第9話:マナミ

「バレンタイン?何それ美味しいの?」

 

もうすぐ17歳になる、冬のことだった。

 

「せやで~!ウチの愛も渡せて、更にお返しに3倍返ししてもらえる夢のようなイベントやで♡」

「え!?たったの3倍!?そのために世の中の女の子たちは必死にお菓子作って渡すの!?ほえ~」

「相変わらず興味ないのねぇ・・・、マナミちゃんもあげてみたらええやないの♡」

「いや、アタシはいいわ・・・」

「そう?オイカワくん、喜ぶと思うんやけどねぇ」

「オイカワに?アタシがあげると思う?」

「思うで」

「なんで?」

「なんでって・・・婚約者なんやろ?」

「そうだけど・・・コハルちゃんはオイカワのこと嫌いじゃないの?みんなすっごいオイカワのこと嫌ってるじゃん」

「ん~まぁウチはオイカワくんみたいなタイプもアリやしねぇ・・・」

「ストライクゾーンの広さwwww」

「マナミちゃんは?好きなんやろ???」

「うーん、好き」

「なんや、うーんてw」

「いやだって!!オイカワのこと好きって思うよ!?顔見るときゅーんってしてオイカワの言うこと聞かなきゃって思うの!思うけどさっ!!まっっったくタイプじゃないんだよね!!!昔の記憶なくてもオイカワのことは好きだって思ってたからずっと一緒にいるけど、どう考えてもどこが好きのかぜんっぜんわかんないんだわ!!超絶優しいけどさ、アタシ以外の女の子にもヘラヘラするし、男には超性格悪いしマジでアタシこいつのどこがいいの!?って毎日思うわ!!魔法かなんかかけられてんじゃないかって最近疑ってるし!!」

「・・・人の気持ち動かす魔法は高度な技術と膨大な魔力が必要やからそんな簡単にできることとちゃうで?普通の魔術師にはでけへんし」

「それはわかるけどさ!オイカワなら出来そうじゃない?だってこうして離れるとたまにすごい冷静になってなんでアタシあいつのこと好きなの・・・?ってめっちゃ思うんだよ?でも顔見るとキューンってするの、すごいキュンキュンして好き!って思うの。でも顔もどう考えてもタイプじゃねーしな!性格も顔も好きじゃないのに会うとダメなのよ、好きなのよ・・・」

「それは恋してるからやろ」

「いや、違う。アタシあんなやつに恋しない。タイプじゃない」

「ほな、マナミちゃんのタイプって、どんな感じなん?」

「え~・・・そう言われると困っちゃうんだけどさぁ・・・なんかもっと、こう・・・女子ウケしなそうな・・・いい人で終わりそうな・・・でも・・・なんにでも一生懸命で、真っ直ぐで、人がいいっつーか、なんつーか・・・すごいイイヤツで・・・」

 

そう言うとコハルちゃんは すごく悲しそうに笑った。

 

「・・・深く、考えたらあかんで」

「なんで」

「魔法で人の記憶や心動かすのは禁止されとるやろ?な、そんなことあるわけないんやから、マナミちゃんはなーんも考えたらあかん」

「えぇ・・・だって・・・なんか違和感感じて・・・結婚、ほんとにするのかな、とか」

「幸せになるできっと、オイカワくん、マナミちゃんのこと大好きやもん・・・」

「でもなんかアタシ・・・どうしても、オイカワじゃなくて、別の、」

 

ズキッ

 

頭を押さえた。

思い出そうとすると相変わらず痛むこの頭が、やっぱり見えない何かに思い出すことを邪魔されてるようで

それがまた疑うことに加速をかけていた。

 

おかしいじゃん

記憶ないのも

オイカワが恋人ってことは覚えてるのも

タイプじゃないのに好きなのも

みんな 必死に何かを隠しているのも

 

本当にこのアタシをだませると思ってるのか?

 

ズキズキズキ

 

(う、駄目だ)

(今日はもうこれ以上は無理だ)

(明日考えよ)

 

「マナミちゃん?大丈夫?頭痛むんか?」

「ん、大丈夫・・・」

「無理したらあかんよ、な?考えるのはもうよしましょ」

「うん・・・」

「気分転換にお菓子作りしたらええよ、お菓子作りって楽しいで!ウチもめっちゃ渡す人おんねん、もう帰らな」

「コハルちゃん毎年バレンタインになると大忙しだなぁ。モテる女は一味違うわ」

「せやろ?も~ぎょうさん用意せなあかんから毎年ヘトヘトよ!ほな、うちもう行くわ!」

「うん、わかった!じゃあ帰って昼寝するわ!」

「昼寝せんとマナミちゃんもお菓子作ってや!ほなな!」

 

可愛い乙女のコハルちゃんはそのまま走って行ってしまった。

取り残されたアタシは少し街をブラブラすることにした。

 

(あ~暇だ)

(ユウジは仕事だし、チトセはフラフラしてつかまんないし、キンちゃんは冒険行ってるし、ザイゼンは起こしに行ったらめっちゃブチ切れてたし、ケンヤは医者の試験近いし・・・)

 

「お姫様、こんにちわ!」

 

ぼーっと歩いてると女の子に声をかけられた。

 

( ゚д゚)ハッ!

 

今日の格好・・・!大丈夫か!?

 

慌てて身だしなみを整える。

 

少女のプリンセス好きの夢を崩してはいけないんだ!!!!

女の子はみんなプリンセスに憧れているのだから!!!

子供の夢を壊したらいかーーーん!!!!!!!!

 

ということで、なるべく街にいるときは身だしなみに気を付けている。

自室に居るときはジャージである。

 

「ごきげんよう!あら、素敵なお花ね!(姫っぽく姫っぽく姫っぽく!!!)」

「ウフフ、明日バレンタインでしょ?お菓子は作れないけど、好きな男の子にプレゼントしようと思っているの」

「まぁ!それは素敵ね!」

「姫様は?バレンタイン、姫様もしますか?(キラキラキラ)」

「もっもちろんよ!!女の子にはとても心が躍るイベントよね!!(あああそんな目で見ないでくれぇぇ)」

「フフ、姫様の想いも届くといいわね!」

 

 

っあああああああああ!!!!!!!!!!

笑顔が眩しいいいいいい!!!!!!!!!!

バレンタイン何それ美味しいのとか言ってマジごむぇぇぇんんんんん!!!!!!

ああああ、姫様、街の女の子がこんな純粋に育ってて嬉しい!!!

それに引き換えなんて私は・・・!!姫様失格だ!!!!

 

 

「きっとそのお花、喜んでもらえるわよ。私もがんばるから、一緒に想い、伝えましょうね!」

「うん!!」

 

 

そうして純粋な女の子は去って行った・・・。

あぁ可愛かった・・・。飴ちゃんあげたわつい。2個あげたわ、明日好きな男の子と食べてねってあげたわ!

私いいことした・・・めっちゃいいことした・・・!!

 

 

「は~この街の人たちいい人過ぎてドキドキするから城に帰ってゴロゴロすっかな・・・」

 

 

そう思ってお城に戻ろうとしたとき。

文房具屋の前で、素敵な羽ペンを見かけた。

 

 

(・・・ペン・・・・・)

(そーいやケンヤ、ペンがすぐなくなるーって騒いでたな)

(・・・あいつ試験、近いんだよな)

(えらいよな、お父さんの手伝いもしながら試験勉強もして・・・)

(なのにアタシが呼ぶと忙しいのに絶対遅れてでも会いに来てくれるし)

(キメラに捕まった時必死に助けてくれたし・・・)

(・・・いつもよそよそしいけど)

(優しいんだよなぁ・・・)

 

 

別に女の子に言われたからとか

明日バレンタインだからとか

ケンヤのことが好きとか

 

 

そんなんじゃ、ないけどっ!

 

 

(友達だからね)

(試験、近いから)

(がんばれ、って 意味で)

(応援してるだけで)

(深い意味はなくてだね・・・)

 

 

ああもう!!!誰に言い訳してんだアタシは!!!

文房具くらいあげたってなんてことない!!!!

買ってがんばれよって渡すだけ!!!ただそれだけ!!!

店に入って、綺麗な羽のペンを綺麗にラッピングしてもらった。

 

 

(は!ラッピング思わずしてもらっちゃった!)

(失敗したー!)

(・・・明日渡すとそれこそバレンタインみたいだから)

(今日渡そ!)

 

 

そう思ってケンヤの家まで向かった。

 

 

コンコン

 

 

ケンヤの部屋の窓をたたく。

 

 

「!?」

 

 

ガチャ

 

 

「ちょ・・・!!ここ2階やで!?何しとるん!!」

 

 

驚いたケンヤがすぐに窓を開けてくれた。

いや屋根の上つたってきただけですけどね?

 

 

「よう、ケンヤ、元気か?」

「ど、どないしたん急に・・・!あ、ちょ、部屋汚、ちょ、待って!」

「気にしない、お邪魔しまーす」

「あああちょ、待って!」

「大丈夫、すぐ帰るから」

「な、なんやねん急に!なんかあったんか?」

「や、なんかあったわけじゃないけど」

「ん?」

「もうすぐケンヤ試験じゃん」

「お、おん・・・?」

「だからさ、これさ、」

 

 

ラッピングしてある箱をとりだして、ケンヤに押し付けた。

 

 

「じゃ、試験がんばれよ!」

 

 

ただの応援なんだぞ!ただの友達なんだぞ!

でもなんだか無性に恥ずかしくて・・・!恥ずかしくてたまんなくて!!

 

 

(あああ、なんだこれ、照れる・・・!)

 

 

颯爽と去ろうとしたのに

 

 

「え、ちょ、待って」

 

 

ガシっと腕を掴まれてしまった。

ヒィ、離せ・・・!!

 

 

「これ、なに!?」

「え・・・何って・・・え、ドッキリかなんかだと思ってる?え???」

「え・・・ドッキリちゃうん・・・?」

「し、失礼な!!試験がんばれってちょっとしたプレゼントをだな・・・!てゆーか、ドッキリだとしてもわざと引っかかってリアクションしろよ・・・!!」

「それもそうやな・・・!ほな、開けてみるわ!!」

「わ、わかった!!開けてみろ!!!」

 

 

ガサゴソ

 

 

「わ、わぁ・・・!キレイな羽ペン・・・って、ドッキリとちゃうんかーーーい!!」

「ドッキリじゃないってさっき言ったわーーーーい!!!」

 

 

はぁはぁ・・・

 

なんだこれ、照れを隠すための謎のテンション・・・疲れる・・・

 

 

「・・・え、で、これ、ほんまなんなん・・・?」

「え・・・だ、だから、試験近いし、明日バレンタイ、あ、じゃなくて、キメラの時助けてくれたお礼、あ、じゃなくて、えっと、試験がんばれの品で、」

 

 

グルグルグル

 

頭の中がパニックになってきた。

なんだこれ、恥ずかしすぎて 頭おかしくなってきたわ、やばいわ!!

 

 

「・・・ペン、俺がすぐなくなるって言うたの 覚えててくれたん?」

「ち、ちがっ!そ、そういうんじゃなくて!!だから・・・!」

「明日バレンタインやから?」

「だから違う・・・!バレンタインは関係なくって・・・!」

「キメラの時のお礼って、俺なんもしてへんし」

「いや!だから!!!お礼じゃなくて!し、試験がんばれって、」

「・・・おおきに、めっちゃ がんばれるわこれで」

「わ、わかった!わかったから!!みんなにはナイショな!!ケンヤにだけバレンタインあげたって言ったらなんて言われるか・・・」

「え、やっぱりバレンタインなん?」

「ちちちちがぁーーーーう!!!バレンタインじゃなくって!!!(パニック)」

「・・・うん、おおきに」

 

 

ケンヤが

 

 

「・・・おおきに、」

 

 

すごく すごく 嬉しそうで

 

 

「ほな・・・来月、10倍返しせなあかんなぁ」

 

 

泣きそうで

 

 

「・・・な、なにいってんの、バレンタインじゃないって、言ったじゃん、そ、それに10倍じゃなくて、3倍でいいんだよ!」

 

 

幸せそうに笑うから

 

 

「・・・せやかて、3倍じゃ足りひんやろ?10倍返し、させてな」

 

 

私までなんだか 泣きそうになってしまって

 

 

(・・・これ、前にも)

(なんかこの会話)

(前にも誰かと した気がする)

 

 

ズキッ

 

ズキズキズキ

 

 

「いっ・・・!」

「大丈夫か!?」

「頭、いたい、」

「あっ、すまん!俺のせいや!すまん、大丈夫か!?ちょっと横になって、」

「だ、大丈夫・・・帰る、から」

「送るわ」

「いや・・・大丈夫、勉強、してて」

「けど、」

「大丈夫、2人でいられるところ見られたら、怒られるから」

 

 

そう言うと ケンヤは静かに、そうやな、と言った。

 

 

「・・・ほなせめて、玄関から帰ってや!!屋根からくるってどんな姫様やねん!!」

「うむ、屋根も悪くないぞ」

「落ちたら危ないやん!ほら、玄関までは送ったるわ!」

「うむ、玄関まで護衛頼む!」

 

 

そしてアタシはケンヤと別れて城に戻った。

 

 

何か大事なことを忘れてること

思い出せないように何かに邪魔されてること

自分の気持ち

 

 

そういうことに薄々気が付き始めていた。

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