

ズキッ

 

 

頭が痛む。

 

 

なんだろう

私は何を忘れているのだろう

何を 思い出さないようにしているんだろう

胸がザワザワする

 

 

おかしい

 

おかしいんだ、どう考えても

 

 

それでも私は頭の痛みに耐えきれず

 

その日私はノートに書いてある通り 考えるのをやめた。

 

 

 


 

 

 

その日は、とても晴れた日だった。

 

 

「姫様、本日は少し警備が薄くなりますが 決して外には出ないようお気を付けください」

 

 

サワムラという人が 私に言った。

 

 

ノートを、見つけた。

何だろうと思って手に取った。

どうやらこれは、まぁちゃんという女の子が書いたらしい・・・私と双子の、親友というまぁちゃんが。

 

 

私は部屋の隅に居た女性に「あなたがまぁちゃん?」と尋ねたけれど、自分は侍女なのだと困ったように説明された。

まぁちゃんは図書室にいるらしい。

会いたいと言ったのだけど、まぁちゃんはもう何日も図書室から出てこないから無理だと断られてしまった。

 

 

(こんなに面白いノートを書く女の子だから)

(会いたかったのにな・・・)

(なんで図書室にいるのかな)

(本が好きなのかな)

 

 

考えながら、面白いそのノートをペラペラとめくって読んでいた。

何もわからない私にとっては、まるで 本を読んでるような・・・ とても楽しくてワクワクしながら読み進めていた。

 

 

ふと、ノートが数ページ破れているのを見つけた。

 

 

「・・・なんで破れてるのかな」

 

 

誰かに聞きたかったけどノートを誰にも見せちゃいけないと書いてたから誰にも聞けなかった。

窓の外が騒がしい。

侍女さんたちも少しソワソワして見えた。

 

 

「・・・あの、今日、何かあるのですか?」

 

 

尋ねると、侍女さんたちは顔を見合わせて、困ったように眉を下げた。

 

 

「・・・あまり詳しいことは話さぬように言われているのですが、今日は今の王様が就任されてから初めて罪人が処刑される日なのです」

「え、罪人?」

「えぇ、詳しくは聞いてませんがなんでも大罪を犯したとか・・・」

「そう・・・どこでやるの?」

「城の広場ですが・・・姫様には関係のないことです。どうか、お忘れください」

 

 

そう侍女さんが 頭を下げた。

 

 

(・・・罪人)

(そうなんだ)

(処刑か・・・)

(穏やかじゃないな)

(どんな罪を犯したんだろう・・・)

 

 

なんとなく、胸がモヤモヤとした。

 

 

キラ

 

 

その時、目の前に 光る何かを見つけた。

 

 

(え、なに?)

 

 

耳元で シー と声が聞こえた。

 

 

「誰?誰かいるの?」

「姫様?いかがなされましたか?」

「・・・いえ、何でもありません」

 

 

そう、窓の方を向いたその時。

 

 

キラキラキラ

 

 

綺麗に輝くその光が 正体を現した。

 

 

「!」

 

 

驚いて声が出そうになった私は、その姿の主、妖精さんに口を押えられた。

 

 

(よ、妖精さん・・・?)

(可愛い!!)

 

 

そう思っていると妖精さんはヒソヒソと私の耳元で耳打ちした。

 

 

「え?なぁに?」

 

 

私も小さい声で答えると、妖精さんはベッドの下を必死に持ち上げようとしているのが見えた。

 

 

(? どうしたんだろう?)

 

 

「ここに、何かあるの?」

 

 

ベッドを必死に持ち上げようとする妖精さんを助けるように、ベッドの下にしゃがんだ。

 

 

「姫様!?床に這いつくばって・・・一体何をされているのですか!?」

 

 

ベッドの下に何か落とされたのでしたらわたくしが拾います!と侍女さんが近づいてきた。

 

 

(どうしよう、妖精さん、すごく動揺してる)

(見つかったらダメなのかな?)

 

 

私は慌てて 大丈夫です、ペンダント落としただけなので、すぐ拾えますから! と声をかけて

カサッと 手に触れたなにかを慌ててドレスの下へと隠した。

 

 

(・・・なんだろう、紙?)

 

 

私はノートを用意すると、その中で小さく折りたたまれたその紙を丁寧に広げた。

いつも私はこのノートを読んでいるのだろうか。

侍女さんに 姫様は本当にそのノートがお好きですね と笑われてしまった。

そして侍女さんが離れてから その破れたページを読み進めた。

 

 

 

(文字がにじんでるの・・・これ、涙?)

(これ・・・)

(うそでしょ・・・?)

 

 

 

紙には 賢者シライシという人が私の記憶を消したこと

その彼は今捕まって檻に入れられていること

まぁちゃんのおかげで彼に会えたけど 彼はもうすぐ処刑されてしまうこと

どうにか彼を救いたい

 

 

 

そんなことが こと細かく、必死に書かれていた

 

 

 

ドクン

 

 

 

とたんに胸が 早く動きだす

 

 

 

(これって・・・誰の字・・・?)

(まぁちゃんの字じゃない・・・)

(破れたページ・・・ノートの破れたページだ)

(どうしてベッドの下に・・・?)

(賢者シライシ・・・?)

(クラノスケ・・・?)

(なんで・・・)

 

 

 

ドクンドクン

 

 

 

ノートのあいているページに 自分で文字を書いた

 

 

 

シライシ クラノスケ

 

 

 

(・・・これ、私の字だ!)

 

 

 

それを理解した瞬間 涙があふれてきた。

 

 

 

(・・・行かないと!!!)

 

 

 

ガタン

 

 

 

席を立った私のほうを 侍女さんたちが振り向いた。

 

 

 

(・・・いけない、泣いてるところを見られたら)

(また心配されちゃう)

 

 

 

私はすぐにまた顔を見られないように席に着いた。

 

 

 

ドクン ドクン

 

 

 

(何も、できないのに)

 

 

 

ドクン ドクン

 

 

 

(行かなくちゃ、って どこへ行くつもり・・・?)

 

 

 

ドクン ドクン

 

 

 

(でも・・・)

 

(でも・・・)

 

 

(でも・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

涙が 止まらないの

 

 

 

 

 

(私には何もできないの?)

(このノートに書かれていることが真実ならば・・・)

(私は彼を助けなくちゃいけないのに・・・!!)

 

 

 

 

何も覚えてない

何もわからない

 

 

 

けど

 

 

 

今日処刑されるのが間違いなくこの紙に書かれている シライシクラノスケ という人だとわかる。

そして私はこの人を救いたいと

この人に会いたいと 強く、思う

 

 

 

(どうすればいいの・・・?)

(どうすれば・・・!!)

 

 

 

声を出さないよう涙を流す私の周りを

心配そうに妖精さんが飛び回った。

 

 

 

そして 妖精さんは部屋を出て行った。

 

 

 

何かを伝えたかったはずなのに 私がこんなんだから呆れてしまったのかもしれない。

 

 

 

 

(どうしよう)

(彼を処刑させてはいけないって強く思うのに)

(どうして私、何もわからないの!?)

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

ガシャーン!

 

 

 

 

廊下に大きな音が響いた。

侍女のひとりが慌てて廊下に飛び出した。

 

 

どうやら廊下にある全ての水坪が割られているらしい。

誰も廊下には いないのに。

 

 

 

 

ハッとした。

 

もしかしたらこれは 妖精さんがやったのかもしれない。

勇気の出ない私に がんばれって 言ってるかもしれない。

 

 

 

・・・わかった、それなら、私は。

 

 

 

 

 

「姫様、少々お待ちください。本日城内は手薄になっておりまして・・・片づけをしたら すぐに戻りますので」

 

 

 

 

 

そう頭を下げて、侍女たちはバタバタと部屋を出て行った。

 

 

 

 

(行こう)

(私・・・行かなきゃ)

 

 

 

 

 

胸がひどくザワザワと動いた。

 

 

 

 

 

「サオリ!!」

 

 

 

 

 

その時だった。

窓の外から 声が聞こえた。

 

 

 

窓を開けて体を乗り出すと、 そこには見知らぬ男の子が数人立っていた。

 

 

 

 

いや、知らなくはない・・・

 

さっき、ノートで見たもの。

 

 

 

 

 

「・・・ユウジ、コハルちゃん、チトセくん・・・」

「マナミから連絡あってな!今日シライシ、処刑されるんやて!?驚いたわ!」

「あ、あの、私!!」

「行くんやろ!?」

 

 

 

 

そう、バンダナをつけたユウジくんが言った。

知らない、男の子。

でも、向こうは私をよく知ってるかのように そう叫んだ。

それが ひどく安心した。

 

 

 

 

 

「・・・行く!!」

 

 

 

 

 

そしてみんなで両手を広げて 飛び降りろ と叫んだ。

 

 

 

 

 

「俺が絶対に 受け止めるたい!」

「時間もうないで!!」

「サオリちゃん早よう!」

 

 

「うん・・・うん!!!」

 

 

 

 

怖かった。

 

窓から飛び降りるなんて 正気の沙汰じゃない。

 

でも 私には これしかない。

 

今、城内の警備が手薄の 今しかない!!!

 

 

 

 

 

「受け止めて!!お願い!彼の元に行きたいの!!」

 

 

 

 

 

そう叫んで 私は彼らを信じて勢いよく飛び降りた。

 

 

 

 

 

「・・・っ!!!」

 

 

 

 

 

そしてチトセくんが下敷きになって 見事私をキャッチしてくれた。

 

 

 

 

 

「ご・・・ごめんなさい!」

「よ、よかよか・・・それより急がんね?処刑の時間が・・・」

「あとは任せぇ!サオリ、こっちや!!」

「行くわよサオリちゃん!チトセきゅん!待ってるわよ!」

「・・・チトセくん、ありがとう!」

 

 

 

 

チトセくんを置いて 私たちは広場へと 走った。

 

 

 

 

「ま、まぁちゃんは!?私の双子の妹が見当たらないの・・・!図書室にいるって聞いたんだけど・・・」

「マナミは今ヒカルとケンヤと一緒にシライシの処刑をやめるよう民衆に呼びかけとるところや!」

「みんな、なんだかおかしいねん・・・街の人たちいつも優しいのに、口をそろえて処刑処刑って・・・」

「すごい人が集まってるで・・・みんなシライシの処刑を見にな・・・」

「そんな・・・!」

「さ、急ぐで!」

「疲れたとは言わせへんからな!!」

 

 

 

 

ユウジくんとコハルちゃんに連れられて広場に近づくと

 

怒声ともとれる大きな声で

 

 

 

 

 

「処刑 処刑 処刑 処刑 処刑!」

 

 

 

 

 

そう兵士が、国民が、議員が 一堂になって叫んでいた。

 

悪意に満ちたその轟に 恐怖を感じた。

 

 

 

 

 

「・・・な、なんやのこれ・・・」

「何が処刑や!!今まで誰も処刑なんてせぇへんかったのに!!」

「クラリンは絶対悪いことせぇへん!!!ちゃんとクラリンの話も聞かんと・・・処刑はないわ!」

「サオリ・・・!ええか、しっかりしろよ!!お前しか、シライシを救えへん!!」

「サオリちゃん!!頼むわよ!!」

 

 

 

 

 

わぁぁ と今にも興奮して暴動が起きそうな市民を抑え込み

ユウジくんとコハルちゃんは 処刑場にすごく近い裏道まで案内してくれた。

 

 

 

 

 

 

「サオリ・・・!行け!!!」

 

 

 

 

 

人をかき分け 私は 広場の正面へと出た。

その瞬間 みんなが一斉に大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

処刑台にのぼった 賢者シライシが 見えた

 

 

 

 

 

(ああ・・・)

(彼が・・・彼が、賢者シライシ・・・)

 

 

 

 

 

何もかも 覚えていない

 

彼が本当に罪人なのかもわからない

 

 

 

 

 

(でも、でも)

 

 

 

 

 

 

あの、紙に書いてあったことは正しかった。

 

私は彼の顔を見ると涙が止まらないし 心からホッとするし、もっと近くにいたいと思ってしまうのだ。

 

 

 

 

 

(いや・・・)

(いやよ・・・)

(お願い)

(私の大切な人を・・・奪わないで)

 

 

 

 

 

 

賢者シライシが その場にしゃがませられる。

よく見ると近くには多分ノートに書いてあったまぁちゃんとケンヤくんとザイゼンくんが叫びながら兵士に捕まっていた。

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!!クラノスケは無実だって言ってんだろ!!アタシは姫だぞ!?離せよ!!やっと、やっと救う方法見つけたんだ!!!クラノスケがいないと・・・救えないんだよ!!!離せ!!処刑すんな!!!!」

 

 

 

 

 

大声で暴れて叫ぶまぁちゃんは 大きな兵士3人に抑えられていた。

 

 

 

 

 

(・・・みんな、がんばってくれてる)

(クラノスケ、くん)

(クラノスケくん・・・)

(まだ私 なにも思い出してないのに)

(あなたのこと 何も知らないままなのに)

(このままお別れなんて・・・やだよ)

 

 

 

 

 

 

「処刑 処刑 処刑 処刑 処刑」

 

 

 

 

 

民衆のおそろしいその声が響き渡る。

まるで何か面白いイベントでもやっているかのように、人を殺す瞬間を みんな楽しんでいるようだった。

おかしい。

明らかに、狂っている。

 

 

 

 

 

 

「・・・おかしいよ、こんなの、」

 

 

 

 

 

 

涙が止まらなかった。

 

 

彼の頭が下げられる。

 

 

 

 

 

 

(私に できること)

 

 

 

 

 

(私が)

 

 

 

 

 

(私が・・・!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が彼を 救うんだ・・・!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

処刑人の男が 大きな斧を振り上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・下がりなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

自分でも驚くくらいの大きな声が 私の口から飛び出していた。

そして 信じられないくらいに、心は穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私はこの国の第一皇女サオリです。民衆よ、落ち着きなさい」

 

 

 

 

 

 

それまで騒いでいた民衆が 静まり返った。

処刑人ですら 斧を振り上げたまま 私の方を見た。

 

 

 

 

 

 

私は 一歩、また一歩と 処刑台へと昇った。

 

 

 

 

 

「・・・彼の罪は、私が全て償います。処刑人、彼をほどいて。斬首の刑は私が代わりましょう」

 

 

 

 

 

頭を下げていた彼が 顔をあげる。

民衆たちが 大声で騒いだ。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!!!」

「そいつはあんたの記憶を奪って呪いをかけた男だぞ!!!」

「殺せ!!!」

「そんな男、殺しちまえ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

こわい

 

 

 

 

 

 

「こーろーせ こーろーせ こーろーせ」

 

 

 

 

 

 

こわいけど

 

 

 

 

 

 

負けたくない・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

「黙りなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

また大声で叫ぶと その場は静まり返る。

 

 

 

 

 

 

「・・・サオリ?」

 

 

 

 

 

 

私はしゃがんで 彼と目線を合わせて向き合った。

 

 

 

 

 

 

「サオリ・・・どうして?あかんで、代わる、とか、おかしいで・・・?何言うてるん?」

「あのね・・・クラノスケくん」

「サオリ?もしかして記憶・・・」

「ううん、覚えてないの、ごめんなさい、あなたのことも本当はよくわからないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔を見た瞬間 好きだと思ったの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人が 大好きだと、そう思ったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・愛してるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

震えるクラノスケくんの頬を両手で掴んで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬときは、一緒だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう 私は彼に キスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まばゆい光が 私を彼を包み込んだ。

その光は広場を いや、国中全部を包み込んで 鮮やかに光り輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして スルスル と色々な記憶が頭の中へ入って来た時 私は、全てを思い出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ・・・)

 

 

(やっぱり・・・)

 

 

(やっぱり、間違えてなかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりずっと傍にいてくれたのは あなただったのね

 

 

 

 

 

 

 

 

(私、何も覚えてなくても)

 

 

(間違えてなかったよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたを見た瞬間から 毎日毎日 いつだって

 

 

 

 

 

 

 

私はあなたに恋してる

 

 

 

 

 

 

 

 

光がおさまって みんながそっと目を開けた

今までの騒ぎが嘘だったかのように みんな呆然としていた。

 

 

 

 

「・・・言ったでしょ?次は私が 助けるって」

 

 

 

 

そう涙をながしながら 彼に声をかけると

 

 

 

 

「あかん、記憶が・・・呪いが、サオリを、俺・・・守れへんかった」

 

 

 

 

そう、彼は震えながら泣いた。

 

 

 

 

「・・・大丈夫だと思うよ」

 

 

 

 

兵士に捕らえられていたはずのまぁちゃんが 本を抱えながら、一歩前へと出た。

後ろでは兵士たちが自分は今何をしていたのかと不思議そうに首をかしげている。

 

 

 

「・・・アタシ、調べたの、一生懸命・・・一度見たことがあるな、ってすごく古い本・・・・・・」

「まぁちゃん・・・」

「呪いを解く方法・・・魔術やほかの方法では何をしても解けないって・・・でも、すごく簡単な方法で呪いは解けるって、見つけたの」

「え・・・?ほんまに・・・!?そんな、俺がいくら探してもわからんかったのに・・・!」

「わかるわけないよ、書いてるのは 魔術書じゃないもん。どんなすごい魔術書にも文献にも、呪いを解く方法は書いてない」

「なんや?ほな一体何で呪いが・・・」

「真実の愛、だって」

「え?」

「真実の愛。この本に書いてあったの。真実の愛で姫にかけられた悪い呪いは全て解けました、めでたしめでたしってね」

「そ、そんな・・・それって」

「これ、ただの童話だけど。プリンセスが幸せになる話。まぁ真実を伝えるのは、意外とこういう童話だったりするんだよね」

 

 

 

で、めでたしめでたしで 呪いも魔法も解けたわけだけど、どーする?お二人さん

 

 

 

そうまぁちゃんに言われて あっけにとられたのは私たちだけではない。

街の人も、兵士も、議員も、うちの両親だって みんながポカーンとその様子を眺めていた。

 

 

 

 

「・・・呪い、解けたんか?本当に?」

「・・・うん、体がすごく楽になった感じがする。記憶も全部・・・戻ったよ」

 

 

 

 

長い間、初めましてさせてごめんねクラノスケくん、つらかったよね

 

 

 

 

そう彼を抱きしめると、彼は よかった、ほんまによかった と私の肩に顔をうずめて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・皆さん。私はこの通り、全ての呪いが解けて彼にはなんの咎めもなくなりました。むしろ彼は私を守るために必死に一人で長い間戦ってくれていたのです。それでもこの彼を処刑せねばならないと思いますか?」

 

 

 

そう民衆に問いかけると、みんなさっきまでとはまるで様子が変わり

 

 

 

「いや・・・処刑なんてする必要ないよなぁ?」

「なんで俺たちあんなに処刑にこだわってたんだ?」

「なんだか頭の中がスッキリしたよ、どうしたんだろうねほんとうに」

 

 

 

 

そう口々に言った。

 

 

 

 

「賢者シライシよ、娘を守ってくれていたのにきみにすべての罪をかぶせてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

 

父様が、そう声をかけた。

処刑人は斧をおろし、彼の手をしばっていた縄をほどいた。

 

 

 

「いえ、俺は、その・・・彼女が生きていてくれさえすればいいって・・・それだけでいいって思うて・・」

「・・・でも、クラノスケくんがいないと、私すごく悲しむのに・・・ そんなことも考えないで処刑されちゃうつもりだったの?」

「あ、いや、なんやもう・・・サオリが幸せになってくれさえすれば俺はもうええかなって・・・」

「よくない!本当に処刑されてたら私もあと追って死んでたところだよ!」

「えぇ・・・それは、あかんなぁ」

「・・・でしょ?だからね・・・もう、どこにも行かないで」

「サオリ・・・」

「ずっと・・・傍に居てね?」

「・・・当たり前や。サオリのことは 俺が守るんやからな!」

 

 

 

クラノスケくんと見つめ合って手をつないだ。

 

 

 

あぁ、なんて幸せなの?

幸せすぎてとけてしまいそう・・・!

呪いも魔法もとけて、記憶が戻って・・・全てが終わってこうして彼と共に笑い合えるって なんて素敵なことなんだろう。

 

 

改めて思うと ホッとしちゃって

急にポロポロと涙があふれてきた。

 

 

 

「わあぁ、サ、サオリ!!泣かんでや・・・!」

「だって・・・嬉しくて・・・」

 

 

 

 

「いいぞー!賢者様ー!お姫様ー!!」

「お似合いだよ二人とも!!!」

「呪いを解くほどの真実の愛・・・素敵じゃないか!!」

 

 

 

 

 

( ゚д゚)ハッ!

 

 

 

 

い、今ここ処刑台の上だったぁぁぁぁぁぁ

国中の人が見てるぅぅぅぅ

めっちゃ 目立ってるぅぅぅぅ

 

は、はずかしいーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

 

 

 

「や、やだ・・・!」

 

 

 

 

私は慌てて 処刑台から降りた。

まぁちゃんやケンヤたちも とっても嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

「サオちゃん、おかえり!」

「ただいま・・・毎日励ましてくれてありがとね」

「ううん、きみと同じ部屋すごい楽しかったよ!ほんとによかったよきみ・・・これでもう苦しまなくて済むね・・・」

「うん・・・ありがとう・・・ところできみの記憶も戻ったの?子供の頃の記憶」

「戻ったよ!!あとね、ケンヤに告白したから!」

「え!!ウソ!!すごいね!」

「ここここここんなとこで言うなや・・・・!!」

「なんやケンヤそうやったんか!はよ言えや!」

「いやぁん!!もういつの間に!?もぉ、オイカワくんとの三角関係見てるのももどかしくって!」

「いいいいいや、や、やめようや、ここ人いっぱいおるで・・・?」

「相変わらずヘタレっすねケンヤさん」

「しゃーないやろ!あとでちゃんと話すから・・・!」

 

 

 

顔を真っ赤にしてるケンヤをみんなからかっていて

あぁこういうの懐かしいなって感じた。

 

すごく 幸せだな、と みんなの笑顔を見て そう思った。

 

 

 

(よかった・・・)

(これで全て)

(全て、おわ・・・)

 

 

 

『・・・・・・もう少しで小賢しい賢者を始末できると思ったのにナァ』

 

 

 

その時

空から聞いたこともないような 恐ろしい声が響いた。

 

 

 

 

『何が真実の愛だ・・・許すまじ 許すまじ 許すまじ この国丸ごと滅ぼしてやるわ・・・』

 

 

 

 

空には それは恐ろしい姿をした巨大な妖狐が 浮かんでいた。

 

 

 

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