夢を見た。
同じ顔をした女の子が、夢の中にはいた。
「・・・あなたは誰?」
「え!同じ顔だ、すごい、アタシ?じゃないよね?そっちこそ、誰?」
「私?私は・・・わからないの・・・何も覚えてない・・・」
「そうなの?なんで覚えてないの?」
「わからない、暗くて狭い場所に閉じ込められてるみたい」
「え?世界はこんなに広いのに?」
「広い・・・?だってこんなに真っ暗で、私はひとりで、」
「暗くないよ」
その瞬間 暗い世界に 青空が広がった
「それに、一人じゃないよ」
「え?」
「もうすぐ会えるよ」
ハッ
(…夢)
ひどく 落ち着いた気持ちだった。
目が覚めて、部屋を見渡す。
すごく 晴れた日だった。
窓から明るい光が差し込み 私は窓辺に立って外の景色を眺めた。
緑の木々に、真っ青な空、色とりどりの花や果実
外に出てみたい、そう思った。
「いい天気・・・」
心地のいい風と 過ごしやすい気温
なんて素敵な場所なんだろう、そう思った。
「どこ行くんや?」
男の子の声がした。
振り向くと それはそれは まるで絵本の世界から出てきた王子様のような、素敵な男の子が立っていた。
「・・・どこに行こうかは考えてなかったの。ただ、すごく天気がいいから」
素敵なお庭だね、あなたのおうち?
そう聞くと、彼は少し戸惑った様子で、 あ、あぁ と言った。
「お花も綺麗だし、空気も美味しいし、気持ちいいね」
「・・・喜んでくれてよかったわ」
「あなたが一人で綺麗にしてるの?」
「まぁ・・・ほぼ俺が一人でやっとるかな」
「そうなんだ・・・今何してたの?」
「え、今は、水汲みに 行こうかと思うてたで」
「私も手伝う」
「あ・・・おおきに、ほな、行こか」
私は木のバケツを持って、彼の後についていった。
彼は、私をチラチラ見て、 サオリ? と声をかけた。
「サオリ?それが私の名前?」
「あ・・・やっぱり、覚えてはおらんのやな」
「やっぱり、って」
「や・・・なんや、今日ごっつ落ち着いてるから・・・もしかして何か 覚えとるんかと」
「・・・覚えてないよ。なんにもわからないけど・・・すごく穏やかな気持ちなの」
「そうなんか・・・」
「夢を見たからかな?もう、忘れちゃったんだけど・・・ホッとする夢だったの」
「あぁ、それはよかったわ」
彼はまるで自分のことのように ニコニコと笑った。
水汲み場は小さな滝がキラキラと光っていてとても素敵な場所だった。
「わぁ、可愛い、お水も透き通っててすごく美味しそう」
「美味いで~!100%天然水や!」
「ほんとにいい場所ね?ここにはあなたと私、ふたりで住んでるの?」
「せやな、まぁ森の住人達もおるけど、人は俺ときみ二人だけやで」
「そう、じゃああなたと私は・・・」
「ハハ、どんな関係やと思う?」
「恋人同士ね」
そう、笑いながら彼を見上げると 彼はなぜかその場に固まってしまった。
「・・・あれ?違った?」
「・・・や、チガワナイ、です」
「ふふ、あなたみたいな素敵な人が恋人で嬉しい」
「え、え、今日、なんや、いつもとちゃうな・・・調子狂うわ・・・」
「え、そうなの?いつも・・・いつも一緒なんだね、やっぱり!私、何も覚えてないんだけど、あなたの顔見た時すごく、ホッとしたの」
「え!?」
「きっと、あなたが毎日大切にしてくれてるからだね、ありがとう」
「・・・」
「でも、目が覚める前のこと、何にも覚えてないの、ごめんね、実はあなたの名前もわからなくて、」
名前、教えてくれる?
そう聞くと、彼は 嬉しそな顔をして
「・・・あかん、最近泣かされてばっかりや」
せやから今日は泣かへんで! と、彼は笑って
「・・・俺はクラノスケや!きみの、恋人やで」
そう、言った。
(・・・なんで覚えてないのかな)
(私は誰なのかな)
色々思ったけど それよりも、こんなに素敵な人が私の恋人だなんてと、誇りに思った。
毎日 彼女は違う彼女やった。
それは 人が目が覚めてその日の気分とか体調とかで、少し雰囲気が変わるかのように。
「恋人同士ね」
はじめてやった。
毎日、どんな関係なのか、あなたは誰なのかと聞く彼女に、 初めて、恋人と言われた。
(・・・めっちゃ嬉しかった)
恋人として、過ごせる1日。
(まぁ、正確には・・・恋人ではないんやけど)
(俺、ちゃんと告白もできてへんかったしなぁ)
(けど、俺が彼女を子供の頃から好きやったんは、事実やし)
いつも 怯える彼女を 怖がらせないように、必死やった
毎日「誰?」と聞かれて
毎日 知らない男を見る目をされて
毎日 毎日 毎日
潰れそうになりながら 必死で
必死に 彼女を、守って
(生きてるだけでええ、って)
(ほんまにそれだけを思うて、それだけを、たまに彼女が笑ってくれたらええって)
(それだけで 充分やったのに)
今日一日は なんて楽しい時間だったことか
(・・・恋人として)
(隣におってくれてんな)
一緒に料理を作ったり
一緒に魚を釣りにもいって
木の実を集めて
エルフの歌声を聞いて
ドワーフに薬を届けに行って
畑の野菜を収穫して
本を読んで
話をして
星を見て
全部、初めての経験のように驚いとったけど
それでも、ずっと笑って 隣におってくれた
俺を頼って
俺を嬉しそうに見つめて
「はぁ・・・」
一日たくさん動き回って 疲れて眠った彼女の寝顔を見つめた。
「・・・思った以上に、弱ってたんやな、俺」
そっと、その頬を指の背で撫でた。
「おおきに・・・今日、リフレッシュ、できたわ」
明日また 怯えられても
明日また 嫌われても
「・・・こんな日があるんやって思うたら、がんばれるわ」
いつも 俺を救ってくれるのはこの子なんやな、と改めて感じて
彼女の頬に、そっとキスをした。
「・・・おやすみ、サオリ。また明日、”はじめまして”しような」
窓から溢れんばかりの輝く星が 俺たちの行く末を見守ってるようだった。