第20話:サワムラ

 

 

「サワムラくん!」

 

 

振り向くとそこには笑顔で駆けてくる姫様が。

 

 

「姫様、何卒サワムラとお呼びください・・・俺は国に仕える身ですから、敬称をつけて呼ばれるのは・・・」

「え?私も国に仕える身なので、気にしないでください・・」

「き、気になりますよ!姫様にくんをつけて呼ばれるなんて・・・それに姫様は国に仕えているのではなく、国を治める立場の方ですし・・・」

「治めてません!治めてるのは父上で、私も国民の1人として国に仕える身です!・・・だから、サワムラくん、って呼んだらダメかなぁ?」

 

 

そう聞かれると、ウッと言葉に詰まってしまった。

 

 

「・・・お好きにお呼びください」

「ありがとう、サワムラくん!それでね、こないだ借りた西の谷のモンスターの討伐計画の話なんだけどね、」

 

 

彼女は幼い頃から人のことを考えられる姫だった。

戦術や戦略が好きなようで、よくその話をしに同い年の騎士の俺の所へやってきていた。

今思えば子供同士話がしやすいからだろうが、当時の俺は少し自分が特別な存在になった気がして嬉しかったのを覚えている。

 

そんな彼女が14歳の時に行方不明になった。

恐らく何者かに攫われたのだろうと、騎士団は血眼になって姫を探し回った。

もちろん俺も、必死に姫を探し歩いた。

しかし、なんの手がかりもないまま、もうすぐ3年が経とうとしている。

 

森も谷も砂漠も洞窟も行ける場所は全て探したのに。

姫様は、どこにもいない。

 

(姫・・・)

 

彼女の笑顔を思い出しては、今頃どう過ごされているのか、そう思うとズキズキと胸が痛んだ。

 

 

そんなある日のことだった。

明日はもう1人の姫様の成人の儀。

第一皇女が行方不明になってちょうど3年が経つ日。

 

第二皇女は、今は昔の記憶がなく自分を第一皇女だと信じて暮らしていた。

でも俺は、そんなの御二方にとって最善の策だと思えなかった。

 

 

忘れられた姫

忘れることしかできなかった姫

どちらも、なんて悲しいんだといつも思っていた。

 

 

(俺が御二人を、)

(救ってみせる…!)

 

 

今日も俺は、ひたすら姫様を探し、モンスターを倒しながら南の森に入っていた。

 

 

(ん?なんだここは・・・)

(こんな道・・・今までなかったのに)

 

 

何度も来ているはずなのに、初めて見たこともない一本道を見つけた。

 

 

迷わず、その道を突き進んだ。

 

 

その先に進むと、そこはまるで異世界のような穏やかな暖かい景色が広がっていた。

花や木の実が咲き誇り、まるで誰かに故意で作られたかのようなその場所に一瞬目を奪われた。

 

 

そして思い出すのだ。

城の庭で咲き誇る花をいつも笑顔で眺めていた姫を。

 

 

(姫・・・姫・・・)

 

 

奥まで進むと、小さな1つの家を見つけた。

煙突からは煙が出ている。

 

 

(・・・誰か住んでいる)

 

 

庭には綺麗に割れた薪が並んでいる。

俺は玄関をそっとノックすると、扉を開けた。

 

 

(・・・鍵は閉まってないようだな)

 

 

「誰かいるのか?」

 

 

声をかけながら部屋の扉を開ける。

 

 

キィ

 

 

「失礼する、・・・・・・!?」

 

 

ひとつの扉を開けて   俺は、言葉を失った。

 

 

「・・・ひ、姫様・・・!」

 

 

そこにはベッドに横になり、陽の光を浴びてまるで輝いて見える姫がいた。

 

 

見つけた、姫様だ・・・

姫様がいた・・・!!

 

まずは姫の呼吸を確認し、彼女が生きていることを確かめるとホッとため息が出た。

 

生きてる。

見たところ傷もない。

3年の間に成長されているが、間違いなく彼女は俺たちの姫様だ。彼女は何も変わっていない。

 

姫様が呼吸をしている。

生きている!

 

 

(・・・こんなに、嬉しいことがあるか・・・)

(姫が・・・ご無事に・・・)

 

 

目頭が熱くなった。

が、今はまだ何があるかわからない。

姫がここに1人で暮らしているとも思えない。

俺は姫を抱き抱えて、元来た道を戻る事にした。

 

 

(目を覚ましてしまうだろうか)

(久しぶりに俺の姿を見て突然のことだから驚かれたりしないだろうか)

 

 

色々と考えを巡らせていたのに、姫様は全く目を覚まさなかった。

 

 

(何か・・・術でもかけられているのか?)

 

 

姫様が目を覚まさないのを不審に思いながら、姫様を抱えて今来た道を後にした。

 

南の森に出た。

ホッとして後ろを振り返ると、姫様がいた小屋へ続く道は消えていた。

 

 

(道が、消えた)

(いつもの森に戻った)

(まるで誰かが俺を導いていたかのようだ・・・)

(・・・そして恐らく、あの場所を作ったのは魔術師、)

(それとも、賢者か・・・)

 

 

そう言えば・・・王様が賢者様と連絡がつかないとおっしゃっていた。

そしてあの小屋にあった本の魔法陣・・・

 

 

(・・・まさか、な)

 

 

俺はそのまま騎士団の仲間と合流すると、馬に乗り姫様を連れて城へと戻った。

 

 

目を覚ました姫様が  また笑顔で、

「サワムラくん」

と、呼んでくれることを信じて。

 

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