013***蔵ノ介

「東京のよしもと、やっぱりシュール路線やな」

「俺は、新喜劇のがええわ」

「やっぱ笑いは大阪のほうがレベル高いな」

「東京はあれやな、どっちかっちゅーとインテリっちゅーか、頭ええ感じ出してて俺は好かん」

「蔵リンは、こういう路線のがええと思うで?」

「え!?ホンマ!?」

「せやなー白石はこういう路線ええかもな」

「でも、俺、けっこう基本のお笑い好きやしな~・・・」

「やろうな」

「東京のよしもとも、よし、もっと見よう!」

「うわ~あかん」

「あかんで・・・今のは・・・」

「そのギャグめっちゃ寒いわ」

「ええやん!笑いは度胸と勢いや!」

「お前の度胸は確かにすごいな」

「・・・先輩ら、キモいっすわ」

「ええから、お前もちゃんとお笑い勉強せえよ!ちゃんと見とらんかったやないか!」

 

 

 

今日は、四天宝寺のお笑いツアーがあって、東京のよしもとの見学や!

楽しいことが好きなテニス部は、もちろん全員参加やで。

今年入部した財前は、無理矢理連れてきた。

テニス部として、これは参加しとかんとあかん。

 

 

 

 

東京に来るのは、何度目か・・・やけど、やっぱりちょっと東京は落ち着かんなと思いながら、

思い出すのは、

 

 

”彼女”のことや。

 

 

(前さん元気かな)

(去年から会ってへんしな)

 

 

 

特に、あの合同練習からは、会う機会もなく、

ただ手紙のやりとりだけが続いていた。

 

今回も、授業の一環やし、自由時間もそんなにないし連絡せんかったけど、

 

 

(やっぱり、)

(東京・・・って言うたら)

(ちょっと顔見たいなって思うなぁ・・・)

 

 

大事な友人の顔が浮かんでくるのやった。

 

 

 


 

 

 

初めて彼女と会った去年の夏。

なんだか、いつも一生懸命な彼女には好感が持てた。

 

大阪の女はキツイ・・・なんていうけど、確かに俺の周りの子もハッキリ言う子が多いし、

何より、姉ちゃんとか由香里とか、

いつも周りに言いたいこと言うやつばっかやからな。

 

なんだか、彼女の素直さには心惹かれるものがあった。

 

 

1つ言うとくけど、別に好きとかちゃうで!?

 

 

そういうんとちゃうけど、彼女の番号を聞いたいと思ったのは、

 

 

俺の話をちゃんと聞いてくれたから。

 

 

 

(おもろいって言ってくれたし・・・)

(いつも、素直に話聞いてくれる・・・)

 

 

 

ホンマにな、何度も言うけど、大阪人なんてツッコミとかすごいしな、

物事ハッキリ言うねん!

 

しかも、周りもおもろい奴ばっかで、俺あんまりおもろいって言われんし・・・

 

 

せやけど、彼女は、

 

俺と話す時、いつもニコニコ話を聞いてくれる。

 

 

(そんなん嬉しいよなぁ・・・)

(手紙でも、毒草の話に引かないで、もっと教えてって言ってくれるし、)

 

 

彼女と話してると、楽しいっちゅーよりも、

心がポカポカしてくる感じ?

 

俺もよおわからんけど、そんな気持ちになる。

 

 

せやから、彼女の文通は、楽しいし、

大切な友人として、

また会いたいと思ってしまうのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「なんで、東京来てまでカレーやねん!」

「しゃーないやろ、この人数で入れるとこ少ないねん。文句言うなら食べんでええでー」

「食うに決まっとるやろ!」

 

 

引率のオサムちゃんが、やる気なさそうに、カレーを頬張る。

なぜか、カレー屋しか団体で予約でけへんかったとか言うてるけど、

絶対予算の関係やろうな。

 

 

 

ソワソワ

 

 

「ん?謙也、何ソワソワしてんねん?」

「え!?別に、ソワソワしとらんで!」

「いや、してたで」

「してたわ」

「え!?ホンマ!?」

「なんやねん」

「いや~自由時間とかあったらよかったなぁ~って・・・」

 

 

せっかく東京に来たから、少し遊びに行きたいやん?

 

 

そう謙也は言った。(わかる)

 

 

「ああ、お前、こっちにイトコおるし会いたいよな」

「え!?あ、ああ~・・・まぁ、別にアイツのことはどうでもええねんけど・・・」

「え?他に会いたいやつおんのか?」

「や、ちゃうねん!」

「なんやねん」

「ちゃうねん!」

「二回言うなや」

「いや、そうやなくて、めっちゃ美味しいコロッケのお店あってな、行きたいな~って・・・」

「あ、そうなん?」

「おん、俺おかんのおつかいでよく東京来るからな」

「せやな、ええなコロッケ食いたいわ」

「カレーにコロッケ追加で頼んでええやろか」

「自腹になるやろな」

「せやろな」

 

 

妙にソワソワしとる、謙也がなんだかおかしいと思った。

 

まぁ、こいつはいつもソワソワしとるけど。

忙しいやつやからな。

 

 

 

「・・・俺も自由時間ほしかったわ」

「!?  せやろ!?」

「・・・ま、しゃーないけどな」

「・・・おん」

「また来月も来るしな、大会に勝てたら」

「ああ、せやな・・・お前はええなぁ」

「はは、お前のが東京来てるやん」

「まぁ・・・そうやけど、」

「ま、そのうち機会もあるやろ、焦ってもしゃーないしな」

「・・・うん、せやな」

 

 

 

そんなことをカレーを食べながら2人で話す。

 

 

 

(焦ったってしゃーない・・・)

 

(半分、自分に言い聞かせたもんやけど・・・)

 

 

 

帰ったら、彼女に手紙を書こう。

東京のよしもとに行ったこと。

彼女は何て言うやろか。

 

行ってみたい・・・って言ってくれへんやろか。

 

 

 

(それも、)

(会う口実になるんやけどな・・・)

 

 

 

また来月、

次に東京に来る時は、彼女に会おう。

 

そう思いながら、東京の少し辛いカレーに口を付けた。

 

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