第11話:サオリ

「どこにしまったんやっけなぁ」

 

 

ガサゴソと 物を漁る音。

そんな声と物音で目が覚めた。

 

 

「・・・誰?」

 

 

部屋の隅で探し物をしている男の人に声をかける。

いや、わからないのは彼のことだけじゃない。自分自身もだ。

 

私は、誰?

 

(・・・こわい)

(なんなの・・・?この状況・・・)

 

恐怖で手が震えた。

 

 

「あー、起こしてもうたか、すまんなぁ!」

 

 

一瞬、物を漁ってる姿を見て強盗かと思った。

だから殺されるかと思った。

記憶も何もない中で 知らない男性との遭遇は恐怖でしかなかった。

 

けれど明るく話す彼の言葉を聞くと、どうもそうではなさそうだった。

 

 

「いや、賢者の聖水ってのもうストックなくて作ろう思うてんけどな、満月の雫が見当たらへんねん。レアアイテムやし、どこにあるかもわからんしなぁ・・・探しに行くのも・・・ここ離れたないし、」

 

 

そう彼は普通に。

まるで普通に、本当に 知っている人のように、自然に話をした。

そして、あ!と振り向いて 言ったのだ。

 

 

「せや!俺、クラノスケや!で、きみはサオリ!」

 

 

そう、ニッコリ笑って言った彼が なんともまぁ かっこいいこと。

 

 

(ひゃ、ひゃあ!!)

(な、なんて・・・)

(なんて素敵な人・・・!!)

 

 

最初は、ものすごく 彼のことが怖いと思っていたのに

その姿を見ただけで 心が奪われてしまった。

 

一目惚れ、ってやつなのだろうか。

 

その明るい話し方も、穏やかな雰囲気も。

もちろん綺麗な顔だって

私には とってもキラキラと輝いて見えて

心を奪われるのなんて ほんの一瞬の出来事だったのだ。

 

 

(か、かっこいい・・・!)

 

 

ドッドッド

 

 

それまで恐怖で動いていた胸が 今度は弾むように高鳴った。

・・・なんだか私という人間はとっても単純なのかもしれない。

 

 

(だけど本当に・・・悪い人には見えないんだよな)

 

 

「あれ?色々聞かへんの?」

 

彼が不思議そうに尋ねてきた。

 

 

( ゚д゚)ハッ!

 

 

そうだ、色々聞きたいことが・・・

 

 

(・・・キラキラしてる)

 

 

あったはずなんだけど、彼の顔を見たらなんだか言葉に詰まってしまった。

なんてかっこいい人なんだろうか・・・。これはずるいです。

 

 

「えっと・・・じゃあ・・・あの・・・職業を教えてください・・・」

「え!!?職業!?職業最初に聞かれたんはじめてやわ!!えーっと、俺は・・・今は、薬とか作って森に住む精霊や聖獣の手助けをしとるで、ケガ治したり色々とな」

 

 

あと普通に畑もやっとるし、家の事したり、ゴブリンやオークと取引して食い物もらったり、と彼は言った。

 

 

(・・・精霊とかを助けてる・・・って・・・え・・・素敵・・・)

(めっちゃ素敵・・・)

(何この人超素敵・・・)

 

 

一人で勝手にキュンキュンとしてしまう。

 

 

「そしたら・・・あなたは、お医者様なんですね!!」

「え、あ・・・え?」

「そして・・・きっと私は頭を打って記憶をなくした患者で・・・今日は診察に来てくれたのですね!ありがとうございます!」

 

 

そうペコリっと頭を下げると、彼は目を丸くして それから ブハッ と、思い切り噴き出して、そのままお腹を抱えて声もでないほど笑った。

 

 

(???)

(どうしたんだろう)

(私おかしなこと言ったのかな・・・)

 

 

「あの、お医者様・・・ごめんなさい、私自分のことなにも覚えてなくて・・・」

「あぁぁ、もう、なんて面白い発想するんや・・・!最高やな!!!」

「えっと、間違ってました?」

「まぁ・・・ちゃうけど・・・おもろいからええわ!今日はそれでいこか」

「え、え、え」

「・・・今日 めっちゃおもろいな、こんな感じも好きやわ」

 

 

そう、彼は目を細めて笑った。

 

 

どっきーーーーー!!!

 

 

(か、かっこよすぎなんですけどーーーー!!!!)

 

 

彼のかっこよさに倒れそうになりながら、そうや、服、ここから好きなの選んでな!俺ちょっと他の場所探してくるわ! と彼は部屋を出て行ってしまった。

私は着替えながらボンヤリと

 

 

(・・・そういえば、満月の雫、とか言ってたっけ)

 

 

さっきの彼の言葉を思い出していた。

 

 

(それがあると彼は助かるのかな)

(・・・何も覚えてないし、何もわからないけど)

(こうして優しく笑ってくれた彼の 役に立ちたい)

 

 

私、彼の喜ぶ顔が見たい・・・!

 

 

そう思って 私は、彼に見つからないようにこっそりと外に出たのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

(満月の雫って、どこにあるんだろう)

 

 

何もわからずに外に出てしまった。

うーん、もう少し彼に色々聞けばよかったな・・・

そんなことを思いながら草木をかき分け歩き続けた。

 

 

(それにしてもずいぶんと綺麗なところだな)

(草木がすごく綺麗に植えられていて・・・)

(この辺いじってる人は植物が好きなんだろうな)

 

 

見ているだけで楽しくなるその景色に 足取りも軽くなる。

 

 

ふと、小さな木の実がたくさん落ちているのを見つけて、足を止めて木の実をじっと見つめた。

 

 

(・・・あ!)

 

 

小さなドワーフが、必死に木の実を集めていた。

 

 

(わ、わぁ・・・!)

(かわいい!!)

(ちいさーい!)

 

 

可愛らしいその動きを夢中で見ていると、こちらに気付いたドワーフが手を止めた。

そして驚いて草の影に隠れてしまったのだ。

 

 

「あ!ごめんなさい!驚かせるつもりはなかったの!」

 

 

私のその言葉を聞いて ドワーフはソロリと出てきた。

 

 

「あのね、私満月の雫って言うのを探しているの。どこにあるか知らないかな・・・?」

「え!満月の夜にしか採れないの!?そうなんだ・・・こんな昼間じゃあるわけないよね・・・」

 

 

シュン… と落ち込む私を見て 心配したのか、ドワーフは何に使うの?と聞いてきた。

 

 

「詳しくは聞いてないんだけど・・・確か薬とか作るって言ってたよ。聖水だったかな?」

 

 

あのね、さっき目が覚めてね、何も私は覚えてなかったんだけど一緒にいた男の子がね・・・

 

 

そう必死に説明すると、ドワーフは何かを思いついたように、ついてくるように合図をした。

素直にドワーフの後についていくと、そこにはとても小さな村のようなものがあった。

 

 

(わ・・・わぁ!!!!)

(か、かわいい!!)

(ドワーフの村だ!!!!)

 

 

まるでお人形ハウスのような小さなおうちが並び、その周りには小さなドワーフがたくさん動いている。あぁなんて可愛らしいの!?

私がほのぼのと見ていると、小さなドワーフの女の子が近づいてきた。

 

 

「わー!あなたとても可愛いわね!私はサオリって言うんだって。記憶がないんだけど、そういう名前らしいの。あなたは?」

「え、前にも会ったことがあるの?あなたを・・・助けたの?そう・・・ごめんなさい、何も覚えてないの・・・・」

「その時にも何も覚えてないって言ってたの?・・・私、何かの病気なのかな・・・」

「あぁ、男の子、うん、とっても素敵な男の子が一緒にいたの」

「え!知り合いなの?よかった!え!ほんと!?彼のためなら村にある満月の雫を分けてくれるの?わぁ・・・!ありがとう!!」

 

 

ドワーフたちは、村の奥の少し大きな岩場から 小さなボトルを運んできてくれた。

 

 

「ありがとう!!そっか、彼の作った薬にいつも助けられているのね?じゃあお願いしてとびきりよく効く薬を作ってもらうね!」

「うん、また来るよ!え、家まで送ってくれるの?ありがとう!実は来た道がわからなくなってたんだ」

 

 

そうして私はドワーフたちと楽しくおしゃべりをしながら、彼がいるあの家に戻った。

ドワーフたちはとても親切で、他にももしかしたら必要かもしれないと色々なアイテムを渡してくれた。

 

 

(あぁ、なんだか胸がポカポカするな)

 

 

そう思って、家の扉に手をかけた。

 

 

「・・・サオリ!!!!」

「あ、ちょうどよかった、今ね」

 

 

私の言葉がまだ終わらないうちに

 

 

(!!?)

 

 

彼は、思い切り  私の事を

 

 

抱きしめた。

 

 

「あ、あの、あの、あの、えっと、」

「無事でよかった・・・!勝手におらんくなって、めっちゃ心配したやんか!!!」

「あ、あの、ご、ごめんなさい・・・」

「無事に帰ってきてくれたからよかったけど・・・もう頼むからやめてや、心臓いくつあっても足りんわ・・・」

 

 

彼は私から離れて、 はぁ・・・ とため息をついて、息を整えた。

よく見るとすごい汗。息も上がってる。

もしかしたら私が勝手にいなくなって すごく探し回ってくれていたのかもしれない。

 

 

「心配かけてごめんなさい・・・私、満月の雫を探しに行ってたの・・・」

「え・・・?」

「えっと・・・さっき、あなたが探してる、って言ってたから」

「探しとった、けど・・・」

「だからね、私、探しに行ってたんだ」

「そんな・・・俺、また探させてしもうたんやな・・・」

「?」

「あー・・・満月の雫なら満月の夜にしか採れへんから、昼にはどこにもないで」

「それがね、見つけたの!小さなドワーフさんたちが、あなたにって。また良く効く薬を作って、って、お願いしてたよ」

 

 

私、少しは役に立てたかな?

 

 

そう笑うと

 

 

彼はとっても驚いた顔をしたあと

 

 

ポロポロと涙を流した。

 

 

(!!?)

(ギョギョ!!!)

 

 

「わ!!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「・・・サオリはほんまにもう、」

「な、泣かせるつもりはなかったの・・・!勝手に出て行ったのも謝るよ、だから、泣かないで、」

「・・・もう無茶なことせぇへんって、約束したやんか」

「え・・・?」

「サオリはほんまに・・・いつも、いつも、いつだって・・・俺の役に立とうとしてくれるんやなぁ」

 

 

そして彼は

ポロポロと 涙を流しながら

 

 

「・・・・・俺は、きみが生きててくれてるだけで、 満足やのに、」

 

 

そう、  笑ったのだ。

 

 

(・・・あれ)

(あれ?あれれ?)

 

 

その彼の涙と笑顔を見た私の目から まるで涙が伝染したかのように

ポロポロポロポロ 涙がこぼれてきて

 

 

「・・・あ、あの、私、何も覚えてなくて、何も、わからないんだけど、私ね、」

 

 

あなたの笑顔が好きよ?だから、笑って?

 

 

そう言うと 彼は、

 

 

「もおぉぉぉぉ!!!!また泣かせること言わんでやぁぁ!!!!!」

 

 

と、空を見ながら 涙を流した。

 

 

一緒になって涙を流す私も、なんだかおかしくなっちゃって

ふたりで涙を流しながら 笑った。

 

 

(・・・幸せだな)

 

 

なにがわからないのか、それすらもわからないこの状況で

それでも今日出会ったばかりの このクラノスケという男の子が 一緒にいてくれることを幸福だと感じた。

 

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