ep.002

 

 

今日もまたいつもと同じ日だった。

 

(クレーム対応2時間!)

 

(この2時間の特別手当出してほしいくらいだよ!)

 

病人なんだから大人しくしてれ!と言いたいところだけど、ここは大きな総合病院。

いろんな科があるのに、会計の窓口は一つだけ。非常に効率が悪く、回転も悪い。

 

(はぁ、今日も頑張ったわ)

 

家に帰ってテレビをぼーっと見ているさおちゃんと話す。

 

「いやー今日もクレーム対応頑張ったわ!」

 

「おーえらいよきみ」

 

「きみは遙時今日はやらないのかい?」

 

「うーん」

 

「何で?いつもゲームしてるのに」

 

「うーん」

 

「どうした?なんかぼーっとしてない?」

 

「いやー、何でもないよ」

 

「そうかい?」

 

「うん」

 

 

何だかいつもと様子がおかしいさおちゃんだったけど、まぁさおちゃんが頭おかしいのはいつものことだからほっとくとして(どーせショタの生足のこととか考えてるんじゃないか)

私は明日の懇親会のことで憂鬱になりながら布団に入るのだった・・・

 

 

 

 

翌日 —————–

 

 

 

大きな総合病院のため、土曜日はお休み。

 

だからみんなが集まれる土曜日に懇親会が開かれるのだ。

 

(はぁ、毎回のことながら規模がすごい)

 

大きな病院なので、働いている人数は約500人。(清掃のおばちゃんとかも含めて)

 

ただし、毎月誰かしら辞めて、誰かしら入って来るので入れ替わりが非常に激しい。

 

そのため懇親会という名目で、3ヶ月に1度くらいのペースで開かれているこの飲み会。来るのは大体100人弱。

 

毎回出席というわけではないけど、飲むの好きだし、なんとなく出れるときだけ出ていた。

 

(別に職場の人と仲が悪いわけじゃないしね)(職場は良い職場なんだけどなー)

 

 

 

「お疲れ様でーす・・・」

 

「まなみ来た!こっちこっち!」

 

 

 

私は同期に誘われるがまま、その席に座った。

 

 

 

「ほら、あそこ!見て!」

 

「え?何が?」

 

「あそこだよ!あの席!」

 

「ああ、」

 

「すごいイケメンじゃない!?やばいよね!」

 

 

 

(あれが噂の研修医か)

 

 

 

さっそくキャーキャー言う友達に促されてその席の人物を見た。

 

 

 

(確かにイケメンではあるけど・・・)

 

(研修医のくせに他の人より髪茶色いし)

 

(あそんでそー・・・)

 

 

 

 

「かっこいいよね~、今まであんなイケメンの研修医いなかったよね!」

 

「まぁそう言われれば今までで一番かっこいいかも・・・」

 

「あ!ダメだよまなみは!アンタモテるんだから!」

 

「仕方ないよそれは・・・私と一緒にいると楽しいからね」

 

「うわぁさらっと言った!」

 

「言ったよ」

 

 

 

 

人数もボチボチ集まり、懇親会が始まる。

 

ちなみに会場は毎回ホテルで行われている。でも人数が多いから、一人辺り3500円ですんでしまうと言うホテルで行うには格安の飲み会。

 

(ここのホテル料理美味しいんだよね~)(最高♥)

 

今のところ恋より食い気。

 

私は美味しい料理を堪能していたのだった。

 

 

 

 

 

「どうやって話しかけよう・・・」

 

「近くに座ればよかったしょ」

 

「だって来た時にはすでに看護師さんたちの集団に囲まれてたんだよ!」

 

「それはそれは・・・」

 

「絶対あれ狙ってるよね!若い看護師たち!」

 

「だろうね~医者なんて美味しすぎるからね~。そのために看護師なる人もいるみたいだし」

 

「最悪だよ~・・・事務なんてこういうところでしか関われないっていうのに・・・」

 

「頑張ればいいしょ!誰か抜けた時に座っちゃいな!」

 

「も~勝手なこと言って!」

 

 

 

 

 

そんな会話をしながらむしゃむしゃ食べ続けていた時、

 

 

 

 

 

「前さん、ちょっといいかな?」

 

「あ、先生」

 

 

 

 

 

仲がいい眼科の先生に声をかけられた。(ちなみに48歳妻子あり)

 

 

 

 

 

「せんせー!飲んでますかー?」

 

「うん、飲んでるよ」

 

「今日はお子さんたちとどっか行って来たんですか?」

 

「昼間は一緒にみんなでドライブしてきたよ」

 

「いいなぁ先生の家族は幸せだなぁ」

 

「ははは、突然で悪いんだけどちょっときみにお願いがあるんだ」

 

「何ですか?」

 

「ちょっとこっちに来てくれる?」

 

「あ、はぁ・・・」

 

 

 

 

 

そういう先生に素直についていった。先生にはお世話になってるし、別に拒む理由もなかったし。

 

 

 

 

 

「じゃあここでちょっと待っててね」

 

「あ、はい」

 

「もう1人連れて来るから」

 

 

 

 

(もう1人?)

 

 

 

 

せんせー何いってるんだろー?と思いながら様子を見ていると

 

 

 

 

(ん?)

 

 

 

 

なぜかさっきまで友達がきゃーきゃー言っていた例のイケメン研修医のところに行って・・・

 

 

 

 

(え、なんで?)

 

 

 

 

先生はイケメン研修医をつれてこっちにやってきた

 

 

 

 

(何がしたいんだ・・・謎すぎるわ先生・・・)

 

 

 

 

「お待たせ、彼女は前さんだよ」

 

「あ、よろしくおねがいします、忍足言います」

 

「前です・・・」ペコリ

 

「じゃあこれ台本だから」

 

「「え?」」

 

「2人でゲームの司会よろしくね」

 

「「ええ!?」」

 

「じゃあよろしく~」

 

 

 

 

 

そういうと先生はさっさと自分の席へ戻って行ってしまった・・・

 

 

 

 

(え・・・何が何だかわからん・・・)

 

 

 

 

隣を見ると同じように固まる研修医。

 

どうやら彼も私同様何も知らずに連れて来られたようだ。

 

 

 

 

 

「え、司会ってなんや・・・」

 

「この懇親会でいつもローテーションでゲームとか何か出し物をするんだよね、それを押しつけたんだわあの先生」

 

「ホンマにかぁ、ほなら仕方ないなぁ~」

 

 

 

(仕方ないんだ)

 

 

 

そう言うと、近くに置いてあったマイクを手に取り、一本は自分で持って、もう一本を私に渡してきた。

 

 

 

(納得するの早すぎだろ)

 

 

 

「ほな、この台本のAっちゅーの俺が読むから、Bは前さんお願いするわ」

 

「いいけど・・・(なぜこいつは後輩のくせにタメ語なんだろう)」

 

「ほないくで、適当に合わせてくれるだけでええからな」

 

 

 

 

 

そういって、ニコッと笑うこのイケメン研修医に

 

 

 

少しだけ

 

 

 

ドキッと

 

 

 

 

 

 

 

することは

 

 

 

 

 

 

 

なかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『お願いします。ラッスンゴレライ』

 

 

 

 

 

 

!!!?!?????

 

 

 

 

しょっぱなから台本無視できたこいつ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

(なんだこいつ・・・)

 

(こわ・・・)

 

((多分)関西の血こわっ!!)

 

 

 

 

 

 

『ラッスンゴレライ!フー!ラッスンゴレライ!フー!
ラッスンゴレライ説明してね』

 

 

 

 

 

 

そうしてイケメン研修医はチラッとこっちを見た

 

 

(マジか)

 

(お前これ適当に合わせるとかそういう話じゃないだろ)

 

 

 

でも

 

 

私は

 

 

こんなことで

 

 

大人しくひきさがる女ではない!!!

 

 

 

 

ガッとマイクを持って・・・

 

 

 

 

サングラスはないけど、そのまま いってやった

 

 

 

 

 

『ちょと待ってちょと待ってお兄さん
ラッスンゴレライってなんですの?
説明しろと言われても意味わからんからできませ~ん』

 

 

 

 

 

 

 

完璧すぎる・・・!

 

 

 

会場がそうザワッとしたのがわかった

 

 

 

まさかの出来に隣の男も一瞬ポカンとしていた

 

 

 

 

「ちょっと次!」(コソコソ)

 

「あっ」

 

 

 

 

そうしてネタの続きを思い出したかのように始めた

 

そのあとは2人の独壇場

 

先生の用意していたゲームも楽しかったし、2人の掛け合いも好評だった

 

この研修医のちょっと空回りだけどなんとなく楽しい関西人トークもあったし、何より私がぼけても、研修医がつっこんでくれるから、ゲームの進行は滞りなく終わることが出来たと思う

 

会場も大盛り上がりで、終了した時には盛大な拍手をもらえた

 

 

 

 

 

 

「前さんやるやん」

 

 

 

 

そう言って、ハイタッチの手を出してきたこの男に

 

 

 

 

「おつかれ」

 

 

 

 

そう言って、思い切り手を叩いてやった

 

 

 

 

 

 

(楽しかったな)

 

 

 

 

 

 

今までで一番楽しめた懇親会になった

+2