第22話:マナミ

「え、お、俺がですか!!?」

 

 

取り乱した俺に、王と妃は必死の表情で 貴方しかお願いできないのです とおっしゃった。

 

 

そ、そんな

そんな、この 俺が

こんなただの騎士のこの俺が

 

 

「姫様と、結婚だなんて・・・!お、俺には恐れ多いです・・・!」

 

 

動揺してわたわたとしている俺に 王と妃は言葉を続けた。

 

 

「・・・あの子は、今、とても深い闇の中で苦しんでいます」

「それは、わかりますが・・・」

「目が覚めた時、何もわからない、誰も知らない、自分の事さえ思い出せない・・・そんな危険な状態です」

「はい・・・」

「あの子に・・・何があったかわかりませんが、もし、このまま魔法が解けなければ・・・あの子は一生苦しみ続けることになります」

「・・・えぇ、それはわかりますが・・・」

「・・・私たちにはもう、時間がありません。ずっとあの子を守ってあげることも出来ないでしょう・・・」

「え?一体それはどういう意味ですか?」

「私たちは・・・私たちの犯した罪を償おうと思っています・・・王位もはく奪されることになるでしょう」

「え!!?」

「だからこそ・・・いつ誰に利用されるかも、いつどこで恐ろしい目に合うかもわからない、苦しんでいるあの子を・・・貴方に支えてほしいんです」

「そんな・・・!」

「・・・安心してください。私たちが王位をはく奪されても、王にはその血を受け継いだものしかなれません。彼女たちは私たちの娘だからといって王位をはく奪されることはありませんし、王位継承者として安全に暮らしていけます」

「そ、そうではなく・・・!王様とお妃様が一体なんの罪を犯したというのですか!こんなに優しい王様とお妃様が・・・!」

 

 

そう叫ぶ俺に、 静かにほほ笑んだお二人は ごめんなさい、と俺に謝罪をした。

 

 

「ちょ・・・ちょっと待ってください!俺に謝ることなんて・・・!」

「・・・大変なことを、頼もうとしているからです・・・毎日記憶のなくなるあの子と結婚なんて・・・そんなこと頼むのは、あまりにも倫理にかけている・・・私たちも、わかっているのです」

 

 

わかっているからこそ・・・

そう悔しそうに王様がおっしゃった。

 

 

(あぁ、王様たちも苦しんでいるんだな)

 

 

そう、心の中で思った。

 

 

ならば

 

 

今俺が出来る、最大のことを・・・

出来る限りのことを、しようじゃないか。

 

 

「・・・俺は最初から、毎日の記憶がなくても 毎朝あなたは誰と問われても、それでも姫様が無事で過ごしてくれるのなら この身にかけて姫様をお守りしようと思っていました」

 

 

そう言うと 嬉しそうに、王様とお妃様の目が輝いた。

 

 

「・・・では・・・、あの子と共に人生を歩み、この国を守ってくれますか?」

「・・・俺でよければ・・・必ず姫様をお守りいたします」

 

 

そう返事をすると、お二人は嬉しそうに 頷いた。

 

 

 


 

 

 

 

「さおちゃん、来たよぉ」

 

 

部屋に遊びに行くと サオちゃんは 少し嬉しそうに見えた。

 

 

「メモ読んでくれた!?」

「・・・双子で親友の、まぁちゃん?」

「そうだよ!」

「よかった!メモ、読んだよ。あのね、起きたら何もわからなくて不安だったんだけど、メモ読んだら面白くて笑ってたよ!」

「それはよかった!!メモ書いて正解だね。今日はサワムラいないの?」

「サワムラ・・・さん・・・、あの護衛の人ね?あの人、さっき呼ばれて出て行ったよ」

「そうなんだ!この部屋の前にタナカとノヤがいたよ、あいつら面白いんだ~!呼ぼうか?」

「え!いや・・・男の人は・・・こわいから、いい・・・」

「あ、そうなのか、怖いのか」

「うん・・・」

「なんでだろうね、男の人になんか嫌なことされたのかな?」

「わからない・・・けど・・・、・・・嫌ではないの、嫌なこと・・・された記憶もないし・・・むしろ、一緒にいて 幸せな・・・」

 

 

そこまで話すと、サオちゃんは頭を押さえた。

また頭痛くなるやつかよ~~~!もうこれやだわ~~~!!!サオちゃんとアタシを開放してくれぃ!!

 

 

「サオちゃん!メモに書いといたしょ?思い出しちゃダメだよ~はい、深呼吸深呼吸」

「う、うん・・・」

「思い出そうとすると頭痛くなるやつね、厄介だからねコイツね・・・」

「うん・・・」

「あ、今日はね!またブン太が腕をふるってくれたよ~!あとね、コックのジャッカルってやつも張り切ってね、軽食にってローストビーフ作ってくれたんだわ!これめっちゃ美味いよマジで!!」

 

 

あと、ユキムラってやつがバラの味の紅茶くれてねぇ、と話すと サオちゃんはクスクスと笑った。

 

 

「何おかしかった?」

「いや、まぁちゃんは友達多いんだなって思って・・・なんだか楽しそうだね」

「ん?ってかさ、みんな、アタシだけの友達じゃないよ」

「え?」

「今までみんな隠してたみたいなんだけどね、アタシが忘れてるから」

「うん」

「きみのこと、みんな知ってるんだって。それで少しでもきみが喜んでくれたら、ってみんな必死に考えてるみたいだよ」

「そ、そうなの!?でも、私なんか・・・自分のこともわからないのに申し訳ないな・・・」

「申し訳なくないよ!きみが一番不安な状況なんだからさ、周りに甘えてもいいんだよ!!」

「甘える・・・?」

「今日も父さんと母さん会いに来たでしょ?」

「う、うん・・・父上と母上って人は会いに来てくれたよ・・・」

「騎士のサワムラもずっと護衛してくれてるしさ、みんなきみのことすごい心配してるんだよ、みんなきみのこと構いたいのさ!!だから時には甘えたら超喜ぶよ!!」

「喜ぶ、かな?」

「うん。まぁ今は騎士以外は部屋には入れないんだって、きみは今危ないからなるべく人前には出れないみたいだけど、たまにスガとかアサヒとかも顔出してるはずだよ、あいつらあほだから、特にスガは殴りたいくらいアホだから、きみのこと笑わせようと必死ですべってるのが目に浮かぶわ」

「ふふ、そうなんだ、今日はまだ会えてないな」

「会えるよきっと。大丈夫!・・・あーあ、悔しいなスガもきみのこと覚えてるのにさ・・・」

「何が?」

「私だけだよ、きみの記憶ないのは・・・」

「・・・まぁちゃん」

「私だけ、思い出そうとすると頭痛いしさ・・・悔しいよ、忘れてるの」

「うん・・・」

「きみはなんでいなくなってたんだろう。なんで双子の我々が引き離されてたんだろう。どうしてアタシたちだけ記憶ないんだろう・・・」

「・・・」

「あ~~~アタシも悔しいけど、きみはもっと悔しいしわかんないよね!めんごめんご!!」

「ううん、大丈夫。大丈夫だよ」

 

 

サオちゃんは、覚えてないけど、でも私の親友で双子なのはきみだけだと思う、きみに会えるとすごく嬉しいって言ってくれた。

それを聞いたら胸がほっこりと温かくなった。

私の周りはいい人ばかりだな、と、この恵まれた環境に感謝した。

みんな色々秘密にしてたのもきっとアタシのためだろうし、サオちゃんが帰ってきてみんな喜んでるのもわかる。

ありがてぇ・・・!なんだよこの環境・・・最高じゃねぇか!!

 

 

(でも、)

(でもさ)

 

 

いつまでも 忘れてるってのは、なんだか返ってみんなに不誠実な気がする。

 

 

(・・・だからこそ)

(早く記憶を取り戻さなくっちゃ)

 

 

「・・・ところでまぁちゃん、あの気になってる人とはどうなったの?」

「へ?な、なに言ってるの?え、それ、メモしてなかったはずなのに・・・」

「してあったよ、小さく、ほらここ」

「えええええ!!ちょっと!これアタシ書いてないよ!きみだわ!昨日のきみ書いたんだわ!全く油断も隙もないね・・・!」

「顔真っ赤だよ」

「わああ、いいの、いいの!ちょっと恥ずかしいからさ!!」

「恥ずかしくないよ、好きなんでしょ?」

「う、いや・・・気になるだけ・・・」

「気になるだけ?好きだから気になるんでしょ・・・?」

「・・・なるほど、そうか」

 

 

(好きだから、気になるのか)

(サオちゃんなかなか鋭いな・・・)

 

 

「進展した?」

「してないよ、会ってないんだ。そう言えば明日試験だったかな、アイツ・・・がんばってればいいけど」

「試験?」

「あのね、誰にもナイショだよ!彼ね、医者の卵なのさ・・・!」

「そうなんだ!」

「・・・でもね、私、婚約者いるんだー」

「え!?!?ほかに!?」

「そう、他に。魔術師なんだけどさ」

「あ、魔術師の人・・・朝お医者様と一緒にいらっしゃったよ!背の高い・・・」

「そうそう、無駄に背の高いあいつです」

「そ、そうなんだ―――!!!三角関係・・・!?修羅場だね・・・!!」

「楽しそうにするなよぉ~!ちなみに一緒にいたお医者様ね、好きな人のお父さん」

「え!?!?すごいね・・・なんか・・・すごいわ・・・」

「うん・・・なんかね、よくわかんないんだよね・・・魔術師のやつもいいやつだし、会うと好きって思うんだけどね・・・」

「うん」

「医者の卵のやつはね、すっごいドキドキするの」

「あぁ~・・・恋だね・・・」

「これって恋かな・・・」

「うん・・・ん・・・いや私にはよくわかんないけど・・・昨日のことも覚えてないし・・・」

「覚えてないよねwww」

「でも・・・なんか私も・・・わかんないけどね、ずっと一人ではなかったと思うの・・・」

「まぁきみ記憶ないし一人で暮らすの無理だよね」

「うん・・・でね、なんか・・・幸せだった・・・気がする・・・・」

「え!!!!!!そ、それって・・・好きな男と・・・・!?」

「わかんないけどね!?なんか、そう思って、今・・・目が覚めて、部屋を見ても、護衛のサワムラくん・・・を見ても、なんか違うって・・・思うの」

「マジかよ、すごいね、じゃあやっぱり誰か好きな人と一緒にいたのかもね!!」

「うん・・・」

「あ、頭大丈夫!?もういいよ、思い出さないで!!!」

 

 

そう心配するアタシをよそに、サオちゃんは少しつらそうに頭を押さえた後

でも私は何も覚えてないから、まぁちゃんは好きな人がわかるんだからちゃんと好きな人と幸せになって

そう、言ってくれた。

 

 

(・・・あぁそうか)

(サオちゃん、一生誰が好きとかわからないまま生きていくんだ)

(このまま・・・一生、朝目が覚めた時に、あなたは誰?って言って・・・)

(そんなの、)

(サオちゃん・・・可哀想すぎる・・・)

 

 

そう思えば なんだか涙が出そうで

今更だけど、色々な物事を簡単に考えていた自分が情けなく感じた。

 

 

そして

 

 

記憶が戻れば、何かサオちゃんのことを治す手掛かりにもなるんじゃないかって

記憶を取り戻したいって強く思った。

 

 

(ずっと、記憶なんかなくてもいいと思ってたけど)

(今わかる全てで充分だと思ってたけど)

(わからないと、ダメだ)

(アタシはこの子のために・・・優しくしてくれる人たちのために・・・できる限りのことを・・・・)

 

 

「・・・でもサオちゃんが恋できないなら、アタシも出来ないなぁ」

「どうして?」

「え、だって・・・そんなの、アタシだけ・・・なんて・・・」

 

 

チラリとサオちゃんを見ると

 

 

「・・・いいんだよ、まぁちゃん。私ね、わからないけど、今まで毎日充分とっても幸せだったな、って思うの・・・毎日・・・毎日幸せな気持ちだった、って、なんとなく感じてるの・・・それはとても長い時間・・・だから、いいんだよ、次はまぁちゃんが幸せにならなくちゃ・・・」

 

 

そう、 お姉ちゃんの顔をして サオちゃんは微笑んだ。

 

 

「やだ、そんなの・・・」

「泣かないでよ」

「サオちゃんと・・・今日からここで暮らす・・・!毎日朝一番に起きてオハヨウって言うのはアタシだ・・・!!」

「落ち着いて」

「サオちゃんの傍にいるーーーー!!!!!」

「・・・だめだよ、きみは恋をして、私に毎日面白い話を聞かせてくれないと」

「えぇ・・・」

「きみの三角関係は私があとで書いておくからね!毎日メモするって書いとくよ!でね、それを毎日読むの楽しみにする。だからきみは絶対好きな人と結婚して。子供産んでさ、私に可愛い甥っ子や姪っ子、会わせてよ」

「うわぁぁぁぁん!!!!きみが望むならがんばるぅぅぅぅぅ」

「泣きすぎだから・・・!鼻水ふきなよ!」

「グスッ・・・とりあえず今日のメモ残しておかないとな・・・あれだわ、今日の登場人物みんな書いておくね・・・ブン太とジャッカルとユキムラと・・・あほのスガとアサヒと・・・・グスグス」

「きみのメモ面白いからね、明日の私も喜ぶわ」

 

 

コンコン

 

ノックの音が聞こえて はーい と返事した。

 

 

サワムラ「姫様、失礼致します」

マナミ「あ、サワムラじゃん」

サワムラ「あ、マナミ様お見えになってたんですね・・・って何泣いてるんですか?」

マナミ「女子会だ女子会!でもこれ以上二人きりだと泣いちゃうから入りなよ、お茶しよ、お菓子もあるよ」

タナカ「え、お茶っすかー!?」

ノヤ「姫様ー!おれもお茶したいっす!!」

タナカ「ってか、サオリ様とお話したいっす!!!」

サワムラ「わ!お前ら!中に入るな!しっかり見張ってろ!」

ノヤ「まぁまぁ、ダイチさん、固いこと言わず!」

タナカ「ちょっとくらいいいじゃないっすか!休憩っすよ、休憩!俺たちが傍についてるから大丈夫っす!」

サオリ「し、知らない人・・・(プルプルプル)」

マナミ「サオちゃん、こいつらがタナカとノヤだよ!!メモ帳に似顔絵も書いとくわwwwボウズがタナカで・・・」

 

 

チラ

 

(ん?)

 

なんか サワムラが サオちゃんを見つめている・・・?

 

 

なんだかんだ、ほのぼのとお茶会が開始したけど

サワムラがサオちゃんのことじーっと見てるんだよな。

 

あれ、サワムラって・・・あれ・・・

いや真面目でいいやつだけど・・・でも真面目過ぎて面白くないし・・・

・・・え、まさかね・・・?

 

 

マナミ「どうした、サワムラ?サオちゃんのこと見つめて」

サワムラ「え!い、いえ!何でもないです!!み、見てません!」

ノヤ「あれーダイチさん、まさか(ニヤニヤ)」

タナカ「まさかまさかの!?身分違いの・・・?(ニヤニヤ)」

サワムラ「やめろお前ら!!」

 

 

サワムラがタナカとノヤを追いかけまわして、ふたりがわーわーと逃げ回る。

その様子が面白くてサオちゃんと笑っていたんだけど

門の方がザワザワと 騒がしくなってきた。

 

 

サワムラ「・・・ん?何かあったのか?」

タナカ「あ、第3騎士団が帰ってきたみたいっすよ」

ノヤ「それにしては今日は騒がしいな」

サワムラ「・・・姫様、俺ちょっと見てきますね。ノヤ、行くぞ。タナカ、姫様たちを頼む」

タナカ「了解っす!」

 

 

なんだろうね、そうサオちゃんとアタシは顔を見合わせた。

 

サオちゃんがいる展望台の部屋は、よく外が見えるようになっていた。

だから、アタシは身を乗り出すように 窓から外を眺めた。

 

 

「ちょ・・・!姫様!危ないっすよ!」

 

 

タナカに言われたけど、この好奇心は消せないのだ!

 

 

「アタシちょっと行ってくる!サオちゃんのことヨロシクね!!」

 

 

そう、部屋を飛び出した。タナカはめっちゃ焦ってたけど、廊下に出た瞬間姿を消したからこっちの勝ちだ。

アタシはざわざわと騎士が集まってる正門前に走って来た。

 

 

「おい、早く歩け!」

 

 

そこには縄で手を縛られた一人の青年がいた。

 

 

(お、イケメンじゃん?タイプじゃねぇけど)

(縛られてるってことは、罪人か?)

(こんな若くて悪いことしなそうな顔してんのに・・・人は見かけによらないな)

 

 

そう思いながら、罪人見ても別に面白くないからサオちゃんのいる塔に戻った。

戻る途中騎士たちが 誘拐犯だとか悪い魔術を使っただとか呪いがどうとか話してたけど、気にも留めなかった。

 

 

マナミ「ただいまー!」

タナカ「おわ・・・!姫様、早いっすね!」

サオリ「急に飛び出していかないでよ・・・驚いたよ・・・」

マナミ「すまんすまん!なんか正門のところでガヤガヤしてたよ。でも今もうここ通るわ」

タナカ「何があったんすか?」

マナミ「よくわからんけど、罪人捕まえたみたいだよ」

サオリ「罪人・・・?」

マナミ「罪人のくせにめっちゃ顔よかったよw超イケメンwね、今来るから一緒に見よ!」

 

 

アタシはサオちゃんの腕を引っ張って窓辺に座らせた。

 

 

「あ、ほら、来た来た!ね、イケメンでしょ?」

 

 

そう笑顔でくるっと サオちゃんの方を 振り向くと

 

 

「――――・・・っ」

 

 

罪人を見たサオちゃんは 大粒の涙を、流していた。

 

 

「・・・サオちゃん?どうかしたの?」

「え、あ、あれ・・・?なんで私泣いて・・・」

「大丈夫?頭痛いの?」

「わから・・・ない・・・けど、なんだろう、胸が・・・苦しい」

「え!?頭じゃなくて胸!?や、やばくない!?大丈夫!?」

「なんだろう・・・あの人を見ると・・・涙が止まらないの・・・」

「どうしたんだろうね?罪人だからか?慈悲深い人だね君は。大丈夫だよ、この国は処刑制度とかないからさ」

「あの人・・・何したの?」

「え?うーん、よくわかんないけど、誰かを誘拐したとか・・・悪い魔法使った、とか言ってたよ」

「そう・・・」

「悪そうには見えないけどね」

 

 

人は見かけによらないね、と

その時のアタシはサオちゃんが泣いたこと、気にも止めずに

さ、お茶が冷めちゃうよ、と泣いてるサオちゃんを励まそうと腕を引っ張った。

 

 

「まぁちゃん・・・ごめん、私もう少し、あの人を見ていたい・・・」

 

 

でも私の腕をふりほどき、さおちゃんは窓辺からずっと罪人を見つめていた。

 

涙を流しながら。

 

 

(・・・なにこれ)

(嫌な予感、する)

 

 

ザワっと 私の胸が騒いで

ずっと窓の外を見つめるサオちゃんの後ろ姿を 私も黙って見つめていた。

 

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