(ここは、どこ・・・?)
うっすらと目を開けると見たこともない天井が目にうつった。
光が入る窓を見ると外で小鳥が鳴いていた。
窓、小鳥、木、緑の葉、青い空、太陽、天井、シーツ、これは私の手
それはわかるのに
(・・・私は、誰?)
一番肝心なことがわからなかった。
思い出そうとすると頭がズキズキと痛くなる。思い出してはいけないと、そう頭のどこかで制御されているようだった。
床に足を下す。古い木の床がギシっと音を立てた。
「あ、起きたんや?おはよう」
そう、声をかけられて驚いて足を引っ込めまたベッドの中へと潜り込む。
だ、だ、だ、だ、誰!?!?!?
バクバクと心臓が激しく動いて恐怖で声も出ない私をよそに
朝ごはん出来てるで~! と彼はバサッと布団をめくった。
「~~~~~っ!!!(パニック)」
「ハハ、ええから食べや!」
飯食わな、元気でぇへんで!と彼は笑った。
(ドッキーーーーーーーーー!!!!!)
なななななななななななんつー美男子・・・!!?!?!?!?!?
え、え、え、え、え、え!?!?!?
めちゃくちゃかっこいいんですけど!!!?!?
え、私はどんな姿なの!?私、お、女だよね!?この人も女!?ずいぶんきれいだけど!え、でも声とか男だよね!?
あれ!?私男!?え!?なに!?この状況は何!?一緒に暮らしてるの!?
「!?!?(パニック)」
「あー、ほな、とりあえず少し話してから落ち着いたら食べよか?」
「!!」
「まず、俺の名前はクラノスケや。ほんできみはサオリ。OK?」
「クラノスケ、サオリ・・・」
「で、一緒にここに暮らしとる!さ、飯食おうか!」
「えっ、そ、それだけ・・・?」
「充分やろ?さ、はよいくで!」
「あ・・・あの、あ、あの、あの」
「ん?」
「あの、私と、あ、あなたの・・・関係は・・・」
そう聞くと 彼はニヤーと意地悪く笑って
「どんな関係やと思う?」
そう聞き返してきた。
・・・・。
え、え、え!!!!
ど、どんな関係って!!!!
今の私の精一杯の情報と言えば彼と一緒に暮らしていて、彼がご飯作ってくれていて・・・
えっ・・・
でも私・・・何も覚えてないし・・・
なんか・・・これ・・・・
「・・・誘拐犯・・・?」
・・・・・。
「プッ」
ハーーーーッハッハッハッハ
私が呟いた一言に お腹をかかえて笑う彼。
な、なんだろ、私おかしなこと言ったかな・・・
いや言ったな、言ったね、誘拐犯って・・・
え?もしや図星・・・?
やば・・・
そう思ったのもつかの間
「それもおもろいな!ほな今日はそれでいこか!」
「へ!?それでいこうって・・・」
「ふっふっふ!飯食わな、悪いことするで~」
急に彼がそんなこと言うものだから 驚いて急いでベッドから降りる。
そして急いで食卓に向かうと並べられた美味しそうな食事を前にお腹が鳴った。
「ハハ、お腹すいてるやんか、どうぞ、食べてな」
結局いまだにどんな関係なのか教えてくれない彼は
紳士のように椅子を引いて私を座らせてくれた。
用意されてるこの食事も彼が作ったのだとしたら、それは本当にすごいことだし、手慣れているなと感心した。
(しかも・・・おいしい)
いただきます、と一口食べればその美味しさは口に広がった。
うん、本当に、おいしい。
これはあれだね、うん、こんな美味しい料理作れる人に悪い人はいないね。うん。
(そしてやっぱり何度見ても彼はかっこいいし・・・)
(特に、笑顔がいいなぁ)
(この人と、本当にどんな関係なんだろ・・・)
(家族・・・かな?)
(これだけお世話してくれるんだから家族だろうな・・・)
(お兄ちゃんかな・・・)
(・・・なんでもいいや)
こんなに優しく笑える人、悪い人なわけない。
「今日は天気ええなぁ、お散歩いこか」
「え、外に出ていいの?」
「もちろん。着替えて行こうな」
近くの湖にさっきユニコーン来てたで、見にいこか
そう笑った彼の笑顔がやっぱり優しくて
初めて会った彼に、なにも覚えてない自分。
だけどどこかホッとして 恐怖心を感じないのは
こうして彼が私を気遣い、笑ってくれているからだと思えた。
(何もわからないこの状況だけど)
(・・・彼がいてよかった)
そう思いながら、彼との楽しい一日を過ごすのだった。