「んっ・・・」
目が覚めると、一面真っ白な世界にいた。
「あれ・・・?ここどこ・・・」
「・・・まぁちゃん?起きた?」
隣からさおちゃんの声が聞こえて振り向くと、そこにはさおちゃんの姿が。さおちゃんがいたことにホッとしながら、何があったのかを考えた。
(えっと…)(今日は部活が自主トレだけだったから早く終わって…)(そんで、4人でクレープ食べに行こうって話になって…)(あれ?)(4人…?)(あ!!!)
「謙也と白石は!?」
「ここにいんで」
その声に振り向くと、そこには謙也と白石の姿があった。
「先に目ぇ覚めたからちょっと周り見に行っててん」
「そんな…!起こしてくれればよかったしょ!」
「よだれ垂らしてめっちゃ気持ちよさそうに寝とったからな…」
「あれは起こすのためらうレベルやったな」
「なにぃ!」
「まぁまぁ…。それで、何かあった?」
「いや、あかんわ、ここ。真っ白の空間しかないわ」
「え…なんで…クレープ出来ましたって番号呼ばれたところだったじゃん…!あと少しでクレープ食べれたのに…!!クレープ食べたかったよ…!」
「え…まぁちゃんクレープとかどうでもよくない…?」
「どうでもよくないよ!!!!期間限定のブルーベリーヨーグルトソフトミックススペシャル!!!!今日が食べれる最後だったのに…!!!」
「まぁちゃん…」
「いや、ホンマそういうとこ尊敬するし、この状況では逆にありがたいな」
「ほんまやな、冷静になれるわ」
「アタシのクレープ!!!!!」
クレープのために前日からウキウキして寝れなかった私のこの気持ちはどう消化すればいいんだ!!!!!とブチ切れまくっていたところ。
『みな、目が覚めましたか。私の話を聞きなさい』
上から目線の非常に腹が立つ声が聞こえた。
振り向くと、そこには、背景が光り輝き空中に浮かんでいる女の人がいた。
ギリシャとかの女神様みたいな恰好のその人は、蓮二みたいに目をつむっていながらもこちらを見ていた。
アタシたち4人はその女の人に向き直る。
「誰?」
『私は神と呼ばれるものです、愛し子達よ』
「いとしご?」
「え、まさか…!!とうとう!!??」
「まぁちゃん、何か思い当たることがあるの?」
「どっきりGPでしょ!?やば、あ、あれ言っとかなきゃ、許せない!!!!」
「絶対違うでしょ!?空に浮かんでるよあの人!?」
「許せない!!!!!」」
「まってまって、ちょお話進まんから黙っといて!!頼むから!!!」
「かなわんな…ほんで、神様が何の用なん?」
『こことは違う、別の世界を救ってほしいのです…愛し子たちよ』
「救う、とは?」
それから女神様みたいな人の説明によると、地球とは全く別の世界、つまり異世界にいる神様と連絡がとれなくなってしまったらしい。
その異世界の神様が音信不通となって心配で異世界のほうを覗いていた女神様は、異世界が混沌としていることに気が付いてしまった。
魔物が生まれ、魔王という存在が世界を滅ぼさんとしているそうだ。
“魔”の力というのは非常に強力で、あまりにも強くなると神の力も及ばないほどに成長し、逆に神の力が弱まってしまうそうだ。
(ちなみに我々地球はそういったものが蔓延らないように魔物はゲームの世界で倒すように設定されているらしく、魔の循環が上手くいっていると言っていた)
他の世界には干渉できない女神様は困っていた。そこで、自分の管轄する地球から勇者を送り込み、魔王を倒してもらおうと思ったらしい。自分は直接関われないが、少人数なら送ることくらいは出来るらしい。
ただ、異世界に行くにはやはり異世界に共鳴できるような魂を持っていないといけないらしく、手っ取り早く見つけたのがたまたまこの4人だったとのこと。
なるほどね~~~~~~~~~~~~~~~~~ってなるかい!!
なんというご都合主義!!たまたまそこにいたからみたいな理由で!!💢💢💢
そんな恐ろしいことがなぜ!!なぜ我々JKとDKに出来ると思った!?あほなのかこの女神は💢💢💢
「そんなことで!!クレープを!!食べる直前に!!!!💢💢💢」
「いったん、クレープからは離れよな」
「ほんで、助けてくれっちゅーわけか…そんなん俺らにデメリットしかないやん…なんでさおりを危険に巻き込まなあかんねん」
「私怖いの無理だよ…絶対できない…」
「そうだよ!!か弱いさおちゃんに何やらせようとしてんだよ!!!💢💢💢」
『もちろん、こちらも何も報酬もなくやってもらおうとは思っていません』
女神様が言うには、
・異世界の神が戻り、力が復活すれば元の世界に戻してくれる
・時を止めているので、戻ってきた時には直前の行動の続きからとなる(つまりクレープが食べれる!)
・異世界でケガなどはしても死ぬことはない(が、大けがは負う)
・万が一大けがを負っても元の世界に戻る時には、すべてケガも治った状態になる
「うーん、つまり元の世界には普通に戻れるってことやな」
「ほんまに戻れるんか!?心配しかないで!?」
「異世界の魔の力を弱めて、その異世界の神様が復活したらってことだよね?それって何年くらいで出来るんだろう?例えば30年とか経っても、元に戻ってきたらまた女子高生に戻れるってこと?」
『そうです』
「じゃあケガでは死なないっていいますけど、老衰では?年を取って死ぬことがあるということですか?」
『確かに成長はします。成長しないとケガも治らないので。しかし、ある程度の年齢…体が衰え戦うことが出来なくなる前にまたここの空間に戻ってきてもらい、また今の年齢に戻り続きから冒険をしてもらいます』
「え、無限ループじゃん」
「え…年取るけど、ここに戻ってきたら今の年齢にリセットされるってこと…?そりゃ今の年齢で固定すればここに戻った時に元に戻るのかな…?いや、なんか気持ち悪いねそれ…」
『でもそうはならないでしょう、違う世界から来たあなたたちが倒した魔の者は復活しません。完全に消えるので、あなたたちが素早く魔物を退治すればすぐにでも異世界の神が復活し、元の世界に戻ることが出来るでしょう』
「なるほど…」
「ちなみに拒否権は?」
『ありません、時間がないのでこのまますぐに異世界に転移させます』
「え、そんなのやだ、怖いよ…」
「大丈夫やで、さおりは俺が守るからな…!」
「白石くん…!」
「はじまったバカップルめ」
『4人いるので東西南北に一人ずつ分けて送ろうと思います』
「え、やめて、それだけはやめて、マジでやめて、さおちゃんと離れたら死ぬ」
「一人!?絶対無理だよ!!」
「いや、ホンマにそれだけは無理やわ、心配すぎて無理や」
「ちゅーか、その前にこのままいっても魔族って倒せるものなん!?普通のテニス部に魔物との闘いは無理やで!?ボールぶつければ倒せるっちゅーわけでもないよな!?」
『あなたたちが最後に読んだ本からスキルを与えます…では、みな、お願いします』
そう言われたあと、世界が暗転した。
「ん……?」
「あれ、俺ら…、あ、まなみ!!ケガしてへん!?」
目が覚めると謙也がいた。隣にいる謙也は、心配そうに私を見ていた。
あの女神、一人ずつ送るとか恐ろしいこと言ってたから心配だったけど、なんとかそれはやめてくれたらしい…よかった…。
いや、良くないか…さおちゃんが心配すぎてやばい…どうしようさおちゃんが独りぼっちだったら…。
「さおちゃん…大丈夫かな…」
「まぁ…俺らが一緒ってことは、向こうも一緒ってことやと思うから大丈夫やと思うけども…多分…」
「多分ってなんだよ!!さおちゃんが一番心配すぎるよ!!!」
「いや、それ言われるとな、俺も心配やけど、でも俺らも自分たちの心配しようや」
そういわれて周りを見渡す…
緑、緑、緑、緑、一面の緑。
つまり、
「え…森の中…?」
「せやねん」
せめて人類の文化が発展してるところに送ってくれよ!!女神!!!!
アホすぎるだろ!!最初からもう殺す気じゃないかあの女神は!!
「どうしよう…確かにまずは我々の命が危うい」
「せやろ、まずは生き残らんとあの二人を探すことすら出来へんねん」
「うひゃ~…どうしよう…」
「どないしようか…」
「まずは、水を探そうか…水ないと死ぬ」
「…せやな」
そうして、二人で水を探しに歩いていく。
(あーとりあえず謙也がいてよかった…)(一人よりは全然いい…)(さおちゃん心配すぎるけど、白石が一緒にいたらいいな…)
それにしても…歩きづらい!!
信じられないことに二人とも制服にローファーという恰好だった。マジでありえん。森の中、ローファーで歩くとか、マジでありえん、無理だ。なぜこの世界の格好に合わせて送らなかった?女神よ。
例えばこの世界が制服とかある世界なら違和感なく入り込めると思うけど、万が一、転生系小説に多い中世ヨーロッパあたりの雰囲気の世界なら我々魔族どころか人間に捕まって処刑されるのでは…?と思う。
(しかも教科書入ったリュック重いし…!)(いや、アタシはあんまり教科書入ってないけど…)(弁当箱とか水筒とかお菓子ばっかりだけど…)(それでも重いよ💢)(謙也なんてラケットも持ってるから大荷物じゃん!!)(くそ…せめて動きやすい格好がよかった…)
そう思いながら足を進める。多分、水辺はこっちだ。
「…なんかさっきから躊躇なく歩いとるけど、道わかるん?」
「さぁ?でもなんとなくこっちだと思う」
「そうなん?まぁどうせ俺にはわからんし、ついてくけども」
チョロチョロチョロ…
そんな話をしていると、水の音のようなものが聞こえた。
よかった、とりあえずはこっちであってたみたい。
そう思って水源に近いところに進むと…
グルグルグル・・・
ゾッとするような鳴き声に思わず足が止まった。
動物園でも聞いたことのないような、猛獣の・・・おそらく獲物を狙っている声に、周りを見て声の主を探す。
「謙也、伏せて!!」
目の端に何かをとらえた私は、咄嗟にその黒いものから身を屈めた。
案の定、アタシたちを捕らえられなかったそいつは、見事に着地し、こちらに振り向いた。
(でかい…)
そこには2メートルほどの大きな黒ヒョウの姿があった。金色のその目は確実は我々を捕らえている。
そして、こちらに向いてグルグルと喉を鳴らしている。
「うそやろ…」
謙也がぼそりと呟いた。
黒ヒョウは体に黒いモヤモヤを纏わせていた。そして、よく見ると、しっぽが3本ある。
つまり、これは、
「魔物だ」
アタシのその言葉に触発されたのか、黒ヒョウのような魔物がこちらへ向き直る。
普通は怖いはずなのに、なぜか心が昂ぶるのを感じた。なんでだ?なんでこんなにワクワクしているんだ?自分でも信じられない。
なぜだか、目の前の敵とのこの命のやり取りに高揚している自分がいる。どうしたんだ私。普段なら絶対こんな気持ちにならないはずなのに。
「まなみ、俺が囮になるからその間に逃げるんや・・・」
「え・・・何言ってんの、」
「大丈夫や、女神は死なんって言うてたし、死にはしないやろ・・・」
「でも、痛いのは痛いかもしれないよ!?死ななくても、腕とか足とかなくなっちゃったらどうするのさ!!」
「せやって、お前が傷つけられるのは絶対に我慢でけへん!!ええから、逃げ」
我々のそんなやりとりに痺れを切らしたのか、謙也の言葉を遮って魔物がこちらへジャンプした。
鋭いキバと、長い爪を振りかざし、こちらへ危害を加えようとしている。
『あなたたちが最後に読んだ本からスキルを与えます』
その時、ふと、女神の最後の言葉が頭を過った。
アタシをかばって前に出た謙也の後ろから、魔物を見据える。
その瞬間、
パアアアアアア・・・
アタシの手元に、思った通りのものが握られた
「まなみ!!!!にげ」
パアアアアアアーーーーーーン!!
大きな音と共に、倒れる魔物。
その目からは血が流れており、痛みにもがいている。
しかし、それをやったのがアタシとわかったようで、反射的に向き直り、こちらに向かってキバを見せ向かって来ようとした。
パンッ パンッ パンッ パンッ
アタシは追加の銃弾をこめかみにお見舞いすると、魔物は倒れ、動かなくなったのだった。
「え…な、なんでそれ…」
アタシが握っていたのは銃。
最後に読んでいたのは「ゴールデンカムイ」。
アタシはこの世界にきてMA・TA・GIになったのだった。
(だよねぇ…もうあの獲物を見つけた高揚感…アタシは熊と戦って勝つマタギになったんだなぁ…)
無事に水源を見つけ、少し歩くと拓けた河川敷があったのでキャンプを開始した。テキパキとサバイバルをこなすアタシを見て、謙也も最初は呆然としていたものの、アタシが指示したことにすぐに動くようになった。元々は動ける男だったから。とても使える。
アタシのサバイバル術はそれはもう見事なものだった。
もうなんというか体に染みついている。これは間違いなくアイヌの血だ。アシリパさん、谷垣、キロランケありがとう。そして、鶴見中尉のメンタル、ありがとう。
全てを総合しても、アタシはこの森の中で生き抜ける自信しかない。今ならこの森の主になれると思う。
先ほどの黒ヒョウの皮を剥いで、今洗って乾かしている。今の気候は温かめなので大丈夫だけど、これから何があるかわからないし、黒ヒョウの毛皮は持っていこうと思う。他にも爪とかキバとか、剥げるものは剥いでおく。
そして中身の肉の一部をチタタプした。筋肉質かなと思ったけど、意外と美味しかった。謙也はちょっと引いてたけど、栄養源だからきちんと食べるんだぞと言ったらしぶしぶ食べていた。しかし、すぐその美味さに感動しガツガツと食べていた可愛いな謙也。
ただ肉だけだと臭味があるから、森の中で臭味を消すハーブを見つけてそれを入れて肉団子にしたんだ。
本当にありがとう…アイヌの知識ありがとう…今ならアイヌ系youtuberとかでひと稼ぎ出来そう。youtuber嫌いだからならないけど。
でもやっぱり少し味気ないから、海とかあったら塩を作る勢いだ。塩大事。
お腹いっぱいになって一息ついたところで、謙也が神妙な顔で聞いてきた。
「で…スキルやっけ…?最後に女神がいっとったやつ…。あの魔物を倒したんはそれやんな…?」
アタシはコクリと頷いた
「うん、そうだ。これ、アタシのスキルだな」
「いきなり銃が現れたよな…?あれどないしたん…?」
「あいつを狩ろうとしたら手の中にあった」
「狩る…」
「多分、剣も弓も鉈も斧も出せる」
「え…めっちゃすごい…」
「すごいのはアタシじゃなくて先人の皆さんだよ」
アイヌの皆さん、マタギの皆さん、北海道を開拓した皆さん、本当にありがとう。
皆さんのおかげでアタシはこうして無事に生きています。
多分これからも死ぬことはないでしょう…。杉本の強運が味方していると思っている。
手を合わせて思いを馳せていると謙也がぼそりと言った。
「最後に読んだ本か…」
「謙也は最後に何読んだ?」
「最後?なんやろ…それ言ったら教科書やん?授業で読んだし」
「それもそうだな」
「まぁその様子やと、教科書ではなさそうやけど…」
アタシはコクリとうなずいた。確かにそうだな、最後の読んだ本なんて教科書しかないわ。
でも授業で読んだ教科書は免除されているらしい。
あれかな、「好きで読んでるもの」ってことかな。自分が好きで読んだ最後の本…。
つまりそういうことか。
「アタシのスキルは多分【MATAGI】だ」
「え、またぎ…またぎってなんやっけ…」
「関西人の謙也は知らんか…読んでないしなまだ」
「え、何なん…?最後に何読んだらそんなに強くなれるん…?めっちゃ不思議…」
「アタシが最後に読んでたのは《ゴールデンカムイ》だよ」
「ああ、なるほど…!ゴールデンカムイな!!そっかそっか白石か!」
「白石はこのスキルにあまり関係ないかな。っつーか、白石だけ覚えてるよね」
「知り合いの名前のキャラはすぐ覚えられるやろ」
「でも白石とは性格似ても似つかない白石だけどな」
「あと、あの女の子…」
「アシリパ師匠な」
「え!?師匠」
「もう私の師匠だわ彼女は…」
「そうなんか…」
「今なら師匠のおかげでリスもチタタプできる…」
「いや、頼むから目の前でやるのほんまにやめて」
謙也、漫画読むと眠くなるし、いつもせかせか動いてるから、まだゴールデンカムイ貸してなかったんだよな。
そのうち貸そう貸そうと思ってたけど。アニメは最初のほうは見てたみたいだけど、流し見してたからすっごい覚えてたわけじゃないみたい。まぁ謙也ってそういうところあるよな。
ただ、アタシが好きなのは知ってるので、キャラとかは微妙に知ってる。(脱獄王の名前は速攻覚えてた)
「なるほどなー!サバイバル術もめっちゃ手際よかったしなー!!納得やわ!!アイヌすごいな!」
「うむ、アイヌはすごいんだぞ」
「あのアイヌの女の子みたいな感じやもんな!すごいな!無敵やん」
「無敵…なのかな?所詮人間の力だしな…まぁ漫画補正で普通の人間よりは強かっただろうけど、どちらかというと敵を倒すよりサバイバルって感じだしな…まぁ熊にも負ける気はしないけど…」
「いや、充分やん」
「そうだな、魔物に勝てたし、勝てるのかな…。でも魔法とかある世界だったらわかんないよね、魔法とか使われると、こちらは使えないし、アタシが出せるのって北海道開拓時代くらいの武器だし」
「せやな…確かにその通りや…」
「謙也は何のスキル?謙也のスキルがわかればなぁ…魔法とか使えないの?」
「え…魔法とか使えん…と思う」
「異世界転生でチートな漫画とか読んでないの?」
「あー、財前に勧められたけど、読んでへんなぁ…こんなことになるとわかったらめっちゃ読んでてんけど…」
「漫画読むと秒で寝るくせに…」
「否定はでけへんな…」
「まぁ漫画に限らずだろうけど、最後に読んだの何?多分教科書ではないと思うから、自分の好きで読んでた本じゃないかな?何読んでた?」
「本…?本読んだかな…本…毒草白書は昨日の朝、掲示板に貼られてたから新作読んだけど…」
「毒草白書は学校新聞だから本じゃないじゃん…ってか白石が最後に読んだ本とか想像できすぎて心配になってきた。さおちゃん大丈夫かなぁ…絶対戦い向けじゃないじゃん白石…」
「絶対そうやな…うーん、それにしても俺か。覚えとらんな…スマホいじったり、テレビ見たりはするけど、本なぁ…」
そこは現代人の課題だよな。年々本を読まなくなってるみたいだし。
アタシはたまたま読んでたのはゴールデンカムイだったけど、漫画とか興味ない人なら最後に読んだ本が思い出せない人も多いだろうね、現代人はなんでもスマホで済ませちゃうし。
うーん…謙也の好きな本…好きな本…
「あ、謙也あれ好きじゃん!車の漫画とか映画とか好きじゃなかった!?」
「ああ…せやな。車…車………あ!!」
「思い出した!?」
「頭文字Dや…」
謙也がそうつぶやいた瞬間に
ボンッ!!
と、目の前に車が現れた…🚙
間違いない!!イニDだ!!!!
「また古い漫画を…!」
「おおおそうやこの前漫画の棚整理しとった時についつい手にとって読んだわ…!」
「まさかのイニD…ヒロアカとかにしろよ!!ヒロアカだったら無敵だっただろ!!」
「しゃーないやん!こんな状況になるとは思わんかったし!!!!」
「アタシも人のこと言えないけど、ヒロアカが良かった…!まぁこうなったら仕方ない、謙也が何できるかもう少し研究しよ」
「おう…」
二人でいろいろと検証した結果、謙也のスキルは完全に【自動車】だった。
まずイニDに限らず、謙也が知りうる自動車が全て出せた。そしてバイクも出てきた。
そしてそれは数が限られないようで、何台でも出せる。もちろん自動運転可なので、試しに河原にある大きな石に突っ込むように念じたところ、5台くらいの車が突っ込んで炎上した。盛大な交通事故だ。思わず呆然としてしまったが仕方がないことだ。
これを元の世界でやったら間違いなく死人が出ているし、逮捕されているに違いない。
燃え盛る車たちは、謙也が消えろを念じるとすぐに消えた。普通の車も同様で全て謙也の意思次第。
「え…?謙也の能力最強じゃない…?」
怖い、これは恐ろしい。
つまり、魔獣に車を突っ込ませ、轢き殺すなり、爆破させたり自由にできるのである。アタシの鉄砲よりも範囲がデカすぎるから、攻撃力が強い。
そしてめっちゃすごいスピードで走行可能。
謙也が中に入って運転して感動していた。謙也はまだ高3の17歳だから免許持ってないけど、誕生日が来たらすぐに免許取りたいって言ってたし。
運転の仕方がわからなくても、自動運転できるのと、謙也の意思でも運転できるから簡単に動かせるらしい。
イニDの世界みたいに運転技術が超うまい。
謙也はめちゃんこ感動していた。
「やば…めっちゃ感動や…これは感動…好きな車出せるって最高やん…?」
「最高すぎるな…マジで…謙也最高だな…」
「せやろ…?惚れ直した…?」
「うん、惚れ直したから結婚してやる」
「う、え、あ!?」
「いや、真っ赤になるならその手の冗談言うなよwその手の冗談でアタシに勝てたことないしょw」
「しゃ、しゃーないやん!!慣れてへんねん!!ま、まぁこれで移動が楽になったな!!!」
「マジで最高!!ありがとう謙也!!」
そう、謙也はイニDに限らずあらゆる種類の車を出せる能力を賜ったのだ…。
つまり・・・
キャンピングカーも出せたのだった!!
最高すぎる…アタシはキャンピングカーの中のソファでゴロゴロしながらそう思った。
youtubeで億単位のキャンピングカーを一緒に見たことあって良かった…!トイレとシャワーとキッチン付き、ホテル並みのベッドがあるキャンピングカーを見たことあったからすんなり出てきた…。最高…!
このキャンピングカーってトラック並みにデカいから場所はとるけど、この森みたいに広いところなら普通に出しておけるし。街中では無理だから、逆に森の中で目覚めて良かったのかもしれない。街中では絶対出せないもんな…。
そして何より最高なのは、持ち物をしまっておけること…!
車に持ち物をしまって、そのまま車を消すとどうなるのか実験したところ、同じ車を再度出した時は、前に使ったまま出てきた。もちろん荷物とかも全部そのままで。
本当に最高すぎる。これで重たいリュックを背負って歩かなくてもいい…。何かあれば荷物は置いて気軽に外を歩ける…。
食べ物はアタシが狩ってくれば、キャンピングカーの中のキッチンで料理出来るし、アタシと謙也は簡単に衣・食・住を手に入れてしまった…。
と、なると、やはり心配なのはさおちゃんのことである。
(さおちゃん大丈夫かな…)
(白石と言えば絶対最後に読んだのあれだろうし…)
(しばらくは山菜中心の食事とかかな…めっちゃかわいそうさおちゃん…)
(いや、そもそも一緒にいるかわかんないし、山菜中心の食事だとしても白石と一緒にいるほうがましだな…)
(それにしても、さおちゃんは最後に何読んでたっけ…?)
(それこそヒロアカとかならいいな…最近新刊出たのなんだったかな…絶対最近でた漫画読んでるはずだけど…)
(どうしよう悪役令嬢ものだったら…!!)
(いや、あり得る…!!悪役令嬢ものありえすぎる…!!)
(悪役令嬢なんて、なんの役にも立たないしょ…!チート級な能力が使えるならいいけど、ただの恋の駆け引きとかの悪役令嬢ものなら最悪だ!!)
(さおちゃんの好きな漫画…あ、つづいさんとかでも詰んだな…ただのオタクの話だったら最悪だ…あとは、聖☆おにいさんもさおちゃん好きだな…あれは神様だから大丈夫なのか…?神の力を手に入れたら確かに無敵かもしれないけど、神っぽいことはしてない漫画だからな…!)
(ドクターストーンとかでもただ科学の力使うだけだからな…だめだわ、やっぱりチート能力で無双できるくらいじゃないと安心できない…!)
(どうか、さおちゃんが最後に読んだのがヒロアカでありますように…!とりあえずさおちゃんが苦労しない本でありますように…!)
そんなことを考えなら、キャンピングカーに乗ったアタシたちは最初の街に進むのであった…