第8話:姫様の大冒険

「せいんとばれんたいん???」

「近隣の諸国で流行っててな、明日は女の子が好きな男の子にお菓子をあげる日らしいで!」

 

そう、コハルちゃんから聞いて、真っ先にクラノスケくんの顔が浮かんだ。

 

「そ、それって、クラノスケくんも知ってるのかなぁ・・・?」

「クラリンはお師匠さんと諸国周っとるしむしろ一番詳しいんちゃう?」

 

今、街ではその話題でもちきりやで!と、コハルちゃんが言うから

私は やらねば! と謎の使命感に燃えた。13歳の思春期真っただ中の出来事だった。

 

「ちょ、サオちゃんwwwやらねばって顔に書いてあるけどwww」

「やる・・・!お菓子、クラノスケくんにプレゼントする・・・!」

「燃えてるねwww」

「マナミちゃんはあげへんの?」

「え、誰にさwwwめんどくさwww」

「もう~そんなこと言っちゃって!ちなみに一か月後にはホワイドデイってのがあって、今度は男の子がバレンタインのお返しする日らしいで!3倍返し、やて♡」

「え!?3倍も!?」

「え!?たったの3倍!?」

 

3倍も・・・!お返ししてもらえるの!?申し訳なさ過ぎるから買わずに作ったほうがいいね!!!

と私が興奮して言えば、隣ではまぁちゃんが

うえ~たった3倍ならあげなくてもよくね?せめて10倍返しだよなぁ・・・とやる気なくブツブツ言った。

その様子を見てコハルちゃんがクスクス笑った。

 

「ほんま両極端やなぁ・・・。とりあえず、街で噂の彼が絶対喜ぶレシピ渡しとくから作るもあげるもご自由に♡」

「コハルちゃん!!ありがとう!!」

「コハルちゃんはユウジにあげないの?」

「あげるわよ♡でもユウくんだけやないで?」

「え、誰にあげるの!?」

「え?キンタロさんと、ヒカルと、チトセきゅんと、あとお城の騎士のカワイコちゃんたちに・・・」

「大忙しだねコハルちゃん!!!」

「やっぱモテる女は違うねコハルちゃん!!」

「でしょ?あ、でもクラリンとケンヤくんにあげるのは遠慮しとくから二人ともがんばってや♡」

 

そう言うとコハルちゃんは支度しなくっちゃ~♡と帰って行った。

隣ではまぁちゃんが がんばんないし!ケンヤ誰にももらえなかったら可哀想だしコハルちゃんあげなよ!!と叫んでいる。

 

「まぁちゃん一緒にお菓子作ろうよ!!」

「え~めんどいしやだよ~」

「でも、ケンヤめっちゃ喜ぶと思うよ!」

「な・・・!なんでケンヤ限定なのさ!?ケンヤ関係ないしょ!!コハルちゃんもきみもケンヤケンヤって・・・自分たちであげればいいしょ!!」

「ケンヤ、まぁちゃんからもらえないとめっちゃガッカリすると思うよ」

「知らんがな!!もう!お城帰るよ!!」

 

まぁちゃんがプリプリ怒るので 私はコハルちゃんにもらったレシピを握りしめて一緒にお城へ戻った。

 

(クラノスケくん、喜んでくれたらいいな・・・)

 

 

 


 

 

 

サオちゃんがお菓子作るって言うからお城のキッチンの端っこの方を借りたよ。

サオちゃんエプロンつけてめっちゃ張り切ってる。可愛いから写真とっとこ。

 

「で、材料は何必要なの?料理長、大体お菓子作りで使う材料と道具は用意してくれたよ」

「うん!じゃあ今レシピ見てみるね!えっと・・・」

 

サオちゃんがコハルちゃんからもらったレシピを開いた。

もしチーズケーキ作るなら・・・アタシも食べたいな・・・。

 

「まずね、卵」

「うん、卵あるある、何個?」

「3個」

「おっけー」

「あと、お砂糖60グラム」

「砂糖もあるわ、あとは?」

「バターと小麦粉・・・」

「あるある。あとで自分で測っといてね」

「あとね、」

「まだあるの?」

「マンドラゴラ」

「ん?」

「マンドラゴラ」

「え?」

「マンドラゴラ」

 

3回聞いた。

けどよくわかんなかった。

 

「・・・材料の名前だよね?」

「うん、書いてるよ」

「マンドラゴラって、あれだよね?抜くときギャー!って言うやつで間違いないよね?」

「マンドラゴラ(オス・メスどちらでも可)って書いてるよ」

「・・・何作るんだよ!!!!」

 

とりあえず突っ込んどいた。

 

「あ、集めなきゃ・・・材料・・・(フルフル)」

「や、きみそこがんばんなくていいから、卵と砂糖とバターと小麦粉で充分美味しいのできると思うわ」

 

なんなら城のパティシエに美味しいお菓子の作り方聞いて来ようよ、と言ったのだけど

集めなきゃ・・・お菓子が出来ない・・・(フルフルフル)と、サオちゃんの真面目スイッチが入ってしまってちっとも言うことを聞いてくれない。こいつは困ったぞ・・・。

 

「大丈夫だ、落ち着け、美味しいお菓子はマンドラゴラがなくてもできる!錬金術やるんじゃないからな!お菓子作りだからな!」

「・・・私、行ってくる!」

「どこへ」

「マンドラゴラを取りに・・・!」

「いや無理だ、あきらめよう、パティシエ優しいから大丈夫だ、ブン太超いいやつだから」

「でも私はコハルちゃんにもらったこのレシピで完成させたいの!!」

「なんでだよ!そんなん使わなくてもブン太も素敵なレシピ教えてくれるわ・・・!」

「コハルちゃんが、クラノスケくんの喜ぶレシピを教えてくれたんだよ!私はコハルちゃんの気持ちを信じたい!」

「わ、わけわからん!!!!!」

 

いい話風にまとめようとするな!!と怒ったけど駄目だこれ、サオちゃんこうなると意外とガンコで聞く耳持たないもんな。

マンドラゴラ取ってくる!とふんすふんすと意気込んでいる。

 

「待って待って待って!」

「もう止めても無駄だよ!」

「いや、私も行くから!」

「え、ほんと?」

「きみだけだと心配だもん」

「わぁ・・・ありがとう!!じゃあ時間もないことだし準備して行こう!!」

 

こうしてサオちゃんと私は支度をしてマンドラゴラを取りに向かったのだ・・・。

サオちゃん大丈夫かなぁ・・・。

 

 


 

 

 

一緒にまぁちゃんがついてきてくれて正直ホッとした。

まぁちゃん冒険慣れてるからね・・・!

できる限りの装備をしてお城を出た。見たこともないアイテムもたくさん持ったよ。

まぁちゃんすごい詳しいの。マンドラゴラのいる森までワープ草使ったり、余裕そうだった!

 

「しかし、マンドラゴラどう取ろうか、困ったね」

「そうなんだよね・・・本で読んだときは犬にロープ繋いで抜くって書いてたし・・・」

「犬可哀想だよな・・・」

「うん・・・犬は家族だよ・・・」

「とりあえずこの森の奥にあると思うんだけど・・・」

 

そう生い茂った草をかき分けてガサガサと進む。

虫怖いし、蜘蛛の巣あるし、歩きにくいし、汚いし、怖いし、

 

でもこれも・・・!全てクラノスケくんのため・・・!(メラメラ)

 

足も痛いけど!がんばってひたすら進んだ。

 

ガサガサッ

 

その時。

物音がして、私とまぁちゃんは立ち止った。

 

「・・・なんかいるね」

「やっ・・・!どうしよう!」

「静かに、大丈夫。一応武器もあるし、まず出てきた瞬間火炎草で燃やしてやる!」

「穏やかじゃないね」

「命がけだからね」

 

ガサガサと音のする方をじっと見つめていると

 

ぬっ

 

ものすごく大きな影が私たちを包んだ

 

(う・・・うそでしょ・・・!)

 

3メートルくらいありそうな ゴーレムがそこには立っていた。

 

まぁちゃんが咄嗟にペチっと火炎草を投げたけど

大きな土の塊の彼には全く通用しなかった。ボッと燃えたけど、???って顔してた。これはやばい。

 

「・・・サオちゃん、これ帰還の翼だから、帰りな」

「え、やだよ!まぁちゃんはどうするのさ!?」

「アタシは大丈夫。マンドラゴラ欲しいんでしょ?取って帰るよ」

「でも・・・!」

「帰還の翼もう一個あるし!」

「やだ、一人残していけないよ!それに私が欲しいんだから、自分でマンドラゴラ取りたいもん・・・!」

「いいから・・・!」

「絶対やだ!!」

「も~頑固だな!」

 

のそ のそ、とゆっくりゴーレムが近づいてくる。

動きが遅いのが救いだと思った。

 

「これ、逃げれそうだね」

「今のうちに逃げようか」

 

と、言ってた矢先

 

がさ がさ

 

(!!?)

 

見渡すと 周りは大きいゴーレムに囲まれていた・・・

 

(ヤバイ・・・)

(ど、どうしよう・・・)

 

まぁちゃんを見ると しまった、という顔をしていた。

 

(・・・私だ)

(私のせいだ)

(私のせいでまぁちゃんを危険に晒してしまった)

(どうしよう・・・)

 

どうしよう

も、ないよね

やるしかないんだ

私はスッと一歩前に出てゴーレムに近づいた

 

「サオちゃん!?何やってるの!?危ないよ!!ゴーレムは捕まえた人間を自分の体の肥料にするんだよ!?捕まったら体で溶かされて終わりだよ!?」

「大丈夫・・・ちょっとお話してみるよ」

「無理だよ!!精霊やペガサスと違うんだよ!?ゴーレムって土人形でしょ!?きみの力があっても意志を持たないものと会話はできないって!!」

「でも・・・彼らもこうして動いてるから・・・やってみるよ」

「これは自分の意志で動いてるんじゃないよ!!餌を求めて動く本能のようなもので・・・サオちゃん!離れて!!アタシならいざとなったら大丈夫だから!!」

「・・・まぁちゃん、まきこんじゃってごめんね。もし私が捕まっても、その間に逃げてね」

 

そうして私は ひとりのゴーレムと向き合った。

 

(集中・・・しなきゃ)

(・・・怖い)

(震えが止まらない・・・)

(でも)

(まぁちゃんを・・・助けなきゃ!!)

 

目をつむって 集中して、目の前のゴーレムに話しかけた。

 

「・・・・・・」

「サオちゃん逃げてってば!!」

「・・・・・・」

「おい!きみ!聞いてんのか!!早く逃げて!!」

「・・・・・・」

「アタシは大丈夫だから、早く・・・っ!わっ!何すんだ!離せ!!」

「・・・・・・」

 

まぁちゃんが後ろにいたゴーレムに捕まり

私の目の前のゴーレムが 手を振り上げて 私に向かって振り下ろした

 

「サオちゃん・・・!!」

 

そしてその手は私をふわっと握り 自分の肩に座らせた。

 

「え???」

 

不思議そうなまぁちゃんに、ゴーレムの肩に座った私は少し笑いながら 言った。

 

「・・・マンドラゴラが生えてるところに連れてってくれるって」

「え、話せたの・・・?」

「話せたよ、やってみるもんだね」

「ほんまやな・・・てかきみロボット兵と仲良くなったシータみたいだな・・・お花もらってたよな・・・」

「うん・・・なんできみ逆さまに持たれたままなんだろうね」

「知らん、頭に乗せろって言って」

「・・・・・・・・・・言ったけど、これでいいんだって」

「どーゆーこっちゃ」

 

そのままゴーレムたちはマンドラゴラの生えている場所まで連れってってくれて

しかも抜くの迄手伝ってくれた。

耳がないから叫び声も聞こえないらしく、私たちを遠くに運んで、しかも数人で囲んで防壁作ってくれたしすごく優しかったよ。

まぁちゃんと一緒にお礼にゴーレムの体をお花で飾り付けしてあげたり色々してあげたら喜んでたよ!

 

こうして無事にマンドラゴラをGETして、帰還の翼で帰ってきたのでした。

泥らだけだったし夜も遅くなっちゃったからすごいみんなに心配かけちゃって、大臣様にもめっちゃ叱られたけどね・・・!

そして疲れてヘトヘトなのに、明日のために必死にお菓子作って・・・ついに完成!

あ~今夜はめっちゃよく寝れそう・・・。

 

 

 


 

 

 

バレンタインってやつはかなり街の人々の間では流行ってるみたいだった。

気づかなかったけど、あちこちの店でバレンタインフェアって謎なことやってるし、女子はキャッキャしてるし男子はソワソワしてるし、あちこちでイチャイチャしてるカップルいるし。

はーとんでもねぇイベント流行っちまったな!父さんにお願いして来年からもう廃止してもらうわ。

 

でもコハルちゃんめっちゃ楽しそうだしコハルちゃんにお菓子もらえたユウジ嬉しそうだし、なんかみんな幸せそうだな・・・

何だろうなこれ・・・

サオちゃんとクラノスケもどっか行っちまったし・・・

みんな浮かれポンチだし・・・

 

ソワソワソワ

 

ケンヤ・・・

 

ソワソワソワソワ

 

めっちゃソワソワしながらこっち見てくるし・・・

 

ソワソワソワソワソワ

 

これ完全に期待してるやつだな・・・

 

はぁ・・・

しかたねぇな

 

「・・・ケンヤちょっと」

「え!!(どき!)な、なんや!どないしたん!!」

「ソワソワするな。とりあえず、こっち」

「え、え、え」

 

ケンヤ連れて城の裏庭に来た。ここ人いないから超穴場。

 

「ケンヤ、あんま期待した顔でこっち見んのやめてくんない!?」

「へ!?そ、そんな顔してへんがな!!」

「めっちゃ見てるから!!なんなの、なんでアタシからお菓子もらえるんじゃないかって期待してんの!?」

「してへ・・・して・・・へんことないけど!!してへんし!!!」

「サオちゃんもコハルちゃんも人にケンヤケンヤって・・・ほんとなんなのもう、嫌になっちゃう・・・」

「なんやねん!!用事ないならもう俺行くで!!」

「ん」

「え」

「あげる」

「!! え、まさか!これ!!」

「昨日命がけで作ったんだからね!!ありがたく食べなよ!!」

「・・・・・・・」

「ちょっと・・・いらないの!?」

「い、いる!!!いります!!おおきに!!!」

 

ケンヤはそれはもう幸せそうな笑顔であげたお菓子を見つめていた。

・・・こんな嬉しそうにしてくれるなら、流れで作っただけだけど、悪い気はしないな。

 

「・・・言っとくけど、それ来月3倍返しらしいからね」

「え、3倍?」

「フフ・・・もう受け取ったんだから今更キャンセルなしだぞ!」

「いや、マナミ、3倍じゃ足りんやろ?」

「え?」

「10倍返し・・・期待しとってな!」

 

ニカっとケンヤが笑うから アタシは言葉を詰まらせて俯いた。

 

(くそ・・・)

(ケンヤのくせに・・・!)

 

言い返したくても言葉が出てこなくて、ニコニコするケンヤの隣でおとなしく座っていたアタシだった。

 

 


 

 

 

「クラノスケくん・・・!!」

 

みんなでいるときに、チョイチョイとクラノスケくんの服を引っ張れば 彼は全てを察したようにそっと私とその場を抜けてくれた。

あああ、緊張する!

お菓子あげるだけなのに、なんでこんなに緊張するんだろう・・・!

 

「あ、あのね」

「おん」

「あのね、」

「おん」

「あっあのね!!」

「おん」

 

クスクス、とクラノスケくんは笑った。

笑われてる。てゆーか、見透かされてる。当たり前だよね、バレンタインの話題でもちきりだったもんね・・・。

 

(もうバレてるんなら・・・恥ずかしがることもないかぁ・・・)

 

「こ、これ・・・」

 

そっと、がんばってラッピングした可愛い箱を取り出して渡すと クラノスケくんの顔はそれはもう見る見る間に輝いた。

 

「え!!?あ、も、もしかして、これって・・・!」

「あ、あのね、バレンタインってやつ、コハルちゃんに教えてもらって、作ってみたの・・・」

「つ・・・作ったんか!?サオリの手作り!!?」

「う、うん・・・あれ、コハルちゃんから聞いてなかったの?」

「全然・・・てか手作りお菓子もらえるとか・・・思ってなかったわ・・・びっくりした」

「え!クラノスケくん、もう知ってると思ってた!」

「知らへんよ!まさかさおりがバレンタイン知っとるとも思わんし!!」

「えへへ、クラノスケくんをビックリさせたんなら私すごいねぇ・・・」

「めっちゃすごいわ!てかほんっまにごっつ嬉しい!!おおきに、さおり!!」

 

クラノスケくんは箱を手に持ってそれはもう嬉しそうに笑ってくれた。

 

あぁ、この笑顔が見れただけで、私はもう・・・最高にハッピーです・・・!!

 

「これ、なんのお菓子なん?」

「なんかね、焼き菓子なんだけど・・・マンドラゴラのエキスが入っててすごい美味しいんだよ」

「マンドラゴラ!?え!どうしたんそれ・・・?」

「とってきたよ」

「え!!?!?」

「でもゴーレムさんが協力してくれたから大丈夫だったんだけどね・・・」

「な、なんやそれ!どーいうことや!!」

「えっと、」

 

クラノスケくんに詰め寄られて言葉を探した。

うーん・・・言わなきゃよかったな、マンドラゴラのこと・・・心配させちゃったな・・・

 

シュン・・・

 

なんだか落ち込む私に気付いて 彼は私の頭を優しく撫でた。

 

「・・・うん、サオリがそうしてがんばってくれたお菓子、めっちゃ味わって食べるからな、俺」

「う、うん!」

「ほんなら、ホワイトデイはお返しに・・・」

「え、お返し!?い、いらないよ!お返し欲しくて作ったんじゃないし・・・」

「・・・ほな、どこかサオリの行きたい場所行こうか?」

「え?」

「師匠と王様にお願いしとくわ、2人で外出させてもらえるように」

「え!!ほんと!?」

「あぁ」

 

どこに行きたいか考えといてや

 

そう笑うクラノスケくんの笑顔が眩しくて 嬉しくなってつられて笑った。

 

(わぁ嬉しい!)

(デートだ・・・!)

(デートだ!!!)

(どこに行こう!!)

 

楽しみで楽しみで その日から寝ないでどこに行こうか必死に考えて。

その日が来ないなんて、その時の私は夢にまで思わなかった。

 

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