第2話:マナミ

月日が流れるのはなんて早いのだろう。

明日、私は 成人の議を迎える。17歳になるのだ。我が国では17歳は成人。

明日の儀式を迎えたら、私はいつだって王位継承権を引き継ぐ義務が出来る。

 

正直に言おう。

 

荷が重い。

 

(めっちゃしんどい・・・)

(なんで私一人娘なんだろ・・・)

(自分でも、この国を支える姫としての器があると思えない・・・)

 

思えないけど、やらねばならぬ。

まだ父も母も現役バリバリなのでよほどのことがない限り私に王位が巡ってくることはないけれど

それでもいつかこの国を支える、と思うと 心底憂鬱であった。

コンコン

 

「マナミちゃん、ちょっといい?明日の成人の議のことで」

 

そう言って入って来たのは私の恋人オイカワだった。

彼はこの城の天才魔術師で大魔王の異名を持つすごい人物だ。うちの父さんも一目置いてる。

 

「オイカワ~・・・」

「ん?もしかしてまた悩んでる?」

「成人の議したくない・・・」

「まーたそんなこと言って。成人の議に関わらずきみがこの国で唯一の後継者であることに変わりはないんだよ?」

「自信ないよ、国をまとめるなんて」

 

疫病が流行ったら?隣国と戦争になったら?モンスターに攻められたら?私一人の力で対応できるのだろうか?

そもそも政治は苦手だ。戦略も苦手だ。魔法の授業も受けてるけど私にはなんの才能もない。

なぜ私なんだ。くそ。長女になんて生まれるんじゃなかった。絶対私の性格上、上に兄か姉がいて

いや~自由な皇族、金もある、自由もある、サイコー!とかのびのび育つはずだったのに。

一人っ子に生まれたせいですっごい大変だった、めっちゃ勉強させられた、マナーも身につけさせられた、参った。マジ卍。

 

「・・・大丈夫だよ、きみには俺がついてるでしょ?」

 

そう言ってオイカワは私を優しく抱きしめた。

 

「いつだって、きみの傍には俺がいるよ。それはこれからもずっと変わらないから」

「・・・うん」

 

そうか。私にはオイカワがいるのか、だったら心強いのかもしれない。

好きな人とならなんでも乗り越えられるって言うしね!うん、そうして3年間厳しいプリンセスの修行にも耐えてこられた。恋って素晴らしい。

 

「愛してるよ」

 

オイカワがチュッと私の左手にキスをして、それから 俺は明日のことで魔術師の会議があるから話はまた後でね と彼は部屋を出て行った。

 

うむ。そうか。

だったら行くしかないな!!

成人の議を迎える前にまだ子供でいたい私は最後の抵抗を試みるのだった。

 

 


 

 

 

「で、街に出てきたんか」

 

お前暇やな とユウジに言われた。財前はウンザリと俺昨日徹夜やったんで帰ってもええすか とか言ってる。

でもなんだかんだ言いながらもこうして集まってくれるの、マジでお前らいい友達だな、明日のパーリーでは好きなだけ美味いもの食えばいいさ。

 

マナミ「あーあ、明日超不安。成人の議とかほんと迎えたくない」

コハル「またそないなこと言うて!明日はうちがデザインしたとびっきりのドレス着るんやろ!?アクセサリーだけで総額10億ベルやで!?もっと喜んだらどない!?」

マナミ「10億て!重いわ!肩こるわ!!」

キンタロ「なー、マナミー、わいこないだ火炎山のドラゴン倒したんやで!!」

マナミ「キンちゃん~~~聞いたよぉ~!!父上から金一封出たんでしょ?」

キンタロ「おー!美味いもんぎょうさん食うたでー!!」

 

みんなにもおすそ分けしてん!って笑うキンちゃん、なんて天使。こんなに小さいのに村の伝説の勇者とかかっこよすぎてしびれるわ。キンちゃん将来かっこよくなりそうだしな・・・オイカワから乗り換えようかな・・・

とかいうとあいつ泣くから言わないけどな!!

あとコハルちゃんは近隣の城や貴族からもひっぱりだこな有名デザイナー。そしてユウジはそのデザインを唯一形にできる敏腕服飾士。手先が器用でなんでも作れる!この二人は自称漫才師だから人を笑わせるのも上手い。最高の友達。

財前は機械関係の仕事してる。ハッカーとか言ってたけどその辺ようわからん。でもうちの軍とか父さんとも精通してるからなんかすごいやつなのはわかる。すごいんだろうけどよくわからん。あとよく不思議なもの発明してくる。イケメンなんだけど年下のくせに生意気で、控えめに言ってDAISUKI。

 

キンタロ「明日はわいのドラゴもぱーてーに連れてくで!楽しみにしとるからな!」

マナミ「うっ!キンちゃんの笑顔がまぶしすぎる・・・!もうこれ明日逃げられないフラグ立ったわ!!!」

ザイゼン「・・・ちょお待て、ドラゴってなんや」

キンタロ「大きいから村に来るとパニックになるやろ?そのまま火炎山に残してきたんやけど、あいつたまに会いにくるんやで!可愛いやっちゃ!」

ユウジ「え!!?ちょ、おま!ドラゴンやっつけたんとちゃうんか!?なんやペットみたいに・・・!?」

キンタロ「やっつけたで?やっつけたけどめっちゃ懐いてきたから飼うことにしてん」

ザイゼン「・・・お前ほんま規格外やな」

ユウジ「ありえへん・・・」

コハル「すごすぎやわキンタロさん・・・」

チトセ「さすがキンちゃんたい・・・」

マナミ「ドラゴンはちょっとな・・・城内パニックになりそうだしな・・・」

キンタロ「えー!ドラゴも行ったらあかんのー!?」

 

「遅れてすまん!!」

 

そういいところで全速力で走って来たのはケンヤだった。こいついつも来るの遅いな。

 

ユウジ「おー、やっと来たか」

ケンヤ「よぉ!で、なんの話しとったん?」

コハル「明日のマナミちゃんの成人の議のことでね」

ケンヤ「明日成人の議やもんな、村のみんなも準備忙しいで!姫様がここにおってええんか?」

 

そう笑って言うケンヤになんだかムッとする。いやユウジやザイゼンにも似たようなこと言われたのになんでかケンヤに言われると腹立つんだよなー。なんだよもう。

 

マナミ「いいの!もう連日衣装合わせだのマナーだの式のリハーサルだの散々やったんだから前日くらいゆっくりさせて!」

ケンヤ「せやなぁ、明日成人の議迎えたら公務も増えるんやろ?」

マナミ「・・・うむ、色々やらなきゃならん仕事増える・・・めっちゃやだ・・・自由に遊んでいたい・・・」

ケンヤ「ハハハ、姫様は変わらんなぁ」

マナミ「笑いごとじゃないよ!ほんと大変なんだから!ここにだって、今迄みたいに来れなくなるかもしれないし・・・」

キンタロ「えー!マナミと会えなくなるなんていややー!」

チトセ「そげん忙しかね?」

マナミ「めっちゃ忙しくなるよ・・・今度外交も増えるしさ、軍の会議とか政治会議とかにも顔出してほしいんだって」

コハル「あらん、ほな忙しくてマナミちゃん倒れんようにせんとね」

マナミ「ほんと倒れそう・・・でもオイカワがついてるからね!オイカワがなんでもやってくれるって言ってたし!!」

 

そう笑顔を向けたのに。私的には安心していいよ一人じゃないから!くらいの気持ちで言ったのに。

それはもう ウンザリな顔をして(主にザイゼンとユウジ)大きくため息をつかれてしまった。

なんかこいつらオイカワのこと嫌いなんだよな。失礼だよな人の彼氏に向かってさ!

 

ザイゼン「・・・あれほど別れろ言うたのに」

マナミ「なんでそんなことばっか言うのさ!オイカワ優しいよ!?国のために一生懸命だし、私の事だって大事にしてくれてるし」

ユウジ「あほかお前。あいつが大事なんはお前やないやろ」

マナミ「え?」

コハル「ユウ君、やめや」

ザイゼン「でももう成人の議するんやったらええ加減現実と向き合わなあかんのとちゃいますか?」

ユウジ「そうや!なしてお前だけ全部忘れてオイカワのクソと付き合うてヘラヘラ笑うてんねん!!」

マナミ「え、なに言って・・・」

ケンヤ「あかんで、ユウジ」

キンタロ「あー、ワイもあいつ苦手やぁー。大事なまなみのこと奪っていったしなぁ」

チトセ「・・・ばってん、今それを言う時やなか」

ユウジ「ほな今言わないつ言うねん!?よぉ聞けやまなみ!!アイツが大事なんはお前やない!アイツが大事なんはお前の王位継承権だけや!!思い出せや!お前がほんまに好きなんはあいつとちゃうやろ!!さおりのこともそうや、ずっと忘れたままでええんか!?白石はどうなんねん!!」

 

(なに?)

(私の好きな人?)

(さおり?)

(しらいし?)

(なにそれ)

(なに)

 

ズキズキ

 

(頭、いたい、)

 

ズキッ

 

ケンヤ「ユウジ!!ええ加減にせぇ!!」

 

足元がおぼついた私を支えて、そしてユウジを制したのは ケンヤだった。

頭が痛い。心臓もものすごく早く動いてる。なにこれ?なんなの?

わからないけど

 

こわい。

 

ケンヤ「姫様、大丈夫か?」

マナミ「う、うん、なんか、頭がものすごく痛くて」

ケンヤ「息が上がってるやんか・・・今日はもう帰ったほうがええで。迎えは?」

マナミ「今日は来ない」

ケンヤ「ほな、俺が送ってくわ。俺のチャリの後ろ乗ってくとええ」

 

ケンヤは公園の端に止めてた二輪車を持ってきて、そこの後部座席にアタシを乗せた。

 

ユウジ「・・・俺は、わるないで」

 

そう、ぶっきらぼうにユウジが言って、 ザイゼンもなにか言いたげな表情だったけど

コハルちゃんもキンちゃんもチトセもすごく心配そうで それ以上は誰も何も言わなかった。

 

マナミ「・・・みんな、明日、絶対来てね」

 

それだけ言うと アタシはケンヤの二輪車の後ろでゆられてお城に向かった。

ガタガタ揺れる道でケンヤの腰に手を回せば なんだか懐かしい気持ちになった。

 

「あー・・・なぁ、姫様?ユウジが言ったことなんて気にせんでええからな?姫様は今のままずっと笑顔でおってくれればええんやから」

「どうしてみんなオイカワのこと嫌いなのかな?私の王位継承権が欲しいって何?」

「気にせんでええって!姫が幸せならそれで、」

「・・・知らない人の名前言ってたけど、誰のこと?」

「それは・・・」

「ねぇ、ケンヤならわかるでしょ?教えて!アタシ、なにを忘れてるの?アタシが14歳までの記憶がないことと関係あるの?」

 

アタシ、みんなに何かしたの?

 

そう聞くと それだけはない!!姫様は昔からイタズラ好きやけど人を傷つけることはせぇへん! ってケンヤは言った。

 

(じゃあなんでみんなあんなに怒ってたの?)

(アタシ、なにを思い出さないといけないの?)

 

あぁ、頭が痛い。ズキズキと 痛みが消えない。

 

城について、門をくぐった。二輪車から降りたアタシはケンヤにもう一度向き直った。

 

「・・・ケンヤ」

「ん」

「ねぇ、なにがあったのか、聞かせて」

「それはでけへん」

「どうして?ケンヤなら自分だけの感情で話す人じゃないって信じてるから聞くんだよ?ケンヤにしか頼めないよ、お願い、みんながあんなに怒ってたこと、知らない人のこと、私の記憶がないこと、思い出そうとするとこんなに頭が痛むこと・・・ケンヤなら知ってるんでしょ?ねえ、教えて!」

 

そう聞くと ケンヤは、とても困ったような悲しいようなそして今にも泣きだしそうな顔をして

 

「・・・姫様、ユウジはあんなこと言うたけど、姫様は姫様のままでええねん」

 

ズキッ

 

「14までの記憶がなくても、それから一生懸命勉強してこの国をよくするために色々学んできたんやろ?」

 

ズキズキ

 

「・・・俺が知っとんのは、そんな姫様や。自由なフリしてめっちゃ人のこと考えて、破天荒なフリして困ってる人の気持ちにすぐに気づいて」

 

ズキズキズキ

 

「昔からなーんも変わってへん。俺の知っとる姫様のままや。笑顔も全部、ずっと昔から変わってへん」

 

ズキズキズキ

 

(違う)

 

「せやから姫様は何も気にせんと、明日の成人の議を迎えてほしい。ほら、明日は忙しくなるんやろ?早く中に・・・」

 

(違う)

 

私が聞きたいのは

 

「そんなことじゃない・・・!!」

 

痛む頭を押さえながら そう口に出した時

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

高い笛の音が響いた。

 

 

緊急事態発生!もう一人の姫様が森の奥で発見された!医師及び魔術師は早急に姫様の様態を確認すべし!繰り返すもう一人の・・・・・・・

 

 

そう、馬で駆けてきた騎士が叫び

 

( もうひとりの ひめ・・・? )

 

そのあとを馬に乗った数名の騎士が 守るように周りを囲い

 

その中心に 見つけたのだ

 

(あたしと、 おなじかお・・・)

 

まるで眠っているような自分と同じ顔の女の子を見た瞬間

あたしはものすごい頭痛と共に意識を手放した。

闇に包まれた意識の中で ケンヤの声だけが小さく響いていた。

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