第17話:物語

むかしむかし、ある国に 素敵な王様と優しいお妃様がいました。

王様はとても穏やかで、王族が一番働かねばならぬ、と自ら街の人々の手伝いに出向くような優しい王様でした。

お妃様も、町民出身で庶民の心を忘れず、みんなに尽くし、町民に愛されるとても素敵なお妃様でした。

 

そんな二人の間に、とても可愛い双子のお姫様が産まれました。

その昔、双子は 忌み子 と言われ予期せぬ悪いことの前兆だ と嫌われていましたが、

近年ではその風習も薄れ、王様は双子の姫が産まれた時喜びも2倍だ と大層お喜びになりました。

 

ところが それを快く思っていない人物がいたのです。

 

これはその人の物語。

暗く悲しい、物語。

 

 

 

その人は 王様の事が、ずっと昔から好きでした。

子供の頃からずっとずっと王様を愛し、必ず自分が王様と結ばれると信じていました。

 

ところが王様が結婚相手として選んだのは街の靴屋の娘・・・

自分の、親友でした。

 

あまりのショックに二人を祝福することが出来ず、王様が町民と結婚するなんて!と猛反対しましたが

王様の意志は変わらず 王様は親友と結婚してしまったのです。

 

愛していた男に振り向いてもらえず

大切に思っていた親友には愛する男を奪われ

その人は日に日に狂っていきました。

 

それでも王様のことを忘れることはできず、ずっと傍に居たいと思っていたその人は

いつか王様が自分のほうを振り向いてくれると信じて 毎日王様のために尽くしていました。

 

ところが今度は 王様に双子の女の子が生まれてしまったのです。

王様は可愛い双子の娘たちを溺愛しました。

 

その人は マズイ そう思いました。

 

もしかしたら自分に向くかもしれないと思っていた愛情が、3つに分かれてしまったのです。

それも子供は 忌み子。

王様に不幸をもたらすこの悪い忌み子はどうにか処理しなければならない、王様を守らなくてはいけない、

そう強く考えたのでした。

 

ただ、もし王様が 自分に振り向いたのならば・・・

王様が自分のことを愛したならば・・・

その時は忌み子は見逃してあげよう・・・

捨てられた可哀想な親友のことも許し、自分は笑顔で幸せになろう・・・

 

そう思っていました。

 

しかし、いくら待っても王様は自分に振り向いてくれません。

それどころか、変わらず親友を愛しているし、日々成長していく双子の姫をそれはもう大切にしているのです。

 

その人の怒りはだんだん親友よりも、双子の姫に向けられました。

これも全て 忌み子 が産まれたからだ、不幸を招く 忌み子

自分に不幸をもたらす忌み子・・・

早く始末しないと、早く・・・

 

その人は、ずっと姫たちを始末する時を狙っていました。

ずっとずっと、魔力を蓄えながら、計画を練りながら、その時を 待っていたのです。

 

そして 姫たちの14歳の誕生日の朝。

みんながパーティーの支度で忙しいその時に

一人の姫を 捕らえました。

本当は二人同時に始末したかったけれど、まだ魔力が充分に溜まっていなかったので、一人の姫の方で我慢しました。

 

忌み子 は一人が欠ければ、それで充分だったからです。

その人は、自分の隠れ家にしている古い廃墟の地下牢に 姫を閉じ込めました。

 

最初は、殺す気など ありませんでした。

姫のことは子供の頃から見ていたので 憎悪の中にも少しだけ情があったからです。

 

ところが 姫は ご飯を与えても泣いてばかりで食べようとしません。

水すら 口に入れないのです。

思い通りにならず、その人はカンカンに怒りました。

 

カンカンに怒ったその人は 姫に強い呪いをかけるのです。

今迄の全ての怒りも込められていたのでしょう。とても強い呪いです。

呪いの力は完全にかかりきるまではジワジワとゆっくり時間がかかりますが

完全にかかってしまえばとてもどんなにすごい魔術師でも絶対に解くことはできません。

 

 

姫にかけられたその呪いは

 

「 死ねない呪い 」

 

でした。

 

 

どんなに死にたくても 死にたくなるほどつらくても 痛くても 苦しくても

死にたいと、心から願っても

絶対に死ぬことはできないのです。

 

何も口にしない姫は今にも死にそうな状況でしたが 呪いのせいで 命をほんの少し保っていました。

そして 姫をさらってから 3ヵ月が過ぎました。

キィ と扉が開く音が聞こえ、その人は 振り向きました。

 

そして、思うのです。

 

どうして、愛されるのが自分じゃないの?

どうして、あの子なの?

どうして、忌み子までもが愛されるの?

どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

そしてその人は 全てを滅ぼす決意をしたのでした。

 

 

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