第10話:サオリ

「満月の雫?」

「そう、満月の夜にだけどっかの木から取れるんやて」

 

 

12歳の夏、こんなことがあった。

 

 

ユウジ「へぇ、それ欲しいんか」

ノスケ「せやねん、それで賢者の聖水作らなあかんくて」

コハル「なんでも治せるアイテムやな、賢者にしか作られへん」

ノスケ「あぁ、こないだの旅で流行り病で大変な村で師匠と一緒に全部村の人にあげてもうて」

 

 

あれあると色々助かるんやけど、材料集めるの大変で

 

そう、クラノスケくんが言った。

 

 

サオリ「すごいね、クラノスケくん!たくさんの人の命を救ったんだね・・・!」

ノスケ「え!いや、それが俺の仕事やから・・・。けどもうないねん、また困ってる人おったら大変やし、師匠もはよ作りたいから材料集めの旅に明日から出るって」

サオリ「そっかぁ・・・またしばらく会えなくなるね」

ノスケ「あぁ、けど材料集まったら戻ってくるわ。とりあえずエルフの涙と、魔法の花集めて、満月の雫は最後やなぁ、一番レアアイテムやし・・・」

サオリ「・・・そっかぁ」

マナミ「エルフの涙ってエルフ泣かすの?」

ザイゼン「発想がゴリラ」

マナミ「なんだと!」

ノスケ「ハハ、泣かすんとちゃうよ。お願いするんやで、困ってる人を救うために涙をください、て。その代わりにエルフのお願いもひとつ聞くんや」

サオリ「すごい・・・!クラノスケくん、本当にすごいね・・・!」

 

 

彼は賢者で博学だから、世の中のことを何でも知ってる。

私と同い年のはずなのに、落ち着いてて穏やかで博学で・・・

 

 

(村の人たちの命も救って)

(聖水作って・・・)

(本当にすごい・・・!)

 

 

彼を見てると 私もがんばろう! ってやる気が出てくるんだ。

何も知らない私だけど、この国の第一継承権を持つ姫として いつかこの国の人たちの役に立つ日が来ると思うから。

 

 

(私もたくさんお勉強しないと・・・!)

 

 

みんなそれぞれ何かをがんばってる。

だから、私もがんばる・・・!

 

 

そう決意を新たに、まぁちゃんと城に帰った。

 

 

(・・・あれ、今日、満月だ)

 

 

夜お城に帰って、ふと、そう思った。

 

 

(満月の雫って満月の日にしか手に入れられないって言ってたな・・・)

(今日、満月だよね・・・)

(・・・もし、もし私が)

 

 

満月の雫を手に入れたら・・・クラノスケくんは、喜んでくれるだろうか?

 

 

(・・・できるかもしれない)

(やってみようかな)

(私、いつもクラノスケくんに守られてばかりだけど)

(・・・役に立てるかもしれない!)

 

 

ゴクリ

 

 

早速私は、こっそりと支度をして お城を抜け出そうとした。

 

 

「全く!!こんな夜遅くにどこ行くんですか!!おとなしくしていてください!!」

 

 

が、速攻で騎士のサワムラくんとスガくんとアサヒくんに捕まった。

 

あぁ・・・

城から出ることもできない、私は一体何なんだろうか・・・

 

 

部屋に鍵までかけられて、めっちゃ落ち込んだ。

私、何にも出来ないんだな・・・

一国の姫って肩書だけあるけど

力もない、知識もない、いつも人に守られて自分じゃなんにもできない・・・

 

 

(・・・精霊の星渡り見に行くときも、ボロボロになりながらクラノスケくん守ってくれたのに)

(彼の手助けすらできないなんて・・・)

(悔しい・・・)

 

 

窓の外を見ながら涙を流した。

 

 

「泣くなよきみ、手助けしようか?」

「わっ!!」

 

 

部屋に鍵をかけられてたはずなのに、まぁちゃんがスルメをくちゃくちゃ食べながら突然部屋に現れて驚いた。

 

 

「きみどこから入って来たの?」

「そんなことより、これ、ワープ草、倉庫からくすねてきたからよかったら使って」

「くすねてきたの!?いいの!?」

「問題ないよ」

「問題あるよ!!」

「でもきみお城抜け出せないじゃん。満月の雫取りに行くんでしょ?」

「・・・うん、行きたい」

「心配だから一緒に行きたいけど・・・きみの身代わりが必要だからな・・・部屋からきみいなくなったら大騒ぎじゃん、アタシいないのはみんな慣れてるけどさ」

「う、うん・・・(それって慣れていいんだろうか)」

「大事にならないようにきみのパジャマ着てきみのベッドで寝てるよ、見回りに来てもバレないように」

「うん・・・ありがとう」

「これね、帰還の翼2個あるから別々のところに入れておきな落としたら大変だし、あとこれ薬草で、聖水も渡しとくわ、あとワープ草と、一応火炎草とかも」

「うん、ありがと(ドキドキ)」

「こっちに満腹の種入れておくからお腹すいたら食べな、あとこれ念のため身代わりになってくれる命の石ね」

「あ、ありがとう(ドキドキ)」

「大丈夫かい、顔青いけど」

「ひ、ひとりで行くの初めてだから緊張してるだけ」

「うん、まぁ、きみなら大丈夫だと思うけど・・・まぁ話通じないやつもいるからね、気を付けるんだよ」

「うん・・・」

「大丈夫、すぐ見つかるよ、優しそうなやつに聞きな」

「わかった」

 

 

まぁちゃんにお礼を告げて、私はワープ草で城の外に出た。

 

お城の 外・・・

 

 

(ひゃああああああ)

(は、はじめて一人でお城の外に出るよ・・・!!)

(星渡り見に行ったとき以来だ、夜にお城抜け出すの・・・!)

(すっごい大冒険だ!!緊張する!!!)

 

 

前回はクラノスケくんが一緒でルンルンだったから気にならなかったけど

こうしてみると・・・

暗いし・・・こわいな・・・

 

 

ガサガサ

 

 

(!)

 

 

風で草木が揺れただけなのに、怖くて腰が引けてしまう。

 

 

(あああ、ど、どうしよう・・・あああ、でもとにかく行くしかない・・・!)

 

 

私は満月の雫を手に入れるために 深い森の中へと入った。

本当に怖かったけど クラノスケくんの笑顔だけを思って歩みを進めた。

 

 

ワオーーーーーン

 

 

遠くで狼の鳴き声が聞こえる。

そうだ、今日は満月。

ワーウルフが狼化して凶暴になってる日だ。

 

 

(ヤバイぞ)

(早くしなくちゃ)

 

 

私はうっすらと光る木を探した。

 

 

(・・・あ、あの木、光ってる)

(魔力が宿ってる木だ)

(あの子なら知ってるかもしれない)

(聞いてみよう)

 

 

私はそっと木に手を当てた。

 

 

「こんばんわ。いい夜ね。あのね、ちょっと訪ねたいことがあって・・・満月の雫をくれる木を探してるの。あなた、知らない?」

「え、本当?この森で一番大きな花の精霊さんが知ってるの?」

「わかった、聞いてみる!ありがとう!」

 

 

私は走って花の精霊を探した。

 

 

「精霊さん、こんばんわ!いい夜ね。あのね、満月の雫をくれる木を探しているの。何か知らない?」

「え!向こうにいるのね!ありがとう探してみるね!え?案内してくれるの?ありがとう!」

 

 

優しい精霊さんに案内してもらいながら探す。

なんかこれ・・・順調じゃない?

私にしては・・・私めっちゃがんばってるわ・・・!すごいわ・・・!

 

 

ホクホクしながら 精霊さんと共に森の奥へと足を運ぶ。

 

 

ガサ

 

 

その時 後ろから 物音がした。

 

 

(なに?)

 

 

振り返ろうとしたとき 後ろから グルルルル と獣が喉を鳴らす音が聞こえた。

 

 

(・・・ヤバイ)

 

 

精霊さんが魔獣だと 騒いでいる。

 

アイテムの袋に手はかけている

けど、手を少しでも動かしたら きっと私はその瞬間にやられるだろう。

 

 

(・・・こわい)

(動けない、)

(どう、しよう、)

 

 

やっぱり私が一人でくるなんて出来ないんだ

無力な私が出来るわけなかったんだ

やめればよかった一瞬そんなネガティブなことが頭をよぎって

 

 

(・・・違う)

(マイナスに考えちゃダメ)

(考えるんだ)

(クラノスケくんの、役に立つんだ)

 

 

いつも助けてくれるに 少しでも恩返しがしたいんだ

 

 

私はアイテムの入ってる袋からスッと手を下した

静かに 体の力を抜いた

精霊さんが心配して 体を目いっぱいに光らせて 私の周りを飛び回っていた。

 

 

「・・・大丈夫だよ、ありがとう」

 

 

グルルルル

 

 

ものすごい殺気を放っている魔獣は満月のせいだろう

興奮しきっていて ほとんど意識がないようだった。

 

 

「・・・こんばんわ、いい夜ね」

 

 

私は そんな彼に、何事もなかったかのように話しかけた。

 

 

「ここ、あなたの縄張りだったのね?ごめんなさい」

「満月の夜だし、気が立ってるよね」

「あのね、私、あなたの縄張りを荒らしに来たんじゃないの」

「ちょっと、満月の雫を分けてくれる木を探していて・・・」

「だからあなたに害を加える気はないの」

 

 

彼に、伝わってるだろうか

興奮しきってるから、聞こえてるかもわからない

 

 

「だから、お願い、見逃してくれたら、」

 

 

そう振り向いて 魔獣の姿を探した。

暗闇でひっそりと現れたその魔物は

下半身がへびで上半身がいのししのような形をしていた。

 

 

「ひっ・・・!」

 

 

思わず腰が抜けて地面に座り込んでしまった。

 

 

これは、ヤバイ。

ヨダレを垂れ流して、全く意識があるように思えない。

意識がなければ意思の疎通もできない。こわい。

 

震える私を見て 魔獣は今にもとびかかりそうだった。

 

やられる

 

そう、頭をよぎって 目をつむった。

 

 

「ギャアアアアアア」

 

 

恐ろしい叫び声が聞こえて、

目を開けた。

 

 

「ハァハァ・・・サ、サオリ!ケガしてへんか!?」

 

 

クラノスケくんが 立っていた。

 

 

「・・・な・・・なんで、クラノスケくんがここに、」

「俺も満月の雫探してたんや!ほんだら木の精が女の子が来たって教えてくれて・・・まさかサオリとは思わへんかったけど」

 

 

この辺は魔獣の住処なんや、満月の夜にここを通るなんて自殺行為やで!!何しとんねん!!

 

 

彼は血相を変えて私に近づいて 私に怒鳴った。

 

 

「・・・ご、ごめんなさい」

 

 

(・・・役に立ちたかっただけなのに)

(ダメね私)

(逆に足手まといになって)

(結局助けてもらって、)

(あぁ私って、本当に・・・)

 

 

ギュッ

 

 

クラノスケくんが 私を抱きしめた。

 

 

「・・・すまん、怒るつもりはなかってんけど・・・よかった、サオリのこと助けられて。満月の雫探してくれてたんやてな、おおきに」

 

 

そして笑顔で そう言ったのだ。

 

 

(・・・違う)

(違うよクラノスケくん)

(笑顔、作らないでよ)

(許さないでよ)

 

 

優しくされると 余計みじめになるよ

 

 

「やめてよ!優しくなんてしないで!!!」

「サオリ・・・?」

「なんで!?いつもそうやって余裕で笑って、助けてくれて、」

「ちょ・・・どないしたん?」

「私なんて、何にも出来ないのに!何の役にも立てないし、頭も悪いし勇気もない!クラノスケくんに優しくされる資格もないのに!!」

「サオリ・・・」

「優しくしないで!そうやって 余裕なクラノスケくんを見ると・・・何もできない自分が、 情けないよ」

 

 

そう言った時だった。

 

 

「!!サオリ!!危ない!!!」

 

 

シャー っと、さっき倒れたはずの魔獣が 襲い掛かって来た。

 

 

(!!)

 

 

咄嗟に クラノスケくんは私を守って

敵に やられて

血が 噴き出した

真っ暗な夜の闇で 血が飛び散る瞬間が すごくゆっくりと見えた。

 

 

「クラノスケくん!!!!!」

 

 

クラノスケくんは ずるっと最後の力を振り絞って 血だらけの体で 小さく呪文を唱えた。

すると今度はギャアアアとまた魔獣が叫び、魔獣の体が吹き飛んだ。

それを見て安心したのか、彼は目を閉じて よかった、と呟いた。

 

 

「いや・・・いや・・・!クラノスケくん・・・!いやだ、いや・・・!」

 

 

私のせいだ

 

 

「・・・・・・サオリ、 ぶじ か」

 

 

私のせいだ

 

 

「私はなんとも、ない、けど・・・クラノスケくんが、クラノスケくんが・・・あああ誰か、助けて いや、いやぁ」

 

 

私のせいだ

 

 

「・・・ハハ・・・泣か ん で」

 

 

ひゅーひゅー と息がもれる

血がすごい

どうしよう どうしよう

 

 

「わら、 って、」

 

 

わたしのせいだ

どうしよう

頭が真っ白で

動けなかった

ただ涙を流して クラノスケくん いや いやだ クラノスケくん、 そう繰り返すだけで精いっぱいだった。

 

 

「はよ かえ、って あぶ な で、」

 

 

声がどんどん小さくなる

彼の体が冷たくなる

 

 

どうしよう わたしのせいで かれが かれが かれが

 

 

し ん で し ま う

 

 

「いやあああああああああ!!!!」

 

 

さっきひどいこといったのにかれにひどいこといったのにわたしただ彼の笑顔見たかっただけなのに彼の役に立ちたくて

わたしのせいだわたしのせいだわたしのせいだ私がわたしが わたしが かれを

もうほとんど息をしていない彼の手を握りしめ 必死に名前を呼んだけど

 

 

彼の体はもう 動かなくて

 

 

(いや)

(いや、誰か)

(誰か、)

 

 

誰か?

私のせい なのに?

ここでも私 誰かに 助けを求めるの?

彼の目の前に今いるのは わたしなのに?

 

 

(誰か、じゃない)

(誰かじゃないんだ)

 

 

私が、やらなきゃ

 

 

泣くのをやめた

 

 

先ほどまでの自分が嘘のように 静かに 彼を見つめた

 

 

一緒に来ていた精霊さんが 私の持っていた袋の周りを飛んでいるのが見えた。

あぁ、そうだ。そう、まだ終わりじゃない。

 

 

私はアイテム袋にすぐに手をかけた。

薬草は、駄目だ。もう彼は薬草を飲み込む力はない。聖水も、ケガは治るかもしれないけど、駄目だ。

帰還の翼、だめ、少しでも動かすのは危ない。

 

そうだ

これだ

 

 

ズルリ、そう クラノスケくんの手が落ちた。

 

 

涙をぬぐった

 

 

(大丈夫)

(まだ、間に合う)

 

 

そして私は アイテムを手に取って 彼に使った。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「サオリのおかげで助かったわ、こうして満月の雫も手に入ったし、おおきにな」

 

 

そして 今 私の横には彼が笑ってたっている。

 

 

「命の石に身代わり頼むなんて・・・あの石使う時めっちゃ熱くなるやろ?手、もう平気やろか?」

「うん、さっきクラノスケくんに治してもらったから大丈夫だよ」

 

 

咄嗟に命の石を使った。

石はものすごい高温になって手が焼けてなくなるかと思ったけど、絶対離さなかった。

そして石は割れて 彼が目を覚ました。

 

流れていた血は止まって 傷ついた体はもとに戻っていた。

 

 

安心した私は涙が止まらなかったけど

満月の雫は取れる時間が決まってるからと、精霊さんが案内してくれた木まで急いでやってきた。

 

 

「・・・ごめんね、クラノスケくん、私のせいで痛い思いさせて・・・」

「いや、もとはと言えば俺のために動いてくれたからやもんな、俺のせいや、ほんま怖い思いさせてごめんな」

「ううん、私のせいだから!クラノスケくんは私を守ってくれたんだもん、何にも悪くないよ!むしろ、ごめんね!」

「いや、サオリが助けてくれたからやで?前に助けてくれるって言うてくれたもんな、ほんまにおおきに」

「違うの・・・!こんなの助けたうちに入らないよ!!むしろまた助けてもらったし、本当にごめんねだよ!!」

 

 

そう言い合いする私たちを見て精霊さんがクスクスと笑った。

それを見てクラノスケくんも笑った。

 

 

「ハハ、精霊に笑われてもうた」

 

 

ほら、もう泣かんでな、精霊にまた笑われるで

彼はそっと 私の涙をぬぐって 私はその手を逃がさないように掴まえて ぎゅっと握りしめた。

 

 

「・・・こわかった・・・クラノスケくんが、いなくなったらって思って、頭が真っ白になって」

「おん・・・」

「お願いだから、私を守るために いなくならないで」

「・・・」

「クラノスケくんのいない世界なんて・・・」

「・・・サオリ」

 

 

クラノスケくんは そっと私を抱きしめた。

 

 

「それは俺かて、同じや・・・頼むから俺のために無茶せぇへんで」

「え・・・」

「・・・もしサオリに何かあったらって思うだけで心臓止まりそうや」

「クラノスケくん・・・」

「サオリのおらん世界なんて 生きていけへん」

「そんな・・・」

「さっき、サオリ、俺のこといつも余裕って言うてたけど、全然余裕なんて ないねん」

「・・・」

「けど、男やもん、好きな女の子の前でくらい かっこつけたいやん」

「・・・」

「前も言うたけど、守りたいんや、好きな子くらい かっこよく」

「・・・」

 

 

余裕あるフリくらい させてや

そう、抱きしめてくれる彼の体が小さく震えてたことに気付いて

 

 

(・・・ごめんね)

 

 

心の中で そう呟いた。

 

 

もう、卑屈になるのは やめよう。

危ないこともしない。

ひとりでどこかに行くこともしない。

今の自分のできることを 精一杯がんばる

きっとそれが今は一番いいんじゃないか、そう思った。

 

 

「・・・ねぇ、クラノスケくん、私、もう無茶なことしないし、がんばるから・・・だからずっと傍にいてね」

「・・・当たり前やん、ずっとずっと 一緒におるで」

 

 

何があっても

 

 

そう彼が呟いた言葉を見守るかのように まぁるいお月様が私たちを照らしていた。

 

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