010***まなみ

「おっちゃん、ガラガラやりにきたよ!」

 

1月4日。

今日も朝から1人で暇だった私はお母さんに「商店街の福引やってきなさい」と大量の福引券を渡されて福引に来ていた。

うちの買い物はもちろん全部商店街だからね。

これだけ貯まるのも当然だわ。

 

それにしても、さおちゃんは忙しすぎて過労死しないだろうか?

立海やばくない?

部活、大晦日と三が日しか休みなかったよ。

今日からまた部活だよ?

やばくね?

さおちゃんゴロゴロするの好きなのに死んじゃうんじゃないかな。

でもさおちゃん、純粋すぎて部活というものをすんなり受け入れている感がある・・・

真面目で責任感も強いから休まないし・・・

さおちゃん返してほしいよ・・・

 

そんなことを考えながら、12回もガラガラを回す。

クリスマスとか年末年始に母さんけっこう出費したな。

 

さすがに12回まわすと、3等のお米が当たったよ!

4等の商品券も当たったけど。

あと残念賞のティッシュとか、スポンジとかばっかり。

個人的には、1位のテレビ(向日電気出品)か特賞の旅行券が欲しかったけど、まぁそれはどう考えても私の運では無理だから最初から諦めてた。

 

「おっちゃん、お米重くて持てない」

「ん?ああ、そうだな、あとで持ってってやるよ!」

「やったー!」

「じゃあそれまで、ここ手伝ってくれねぇか?」

 

みんな休憩なしでやってんだよと、山本のおっちゃんは言った。

(商店街のみんな大変だな!)(自分のお店もあるのにな!)

 

「えー」

「まなみちゃん暇だろ?」

「いっつも暇だと思ってるなおっちゃん!」

「今日はコロッケとメンチカツもつけるぞ!」

「うーん、やる」

 

こうして結局いつも食べ物で釣られるのだ。

だっておっちゃんちのコロッケとメンチカツまじで絶品・・・(´q`*)

(みんな疲れた顔してたしね)(若いアタシが少し手伝ってあげますか!)

 

 

商店街のおじちゃんやおばちゃんと交代で、受付やったり、ガラガラやった景品渡したりお手伝いをしていた時、

 

 

「あれ!?まなみやん!」

 

(ん?)

 

ふと、顔を上げるとそこには、

 

「げぇ・・・」

 

嫌な顔でアタシのことを見るクソメガネのやつがそこにいた・・・

 

「なにしてん!?」

 

そして、そのクソメガネの横から、主張激しくアタシの前に立ったそいつは、

 

 

(やっぱり、)

(髪の毛キラキラ光ってる・・・)

 

 

落ち着きのないソワソワとした動きをしながら、私に声をかけてくるのだった。

 

 

「え!?バイト!?中学生やからバイトではないよな!?」

「手伝ってるだけ」

「おまえ暇そうやもんな」

「黙れメガネ」

「手伝いか!めっちゃ偉いな!!」

「ガクトはおらんのかいな・・・」

「ガクトいるわけないじゃん、セール中だもん。お店手伝ってるよ。ちなみにジロんちは今日から年明けの営業だからめちゃくちゃ忙しくて来れないし(多分役立たずだけど)、亮んちは家族旅行中」

「ほな店行けばおるんやな」

 

そう言うと、メガネはフラフラと向日電気のほうに歩いて行った。

最初から向日電気いけや!

 

残されたおしたりけんやは、めっちゃテンション高く、話しかけてくる。

 

「あ、明けましておめでとう!」

「・・・うん(テンション高いな)」

「まさか今日会えると思うてなかったわ!」

「・・・うん(さみぃ)」

「俺な、初売り行きたくてな、ゆうしたちが東京帰るって言うから一緒に着いて来てん!」

「・・・うん(さおちゃん早く帰ってこないかな)」

「部活、明後日からやねん。やから、明日帰る!」

「うん、で、福引するなら早くやってよ」

「あ、そやった!すまんすまん!」

 

おしたりけんやは、やはり落ち着きがない男だなと感じながら、話しを聞いていた。

(何も聞いてないのに)(なんだか、必死に話してて)

(変なやつ)

 

「さっき服買ったら福引券もらってん!これで出来る?」

「・・・1回だけなら出来る」

「ほな回すわ!」

 

そういうと、おしたりけんやは

 

「浪速のスピードスターや!!」

 

と謎のことを言いながら

 

グルグルグルグルグルグルグル

 

めっちゃすごいスピードでガラガラを回し始めた。

 

(何してんだコイツ!)(落ち着け!)

 

「ちょっと!壊れる!」

「え?」

 

アタシがそう言った事で、驚いたおしたりけんやが手を止めて、

 

いきなり手を止めたもんだから、

 

ぽーーーん

 

と玉がどっかに飛んで行ってしまった。

 

「ちょっと!」

「わぁ、すまん!」

 

おしたりけんやが玉を探しにいって

(あの色は残念賞だな・・・)

 

なんとなく一瞬見えた玉の色で残念賞の景品を持ってくる。

 

「あったあった!」

 

そう言ってやってきたおしたりけんやの手にはやっぱり、残念賞の玉があった。

 

「残念賞」

「えー!!」

「・・・はい、この中から選んで」

 

アタシが残念賞の景品の入ったカゴを目の前に出す。

ポケットティッシュとか、いろいろ小さい景品が入っているそのカゴを見たおしたりけんやは、

 

「うーん・・・これ!」

 

そう言って、カイロを選んだ。

 

「はい、じゃあもう他の人並んでるから行って」

「あ、待って!」

 

そういうと、

カイロを袋から出し、

すごいスピードでもんだと思ったら、

 

「ほなこれ!」

 

そう笑顔でアタシにカイロを差し出してきた。

 

「え?」

「自分、鼻真っ赤やで!」

 

お手伝い頑張ってや!

 

そう言って、ニコッと笑ったあと、

向日電気の方に走って行ってしまった。

 

(・・・なんなの)

(アタシだって、残念賞いっぱい当たって、カイロだってもらったのに・・・)

 

徐々に温かくなるカイロをポケットの中に入れて、

 

アタシはもう少しだけ、商店街の福引のお手伝いをするのだった。

 

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