第18話:クラノスケ

 

 

キィ と扉を開けた。

そこには 国の大臣の 北条政子がおった。

 

 

「あら・・・よくここがわかったわね」

「ずっと、つけてたんや・・・やっと見つけたで。サオリはどこや?」

「さぁ・・・どこかしら」

「お前がやったんやろ?」

「・・・だったらどうするの?坊や」

 

 

ぶっ潰して居場所聞いたるわ!!!!!!!

 

 

そう叫んだ時にはもう おれは我を忘れて 攻撃をしかけとった。

あまりの怒りに、記憶が飛ぶほど

その時の俺は 狂ってたと思う。

気が付いたときには 俺は外に倒れとった。

そして、そこには大きな狐のようなものと、俺のお師匠さんが倒れとった。

 

 

「・・・師匠!!師匠!!!!」

「・・・クラノスケくん・・・だめじゃない、ですか、茶吉尼天を ひとりで相手にするなんて・・・」

「師匠・・・師匠が俺を・・・助けてくれたんですか!?」

「弟子を助けるのは 師匠の役目、ですから・・・」

「師匠、師匠、すんません・・・!俺・・・!」

「・・・それより、あなたの 姫を」

「そうや・・・サオリ・・・!」

「クラノスケくん、よく、聞いてください、とても大切なことです」

「はい、師匠、」

「茶吉尼天が 最期に言っていました・・・姫に強い呪いをかけた、と・・・」

「え!?呪い!?」

「・・・呪いというものは・・・必ず、生死に関するものです・・・とても強くて・・・命に係わる・・・彼女は死ぬか、生き続けるしかない・・・どちらにしても・・・苦しく悲しく・・・とてもツライものです・・・」

「う・・・うそやろ・・・」

「呪いは、ゆっくりと進行します・・・そして、呪いの力は強力です・・・完全にかかってしまうと、絶対に 解けることはできません・・・」

「そんな・・・!け、けど、完全にかかる前なら!!呪いを解く方法はあるんですよね!?」

「・・・今の、きみには、難しいでしょう・・・でも僕も魔力を使い過ぎました・・・いや、魔力があったとしても・・・僕にもすぐには・・・呪いを解くのは非常に困難なことなのです・・・方法を、探さなければ・・・それまで きみが進行を防ぐのです・・・ すぐに、彼女に 強力な魔法をかけなさい・・・」

「魔法!?俺、どんな魔法をかければ・・・」

「彼女の時間を、止める 魔法・・・いいですか、強い魔法をかけるんです・・・すぐに呪いをとくことは できません・・・探してください・・・きみなら、彼女を救う方法は必ず見つけられる・・・」

「はい・・・!俺、がんばります!せやから!師匠!まだ、まだたくさん教わりたいことが・・・!」

「・・・茶吉尼天は、強すぎました・・・きっと彼女は この国から自分の記憶だけ最期に消していきました・・・誰も茶吉尼天がやったこととは・・・いたことすら・・・覚えてない、でしょう」

「そんな・・・」

「だからこそ、 きみが彼女を守ってください・・・」

「は、はい」

「何も思い出さないように 時間を進めないように、全てから遠ざけて、どんなにつらくても、きみが、必ず彼女を 守りなさい・・・」

「はい!必ず!必ず守ります!!せやから師匠も!!師匠!師匠・・・」

「僕は、大丈夫です・・・きみの 師匠・・・ですから・・・さぁ、早く・・・彼女を救ってあげてください・・・」

「師匠、先に、ヒーリングを・・・!」

「いけません、きみはこれから・・・強い魔法を彼女にかけなければなりません・・・魔力は残しておいてください・・・僕は、大丈夫ですから、」

 

 

(師匠、)

 

 

師匠のその姿を見て 大丈夫、とは思わへんかった。

親代わりに育ててくれた師匠やったし、ほんまに、ほんまに大好きで、今すぐ助けたかったけど

 

 

(師匠、すんません・・・!!)

 

 

俺は、涙をぬぐって 壊れたガレキの中から、地下へつながる階段を見つけ、急いでその階段をおりた。

 

 

「・・・サオリ?おるんか?」

 

 

そこは真っ暗で なにも見えなかった。

俺は持ってた火炎草をろうそくにうつし、少しの灯りをたよりに、じめじめとした暗い石の牢屋を見つめた。

 

 

そして彼女の姿を見た時

 

発狂しそうになった。

 

頭がおかしくなりそうや

 

 

「う、うそやろ、息、してる・・・?サオリ・・・?サオリ・・・?」

 

 

彼女はげっそりと痩せた状態で それでもひゅーひゅーと小さな息を吐きながら 生きているのやった。

 

 

ああああ・・・!!

あああああああああ・・・・!!!!

 

 

なんて なんてひどいことを・・・!!!!

 

 

あいつは死んだはずやのに

それでも殺したりない、許すことができない、怒りにまた我を忘れてしまいそうやった。

 

 

「アカン、どない・・・っ」

 

 

勝手に涙がこぼれた。

泣いてる場合とちゃう。

 

 

俺は彼女を守らなあかんのに!!

 

 

俺の魔力全てを使ってでも強い魔法をかけなあかん、

それならヒーリングは使えへん。

 

 

俺は持ってる限りのアイテムをとりだした。

 

 

(薬草系はあかん・・・飲み込めへんし・・・・・・)

(そうや、命の石・・・!これなら・・・)

(あかん・・・これは死ぬことを代わってくれる石・・・今は使えへん・・・)

(どないしよう、さおりが・・・)

 

 

このままじゃ彼女は魔法に耐えられへん、魔法かけられんし、ここから動かすことも・・・そう考えていた時

アイテムの袋から キラキラと輝く精霊が現れた

 

 

「! お前、ついてきとったんか・・・!」

「・・・助けて、くれるんか?」

「おおきに・・・!すぐに、頼むわ!!」

 

 

精霊は涙を流して、その涙をサオリの口に入れた。

 

 

その瞬間、少しだけさおりの体が光って、 彼女は少し回復したように見えた。

痩せすぎたその体も、少しだけ肉が付き、呼吸も安定してきた。

 

 

(・・・これなら、魔法をかけられる)

 

 

俺は全身全霊で、全魔力をかけて 彼女に魔法をかける。

 

 

(彼女の時が、止まるように)

(呪いの進行を抑えるために)

(彼女がこれ以上、苦しまんために)

 

 

まだ14の俺には、正直ものすごく難しい魔法で、完全に彼女の時を止めることはでけへんかった。

せやから、考え抜いて2つの魔法をかけることにした。

 

ひとつは、「彼女の記憶をすべて消す」魔法。これは彼女が呪いをかけられたことを忘れるように。決して呪いのことは思い出さないように。

 

もうひとつは、「彼女が同じ日々を繰り返す」魔法。

 

彼女の呪いが進まないように。彼女の時が少しでも止まるように。

全魔力を注ぎ込んで、魔法を精一杯かけた。

 

 

(・・・これで)

(肉体は成長しても、精神と脳は成長せぇへん・・・)

(彼女の時が進むのは、抑えられる)

 

 

けど

けど、

けど、なぁ・・・・

 

 

ボタボタボタ

 

 

大粒の涙が、冷たい石の地面に吸い込まれていく

 

 

「サオリ・・・ごめんなぁ・・・」

 

 

これから先の きみの幸せを奪うこと。

過去の幸せな思い出すら 失くしてしまうこと。

 

 

これから毎日、何もわからない、何も覚えてない、自分が誰かすらも分からない

 

 

怖くて

淋しくて

つらくて

真っ暗な世界に 閉じ込めてしまうこと。

 

 

「・・・ごめんなぁ・・・、サオリ・・・サオリ・・・」

 

 

ボタボタ

涙は止まらない

けれど魔法陣は綺麗に光り輝く

 

 

「俺、お前を、守るからな・・・俺の人生かけて、早く、呪い、 解くからな・・・」

 

 

せやから、きみの全てを奪うという 罪 を背負う俺を どうか、どうか、傍においてくれ

 

 

青く光る魔法陣がゆっくりと輝くのをやめて

その上に浮いた彼女が 静かに床におりる。

 

 

「はぁ、はぁ、」

 

 

魔力を使い果たして、もう限界やった。

 

 

茶吉尼天にやられた傷が痛む

体も重い

けど、俺がここで倒れるわけにはいかへん

 

 

「サオリ、すぐに助けてやるからな、もうちょい待って」

 

 

俺はさおりを背中におぶって 光る精霊の後を追って、ズルズルと地上への階段を上った。

 

 

(・・・師匠も助けんと)

 

 

俺を守って大けがをした師匠も一緒に連れて帰って治療しようと、口に帰還の翼を咥え、

師匠の元へと急いだ。

 

 

しかし

 

 

外に出たとき

 

 

茶吉尼天の遺体と 師匠の姿はどこにも見当たらんかった。

 

 

(確かに、ここに、倒れた狐と・・・師匠が、おったのに、)

 

 

あかん

げんかい、や

 

 

俺は最後の力を振り絞って 帰還の翼を使った。

背中におぶった彼女の体温が温かくなっていたから 少し安心したのを覚えている。

 

 

 


 

 

 

 

「・・・ここは」

 

 

目が覚めた時には、俺はベッドに寝とった。

魔力を使い果たしたからか、全身がだるくて、もしかして自分の命も危なかったのかもしれないと思った。

 

 

周りには、今まで師匠と助けてきた精霊やドワーフやゴブリン、聖獣たちがいた。

窓の外にも心配そうなユニコーンにペガサスに巨人族、それに他の魔物や動物達も心配そうに除き混んでいるのが見えた。

 

 

「・・・みんなが助けてくれたんか?」

 

 

おおきに、そう言ってからハッと気づく

 

 

「サオリは・・・!!」

 

 

俺は精霊に案内され、彼女が眠る部屋へと急いだ。

 

 

スースー

 

彼女は小さく呼吸をしていた。

 

 

(・・・よかった)

 

 

眠っているだけのようだった。

 

 

「・・・みんな、俺のことも彼女のことも助けてくれたんやな」

「ほんまにおおきにな」

「え、師匠?」

「師匠は・・・わからへんねん・・・俺を守って大けがしとったけど・・・あの人なら絶対生きとるって、俺は信じとる」

「あぁ、大丈夫・・・大丈夫や。これから、どんなことがあっても、俺は彼女を守るで・・・みんなにも助けてもらうかもしれなんけど、よろしくな」

「とりあえず、家の周りの結界をもっと強くせなあかんな・・・絶対に誰にも見つからんように・・・」

 

 

そう話していると

彼女が小さく身動きし、目を覚ました。

 

 

(よかった)

(よかった、彼女は無事や)

(ほんまに、よかった)

 

 

「・・・ん・・・・・・」

 

 

そう、目を開けた彼女は 涙でかすんでよく見えへんかったけど

 

 

「・・・おはよう、今日から、よろしくな」

 

 

俺はそう、涙をふきながら 彼女に声をかけたのやった。

 

 

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