第14話:???

 

 

ポタッ

 

 

雫が落ちた。

 

 

けれどその姿は 暗闇の中ではどこにも見えず

ただ音だけが響いていた。

 

 

(・・・夢)

(で あってほしかった)

 

 

そう、夢であってほしかった。

 

 

でもこれは 夢じゃない。

 

 

冷たい石畳の床

寒い風がどこからともなく入ってくる

光も入らない 真っ暗な部屋

 

 

今がいつで、今が何時なのか

朝なのか昼なのか夜なのか

ここに来てからどれだけの時間が経ったのか

そんなこと、この暗闇の中じゃ、何にもわからなかった。

 

 

(・・・どうして、)

(どうして、あの人が)

 

 

カチャカチャ

音を鳴らしながら、誰かが階段を下りてきた。

 

 

ご飯の時間だ。

 

 

1日に3回、ホムンクルスのような しゃべれない何かがご飯を運んできてくれた。

いや、もしかしたら1日に2回なのかもしれないし、1回かもしれない。

真っ暗な檻に閉じ込められて 時間なんて私には何もわからないのだから。

 

 

カチャ

 

 

ご飯を置かれた。

 

 

でも食べる気にはならない。

もしかしたらここに毒が入っていて 食べたら楽になれるのかも、そう思うことはあるけれど。

 

 

「・・・ご飯は、いらない」

「お願い、出して」

「お願い」

「ここは・・・暗くて、寒くて、痛くて、怖くて、寂しい」

「・・・お願い、お願い、助けて、」

 

 

のどもカラカラで焼けるように痛い。

痛いけど、振り絞って  カラカラのかすれた声を出す。

 

 

けれど ホムンクスルのようなものは 前の食事を持って そのまま戻って行ってしまう。

 

 

「・・・行かないで」

 

 

もうどれだけ泣いたかわからない

どれだけ泣いて どれだけ涙を流して

どれだけの時間そうしたかわからない

 

 

動く気力など もうとっくになくなっていた。

 

 

涙だって とうに枯れてなくなったと思っていたのに。

 

 

(不思議ね)

(涙はまだ 流れるんだ)

 

 

自分の腕が 骨と皮のようになっているのがわかる

石の上にいるから もう体が痛くて 動かない

寒くて凍えて 指の先すら 動かせない

 

 

どうしてだろう

なんでだろう

 

 

ずっと、子供の頃から一緒にいたのに

ずっと、傍に居てくれたのに

だから私 大好きだったのに

 

 

なんで

どうして

 

 

そればかりが頭の中をグルグルと駆け巡る

 

 

(・・・もう、いいや)

(もう・・・いいや・・・)

(いつか ここからまた出て 青空を見たいと思ったけど)

(また大好きな人たちを 笑い合えると思って、がんばったけど)

 

 

もう、疲れちゃった・・・

 

 

(寒い・・・)

(痛い・・・)

(もう・・・眠っても、いいよね)

 

 

眠ればきっと

きっと

きっとまた

自分の呼吸が だんだん静かになるのがわかった。

 

 

(・・・おやすみ)

(目が覚めたら この悪夢から)

(抜け出せますように、)

 

 

薄れゆく意識の中

うっすらと見えた希望の光は

もう私には わからずにいた。

 

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