第16話:サオリ&マナミ

 

目が覚めると、 見知らぬ天井が写った。

 

 

「目が覚めましたか?」

 

 

そういう、甲冑を来た黒髪の男性に、 あなたは誰? と震えながら聞いた。

 

 

こわい

 

 

それしか頭の中には浮かばなかった。

 

 

「昨日の記憶がない?」

 

 

たくさんの人間に囲まれて、恐ろしくて布団に隠れた。

 

 

こわい

こわい

こわい

 

 

ここはどこなの?

私は誰なの?

なんでこんなにたくさん人がいるの?

 

 

いやだ、助けて、助けて、

 

 

窓から見える空は 真っ青だった。

 

 

「そんな・・・記憶がないだなんて・・・」

「サオリ、何も覚えてないのかい?昨日、会っただろう?」

 

 

聞かれて、首をフルフルと振った。

 

 

「何も、覚えていないのか・・・」

「先ほど城の魔術師に診てもらいましたが、どうやら強力な魔術がかけられているようです」

「強力な魔法・・・」

「魔術師が言うには、強力な魔術の上に更に強力な魔術を絡み合わせて重ねているような・・・とても複雑な構造で解除するのはほぼ不可能とのことでした」

「そんな・・・」

 

 

可哀想に、そう母と言う女性が涙を流した。

 

 

「・・・こんな魔術をかけられるのは、おそらくあの方だけだと」

 

 

そう、 サワムラ という男性が口にしたとき、

 

 

「・・・仕方がない・・・彼は近隣の国にも協力してもらい、指名手配に」

 

 

そう小さく父という男性と話している声が聞こえた。

 

 

しめい、てはい・・・?

かれ、ってだれのこと?

 

 

考えようとすると頭が痛んだ。

 

 

こわい

 

ただただ、こわい。

 

震える私を見かねたのか、母という女性は私の頭を優しく撫でて

 

「・・・いきなりこんな大勢でおしかけたら怖いわよね。無理しなくていいよの、ここはあなたの家なんだから、ゆっくりしてちょうだいね」

 

 

そして サワムラ という男性にあとは任せて、他の大人はみんな出て行った。

人がたくさんで怖かったから、ちょっとホッとした。

でもまだ自分のことも、ここの場所も・・・説明されたけどよくわからなくて

ここが家だと言われても納得いかなくて

私はただ恐怖におびえるだけだった。

 

 

「姫様、何か飲みたいものはありませんか?」

「・・・いえ、」

「では食べ物を持ってくるよう頼みましょうか、お腹はすいていらっしゃいませんか?」

「・・・いえ」

「しかし・・・食べないと、体を壊しますよ」

「・・・あの、」

「はい?」

「ここに、もうひとり 男性がいませんでしたか?」

「え?」

「・・・なんだか、そんな気がしたんです・・・」

 

 

すいません、と私はまた布団にもぐった。

 

 

「・・・今、食べ物を持ってくるように伝えてきます。少し席を立ちますが、お待ちください」

 

 

そうサワムラと言う人が部屋から出て行って なぜだかホッとした。

 

彼が悪い人ではないこと、すごくよくわかるんだけど

自分が何者なのかもよくわからない状況でいきなり信じろ、というのも無理な話だ。

 

 

「・・・サワムラのやつ、やっといなくなった」

 

 

そう 今度は急に女の子の声が聞こえた。

 

 

(え・・・?)

(私と似てる声・・・)

 

 

「誰・・・?」

 

 

部屋を見渡しながら、そう声をかけた。

 

 

 


 

 

 

 

急に姿を現した私に サオリと呼ばれる女の子は、驚いた様子で

あなたは誰?どこから来たの?と聞いてきた。

サワムラより警戒されてないのは、アタシが女だからなのか。

 

 

「きみ、サオリって言うんでしょ?アタシ、マナミ」

「マナミ・・・?」

「アタシね、きみと姉妹なんだって」

「え!そうなの?」

「うん、顔そっくりだよ」

「そうなんだ!」

「鏡あるよ、見てみる?」

 

 

アタシが鏡で二人の顔をうつすと、 わぁ、ほんとだそっくり! とサオリという女の子は言った。

サオリという女の子って言いにくいなおい。

 

 

「サオリ、だから、サオちゃんでいい?」

「え?」

「あだ名だよ。アタシね、マナミでいいよ」

「あ、う、うん・・・あの、呼び捨てするのアレだから・・・ま、まぁちゃん、でもいい?」

「なんでもいいよ!」

「そっか、ありがとう」

 

 

サオちゃんはなんだかホッとした様子で ようやく笑顔を見せた。

 

 

「サオちゃん、笑うと余計に似てるわ!」

「ほんと?」

「うん!」

「不思議だね、なんだかまぁちゃんとは初めて会った気がしないよ」

「わかる。アタシもなんかそう思ってた」

「姉妹だからかなぁ・・・」

「ねぇねぇ!アタシとサオちゃん、どっちが姉だと思う!?」

「え?」

「アタシ的にはさ、さおちゃんのがお姉さんだと思うんだよね!なんかアタシ姉っぽくないし!」

「え!なんでなんで?」

「サオちゃんのがおっぱいでかいし、落ち着いてるし、多分お姉ちゃんだと思う!」

「おっぱいは関係なくない・・・?姉とか妹とか、大事なこと?」

「大事だよ!!!!!だって、アタシ、妹なら結婚しなくていいかもしれないんだもん!!」

「え、なにそれ?」

 

 

アタシはそれから、アタシが14歳までの記憶がないことと、一人娘として育てられてきたこと、それからオイカワと結婚させられそうなことを話した。

ちなみにここの部屋までの階段と扉にはちょっと色々仕掛けをしてきたからサワムラはすぐには帰ってこないはずである。

 

 

「・・・結婚したくないの?」

「うん、したくないんだ。オイカワに会うと結婚しなきゃ!って思うんだけど、やっぱり冷静になると違うんだ、この人じゃないな、って思うの」

「そうなんだ・・・」

「あ、そーいやサオちゃんも記憶ないって言ってたね。昨日の記憶もないんだね、毎日忘れちゃうのかな?」

「え、どうだろう・・・わからないけど、忘れたくないな・・・」

「じゃあアタシ、メモしといてあげるね!毎日お手紙書くから読んでね!」

「え、ほんと?」

「うん、書くよ!なんかね、久々に楽しかった!」

「私も!」

「じゃあそろそろサワムラ帰ってくると思うからアタシもう行くね!アタシのことは内緒にしてね!」

「わ、わかった!」

「また明日、会いにくるね」

「明日・・・私、明日のこと、覚えてるかな・・・忘れちゃってるかもしれないよ・・・」

「お手紙書いてくるからね!大丈夫だよ!」

「う、うん、なにが大丈夫かわからないけど、わかったよ」

「じゃあね!」

 

 

アタシは姿を消して壁を通り抜けた。

 

 

(楽しかった)

 

 

ここ数年、ずっとモヤモヤしてたものが 取れた気がした。

 

 

(やっぱりそうだ!アタシが忘れてたものって このことだったんだ!)

(すっごい、楽しかった、短い時間だったけど)

(まるで失った半身が戻ってきたかのように)

(二人で一つ・・・そんな気がした)

(サオちゃん・・・)

(きみが忘れても、アタシは忘れないよ)

 

 

すぐに部屋に戻って、今日話したことを紙に書いた。

明日は何の話をしようかな、なんてのんきにニコニコと 考えていた。

 

 

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