「東京のよしもと、やっぱりシュール路線やな」
「俺は、新喜劇のがええわ」
「やっぱ笑いは大阪のほうがレベル高いな」
「東京はあれやな、どっちかっちゅーとインテリっちゅーか、頭ええ感じ出してて俺は好かん」
「蔵リンは、こういう路線のがええと思うで?」
「え!?ホンマ!?」
「せやなー白石はこういう路線ええかもな」
「でも、俺、けっこう基本のお笑い好きやしな~・・・」
「やろうな」
「東京のよしもとも、よし、もっと見よう!」
「うわ~あかん」
「あかんで・・・今のは・・・」
「そのギャグめっちゃ寒いわ」
「ええやん!笑いは度胸と勢いや!」
「お前の度胸は確かにすごいな」
「・・・先輩ら、キモいっすわ」
「ええから、お前もちゃんとお笑い勉強せえよ!ちゃんと見とらんかったやないか!」
今日は、四天宝寺のお笑いツアーがあって、東京のよしもとの見学や!
楽しいことが好きなテニス部は、もちろん全員参加やで。
今年入部した財前は、無理矢理連れてきた。
テニス部として、これは参加しとかんとあかん。
東京に来るのは、何度目か・・・やけど、やっぱりちょっと東京は落ち着かんなと思いながら、
思い出すのは、
”彼女”のことや。
(前さん元気かな)
(去年から会ってへんしな)
特に、あの合同練習からは、会う機会もなく、
ただ手紙のやりとりだけが続いていた。
今回も、授業の一環やし、自由時間もそんなにないし連絡せんかったけど、
(やっぱり、)
(東京・・・って言うたら)
(ちょっと顔見たいなって思うなぁ・・・)
大事な友人の顔が浮かんでくるのやった。
初めて彼女と会った去年の夏。
なんだか、いつも一生懸命な彼女には好感が持てた。
大阪の女はキツイ・・・なんていうけど、確かに俺の周りの子もハッキリ言う子が多いし、
何より、姉ちゃんとか由香里とか、
いつも周りに言いたいこと言うやつばっかやからな。
なんだか、彼女の素直さには心惹かれるものがあった。
1つ言うとくけど、別に好きとかちゃうで!?
そういうんとちゃうけど、彼女の番号を聞いたいと思ったのは、
俺の話をちゃんと聞いてくれたから。
(おもろいって言ってくれたし・・・)
(いつも、素直に話聞いてくれる・・・)
ホンマにな、何度も言うけど、大阪人なんてツッコミとかすごいしな、
物事ハッキリ言うねん!
しかも、周りもおもろい奴ばっかで、俺あんまりおもろいって言われんし・・・
せやけど、彼女は、
俺と話す時、いつもニコニコ話を聞いてくれる。
(そんなん嬉しいよなぁ・・・)
(手紙でも、毒草の話に引かないで、もっと教えてって言ってくれるし、)
彼女と話してると、楽しいっちゅーよりも、
心がポカポカしてくる感じ?
俺もよおわからんけど、そんな気持ちになる。
せやから、彼女の文通は、楽しいし、
大切な友人として、
また会いたいと思ってしまうのだ。
「なんで、東京来てまでカレーやねん!」
「しゃーないやろ、この人数で入れるとこ少ないねん。文句言うなら食べんでええでー」
「食うに決まっとるやろ!」
引率のオサムちゃんが、やる気なさそうに、カレーを頬張る。
なぜか、カレー屋しか団体で予約でけへんかったとか言うてるけど、
絶対予算の関係やろうな。
ソワソワ
「ん?謙也、何ソワソワしてんねん?」
「え!?別に、ソワソワしとらんで!」
「いや、してたで」
「してたわ」
「え!?ホンマ!?」
「なんやねん」
「いや~自由時間とかあったらよかったなぁ~って・・・」
せっかく東京に来たから、少し遊びに行きたいやん?
そう謙也は言った。(わかる)
「ああ、お前、こっちにイトコおるし会いたいよな」
「え!?あ、ああ~・・・まぁ、別にアイツのことはどうでもええねんけど・・・」
「え?他に会いたいやつおんのか?」
「や、ちゃうねん!」
「なんやねん」
「ちゃうねん!」
「二回言うなや」
「いや、そうやなくて、めっちゃ美味しいコロッケのお店あってな、行きたいな~って・・・」
「あ、そうなん?」
「おん、俺おかんのおつかいでよく東京来るからな」
「せやな、ええなコロッケ食いたいわ」
「カレーにコロッケ追加で頼んでええやろか」
「自腹になるやろな」
「せやろな」
妙にソワソワしとる、謙也がなんだかおかしいと思った。
まぁ、こいつはいつもソワソワしとるけど。
忙しいやつやからな。
「・・・俺も自由時間ほしかったわ」
「!? せやろ!?」
「・・・ま、しゃーないけどな」
「・・・おん」
「また来月も来るしな、大会に勝てたら」
「ああ、せやな・・・お前はええなぁ」
「はは、お前のが東京来てるやん」
「まぁ・・・そうやけど、」
「ま、そのうち機会もあるやろ、焦ってもしゃーないしな」
「・・・うん、せやな」
そんなことをカレーを食べながら2人で話す。
(焦ったってしゃーない・・・)
(半分、自分に言い聞かせたもんやけど・・・)
帰ったら、彼女に手紙を書こう。
東京のよしもとに行ったこと。
彼女は何て言うやろか。
行ってみたい・・・って言ってくれへんやろか。
(それも、)
(会う口実になるんやけどな・・・)
また来月、
次に東京に来る時は、彼女に会おう。
そう思いながら、東京の少し辛いカレーに口を付けた。