新しく始めた美容関係のお店は瞬く間に評判になってガッポガポです!
元々公爵家で他の事業もしていたし、領地も潤っていたので、かなり裕福だったけど新しい事業を始めたことで更に資産が増えるらしい。そうなると王家(国)に支払う税金も高くなるわけだ。
税金が高くなるとどういうことになるか。
今まで以上に王家は我が公爵家には強く出られなくなる。そりゃそうだ。国だってお金欲しいし、高額納税者は出来るだけ手放したくないから。
そうなると、貴族感のパワーバランスが崩れる。
すでにかなり裕福で優待されている我が家がこれ以上資産を増やすと困ることも多いらしい。
だから、今回の美容関係のお店に関しては新たに事業を起こして、その代表は私たちにしてもらった。公爵家の資産ではなく、私の個人資産になるようにしてもらったのだ。
ついでに先日起こしたハンバーガーショップも新たな事業として起こして、そっちはまぁちゃんの個人資産になるようにしてもらった。
こうすることで、相続税とか余計なものもとられずに、全て売上から経費を抜いたお金は我々に入るようになった。
まぁつまり、そういうことですよ。
食品部門、美容部門はこれからも大きくなっていくと思うから、そうなるとね。ほんと、そうなるとね…。
でも、私自身がオーナーであることは世間には公表していない。
お金持ってる令嬢なんて悪いことにしかならないですよ。
誘拐されたり、釣書も増えるだろうし、お金目的で近づかれたら困るから、代理の承認を立てて公爵家でやってる事業だけど代理の人に一任してるよ!っていう体でやってる。
そうすることで我々自身がお金を持っていることは隠せるからね。
だけどそんなこと関係ないくらい公爵家が資産持ってるから意味ないんですけどねー・・・(遠い目)
普通に公爵家の支援目当てでめっちゃお見合いの申し込みがねー・・・(遠い目)
「おばあ様、どうしても行かなければいけませんか?」
「当たり前よ!ぜひあなたも一緒にって言われているのよ!」
「でも…」
「ふふ、これはチャンスなのよ?良い方に見初められたらいいわね」
「はぁ…」
あまりにもお見合いの申し込みが後を絶たない公爵家は、本日、王城で開かれるお茶会というなの「お見合いパーティー」に強制参加である。
私たちLOVEのお父様は本日おじい様と外交があるとかで、おばあ様に無理矢理連れていかれる感じである。
お父様、ガチ泣きして「行くな!」って必死だったけども…。
おじい様とおばあ様が問答無用でタッグを組んでいろいろ計画していたのを知ってる…。お父様、お仕事ならサボれないし、泣く泣く諦めていたの知ってる…。
王城で開催されるお茶会は、夜のパーティーと違って気楽に楽しめるものになっているみたいで、夜ほどギラギラした装備ではない。
もっと軽い感じの装いだけど、逆に明るいところで見られるので、ご令嬢たちは気にするのだとか…。
主催は王妃様で、恋バナ大好きな王妃様はこうしてお茶会を開催しては若い人たちをくっつけて楽しんでいるようだ。なんと悪趣味な…。
そして今日もまぁちゃんはいない。
「さ、二人とも!お茶会へ行くわよ!」とおばあ様が乗り込んできた時、すでにまぁちゃんの姿はなかった。
なんと…。
まぁちゃん…。
きみは忍びか…。
おばあ様は怒っていたので、多分帰ったらまぁちゃんは怒られると思う。お茶会とか夜会に出席するよりも怒られるほうがマシと言っていたまぁちゃん…きみはそこまで。
知らない人の中に放り込まれても、きみのほうが上手くやれるだろうに…。私は社交スキル0だけどこの世界ではむしろニコニコと話を聞いて、「まぁ」「そうでしたの」「あらあら」と適当に相槌を打っているのが正解なので、とりあえず何とかなっている。
淑女にトークスキルが求められなくてよかったと心から思っている。
そうこうしている間にお城について、馬車のドアが開けられる。
私とおばあ様は馬車から降りて、お城の庭園に案内された。
そこでは招待されている若いご令嬢やご子息が揃っていた。もちろん、騎士たちも若い人たちで取り揃えられている。そこまで用意バッチリとは、王妃様やるな…。
あの俺様王子の母親とはとても思えない…。
そんなことを考えていたら、俺様王子がいた。婚約者いるって言ってたけど、一人だなぁ、エスコートしてないのかなぁと思ったら、王子の婚約者様は他国のお姫様らしい。
他国のお姫様で年下なので、今必死に王妃教育を頑張ってるって言ってた。なるほどね。
王妃様と王子様に近づきおばあ様がご挨拶をする。
王妃様とお母様は仲が良かったから、なんだか王妃様が私のことも娘を見るように優しい視線を向けるものだからいたたまれないわ。私王妃様の娘のように扱われても恐れ多すぎて胃がキリキリする。
私は適当にほほ笑んで、お話が終わり次第その場から離れた。
「サオリ様!」
名前を呼ばれて振り向くと、以前夜会でご一緒になった皆さんがいた。
丸いテーブルを囲んでお話していたので、おばあ様に断って私もその輪に加わった。
「ごきげんよう、皆さん(ほわ~良かった知ってる人たちいて!)」
「昼間のお茶会ではお会いするの初めてね!」
「もう、コレット、はしゃぎ過ぎはみっともないですわ」
「ふふ、やっぱり呼ばれてたのね、サオリ様も」
「お相手が見つかるまで呼ばれ続けるからねぇ王妃様のお茶会」
「え…(マジか)」
「今日はシンプソン公爵様はいらっしゃらないの?」
「お父様はおじい様と一緒にお仕事があって…」
「あ~残念。オルガ様のお顔を明るいところで見れたら幸せだったのに~」
「レイチェル!はしたないですわよ!」
「未婚の方ばかりのお茶会だからオルガ様はいらっしゃらないわよ」
「オルガ様はエミリア様を心から愛してらしてるものねぇ…」
「今もなお…よねぇ…」
「素敵…」
ほうっとなってしまったお嬢さまたち。大丈夫かきみたちは??毎回お父様とお母様のお話で盛り上がってるけど、なんか伝説みたいになっちゃってるのかな???
むしろ、私の知ってるお父様はいつも全力で私たちの結婚を握りつぶすブラックな笑顔のお父様なんだが???
お父様素敵だと思うけど、実の父親だしなんとも思わんわ…。
みんなが夢の世界へ旅立ってしまったので周りを見ると、赤い髪の騎士様と目があった。すぐに目をそらすと、他の男性とも目が合う。
あれーなんか男の人たちみんなこっち見てない???
そうだよね、ここのテーブル顔面偏差値高いもんね???すごいかわいい顔してるもん、ここにいるご令嬢たち。
すると何人かの男性たちが近づいてきた。
わーこのテーブルは安全地帯だと思ったのになー。
「レディたち、話が盛り上がってるところ失礼、俺と一緒に話でもしないか?」
「オ、オスカー様!?」
「ハァイ☆良かったら一緒にバラ園でも見に行かない?」
「オリヴィエ様!?」
「ねぇねぇ、あっちに美味しいお菓子があったよ!一緒にどう?」
「マルセル様!?」
「ふふ、あちらでハープの演奏でもお聞きになりませんか?」
「リュミエール様…!」
ひょえー、顔面偏差値高い女子の周りに顔面偏差値高い男性陣が…!なんてこったい…!/(^o^)\
皆さん、頬を染めてかわいらしいじゃないの…
私と言えば前世の記憶もぼんやりあるし、精神年齢が高いと言えば高いけど、ただの喪女のオタク女であったことばかりしか思い出せないので、男性に慣れていないのである。
それぞれエスコートされて、「サオリ様もご一緒に…」なんて私のほうを見て行ってる彼女たちは本当に愛らしかった。
ぜひ皆さん良縁に恵まれて幸せになってもらいたい…。
私はニコリとほほ笑んで「おばあ様のところに行きますので」とお断りした。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてなんとやら!
全員男性陣にエスコートされてフェードアウトしてしまい、どうしたものかと考える。おばあ様は他のおうちの付き添いでやってきたご婦人たちと楽しそうである。
う~ん、楽しんでいるところを邪魔するのも悪いしなぁと、せっかくだからお城の庭園を探索することにする。
なんてったって、ディズニーランドで見たシンデレラ城よりお城も大きいんだから!
お庭も広くて、それこそディズニーランドくらいの敷地面積にたくさんの建物も建っている。
さっき言ってたけど、バラ園とか噴水とか、いろんな場所もあるんだろうなと思い、フラフラと探索する。
(うわ~お城めっちゃキレイ…夜会出来たことあるけど、昼間見たらすごいかわいい~)
(ファンタジーだ~素敵~)
今日は若いご令嬢やご子息がたくさんいることはわかっているのか、お城を守っている兵士の皆さんも軽く会釈をするだけでいろいろと見て回れた。普段は多分絶対にこんなにフラフラ出来ないんだろうと思う。
さすがにお城の中までは警備が厳重で入れないけど、庭園の近くならフラフラOKみたいだ。
あちこちでお茶会の中でいい雰囲気になったカップルを見かけた。みんな二人きりになりたいなんて積極的ね…。
そう思いながら、足を進めると、温室のような場所を見つけた。
比較的日当たりも良い温室は、なんと…
「すごい…!宝の山…!」
私は感動した。
なぜなら、薬草がたくさん生えていたからだ!
あの森の中でお母様とまぁちゃんと三人で過ごしていた日々。元々小屋の持ち主だったおばあさんの本棚に薬草図鑑があった。
体の弱いお母様に元気になってもらいたいと思って、必死に覚えたものだ。
実際、私たちは医者に行くことも出来なかったから、薬草に助けられたことも何度もあった。
元々庭にかなりの薬草が生えてたけど、森を探索中に薬草を見つけたら庭に植えて増やして、軽く100種類近くの薬草があったと思う。(庭というか、森の中だからどこもかしこも庭なんだけど)
だから、私にとってはこの薬草たちは本当に宝の山だと思った。
(なるほどね、)(王城だもんね!)(そりゃたくさんの種類の薬草があるよね!)(何かあった時にすぐ対応できるように)
私がふむふむとその薬草たちを見ていると、足音が聞こえた。
誰か来たのかなと足音のほうを見てみると…
(!?)
相手も目を見開いて私のほうを見ていた。
(クラノスケ殿下…!)
私は急いで頭を下げて礼をする。
隣国の王族だ。失礼のないように心がける。…というのは建前で、あまりの麗しさに直視できなかったからだ。
(やっぱり…)(ものすごくかっこいい…!)
何度見ても前世も合わせてもナンバーワンだ!!とにかく私の好みドストライクの王子様すぎてやばい。
直視できない本当に。
顔を見たら心臓が口から飛び出しそうだったので、このまま頭を下げたまま去ることは可能だろうかと考えていた時、「顔、あげて」と声が聞こえた。
恐る恐る顔を上げようとするも…
(眩しすぎる…!)
やはりその神々しさに目がくらむ。
そういえば以前出会った時は夜会で、しかもバルコニーという周りの暗い中でお顔を拝見したのだった。薄暗い中でも、気絶しそうなくらいカッコよかったのに、明るいところで見るそのご尊顔はもう神のように光り輝いて見える。いやもう神じゃないだろうか。この人は人間ではない。だからきっとこんなにも美しいのだ。
そんなことを考えていた時、「シンプソン公爵家のご令嬢とこんなところで会えるとは…」と呟きが聞こえた。はぁ、声までかっこいいとはどういうことだ…。
しかしいつまでも何も言わないままでは言われない。
私は意を決して挨拶をした。
「ご、ごきげんよう、殿下」
「ごきげんよう、シンプソン公爵ご令嬢。覚えててくれたんやな」
「はい、先日はパーティーでお声がけくださり、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。…今日はどないしたん?」
「あ、今日は…」
「あ、もしかしてお茶会に参加しに?」
「は、はい、そうです」
「あ~せやったんや…アトベくんから誘われとったんやけど、それなら参加すれば良かったわ。こんなところで何しとるん?」
「えっと…夜会以外でお城に来たことがなかったので、少し探索をしておりました…。そしたらここを見つけて」
「せやったんか、けどここじゃ楽しめんやろ、庭園まで一緒に行こか?」
「え、いえ、もう少しここで植物を見ていたいと思っておりまして…」
「…なんで?興味あるん?ここにあるの、なんの植物かわかるんか?」
「え、ええ…一応…」
「え、ほんまに?ほな、これは何かわかる?」
「それは…オオバコですよね…?咳とか炎症に効果がある…」
「…ほな、これは?」
「イチヤクソウですよね?止血に使える…」
「…すごいな、正解や。どこで薬草の知識を?」
「あの、母がカラダが弱かったので、本で調べてよく煎じておりました」
「なるほど…まさか薬草に詳しいご令嬢がおるなんて思わんかったわ」
「そうですよね…」
「ああ、褒めとるんやで?大体女性はきれいな花は好きやけど、薬草はただの草っちゅー認識の人も多いしな」
「そうですよね…でも私は普通の花よりも薬草のほうが好きです」
「…へぇ」
「本当に助かったんです、薬草があったからきっと私たち生きていられたから…傷口に当てると化膿せずに早く傷を治してくれるものや、腹痛に良いものとか。煎じたものをいくつか瓶に入れていつでも使えるようにして、あの頃は本当に必死で…」
「…」
「…あ、ごめんない。こんな話。殿下にする話ではなかったですね…あまり貴族の令嬢が話すことではないと祖父母から言われているので、内緒にしてくださいね」
(あの頃の生活のことは内緒だった…)
祖父母からは野生児みたいな生活をしていたことは内緒にしなさいと強くいわれていた。気を使ってあまり深く聞いてくる人もいないけど。
多分、貴族がそんな生活をしていたとなれば、仕方がないこととはいえ、醜聞になってしまうから。
余計な話をしてしまったと思い、焦っていた私に、殿下は少し笑いながら意外なことを言った。
「俺な、毒草が好きやねん」
「…毒草、ですか?」
「俺もこれでも王族やし、たまに毒殺されそうになるんやけど」
「え」
「耐性つけるために毒草を少しずつ煎じて飲んでてな」
「あ、聞いたことあります…王族の方は毒殺されないように少しずつ毒を接種してカラダをならしていくのは…」
「せやねん、今ではそれにハマりにハマってもうて、どんな植物がどんな毒になるかめっちゃ興味あってな、ついでに薬草にも興味が出て、そんで医学も勉強中なんや。毒と薬は紙一重って言うからな」
「な、なるほど…確かに薬草も量を間違えると毒になってしまうので、分量だけはしっかりと計って使用していました」
「な、そこが面白いねん、奥が深いなーて思うて。どっちかっちゅーと毒草調べてる時のが好きやな、どれくらいの効果出るか調べんのが楽しい」
「はぁ…」
「けど、毒草が好きなんて言うたら良からぬことを考えとるんか、って疑われんねん。せやからな、これは俺の秘密や」
「秘密…」
「これでお相子やな、お互いの秘密知ったもん同士や」
俺のことも内緒にしてな、
そう笑ったクラノスケ殿下から、私は目が離せなかった。
(やっぱり、)(きれいな人…)(そして、優しい人…)
普通の王侯貴族なら、きっと私の話は顔をしかめてしまうような内容だろう。手ずから薬草を作って使っていて、そんな庶民みたいなこと。
それを嫌な顔ひとつせずに聞いてくれたどころか、自分の内緒の話まで教えてくれるなんて。
こんな人、きっとなかなかいない。
(あーやばい)(これはまずいかも)
心臓がバクバクと音を立てている。
(絶対に、結ばれない人なのに)(婚約者がいて、彼との未来はないのに)
好きになっちゃいそう
「わ、わかりました、内緒にします!墓場まで持っていきますから!」
「そこまで!?はは、めっちゃおもろいな」
「ぜ、絶対、内緒にしますね」
気合を入れた私に、クラノスケ殿下はしばらく笑っていて、それからふたりで薬草と毒草の話をした後、私がいなくて心配したおばあ様の命令で私を探しに来た侍女がやってきたので、殿下と別れてまた庭園まで戻ってきた。
別れ際に「今度ぜひお茶でも」と誘ってくれた殿下に社交辞令でも嬉しいなと思いながら笑顔を返した。
姿が見えなかった私を探していたおばあ様に謝り、ちょうどお開きということでお城から去ったのだった。
馬車の中でもおばあ様に怒られる。
「どこに行っていたのですか、あなたとお話したいという男性がたくさんいたんですよ」
「はぁ…ごめんなさい」
「次のお茶会では絶対にいなくなったりしてはいけませんよ」
「はい…わかりました」
「●●侯爵の次男の××様や、騎士の〇〇様もあなたを探していたのですよ」なんて知らない男性の名前を聞きながらも、頭に浮かぶのは彼のこと。
なんだかあの笑顔が忘れられなくて、そしてそのたびに彼との未来はないことを思い出して、なんだか胸が痛かった。