第6話:お仕事しましょう!(マナミ)

「はい!こちらハンバーガーセットとハッピーセットです!ありがとうございます!」

 

今日も0円スマイルで対応する。去り際に子供がバイバイと手を振るので、アタシも笑顔で手を振る。

 

市民たちの食の関心を引き、料理のレベルを上げるべくハンバーガーショップを作ったのはいいけども。

 

「店長!店内の清掃が間に合いません!」

「ダメ!!清潔さが一番!!誰でもいいからちゃんと机拭いてきて!!」

「みんな手が離せません~~~!!」

「あ~もう!!じゃあアタシ行くから!!」

 

布巾とアルコールを手に、空いた席に行き机を必死にキレイにする。

なぜか、この店の店長と呼ばれ、今必死にお仕事中。

なんでこうなった!!

 

 

さおちゃんの素晴らしいプレゼンを聞いたパパ上は、将来領地の運営をさおちゃんに任せようと決めたそうだ。経営的なことを女性がやらないという世の中の風潮を変え、女性でも働きやすい世の中を目指すため。男とか女とか関係なく力をつけてほしいと・・・。

本音は、領主として敏腕を振れば結婚もしなくても文句言われないだろうし、結婚妨害にあるのかもしれない。

でも、さおちゃんのプレゼンはじじばばの心も打っていて、こんなに素晴らしいプレゼンは初めてだとたいそう感動していた。そりゃそうだ、この世界レベル低いしな・・・前世の我々が普通のことも普通ではないから、ものすごい能力高いと思われてるよな・・・。

ということで、さおちゃんの領主見習いが始まって、じゃあアタシは今まで通りのんびりしてればよいかと言われればそうではなかった。

なんと、さおちゃんがアタシを新しくできるお店の店長にしたいと言ってきたのだ。

お店の中のこともさおちゃんがちゃんと指導しようと思っていたらしいが、領主としての見習いが始まるなら、店内の様子を見るのは難しい。だからアタシにやってと言ってきたわけだ。

経営とかのことはさおちゃん頑張って勉強するから、とにかく店内のデザインからメニュー決めから店員の教育から、お店に関わること全部やって!って。接客業経験あるんだから大丈夫でしょ!!って言われた。まぁ確かに大丈夫だけども。

 

「言い出しっぺの法則というものがあるんだよ・・・」

 

そう呟いたさおちゃんの目は怖かった。これからの経営のなんたるかを思うと胃が痛いらしい。せっかく生まれ変わって胃が丈夫になってたのに残念だったね。

 

ということで、どういうお店にするかを内装含めて決めて、お店の名前から、メニューに店員の選出、チラシetc・・・めっちゃやることがありつつ、半年後オープンへこぎつけた。もう全力ですよ。

ちなみに名前は、「The Simpsons(ザ・シンプソンズ)」にしてやった。マックだってマクドナルドさんが作ったらしいからな・・・。なので、お店のキャラクターも黄色い人間にしてやった。さおちゃんは「著作権が・・・」ってブツブツ言ってたけど、この世界なら大丈夫だ!

マックみたいにチラシを作って、そこに割引券を付けて各ご家庭に配りに行った。そして、そのチラシに黄色い人間の4コマ書いてみたら、すげー大人気になったよ。

最初は庶民でも気軽に入れるお店なんて警戒してたみたいだけど、子供用メニューとか、テイクアウトとかもあるし、価格も割引券あれば庶民でも買えるくらいの価格設定にしたからどんどん口コミで広まって、オープンしてすぐに大人気店になったよ!

レストランで貴族用のメニューも見直したら、そちらも大繁盛。そして、庶民用のお店にも関わらず、貴族たちも興味本位でハンバーガー店に来るようになって、ガッツリ儲けさせてもらってます。

うちの領は王都に近いから、観光も兼ねて来ているそうな。

ということで、観光客用のチラシや、店内に領のマップを張っといたらこちらも大好評で宿が予約でいっぱいになってしまったらしい。町に旅館を増やすことも決まっていて、ホクホクです。

もちろん王都から日帰りできる距離でもあるし、日帰りでお土産として買っていく人も多くて、従業員増やしましたよ。ハカタの笑いが止まりませんわ。

 

 

メニューにはミツタダが頑張ってくれたおかげでコーラも入れれた。柑橘系のクエン酸を入れると色が黒くなるとかなんとか言ってたけど、よくわかんない。とにかくコーラの味だったからOKだ。

メニューの看板作ったり、イラスト書いたり、大変だったよ・・・写真って偉大だね・・・。でも写真ないからイラストしかないし・・・仕方ない。

ちなみに令嬢がこんなところにいていいのかと言われそうだが、大丈夫だ。おじい様とおばあ様は接客なんてって反対してたけど、アタシの接客の上手さに驚きながらも感動して、許してくれたよ。この技術をぜひみんなに教えてあげてと言われた。よかった。商品開発のためにキッチンへ行くのも許してもらったから、いつでもキッチンに行けるんだわ!!

あと、この店舗の店員はうちの子たちばかり。何かあれば、すぐに悪い奴をやっつけられるレベルの腕前の人たちに囲まれているから大丈夫!

こないだも、私のお尻を触ろうとしていた輩をミダレタソがボコボコにしていた。超すごかったぜ。ミダレタソかわいいくせに男だしな・・・ミニスカの制服超似合ってるぜ・・・。

うちの子たち腕だけじゃなく、頭もいいから、すぐにお仕事覚えられたよ・・・全員0円スマイル習得済みさ・・・!

お仕事のこと詳しすぎて、「なんで接客のことこんなに詳しいんですか?」って聞かれたけど、生き抜くためにたまに町で商売してたからって言えば簡単に信じてくれた。ちなみにプレゼンがうますぎたさおちゃんもじいちゃんに「なんで説明がこんなにうまいんだ?」って言われてたけど、「お母さんが動けないからこうやってメモとかで説明してたらうまくなった」って言ったらパパ上のほうが涙ながらに納得してくれた。うちのパパ上チョロすぎるね。

 

 

ということで、毎日ではないけど、アタシも店舗に来て接客中さ。

さおちゃんも頑張ってるし、アタシも頑張るって決めたんだ・・・だから、今日も真面目に接客中・・・お昼時間を過ぎて少し落ち着いてきたし、この接客が終わったら休憩入ろうかなって思って、気合を入れて接客する。

 

 

「いらっしゃいませ!お決まりでしたか?」

 

とびきりの笑顔で対応すると、その客は固まった。

 

(お、なかなかかわいい顔してるな)

 

この世界、イケメン多いけど、目の前のお客さんもなかなかのイケメンだった!(ラッキー目の保養!)

 

 

「何にいたしますか?」

「あ!・・・えーっと」

「おすすめは、こちらのWチーズバーガーセットです」

「あ、じゃあそれで・・・」

「お飲み物は何にしますか?」

「あーえっと・・・」

「一番人気はコーラです!」

「ほな、それで・・・」

「ご一緒にナゲットはいかがですか?」

「ああ、ください」

「サラダもおすすめです!」

「じゃあ、それも・・・」

 

 

なんでもおすすめのやつ買って、こいつ大丈夫か?って思った。着てるものもきれいだからきっと貴族様なんだろう。金のあるやつからは遠慮なくとっておこうw

 

 

「あの、これ持ち帰り出来るって聞いたんやけど・・・」

「お持ち帰りできますよ、お持ち帰りにしますか?」

「あーいや、同じの1つ持ち帰り用にしてクダサイ」

「はい、では店内でお食事とお持ち帰り用で1つずつご用意いたしますね!」

「オ、オネガイシマス・・・」

 

 

アタシが飛び切りの0円スマイルを見せると、恥ずかしそうにうつむいた。純粋だな!!!

はぁ・・・自分の魅力が怖いわ・・・またマナミちゃんの虜にしてしまったか・・・看板娘のマナミちゃん大人気だからな・・・ふふ。

 

 

アタシは注文されたものを用意して、そのお客さんに渡した。

その人は受け取ると「おおきに」とお礼を言って、空いている席に座りに向かったのだった。(よしよし、ハンバーガーの魅力を存分に感じてくれ!)

 

 

「店長、休憩入っていいよ~」

「うん、今入ろうと思ってた~!」

 

 

ちょうど休憩に入ろうと思ってたからそのまま休憩に入る。休憩に入る前に、テーブル拭いて、トレイを回収しようかと客席のほうに向かった。

だいぶ落ち着いた店内では、若い子たちが楽しそうに話していた。

 

(懐かしいなぁ~)(マックとかも学生のたまり場だったなぁ~)(こうして友情を育んでくれ・・・!)(迷惑になるようなら追い出すけどな!)

 

そんなことを考えながら店内を掃除する。

 

 

じーーーーーーーーー

 

 

(ん?)

 

 

背後からの視線に気づき、パっと後ろを振り返る。

 

 

バッ

 

 

すると、さっきの客が思い切り目をそらした。

その顔はほんのり赤い。多分、勘違いではない。

 

 

(おいおい)(マジで虜になっちゃったのか?)

 

 

アタシは罪深い女だと思いながら、仕事を続ける。アタシって美少女だから言い寄られるのは慣れてるんだ。この世界、割とヨーロッパ系のお国柄っぽくて、めっちゃナンパされるんだよね。そのたびにうちの子たちが虫よけしてるけども。超絶美少女だからな・・・本当にみんなに迷惑かけて申し訳ないよ・・・超絶美少女だから・・・。

トレイを回収して、中に入って、賄いのハンバーガー食べて、戻った頃には例の人はいなかった。

 

(お、帰ったな)

 

前の世界で言う、関西弁が珍しくて印象に残っていたけど、多分お国が違うならもう来ないんだろうなと考えながら仕事をつづけた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「今日はスパイシーバーガーください!」

 

 

 

なぜだ。

 

あれから常連になった彼は、絶対にアタシがいるレジにしか並ばない。

もう会わないと思っていたけど、毎週決まった同じ日に来ていた。(そしてアタシもちょうどその日はシフトが入っているという・・・)

最初はメニューもよくわかってなかったのに、今ではスラスラ出てくるようだ。すごい研究している・・・。

 

 

 

「ご一緒に新メニューのパンケーキもいかがですか?」

「それもお願いします!」

 

 

 

うむ。しかし、相変わらず羽振りがいいのでウェルカムである。持っているやつからはどんどんとるぜ。

 

 

 

「今日もお持ち帰り用お一つ用意しますか?」

 

 

 

アタシがそんなことを聞くと、目の前の客は、顔を真っ赤にした。

 

 

 

「?」

 

 

 

固まってしまったお客さんを不思議そうに見ていると、真っ赤になったまま口が動いた。

 

 

 

「お、覚えてて、くれた・・・」

「そりゃいつも来てくれるから」

「え!?」

 

 

 

思わず普通に話してしまったアタシに、ますます顔が赤くなった。

 

 

 

(なんだこれ)(面白い)

 

 

 

正直、前世でもアタシモテたし、こういう反応慣れてるんだけどさ。

でも、不快にならないな。なんでだろ。

 

お持ち帰りの分もって言われたから、いつも通り用意して、手渡す。

 

 

「はい、こちら商品です。ごゆっくり~」

「あ、あの!」

 

 

相変わらず、真っ赤なままアタシに何かを渡してきた。

 

 

(ん?)

 

 

「こ、これ、良かったら読んでください!」

 

 

そう言って、真っ赤なまま、レジから見えない位置に行ってしまった。

 

 

(これって・・・)

 

 

「処す?処す?」

「不穏」

「一連の流れ見てましたんでー」

「嫌なら言って?もう二度とこの店の敷居は跨げないようにするからね?」

「ミダレタソ!笑顔でそんなこと言わないの!」

「今、見てた全員殺気立ってたよ!」

「まぁまぁ気にするでない。アタシ目当てでも売り上げに貢献してくれてるんだから。このまま搾り取ろうぜ!」

「そっちのがよっぽどひどいけど」

「いいからいいから、ほら仕事戻って~」

 

 

かなりすいてる時間とは言え、みんな注目しすぎだな。

アタシはもらった手紙をポケットにしまって、仕事を続けた。

 

 

 


 

 

 

「はぁ、疲れた」

「おつかれ、きみ」

「今日は早かったね」

「うん、早かったよ。店舗のほうも順調だねぇ」

「うん、順調だよ。毎日大繁盛だわ」

「よかったよかった、肉とかも無駄にならないようだね」

「基本的に売切れたら閉店だからね。夕方には売り切れるし、ちょうどいいわ」

「そうかい、それなら良かったよ」

「きみも大変だね、今日はどこまで行ってきたのさ」

「今日は王都に行ってきたよ。商品の輸入と輸出について、外交官のトップのところにいってきた・・・」

「そうなのか、大変だな」

「お父様の仕事の付き添いだから、私が話すわけじゃないけど、知らない人とばっかり毎日会うからしんどい・・・」

「あれま、それはしんどいね」

「うん・・・でも新しい商売についていろいろお話聞けたからさ」

「あ、本当!」

「財務官様とお話できたから、目途は経ったよ」

「そうか!きみは手広くやってるね!」

「そんなことないけどさ・・・この世界でどこまでできるかわからないけど頑張ってみるわ」

「うん、頑張ろう!」

「きみは、たまにお店出るくらいで、あとはのんびりしててくれ!」

「そうする!」

「じゃあお風呂に入ろう」

「入ろう」

 

 

さおちゃんとお風呂に入ってから、ご飯を食べる。最近さおちゃん忙しかったから嬉しいや。

でも、仕事まだあるって言って、自室に戻ってしまったので暇になってしまった・・・。

キッチン行って、なんかつまめるものでももらいにいこうかな・・・いや、だめだ・・・太るな・・・。

 

 

(あ、そういえば)

 

 

今日来ていた制服のエプロンに手紙を入れっぱなしだったのを思い出して、ゴソゴソ取り出してみる。

 

 

(好きですって書かれてたら笑うwww)(あの真っ赤さはそんな感じだったwww)

 

 

アタシは今日のお客さんからもらった手紙を取り出し、読み始めた。

 

 

『突然の手紙ですみません。

僕はケンヤ・オシタリと言います。

今、王都で医師の勉強をしています。

このお店のハンバーガーが噂になっていたので行ったら、本当に美味しくて大ファンになりました。

あと、いつも笑顔で対応してくれるあなたに励まされます。

勉強頑張ろうって思えます。

良ければ、今度名前を教えてください。』

 

 

(・・・)

 

 

思ったより、控えめというか、奥手というか・・・。

 

 

(なんだ・・・ちょっと、好感度上がったかも)

(さすがにいきなり好きはなかったなw)

(医者の勉強ってことは、貴族じゃなくて庶民なのかな?)

(庶民でも医者は貧乏貴族よりもお金あるって聞いたしな)

(庶民だけど通ってくれてるのか)

(あいついい奴だな)

(勉強・・・応援してやってもいいって気持ちになるな・・・)

 

 

あの真っ赤な顔を思い出し、友達くらいならなってもいいかなって思った。

どうやって名前を教えてあげようか、考えながら手紙を眺めていた。

 

 

 

+3