「急に、すまんかったな」
今日はお疲れ様、めっちゃ混んでたな、大変やったやろ
開口一番に、彼は優しくそう言った。
店長に言われるがまま彼と話をすることになって、近くのカフェに入った。
夜も遅いのに、お店だけじゃなく街もとても人で溢れていて、明日月曜日なのにみんな元気だなーと思いながらお茶を口にした。
(・・・何をいまさら話すことがあるんだろう)
まぁちゃんにすでに離婚してたとしても子供がいると養育費とか一生ついてまわる問題だからやめときなって言われたから
それはそうだと納得した私は、もう彼のことはキッパリ諦めると決めたんだ。
(・・・なのに、なんでだろう)
(なんで私のような小娘に、こんなイケメンの人が)
(何の用事があって来たんだろう)
正直、彼がお店の前にいた時、彼の顔を見た時 ドキッとして胸がすごく早く動いたんだ。
それがどういうドキドキなのかは経験不足な私には、自分自身でもよくわからなかったけど
それでも
なんとなく
嬉しかった。
「昨日のことやけど、ちゃんと話したいと思ってん。俺、ほんまに嘘はつかへん。聞いてくれる?」
「あ・・・はい。私の昨日途中で逃げてしまってすいませんでした」
「いや!あれは俺が同じ立場でもそうしたわ!!いきなりパパ~はないよな、ほんまに・・・あれはないわ・・・」
なんだか落ち込んで見えるその人は
グッと珈琲を飲んで、 それから私の目を見つめて(私はうかつにもドキンとして)
とても真剣な表情で
「俺は嘘はついてないねん、ほんまにあの子たちは姪っ子やし、俺は独身で結婚歴もない」
と、言った。
その目があまりにも真剣だったから
私はなんだか彼から目を逸らせなかった。
(・・・どこまでが本気で、どこまでが嘘なんだろう)
(わからない)
(わからないけど)
信じたいって 思うの。
お店はワイワイと人がたくさんいるし
クリスマスソングが流れてるし
外のイルミネーションは綺麗だし
だから私も そんなことを思うのかもしれない。
何も反応しない私に、彼は言葉をつづけた。
「信じられんのも・・・わかるけど、ほんまに信じてほしいねん」
「・・・パパって、なんですか?」
「それは、」
「今白石さん独身だし結婚歴もないって言ってたのにどうしてパパって呼ばれてるんですか?」
「いや・・・普段はくーちゃんなんやけど・・・」
「え・・・・っ(なんだそれ) 呼び方はこの際どうでもいいんです」
「そうやな・・・。信じてほしいんやけど、俺こないだも言ったけど姉と妹がおってな」
「はい」
「子供の頃からこき使われて、肩身も狭いし、うちはおかんもばーちゃんもみんなきつくて女が強い女家系でな・・・」
「(え・・・めっちゃサマーウォーズみたいじゃん・・・)(なにそれ・・・さかえばぁちゃん・・・)」
「あんまり女性に対して理想とかももってなかったんやけど、それなりに俺も年を重ねとるし今まで女性とお付き合いはしたことあって」
「(その辺あんま聞きたくない話だな・・・)はい・・・」
「めっっっっっちゃ 恋愛運悪かってん・・・」
「え?」
「せやから・・・めっちゃ・・・恋愛運・・・悪かってん・・・」
「はい?」
(え、)
(いきなり何を言ってるんだこの人)
話の意図がわからなくて 頭の中が ????? となった時
彼は 変なスイッチが入ったらしく すごい勢いで語り始めた・・・
「まずよぉ言われんのが ”白石君ってなんか違った” なんか違うってなんやねん!!俺は俺や!!毒草とカブトムシとテニスとお笑いと健康グッズが好きな健全な男やねん!!なのに思ってたのと違ったとかなんか違うとか!知らんっちゅーねん!あとな!!私とテニスどっちが大事なの、私とカブトムシどっちが大事なの、私と友達どっちが大事なの、そんなん比べるもんちゃうやろ!!!答えられんと別れるってなんや!!そんなん言われても困るわ!!」
(え・・・)
(白石さん大丈夫か・・・?)
(なにかトラウマあるんだろうか・・・)
(逆に心配だわ・・・)
よっぽど恋愛でいいことなかったのか、白石さんはしばらく過去の話をして、そしてハッと気づいて すまん と謝って来た。
「いえ、大丈夫です・・・(トラウマスイッチ押してしまった)(沖田組のトラウマスイッチと同じだ・・・)」
「あ、ひ、引かんとってな!?ちゃうねん、なにが言いたいかというと・・・」
「はい・・・」
「せやから恋愛運悪かったからな、ろくな恋愛もしてへんねん・・・それでねぇちゃんがもう俺が傷つかないように、俺が女の子と二人でおるときにはパパって呼ぶように上の子が1歳の時から英才教育してな・・・」
女の子と一緒におるときはパパって呼ばれて、助かった時もあったけど、正直昨日のはないわってめっちゃ落ち込んだんや
そう白石さんは言った。
・・・・
(えーーーーっと、)
(なんか途中から早口だからよく聞いてなかったんだけど)
(つまり、女運の悪さにしびれを切らしたお姉さんが彼の恋愛をことごとく邪魔してきたと・・・)
(そーいうわけでよろしいですか?)
(え!)
(お姉さんにめっちゃ大事にされてるじゃん・・・!)
(なんかそっちのが怖いんだけど・・・!!)
ガクブルとおびえてる私に
「・・・けどな、俺ちゃんと言うてきたから」
と、彼はまた落ち着いて、私の目を真っすぐに見ながら言った。
「今度の子は今までと違う、ほんまにええ子で俺はこの子しかおらんって思うてる、今回だけはそっとしといてくれ、て・・・」
「あ、はい・・・」
「え?あ、ハイって・・・あの意味わかる?」
「え・・・」
(えっと・・・)
わかる
けど
わかりたくもない、ような
というか
こんな人の多いところで なんか なんだろ なに これ なんだ めっちゃ はずかしい・・・!!!!!
カァァァァ と赤くなった私は
わ、わかりました、わかりましたからとりあえずお店出ませんか、と彼に小さい声で言った。
彼は私のその反応を満足そうに見ると(わぁちょっと変態っぽい!)せやな、と席を立った。
(なんだこれ)
信じても、いいのかな
(どうしよう)
こんな経験初めてで わからないんだけど
(・・・嬉しい、)
素直に、そう思った。
近くに車を停めてあると言う彼に言われて、私はおとなしく彼の車に乗り込んだ。
やっぱり運転している彼は すごくかっこよかった。
「・・・さっきの話、本当やから」
「あ・・・ハイ」
「いやハイとちゃうよ!全然わかってないやろ!?俺が独身なのは信じてくれた!?戸籍取ってこようか俺!?」
「え、そこまでしなくても・・・」
「ついでにねぇちゃんと妹の戸籍も用意するわ・・・これで絶対信じてもらえると思うねん」
「いや戸籍は別に・・・」
(白石さんって変な人だな)
(戸籍とかなんとか、もっとクールでかっこよくて余裕ある人だと思ってたけど)
(全然気取らなくって、なんか親しみやすくて、私はこっちの方が話しやすいかも)
きっと彼が素直に話してくれたからだと思う。
今までかっこよくて大人で素敵な彼を前にするとすごく緊張していたけど
いい意味でとても緊張がほぐれて すごく接しやすくなったと思う。
そしてやっぱり、信じたいなって 思った。
(・・・嘘じゃないと思う)
(わざわざ私みたいな小娘にこんなに必死になる理由ないもん)
(モテるだろうし)
(だから)
信じようと思う。
「・・・あの、ちゃんと、言われへんかったから 言わせて」
私のマンションについて 車を停めた時、彼が言った。
「さおりちゃんのことが好きや。本気で、この子以外におらんと思うてる。俺と付き合うてください。」
車で流れるラジオから 恋人がサンタクロース が流れた。
なんだかタイミングよく流れたその曲に、おかしくて笑えば またなんで笑うん!?って焦る彼が見れた。
クリスマスイブに 素敵な贈り物。彼との出会いはきっと奇跡!
サンタさん、ありがとう。
私はコクリと頷いて、満面の笑みの彼に またホッとするのだった。
Merry Christmas!