7月初旬。
すっかり夏になって暑くなった。
無事に県大会を優勝して、関東大会も近くなった日曜日。
珍しく午前中だけで部活が終わったので、まぁちゃんと待ち合わせして、まぁちゃんとブンちゃんと3人でホテルのスイーツバイキングにやってきた。
「やべぇ・・・うまそう・・・」
「やばいねこれは・・・」
スイーツ大好きな2人の目が輝いていた。
面白いw
「ブンちゃん、まだ食べるの!?」
「まだまだいけるぜぃ☆お前、もう終わりかよ」
「終わりだよ・・・肉が食べたい気分だよ・・・」
「アタシもまだまだいけるー。このために朝と昼抜いて来たし!」
「きみたち見てると気持ち悪くなってくるわ・・・」
「ジロ君、元気か?」
「ジロちゃん?元気だよ」
「大体寝てるから元気だな」
「そっか」
「ブンちゃんに会いたいってうるさいけどね」
「そうそう、なんかリストバンドあげたんでしょ?」
「あれはあげたんじゃなくて、とられたんだよ」
「とられてたね・・・」
「そうなの?でもリストバンド大事そうにしてたわ!」
「そっか、ならとられたかいもあったな」
1年の10月。
氷帝と立海と四天宝寺のみんなでやった合宿の少し前に、
新人戦があって、その時にジロちゃんがブンちゃんの技術に惚れこんで、すっごい嬉しそうにしてた。
(あんなに元気に起きてるジロちゃん久々にみたよ)
それから、ブンちゃん大好き人間と化したジロちゃんと、よくブンちゃんの話してたんだよね。
ブンちゃんの作ってくれたお菓子、たまにジロちゃんにあげたりして。
普段寝てるくせに、ブンちゃんの話題になると、目が覚めるから不思議だ。
「氷帝、都大会優勝だろ?関東大会で会うの楽しみだな~」
「そうそう、ジロちゃんが楽しみにしてたよ」
「亮とかも燃えてたよね」
「がっくんもね~」
「ふーん。まぁ負けねーけど」
「そうだね、頑張ろうね」
「アタシも、立海応援するわ」
「また跡部くん怒るよ~・・・」
「知らんがな」
「そういえば、ジロちゃん、ブンちゃんと遊びたいって言ってたわ」
「マジか。部活忙しいし、なかなか会えないな」
「そうだね・・・」
「ホント、立海忙しすぎだわ!さおちゃん帰って来るの遅いし、悲しい」
「だよなー立海練習多すぎだよなー」
「でもブンちゃん、けっこう学校帰りにゲーセン行ったり、ラーメン食べに行ったりしてるしょ・・・」
「おう」
「部活前に駄菓子屋いったりさ・・・すごいいろいろ行ってるよね」
「あーそうか?」
「そうだよ。私なんて、家遠いから、学校と家の往復だよ」
「さおちゃん大体学校か家だからPHS持ってないもんね」
「うん、大体学校か家だからね」
「PHS持てば?遠いからあぶねーだろ?」
「そう言ってるんだけどさ、PHS代もったいないからいいって言うんだよね」
「居場所わかってるんだから大丈夫だよ」
「そうかい?きみと離れてる時にメールしたいよ。今さおちゃん何してんのかなーって思う時とかある」
「部活してるよ」
「だな」
「そうだけどさー!」
確かに、PHSちょっとうらやましいなって思うこともあるんだよね。
なんかみんな持ってるし。
(PHSあったら、白石くんともメールのやり取りになるのかな?)
(うーん、でも文通楽しいからしばらく続けたいな~)
そんなことを考えながら、スイーツを食べ続ける2人を見る。
やばい、本当に見てたら気持ち悪くなってきた^^
なんだこの2人^^
「はぁ・・・アタシもさすがにそろそろギブアップー」
「マジかよ」
「ブンちゃん、まだ食べるの!?」
「余裕」
「ひょえーさすがのアタシもちょっとここまで食べる人初めて見たわ」
「ブンちゃん、体重増えたらまた真田くんに怒られちゃうよ
」
「なにそれうける。さおちゃん何の心配してんの?」
「こないだブンちゃんね、体重計乗ったら重くて真田くんに怒られてて・・・」
「重いっていうなって!き・ん・に・く!」
「www ほんとかよ~www」
「だって、『たるんどる!』って思い切り・・・」
「肉がたるんどるwww」
「ちげーから!んだよ、マジで・・・」
とか言いつつ、手を止めないブンちゃん。
まぁちゃんは休憩すればまたいけそう・・・なんて呟いてるからこっちはこっちで怖い・・・
ってか、ブンちゃん、ホント食べすぎだけど大丈夫かな・・・?
まだまだ机には大盛りのスイーツがあるけど、全然手を止める気配がないからハラハラしちゃう・・・
こんだけ食べたら完全に元取ってるな・・・いいなブンちゃん・・・
そんな時、
「・・・見られてるね」
そんな風にまぁちゃん呟いたものだから、びっくりした。
「え・・・?見られてるってどういうこと・・・?」
「いや、見られてるわ、視線感じる」
「え、何それ!怖い!」
「きっとアタシが可愛いからだ・・・」
「きみモテるもんね・・・どうしよう!」
「大丈夫だって、俺が守ってやるから」
「ブン太、すっげーセリフいいのに、スイーツ食べながら言うから台無し」
「手は止めない」
「ブンちゃん・・・」
(え、どうしよう・・・)
(中学生だけで来ちゃいけなかったのかな???)
(どうしよう、怖い・・・)
そう思っていたら、私たちのほうへ、1人の男の人が歩いてやってきた
(!?)
「ま、まぁちゃん・・・」
「大丈夫だよ、ここ人しかいないから。何かあっても何とかなるよ」
「俺が守るから大丈夫だって」
「まぁちゃんもブンちゃんもなんでそんなに冷静なの!?」
そんな話をしていたら、男の人は、私たちの前で足を止めて、
「あの・・・」
と話しかけてきた。
「何?」
それに返事したのは、まぁちゃんだった。
(まぁちゃん・・・!)
(危ないよ!!!)
私はハラハラしながら、その場を見守る。
すると、男の人は、スッと私たちの目の前に1枚の紙を出した。
(わっ!)
(なになに!?)
それが名刺だと気づくまで私は時間がかかったけど、
2人はすぐにそれを手に取って、眺めていた。
「「ディレクター???」」
そして、2人は声を揃えてそう言ったのだ。
「はい、僕は○○テレビのディレクターやってます」
「テレビ局の人が何か用?」
「用事があるのは、そっちの子なんだけど・・・」
「俺?」
そのディレクターという人は、ブンちゃんのことを指していた。
「きみ、さっきから見てたらすごい食べるみたいだけど、大食い選手権とか興味ない???」
その一言で、満場一致で
あ、そういうことか
と気づく。
やだ、やっぱりブンちゃんのこれって、大食い選手権出れるレベルなの???
「興味なくはないけど」
「本当?きみ、顔もいいし、うけると思うんだよね。中学生かな?」
「はい、中2っす」
「じゃあぜひテレビに出てみない!?この食べっぷりはテレビに出れるよ!」
(ぶ、ブンちゃん・・・)
私はなんだか驚いてその様子をぼーっと見てたんだけど、
まぁちゃんは爆笑。
隣でお腹を抱えて笑っている。
そんなスカウトの人にブンちゃんは少し考えたように黙った後、
口を開いた。
「無理っすね」
「え!?ダメ!?親御さんにはちゃんと連絡して・・・」
「俺、たくさん食べれるのスイーツ限定なんで」
そう言って、断ったブンちゃんを見て、更にまぁちゃんが爆笑していた。
その後、ブンちゃんが大食い選手権にスカウトされたことは、部活のみんなに知れ渡って、
真田くんが「もう少し自重せんか!」と怒っていた・・・
「・・・ブンちゃん、普通にご飯もめっちゃ食べるくせに」
「あーいったほうが、すんなり断れるだろい?」
これが、上手く生きてくために大事なんだぜ
ってブンちゃんが言ってたけど、わかったようなわからなかったような・・・
とにかく今日もブンちゃんは、たくさんのお菓子を離さないのでした。