第1話:マナミ

気が付いたら好きになってた

 

恋をした人がそう答えると まさにその通り、大納得という感じだった。

私も気が付いたら好きになってた。

顔を見れば嬉しくてずっと一緒にいたくて

それがきっと 恋なんだと思っていた。

 

15歳の夏のことだった。

 

城の姫として生まれたアタシは

こっそり城を抜け出しては、城下町に住む友達の元に言って話をすることが 唯一の楽しみだった。

それ以外は勉強だの作法だの公務だの

城に閉じ込められて面白いことなんて全然なかった。

宝石とかドレスとかそんなのあんまり興味ないしね!パーティーだってニコニコ立ってないといけないから好きじゃない。

それよりも城下町でお百姓さんのお手伝いをしたり、森でウサギを追い回したり

ここの町の人はみーんないい人で 泥だらけになったアタシを笑ってくれて

そんな日々がとっても楽しかったんだ。

 

その日も城を抜け出して街でパン屋さんのお手伝いをしたあと

美味しいパンをいただいたから 友達と一緒に食べながら話していたんだ。

 

ユウジ「パン屋のおばちゃん喜んでたやろ?」

マナミ「うん、お礼にこーんなにパンもらっちゃって」

コハル「マナミちゃんが優しい姫様やから町民みんな嬉しいのよん♪」

マナミ「優しくないよ。ただ職業体験させてもらっただけ」

ザイゼン「ほんま変わった人っすわ」

ユウジ「おてんば姫で有名やもんな」

マナミ「なにをー!?」

チトセ「はー、久々にまともな食事したと!うまか~!」

マナミ「あ!チトセ森で一人暮らしだもんね!!パンたくさんもらったから全部あげる!かえって食べて!」

チトセ「おおお、嬉しか・・・」

ユウジ「お前そろそろ城に戻らんとあかんのとちゃう?」

マナミ「うん、でも大丈夫、後で彼が迎えに来るから」

 

へへっと笑うと その場にいた全員がイヤーな顔をした。

なんだ、失礼だな。別にの、のろけたわけじゃ ないんだからねっ!!

 

ザイゼン「・・・はよ別れればええのに」

マナミ「何それ!え、財前やきもち?やきもち?」

ザイゼン「しばくぞ」

ユウジ「俺もしばきたい」

マナミ「なぜ」

コハル「まぁまぁ・・・マナミちゃんが幸せなら、それでええやないの」

ユウジ「ウッ・・・さすが俺の小春!天使!!」

マナミ「もー、アタシよりも二人の方がラブラブじゃん!見てらんないわ!」

 

いつものユウジとコハルちゃんのやりとりを見て笑っていると

おーおったおった と、声が聞こえた。

 

ユウジ「遅いで!ケンヤ!」

 

振り向くと、そこには 医者の卵のケンヤがいた。

走って来たのか息を切らしている。

 

ザイゼン「仕事終わったんすか」

ケンヤ「お~やっとな」

コハル「勉強しながら病院の手伝いもするなんて偉いわよねぇケンヤキュン♡かっこいい♡」

ユウジ「浮気か!死なすど!」

チトセ「ケンヤ久々ばい。最近忙しそうやね」

ケンヤ「あー、まぁ、この町、医者はうちのおとんしかおらんからな、おれが手伝わな・・・」

 

そう言ってケンヤはアタシの方を向いて よぉ と声をかけた。

 

マナミ「よ!」

ケンヤ「元気やった?」

マナミ「うん、ケンヤは忙しそうだね」

ケンヤ「ちょっとな、けどこれも立派な医者になるための修行や!」

マナミ「えらいなケンヤは」

ケンヤ「姫のがえらいやん、よおがんばってる、ええ噂よお聞くで」

 

そう目を細めて笑う彼の笑顔は どこかアタシの胸をざわつかせる。

目を逸らしたいのに ずっと見ていたいような、不思議な気持ちになる

 

マナミ「もう、姫って呼ばないでって言ってるでしょ!」

 

マナミって呼んで、そう言うと、ケンヤは少し困った顔をする。

マナミ なんて、ユウジもコハルちゃんもチトセも今日はいないけどキンちゃんだって簡単に呼ぶのに

なぜ彼がそう呼ぶことを戸惑うのか 私にはよくわからなかった。

 

「あぁ、ここにいた」

 

その時 その声が聞こえて、私は振り返った。

 

「オイカワ!」

 

白馬に乗った王子様、とはまさにこのことだと思った。

白馬に乗った長身の彼は 夕日をバックにそれはそれは美しく見えたのだ。

 

「愛するマイプリンセス、お迎えに上がりましたよ」

「もうそんな時間?」

「そ。早く城に戻らないと、王室教師がカンカンだよ?」

「えー!先生厳しいんだよなぁ・・・」

「しょうがいよ、きみはこの国唯一の後継者だからね、厳しくもなるさ」

「やっべ・・・宿題やってない・・・」

「俺が手伝ってあげるよ♡」

「え、ほんと!?」

「もちろん。愛する婚約者の君のためだからね」

「やったぁ」

「さ、早く城へ帰ろうか」

「うん♡」

 

オイカワは 私の右手にキスをして それから私を抱えて馬に乗せた。

じゃあまたね そう言おうとみんなに顔を向けたけど

みんなが黙って 暗い顔をしてたから なんとなく言葉が出てこなかった。

 

マナミ「・・・ケンヤ、来たばかりなのにごめんね。また今度」

ケンヤ「気にせんでええよ!ほなまたな!」

 

最後に謙也はニッと笑ってくれたけど その顔がどこか悲しそうで

なんだかわからない後味を胸に残して、私はオイカワの腕の中で馬に揺られて城に戻るのだった。

 

 

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