年上彼氏と年下彼女⑦

 

「あのー・・・白石さん・・・」

 

 

私場違いな気がするんですけど・・・

と、さおりちゃんは言うた。

 

 

「ん?全然やで?あ、ワイン初心者なんで飲みやすいのがええんですけど」
「かしこまりました。ピション・ロングヴィル・コンテス・ド ・ラランドはいかがでしょうか?こちら20年物になります」
「あぁ、それならええかも。ほなお願いします」

 

 

ウェイターさんが離れて さおりちゃんがもう一度こそっと でもここ値段が違います! とか言い出した。

 

 

「いや、せやからそれは平気やで?服もさおりちゃんに似合うの贈ったし・・・すごい似合ってるで?」
「でも私こんな高級レストラン・・・」

 

 

と、さおりちゃんはさっきから周りを見渡して落ち着かん様子やった。

 

 

(うーーーん)
(こういうのはあかんかったか・・・?)

 

 

今日は3月14日
ホワイトデーや。

 

 

 

俺はさおりちゃんがバレンタインに作ってくれたグラタンが嬉しくて嬉しくて嬉しくて
浮かれすぎて「最高のお返しをせな!!!!」って思うて
でも最高のお返しってわからへんから姉ちゃんとゆかりに 何をお返ししたら最高やろか? と聞いたら
「ええか?くらのすけ。男は甲斐性や。とにかく貢げ。余裕のある財力を見せれば大概の女は安定を求めて安心する!この人となら一緒におっても安心やって落ちる!ええか!男は金やで!そこまで惚れた子がおるんなら手を抜いたらあかんで!!!」
と、言われた。

いや

今までなら

「あほくさ」とか「さおりちゃんはそんな子やないで!」とか言うてたと思うし
俺は顔や金でしか見てこない女の子は好きやない。さおりちゃんはそういう子でないから惚れたんや!
でもこの時俺は 「さおりちゃんを喜ばせたい」「自分は特別な存在とわかってほしい」「もっともっと笑ってほしい」「俺にもっと惚れてほしい」なんていろんな思いが混ざっとって
ちゃんと ”さおりちゃんのため”って本来の目的を見失っとったかもしれん・・・

 

 

六本木のドレスコードのある高級レストランを用意した。
さおりちゃんがその場所で戸惑わないように事前に姉ちゃんたちに選んでもらったワンピースと靴も彼女へ贈った。

 

 

絶対に喜んでくれる!!

なんて、なんの根拠もない間違った自信で 満ち溢れとったんやけど。

さおりちゃんはずっとソワソワと落ち着かない様子やった・・・

 

 

 

 

「ワインでございます」

 

 

ウェイターがテイスティングのワインを俺のところに持ってきて 一口飲む
これでいいですと言えば 俺と彼女のグラスに注いでくれた

 

「・・・さおりちゃん、バレンタインに手料理作ってくれておおきにな。今日はゆっくりしような」
「は、はい」

 

 

俺がグラスを持って 彼女の方へ傾けると 彼女も慌ててそれに合わせてグラスをカチンと合わせて乾杯をした。

 

 

さおりちゃんあんま酒飲めへんから飲みやすいの選んだつもりやけど
彼女は一口ほんの少しだけ靴に含んで そのあとはワインに口をつけへんかった。

 

(・・・)
(・・・・なんか)
(すごい委縮してるなぁ・・・)

 

 

「さおりちゃん?ワイン、口に合わへんかった?」
「あ、えっと・・・」
「これ飲みやすいと思うたんやけど・・・」
「・・・・す、すいません」
「いや、ええねん!ほな何飲む?カシスオレンジとかもあるで?」
「えっと・・・なんかすごい緊張しちゃって・・・あの、み、水で、いいです」
「え、いや、ほなお茶頼もうか?」

 

すいませんおちゃ・・・て言うたらお茶はないと言われてしもうた(oh……)
とりあえずソフトドリンクを頼んで彼女に渡す。

 

 

(どないしよう)
(彼女が全然・・・笑ってくれへん)

 

 

昨日まで どこに連れてってくれるのか楽しみだな って電話の向こうで笑うてたのに

 

 

 

(あーーーーーー)
(完全に間違えてもうたわ)
(何が金や!!さおりちゃんはそんな子やないやろ!!)
(こんな高級レストランで喜ぶ子やないねん!!)
(なのに・・・なんで俺間違えてもうたんやろ・・・)

 

 

 

この子は植物園で ニコニコと笑うてんのが一番似合う子やのにな・・・

 

 

 

それでも料理は食べ方やマナーがわからないと戸惑いながらも
おいしい、こんなにおいしいご飯は食べたことないです
と彼女は笑顔を見せてくれた

 

 

(気を遣わせてもうたな・・・)

 

大失敗に終わったエスコートはデザートを食べたら食後のコーヒーを待つ間もなく終了した・・・

 

 

 

 

 

帰り道

 

 

 

俺の贈った靴を痛そうに履く彼女・・・

 

 

(あぁ)
(靴擦れしとる・・・)
(最悪や俺・・・)
(なんでこんな・・・)

 

 

 

「さおりちゃん、すまん」
「え?」
「・・・もうちょい付き合うてくれる?」
「あ、は、はい・・・大丈夫です・・・」

 

 

まだ時間も早いですし、と彼女は足を隠しながら言うた

 

 

 

(10も下の子に)
(こんなに気を遣わせて)
(・・・俺、なさけな・・・)

 

 

「ほな、ちょっと待っとってな」

 

 

 

俺は彼女をその場で待たせ 少し道路の方に立ちタクシーを止めた
そして驚く彼女を抱きかかえ タクシーに乗せた。

 

タクシーは俺の家の前について

 

 

また彼女を抱えて 部屋に入った。

 

 

「あああああああの、あの、白石さん」

 

 

顔を真っ赤にした彼女が声を絞り出す

 

 

「あぁ、すまん、玄関に座らせるけどええ?」
「も、もちろんです、おろしてください・・・」

 

 

 

彼女を座らせ、靴の前にしゃがみ 彼女の靴を脱がす

 

 

「え!?し、白石さん!?」
「はぁ・・・やっぱり・・・」
「え、え、」
「靴擦れ・・・血出てるやんか・・・」
「ごめんなさい!!せっかくいただいたのに・・・ヒールの靴あまり履き慣れてなくて・・・ごめんなさい!!」
「なんで謝るねん!?」
「だって・・・私せっかく素敵なレストランに連れてってもらったのにマナーも知らないし・・・せっかく可愛い服いただいたのに似合わないし、靴擦れはするし・・・」

 

 

ごめんなさい

 

 

泣きそうな顔で彼女はまた 謝った。

 

 

 

「・・・・・・謝るのは 俺のほうや」
「え・・・・?」
「すまん・・・俺・・・ちゃんとさおりちゃんのこと考えてへんかった・・・高級レストランも高い服もさおりちゃんのことを笑顔にはしてくれへん・・・」
「そんな、そんなこと、ないです・・・緊張したけど初めて食べたフランス料理は美味しかったし・・・ワンピースもパンプスも嬉しかったです」
「ごめんな・・・さおりちゃん、ほんま・・・」

 

 

 

気を遣わせるつもりも けがをさせるつもりも そんな顔をさせるつもりもなかってん・・・

 

 

俺はそっと 彼女を抱きしめた。

 

 

 

「・・・年上なのに、情けないよな、俺。さおりちゃんを相手にしたら全然上手くでけへん・・・かっこ悪くてほんまにごめんな・・・」

 

 

頼むから、愛想つかさへんで・・・

そう抱きしめる腕に力を籠めると

彼女も ギュウと 力強く抱きしめ返してくれた。

 

 

「そんなことあるはずありません・・・!それに愛想つかされるなら私の方で・・・ごめんなさい、もっとあなたにふさわしい女性になります・・・私がんばりますから・・・」
「さおりちゃんはそのままでええねん!!俺が情けないだけで・・・俺さおりちゃんのこと一生笑かしたいって思うてたのに、守ろうて決めてたのに、ごめんな・・・」
「守られてますよ・・・だって私すごく幸せです・・・白石さんと付き合ってから毎日・・・」

 

 

そうそっと 体を話して見た彼女の頬は少し赤くなっていて 潤んだ瞳に 恥ずかしそうなその表情

 

 

(あぁ)

(あかんな俺)

(やっぱ)

(好きやわ)

 

 

 

俺はそのまま  そっと彼女にキスをした。

大切にしようとか 守らなとか がっついたらみっともないとか 男のプライドとか

そんな思い、全部 考えられないくらい  自然に体が動い取った。

 

 

(・・・どないしよ)
(今日いっぱい情けないところ見せてもうてんのに)
(・・・好きで好きで どうしようもない)

 

 

「・・・すまん、突然」
「・・・」
「・・・初めてのキスやと思うたから・・・もっとロマンチックなところでとか色々考えててんけど」
「・・・」
「好きすぎて、止められへんかった」
「・・・」
「ごめんな、こんな玄関で・・・」
「・・・」
「・・・さおりちゃん?嫌やった?」
「・・・いえ・・・・・あの、私・・・白石さんから見たらすごい子供だから・・・女として見られてないと思ってて・・・」
「え?」
「・・・だから・・・嬉しかった、です・・・やっとしてくれた、って」

 

 

彼女が言い終わる間に

もう一度 口をふさいだ

 

 

 

「・・・なんやそれ そない可愛いこと言われたら 止まらへんで」

 

 

さおりちゃんは顔を真っ赤にして

 

 

なんやろ、 お!これでこそさおりちゃんの反応や・・・! と思うてしもうて
愛おしくて 笑ってもーた

 

 

「ハハ!その反応・・・!」
「ちょ、わ、笑わないでください・・・!!」
「すまんすまん、いや、可愛くて可愛くてたまらへんわ」

 

 

 

・・・けど あんま煽ること言わんといてな?俺も我慢の限界やから

そう耳元で囁くと また彼女は 顔を真っ赤にした

 

 

 

「・・・フハ、ほんまかわええ」
「・・・!」
「・・・大丈夫、今日はなんもせぇへんで。今日はな?けど俺はさおりちゃんの男やからさおりちゃんとはいつでもそういう関係になりたいと思うてること忘れへんで」
「!!!」
「今日はまず靴擦れの手当てするわ。ソファまで運ぶな」
「ひ、ひとりで歩けます・・・!」
「いや歩かせへん、俺はさおりちゃんのことめちゃくちゃ大切にするし甘やかすて決めとるからな!少しでも怪我したら毎回こうやから」
「!!」
「・・・せやから、我慢せんでな。痛かったら痛いて言うて。つらかったらつらいて言うて、そんなんで呆れも怒りもせへぇんから・・・」

 

頼むわ、と言うと 素直にコクンと頷く彼女。

 

(あぁ、やっぱ愛おしい)

 

 

その日、初めて彼女はうちに泊まった。

もちろん、ゲストルームに泊まってもろうたし、手は出してへん。
けど甘い雰囲気も作れるようになったし 少し彼女が素直に甘えてくれるようになったように感じる。

 

 

結果的に前進!
部屋は違えど 俺の家に彼女がいることを嬉しく思いながら 眠りについた。
明日起きたら・・・のんびりドライブでも行こうかな と考えながら。

 

 

(しかしまなみちゃんにめっちゃ叱られそうやな・・・)
(さおりちゃんは大丈夫って言うてたけど)
(ほんまに大丈夫かいな・・・)

 

 

 


 

 

 

ホワイトデー!
手作りのお菓子もろたからな!!
めっちゃ奮発してたっかいお菓子用意しとったんやけど。

 

 

肝心の ホワイトデー・・・

 

 

「え?ホワイトデーは先約入ってるよ」

 

 

てっきり空けてくれてると思うた俺は  ショックでしばらく固まった・・・・

 

 

 

「お前も淋しいやっちゃなーホワイトデーに誘って暇してるってどーゆうことやねん」
「しゃーないやろ!俺かて会えると思うてたからバレンタインのお返しも用意しとったし張り切っとったのに・・・」
「ほんまお前は昔からタイミング悪いねん!なんでもかんでも早いくせに誘うの遅れるてどーいうことやねん!」
「いやほんまに俺のミスや・・・でも誘ったの1週間前やったけどな・・・?」
「何が1週間や!もうバレンタインの次の日にでも予約しとかなあかんかったやろ!」
「せやんなぁ・・・・・・そういうユウジは小春と会わへんのか?」
「小春今日から海外やから昨日もう会ったで!お返しもらったし俺も渡した!」
「相変わらずやなぁ・・・」
「んで?白石はめっちゃ上手く行ってるんやろ?」
「あぁ、白石はめちゃくちゃ順調やろな。今日も六本木の高いレストラン予約したて言うてたで」
「へぇ・・・そういうの好きな彼女なんか」
「うーん、いや、高級レストランとか興味なさそうな子やで?ほんまに素朴な感じの・・・」
「・・・ほっとけへん感じやろ」
「・・・せやわ」
「ほー、ようやくか!よかったな、今度こそ幸せになれたらええなアイツも」
「まぁ・・・モテすぎて苦労しとるからなぁ」
「お前の好きな子はどうなん?」
「俺?俺はー・・・」

 

 

その時やった

 

 

「あれ!?」

 

 

 

!!!

 

今まさに
噂の彼女が  俺の横を通り過ぎようとしていた

 

 

 

「え!?え!!?なんでおるん!?」
「それはこっちのセリフだよー!今日飲み会だもん!!はー、ビックリした!同じ店とかウケる!」
「いやほんまビックリや・・・」
「あ、お友達さん一緒なんだね!じゃあアタシはこれで」

 

 

まなみちゃんはペコリと俺の向かいのユウジに会釈するとそのまま奥の座敷へと姿を消した。

 

 

「・・・は?わっか」

 

 

まなみちゃんがいなくなると ユウジがそう呟いた。

 

 

「・・・・・・やっぱそう思う?」
「思うも何も、若すぎやろ・・・飲み会てことは高校は卒業しとると思うけど・・・若すぎやろ、10代か?」
「いや・・・21やで」
「いや若いわ!!!充分若いわ!!10近く違うやん!!」
「せやねん・・・せやから色々不安やねん・・・」

 

 

はぁとため息をつくと ユウジは 気にしてもしゃーないやろ と言うた。

 

「気にするやろ、相手まだ大学生やで?彼女の世界はまだまだこれから広がっていくんや・・・出会いもたくさんあるやろし・・・」
「そんなん気にしとったら恋愛なんてでけへんやんけ!!」
「まぁ・・・そうやねんな・・・」
「俺の場合はまぁ小春は天使やから性別も超越しとるけど・・・それでも世間からの目は厳しいで」
「あ・・・」
「けどそんなん気にしてへんし。小春は小春や!男やから好きになったんとちゃう、小春やから好きになったんや。俺の世界には他人は関係ないで!小春と俺だけや!!!」
「ユウジ・・・」

 

 

(・・・せやんな)
(年齢なんて そんなもん・・・)

 

そんなもん、気にしとったら 恋なんてでけへん!

 

 

惚れたのは 年下だからではない
ひとりの女性として 人として 彼女を好きになったんや

 

 

「・・・おおきにユウジ・・・めっちゃカッコイイなお前」
「はぁ?今更か?俺は昔も今もカッコイイで」

 

 

あ、小春から電話や!向こうついたんかなぁ~!

 

 

と、嬉しそうにユウジは電話を耳に当てて外に出て行った

(はーユウジの言う通りやなぁ・・・)

一口ビールを口に運ぶと

 

 

 

 

ドスン!

 

 

 

 

目の前に急に人が座ったから ビビって顔を上げた

 

 

「―――あんたが まなみちゃんにしつこく言い寄る男っすか?」

 

 

 

は?

 

 

目の前でめっちゃイケメンの金髪の男がこっちを睨んでいた・・・・

 

 

え?

何て言った???

 

 

 

「困るんだよなぁ~!!!人の女に手を出してもらっちゃ・・・しかもオッサンじゃないっすかー・・・はぁ、コイツより断然俺のが男前っしょ」
「ちょ、お前なんやねん急に」
「理解力にかける男っすね・・・だからまなみちゃんから手を引けって言ってるんすよ」
「は?」

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁ!!?

 

 

「なんやねん!!お前!!!まなみちゃんのなんやねん、意味がわからん!!!」

 

 

(急に来ていきなりまなみちゃんから手を引けやと!?)
(頭おかしいんちゃうか!?!?)
(え、もしや彼氏!?!?)
(え!!?!?俺弄ばれてた!?!?)

 

 

突然のことで頭が真っ白になって 意味が分からん
なんやこの男は
確かに若いしイケメンやしタッパもあって見た目は完璧にモテそうやけど・・・

 

 

(え・・・嘘やろ・・・?)

 

 

 

「おい黄瀬、時間かけるなよ 早く戻るぞ」

 

!?

 

ぬっと出てきた新たな赤髪の男に

 

 

「フン・・・ 今高尾が相手してるが まなみに感づかれるのも時間の問題なのだよ」

 

 

隣から見定めるように見下ろしてくる 緑の髪の眼鏡の男・・・

 

 

(・・・え?なんやこれ・・・)

 

 

「は~?コイツがまなちんの~?パッとしないね~?よかったぁ、相手がオッサンでさぁ~俺のが100倍カッコイイ~」

 

 

最後に進撃の巨人かと思うくらいデカイ 紫の髪の男が来て

 

 

 

(な、な、)

 

 

 

「ま、そうっすね」

 

 

こんなオッサンに負ける気しねぇっす

 

 

 

 

ニヤリ と笑って金髪の男が席を立った・・・

そして全員奥の座敷へと消えて行ったのだ。さっきまなみちゃんが入って行ったあの部屋へ。

 

 

 

 

(は・・・・なんや・・・・?)

 

 

 

 

なんかめっちゃ喧嘩売られたんやけどーーーーー!!!?!?!?!?

 

 

 

 

 

 

金髪のイケメン、赤髪の男、緑の眼鏡、紫の巨人・・・
あいつら全員 まさかまなみちゃんの 男!!?!?

 

 

 

 

「は~今日も小春は天使やった・・・あ?どないした謙也」

 

 

 

お前ひどい顔しとるで? とユウジが顔を覗いてきた

 

 

「あー・・・・・・・・・・」

 

 

意味が分からん
モヤモヤする
胸が苦しい
腹が立つ

 

 

 

 

いろんな感情があるけど ユウジに言うたらきっと奥の座敷に乗り込んで行くやろう

 

 

(・・・あほらし)

 

 

 

「ユウジ、悪いけどもう帰るで」

 

 

 

席を立って 会計に向かった。

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