月曜日。
昨日遅くまで遊んじゃったから 少し寝不足でボンヤリと会社の廊下を歩いていた。
(ねむ・・・)
(昨日盛り上がっちゃったからなぁ・・・)
(それにしても人生ゲームで子供出来た時の白石くんのエクスタシーは引いたな)
(フフ、あの人、あんな人だったんだ)
「先輩」
(でもなんでだか、嫌じゃない)
「前先輩」
(キラキラの王子様だと思ってた頃より、ずっといい)
(話もしやすくなったし、気が楽になった、)
し、
グイッ
肩を引かれて、 一瞬頭の中が真っ白になった。
「わっ、」
「先輩て」
「あ、あれ!?」
財前くん!!
そう叫ぶと、 何回も呼んだのに気付くん遅いわ とデコピンされた(今時デコピンって!)
「あたっ!」
「久しぶりやな、先輩」
「あ、う、うん、そういえば久々だね、どうしてたの?」
「出張。て、気付いてなかったんすか」
「いや・・・」
(そもそも、避けていたからね・・・)
抱きしめられたあの日から
なんだか顔を見るのも恥ずかしくて
隣の部署なのに、思い切り避けていた(とゆーか逃げ惑ってたから)
出張行ってたのなんて 気が付かなかった。
(って言ったらすっごい怒りそうだからやめておこう)
「んで、ニヤけて廊下歩いて、誰のこと考えとったん?」
「え!?」
「今、完全にニヤけてたやろ」
「う、うそぉ!?」
「ホンマに」
そして財前くんは 私に顔を近づけて
私は迂闊にも また、ドキっと してしまった。
「・・・俺のことやったら嬉しいけど?」
「!!」
耳元で囁かれて カァァと熱が走った。
(な、なにそれ!)
(なんつーこと、この子は!!)
「プッ」
「!?」
「変な顔」
「え!?」
「顔、真っ赤やで」
ククク、と笑われて あぁまたからかわれたんだ とガクンと肩を落とした。
それでも財前くんの吐息がかかった耳は熱いし、きっと顔も真っ赤なままなんだろう。
(・・・思い出しちゃうしょ、また)
酔っぱらって、抱きしめられたあの日を。
(君は覚えてないんだろうけど)
「か、からかわないで!」
「ククッ」
「もう私行かなきゃ、これから会議なのっ!」
赤い顔を隠すように、その場を慌てて離れようとする
(なんで、なんで、なんで)
(なんで、こんなことばっかりするの)
(顔、見れなくなるじゃない)
少し距離が出来たところで
「あ、せや。まえ先輩!」
もう一度名前を呼ばれて、振り返る。
バコッ
顔に何かが当たって その場にしゃがみこんだ。
「いったぁーーー!!!」
「あ、命中(してもうた)」
「何するのさもー!」
「低い鼻が余計低く・・・」
「うるさい!何なの!?」
「それ、おみやげですわ 出張の」
「えぇ!?」
それだけ言うと財前くんは、去って行った。
後に残されたのは、
お土産だという変なキャラクターのふにゃふにゃしたぬいぐるみと、
ジンジンとする顔の痛みと、
いまだに治まらない 耳の熱と、
(・・・何これ、変なの)
ちょっと嬉しいとか思ってる、自分。
やっぱり彼が、みんなから可愛がられてるわけをなんとなくわかって
笑いそうになりながら 会議室へ急いだ。