第21話:マナミ

 

「アタシ、あの子と会いたいんだ」

 

 

そう、両親に申し出た。

 

 

両親は驚いたあとに、少し悲しそうな顔をした。

 

 

「・・・もう、頭は痛くないんですか?」

「痛いよ。すごく痛い。けど、そんなの関係なく、あの子と会いたいし話したい」

 

 

一緒に居たい

そう言うと、母さんはものすごく優しい顔をした。

 

 

「・・・そう、あなたにはわかるのね」

「なにが?」

「あの子があなたにとって、とても大切な人だということが」

「うん、よくわかんないけど傍に居たいって思うよ。だからお願い、あの子、あんな塔に住ませてたら可哀想だよ、お部屋隣にしてほしいんだ」

「え?あの子がいる場所、知っているの?」

「あ(やっべ)・・・お医者様がいらっしゃったの、見てたから・・・」

 

 

そう言うと、 父さんが優しく私の目を見て言った。

 

 

「・・・実は、彼女は昨日のことを忘れてしまう魔法がかけられているようなのです」

「うん・・・(知ってる)」

「今はとても不安定で、またいついなくなってしまうか・・・もしかしたら誰かに利用しれてしまうかもしれない・・・またつらい思いをするかもしれない・・・何よりも毎日目が覚めるたびに知らない場所だとおびえる彼女がとても心配なのです」

「うん(わかる)」

「だから・・・あまり人の多い場所や人目に付く場所は避けたいんです・・・ただ、あなたがそれほど会いたいと言うのなら、部屋に遊びにいってあげてください。きっと喜んでくれると思いますよ」

 

 

行くときはなるべく人目につかないようにしてくださいね、と父さんはにっこりと微笑んだ。

 

 

(やった!これで自由にサオちゃんに会える!!)

(姿消していくとサワムラ外に出すの大変だしな・・・)

(堂々と会いたかったからよかった)

(部屋に入るまでは姿消していこっと)

 

 

あ、そういえば、もう一つ聞くことあったんだ!

 

 

「・・・あの子、私のお姉ちゃんだよね?」

「・・・ええ、あの子はあなたのお姉さんよ。双子のね」

「双子なんだ!?どーりで顔が同じだと思った」

「あぁ、確か倒れる前に見かけたんでしたっけ」

「そ、そうそう!よかった、お姉ちゃんか!第一皇女ってことだよね!?てことはアタシ結婚しなくてもいい?」

 

 

そう言うと、両親は顔を見合わせた。

 

 

「・・・マナミさん、結婚したくないんですか?」

「え!あー・・・うん」

「そうだったの・・・オイカワさんからはあなたが結婚を強く望んでるって聞いてたから・・・」

「あぁ・・・なんか今は、お姉ちゃんも帰ってきたしそんな気分じゃないかな、できれば婚約も破棄したいんだけど」

「・・・わかりました。成人の儀も延期になってしまいましたし、婚約のことについても改めて検討しなおしましょう」

「・・・ねぇ、あなたは・・・自由に恋愛してね。もちろん、彼も素敵だけど・・・私もお父さんもあなたの結婚はまだ早いと思っていたところだから・・・」

「うん、ありがと」

 

 

じゃあ、早速あの子に会いに行ってくるね!とアタシはその場を後にした。

 

 

 


 

 

 

「・・・あの子たち、きっともう会ってるわね」

 

 

そう妃が笑って言うと、王は そうだね と優しく微笑んだ。

あの子たちには生まれつき不思議な力があるもの・・・確かあの子はは透明になれたはずだからあの子の性格上とっくに会いに行っていてもおかしくはないわ

妃は面白そうに笑った。

 

 

「・・・約束したから、これからの事をきちんと考えてあげないとね」

 

 

そう言うと王は廊下にいた兵にお願いして、魔術師のオイカワを呼び出した。

国のために一生懸命尽くしてくれる、第二皇女の命の恩人。王と妃は賢く魅力的な男性だと高く評価していたが・・・

 

 

「・・・あなたにお願いがあります。あの子の・・・マナミの記憶を戻してはいただけないでしょうか」

 

 

そう王が言うと、オイカワはとても渋い顔をした。

 

 

「・・・記憶を消せ、と言ったと思えば 今度は記憶を戻せ、ですか」

「・・・勝手なことを言っていることは承知です。けれど・・・あの子ももう充分苦しみました。この間は痛みで倒れてましたし・・・もう、姉も帰ってきたことですし・・・そろそろ、痛みに縛られずに昔を思い出してもいいのではないかと・・・」

「本当に勝手すぎますよ。記憶を消したり戻したり・・・彼女は人形じゃない」

「えぇ・・・もちろんそれはわかっています。これは親である私たちの罪・・・きちんと罪を償うつもりです。だから、これで最後にしたいんです。二人とも子供の頃の楽しかった記憶がないなんてあまりにも可哀想で、」

「そんなの、あなたたちのエゴじゃないですか!!振り回される彼女が可哀想だ!楽しかったことも思い出すかもしれないけど、忘れていたいツライ過去も思い出すってことですよ!?」

「えぇ・・・あなたの言う通りです。でもいつかは・・・姉が戻ってこなくても、彼女の記憶を戻してあげたいと思っていました。どんなにつらくても、彼女が乗り越えなくてはいけないことだったと今になって気づいたからです・・・。お願いします。どうか彼女の記憶を・・・」

「戻せません」

「え?」

「一度消してしまったものは、もう戻りません」

「そんな・・・」

「全部思い出そうとすると死ぬほどの痛みになるのも消せません。だから、俺が傍にいないといけないんです」

「・・・あぁ・・・・・・」

「・・・今の状況ですから結婚式は延期でも構いません。でも婚約は取り消しません。じゃあ僕は行きます。第一皇女にかけられた魔法を解く研究をしなくちゃいけないので」

 

 

部屋を出て行こうとするオイカワを 妃は引き留めた。

 

 

「待って、ひとつだけ・・・聞いてもいい?」

 

 

オイカワは足を止めて、なんですか と振り向いた。

 

 

「・・・あの子を・・・マナミを、愛していること・・・嘘ではないのよね?」

 

 

そう尋ねると、 彼は少し 悲しそうな顔をした。

いつも自信に満ち溢れる彼のそんな顔を見るのは初めてだと、妃は思った。

 

 

「・・・もちろんです」

 

 

そして彼は部屋を出て行った。

王と妃は自分たちが犯した罪の重さに涙を流したのだった。

 

 

 


 

 

 

コンコンコン

 

サオちゃんの部屋を大きくノックした。

 

 

「・・・あれ、姫様?」

 

 

出てきたのはサワムラだった。

こいつ、サオちゃんの護衛。あと話し相手。まぁこいつなら強いし優しいし超真面目だから安心だけどな。

 

サオちゃん、今日も全て忘れて怯えているのかな、と部屋の中を覗き込んだ。

 

 

「・・・誰?」

 

 

布団をかぶってプルプル震えてるサオちゃんがいた。やっぱり今日も記憶がないみたいだ。

 

 

「よ!サオちゃん!遊びに来たよ!」

「ちょ・・・姫様、勝手に・・・」

「大丈夫、父さんたちにはちゃんと許可もらってきたから」

「え?そうなんですか?」

「うん、悪いけど女子会するからサワムラ廊下出ててくんない?」

 

 

美味しいお茶とお菓子持ってきたんだ! そう言ったアタシを見て、サワムラはどこかホッとした様子で

わかりました、でも何かあったらすぐに呼んでくださいね、と言われたまま廊下に出た。

怯えるサオちゃんが少しでも元気になればいいと サワムラも思ったのかもしれない。

 

 

「サオちゃん、私だよ、マナミだよ!あ、まぁちゃんって呼ぶって昨日言ってたわ」

「・・・まぁちゃん?こんにちわ」

 

 

先ほどまで怯えていたサオチャンは、私の声を聴くとすんなりと布団から顔を出した。

 

 

「美味しいお茶を持ってきたよ~!あとお菓子も!うちのパティシエめっちゃお菓子作り上手いんだよー!ブン太っていうんだけどね、超いいやつでさ、サオちゃんのとこ行くってこっそり教えたらめちゃくちゃ張り切って腕をふるってくれたんだ!」

 

 

サオちゃんは不思議そうな顔で話を聞いていたけど、アタシが差し出したお茶とお菓子を食べたら 美味しい と目を輝かせた。

 

 

「そうでしょ!なんかね、イチゴが好きだったんだって、きみは。アタシはきみのこと覚えてないんだけどさ、ブン太張り切って作ってたよ。今度紹介したいな!」

 

 

ペラペラと話すアタシが面白かったのか、サオちゃんは少し笑顔を見せながら、 まぁちゃん と呟いた。

 

 

「ん?何?」

「え、いや・・・なんだか会いたかった気がしたの」

「え?誰に?アタシに?」

「うん・・・よく覚えてないけど・・・誰かを待ってた気がして・・・まぁちゃん・・・の、顔を見たら、なんだかホッとしたの」

 

 

何にも覚えてないのに会いたいとか変だよね、とサオちゃんはなんだか申し訳なさそうに笑った。

 

 

「え!!!全然変じゃないよ!?それってさ、頭や心では忘れても体で覚えてるってことだよ!!」

「え?そ、そうなのかな・・・?」

「そうそう、体が覚えてるんだよ!アタシもね、14歳より前の記憶がないんだ。覚えてるのはここ2,3年のことなんだけど・・・でもね、なんだか心とは裏腹に勝手に体が行動してたり、直感みたいなの感じるときがあるんだ!」

 

 

それってきっと体が覚えてて勝手に動いちゃってるんだよ!と言うと、そうかもしれないね、とサオちゃんはクスリと笑った。

 

 

「あのね、アタシ父さんと母さんにサオちゃんに会いたいって言ってきたからこれからは自由に会えるよ!」

「え、今まで禁止されてたの・・・?」

「禁止されてたわけじゃないけど・・・サオちゃん、今ね、毎日記憶がなくなるんだって。だから危ないんだって。父さんたちも君を守りたいんだよ」

「・・・今朝、父さんと母さんって人が会いに来てくれて言ってた。私には毎日忘れちゃう魔法がかけられてるって・・・。今は国中の魔術師がその魔法を解こうと必死にがんばってくれてるって」

「そうなんだ。なんかオイカワも忙しい忙しい言ってたわ」

「オイカワ?誰それ?」

「オイカワはね、国で一番の魔術師なんだよね。そしてアタシの婚約者・・・だった男」

「え!?まぁちゃん、そんな若いのに婚約してるの!?」

「え、若いってwwwきみと同い年だよ、我々双子らしいんだ。きみのがお姉さんね」

「双子!?双子だったの!?そして私がお姉さん・・・?そんな・・・・・・」

 

 

そしてサオちゃんは、 ・・・痛い、 と頭を抱えた。

これはあれだね!サオちゃんも思い出そうとすると頭痛くなるパターンだね!!

 

 

「大丈夫か!サオちゃん!!」

「うん・・・平気・・・なんか今思い出そうとしたらすごい頭痛くなって・・・」

「わかる!!!!!アタシもよくなる!!!!」

「そうなの?大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないよね、痛いもんね、だからね、思い出すのやめたさ!!」

「え?」

「思い出さないで、へぇ~って軽い気持ちで聞くようにしたさ。きみのこともね、思い出すと痛くなるさ。だから今は新しく出来た親友だと思うことにしたの!そしたら痛みかなりよくなるよ」

「そうなんだ・・・!天才だね!!!」

「そうなのさ、すごいしょ」

「あ、でも・・・私、明日になるとまた忘れちゃうから・・・また明日双子って聞いたら痛くなるかも・・・」

「したら今の会話メモしておくよ!あのね、昨日の会話もこのノートに書いてきたからね!今ここにメモしとくわ!★思い出すと頭痛くなるから思い出さないこと!★まぁちゃんって親友が毎日遊びに来るよ!★まぁちゃんと仲良しだよ・・・っと」

「ふふ、きみは面白いね、ありがとう」

「なんのなんの。今日の会話もメモしておこうね」

「うん、ありがとう!」

「いいのだよ・・・えっと、何の話したっけw」

「えっと・・・パティシエさんの話とか、婚約者の話をしたよ」

「そうだそうだ、パティシエは書いておこう、婚約者はいいや、忘れてw」

「え、忘れていいの?」

「いーのいーのwだって、婚約解消したいって両親にさっきお願いしに行ったんだ」

「そうなの?どうして?」

「ん~・・・どうしてだろう・・・悪いやつじゃないんだけどね。なんかこいつじゃないって思うんだ」

「・・・他にこの人って思うひとがいるの?」

 

 

サオちゃんは、真っ直ぐにアタシを見つめてそう言った。

・・・記憶がないという割には、サオちゃんには全て見透かされてるようでドキッとする。

さっきも何の話したのか覚えてたし、アタシより実は記憶いいのかもなw

 

 

「あー・・・・・・・よく、わかんないんだけどね、」

「うん」

「なんとなく、気になる人がいるよ」

 

 

そう言うと、えー!そうなんだー! とサオちゃんは楽しそうに笑った。

うーん、女子だね!恋バナ好きなんだね!!

 

 

「ナイショだよ!秘密だからね!」

「うんうん、大丈夫、きっとそのことも忘れちゃうから」

「明日になればね!今日サワムラに言っちゃダメだよ!」

「言わないよ~。サワムラくん、いい人だけどまだあったばかりだし、なんだか男の人って怖くて・・・」

「サワムラね、真面目でいいやつだよ」

「いい人だとは思うんだけどね・・・護衛って言われても、いきなり記憶ないのに今日からここで男の人と一緒に過ごせって言うのも・・・」

 

 

そこまで言ったサオちゃんは 何かを考えた後 また頭を押さえた。

何かを思い出そうとしたのかな、そう思った。

 

 

「・・・大丈夫?なんか思い出したの?」

「だ、大丈夫・・・思い出した・・・わけじゃないけど、もう一人、護衛の人がいた気がして・・・」

「もう一人?あぁ、きみの護衛は厳重だからね。部屋の外や塔の下にも何人かいたし、みんなきみのことを守っているからね」

「そうじゃないの・・・ずっと・・・一緒にいた男の人が・・・」

「え?男と一緒にいたの?」

「わから、ない・・・痛っ・・・」

「思い出すのやめな!考えると頭われるよ!大丈夫だから、思い出さなくていいから!」

「でも・・・私・・・大事なことを忘れて・・・うっ、駄目だ・・・痛い・・・」

「横になりな!もう、無理して思い出さなくていいからほんと!大丈夫、生きてりゃなんとかなるから!」

「う、うん・・・」

「これからのことはアタシが覚えてるから!きみの代わりに・・・ちゃんと今日の会話はちゃんとメモしとくし、私が記憶係になるよ!」

 

 

・・・それに、大事なことは体が覚えてるって、言ったじゃん・・・きっと体は忘れないから

 

 

そう言うと、サオちゃんは 静かに頷いた。

 

 

コンコン

 

 

「姫様、そろそろよろしいですか」

 

 

サワムラのやつがそう声をかけるから、 チッと舌打ちをして わかった今終わるから―! と叫んだ。

 

 

「サワムラうるせーからもう行くわ!メモ、朝起きたらすぐ見れるように見やすいところに置いといてね!また明日来るよ!」

「うん・・・ありがとう・・・明日忘れてたらごめんね」

「かまわんよ!言ったしょ!アタシが覚えてるって!全部会話もメモに残しておくし、明日起きたら予習しといてw」

「わかった、がんばるよ。また明日ね。・・・あのね、気になる人と上手くいくといいね。進展あったら教えてね」

「え!な、なにを言うの!!ビックリするわ!!冷や汗でるわ!!」

「・・・まぁちゃんが好きな人と幸せになったらいいなって、思ったんだよ」

 

 

私にはきっと恋愛は無理だからさ、 と、サオちゃんは淋しそうに笑顔を作った。

 

 

(そんなこと、ないのに)

 

 

「そうかい・・・泣けるね。ありがとう。うん・・・わかった、がんばるよ。でも恥ずかしいからそのことはメモには残さないようにね・・・w」

 

 

じゃまた明日美味しいお菓子持ってくるわ!全部食べたらサワムラに片付けろって言っといてw

そう言ってアタシはさおちゃんの部屋を後にした。

 

 

「・・・ずいぶん楽しそうでしたね」

 

 

扉を出ると、サワムラが笑っていた。

 

 

「あ、お前盗み聞ぎしてただろ!」

「してませんよ!そんな趣味の悪いこと・・・」

「・・・サオちゃんのこと、頼むね」

「はっ。命にかえてもお守りいたします」

 

 

部屋に入っていくサワムラの後ろ姿を見て、 あぁこいつサオちゃんのこと好きなのかも となんとなくそう思った。

サワムラなら、優しいし真面目だし、サオちゃん幸せになれるのでは?と 考えながら階段をおりた。

 

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