週末はまぁちゃんも残るって言ってたし、何となく暇はしなそうだ。
「ところできみ、寮はどこなの?」
まぁちゃんに突然聞かれた。
「え、寮?1号館だよ!」
そういえば寮の食堂で会ったことないなと思ってたから私もちょうど寮の話が聞けて嬉しかった。
「1号館!だよね~…」
「きみはどこだい?」
「アタシ18号館」
「遠いね…」
「アタシのパトロン、かなりの額くれてるはずなんだけどね…やっぱり孤児院の人間がいい寮に住むのは他の貴族達が納得いかないらしくてランク低い寮に住まわされてるんだ」
いちにぃも最初は最下層の寮だったけど、今は社会的にいちにぃの存在が認められてるから寮はランクアップしたらしいんだー
って言ってたけど
「寮にランクなんてあるの!?!?」
そんなの初耳で驚愕した。
「え、知らなかったの?」
「知らなかった!みんな同じだと思ってた!」
「同じじゃないよ~!きみのいる1号館は最高級の寮だから。貴族の中でも選ばれた娘しか住めないはずだよ。セキュリティも万全だし、個室でしょ?」
「う、うん」
「部屋に風呂とトイレあるんでしょ?」
「え、あるよ?メイクルームもあるよ」
「食堂以外はついてるんでしょ?」
「え、うん、でも部屋自体はひとつのこじんまりとした部屋だよ!!20畳くらいしかないし…ウォークイングクローゼットも8畳くらいしかないし…」
「ウォークイン8畳あったら人住めるわ!!!」
「∑(ºωº`*)…確かに」
まぁちゃんと住んでたマンションを思い出した。私の部屋6畳だったわ!!!
イザベラの屋敷の自室があまりにも広すぎて普通の部屋がよくわからなくなっていた…。むしろ20畳でこじんまりしてると思ってた…20畳って現世だったらLDK合わせたサイズだわ!
「1号館って貴族用だったのか…」
「選ばれた貴族のみだよ、きみ、王族の次に位高いからね…むしろ女子の中では1番だよね」
「そうか…」
「いいよなー。うちなんて庶民用だからさ、部屋も相部屋だしトイレや風呂も共同だしご飯もそんなに美味しくないんだよ…」
全てにおいて気を使うわ…
ってまぁちゃんがションボリした。
なんと・・・!
「え、そんなの一緒に住もうよ」
「え???何言ってるの君」
「何が?きみ同じ部屋なんて当たり前過ぎてなんとも思わないと言うかむしろいるのが当たり前だから私の部屋に引っ越しておいでよ」
「え、いーの?」
「当たり前だよ、そんな思いしてこれから6年間過ごせないしょ!むしろ私はきみと住みたいからぜひ!」
「え・・・でも私のような孤児院出身者が1号館に住んだらきっとクレームすごいわ」
「大丈夫だよ、一緒の部屋なんだから」
「いや、貴族の女達はプライド高いからね、うるさいのが多いんだよ」
「うーん、そしたら私の部屋で住み込みで働く体にしたらどうかな?」
「あ~使用人ってことか」
「でも使用人って思われるの嫌だね・・・どーすれば・・・」
「嫌じゃないよ。元々孤児院出身者は使用人として学園に通わせてもらう人も多いからね、今までの先輩方もそうしてる人いたし大丈夫だよ」
「ほんと!?そしたら一緒に住も!ベッドもキングサイズだし広すぎると思ってたのさ~」
「まじかァ、やったぁ、ありがとう!」
美味しいご飯が食べれる~うれぴい~
お風呂もトイレも気を使わないでゆっくりできる~
と、まぁちゃんは大喜びした。
早速学園に手続きをして日曜日に引っ越してくることが決まった。
「今日も早かったやろ?」
「ふむ…でもC食堂だからな…A食堂は無理だろ、1番遠いしな」
「無理とちゃうで!来週はA食堂取っとくわ!!」
まぁちゃんがまたオシタリくんをパシリにするからなんだかんだ毎日一緒にご飯食べてる…
いや私はシライシくんと一緒にご飯食べれるから願ったり叶ったりなんだけどね、オシタリくんごめん。
「はー、やっと金曜日!なんか1週間長かったな~」
「まだ学園入ったばっかやしなー。週末は孤児院帰るんか?」
「帰らんよ、引越しあるんだわ」
「へ?引越し?」
「うん、日曜日、さおちゃんの部屋に引っ越すんだわ」
「え!?そうなん!?一緒に住むん!?」
「一応使用人ってことでね」
「まぁちゃんは何もしなくていいんだよ、いてくれるだけでもう存在価値があるから自由に過ごしてね」
「やった~」
荷物まとめなあかんちゃう?手伝ったろか?ってオシタリくんが言って
いやパンツしかないから大丈夫とまぁちゃんは答えていた。
こっちの世界のまぁちゃんもパンツだけあれば生きていける主義らしい。
てかパンツって。
多感なお年頃の男子にパンツて。
ほらオシタリくん固まっちゃったじゃん…
あーあ…
「・・・引越し、大丈夫なん?明日・・・平気?」
固まったオシタリくんの耳を引っ張り遊ぶまぁちゃんを横目に
小さな声でシライシくんが声をかけてくれた。
今日もため息でるほどイケメンだな?
「あ、私は全然大丈夫。荷物もほとんど持ってこなかったらしいからそのままで問題ないし明日は予定通り、よろしくね」
私がそう言うと彼はまるでホッとしたかのように
「・・・よかった」
と笑った。
あーーーーーーーー
可愛いなおい。
どんだけイケメンなんだよ???
私の周りイケメン多いと思ってきたけどほんとこの子の顔好きすぎてもうダメだわ、どタイプ。すき。
「ふふ、楽しみだね」
彼が可愛くてかっこよくて素敵だから私も笑って答えた。
(明日は絶対お礼するぞ・・・!!!!)
決意を新たに明日に挑むのだ。
「うーん・・・どれにするか・・・」
学園の制服はとても動きやすくて私は好きなんだけど。
やっぱり中世ヨーロッパみたいなのが舞台だからか普段着てる服ってコルセットでグッとウエストしぼったきらびやかなドレスなんだよね。
(もちろん部屋着やパジャマは着やすいのを持ってきたけど・・・)
(それはあくまでも部屋着だもんな)
(外に着ていける服ではない・・・)
「困ったな・・・」
つまり私は、気楽に着れる服を持っていないのだ。
(お父様が用意してくれたのドレスばっかり・・・)
(私は家着とかパジャマめちゃくちゃ持ってきたけど)
(外行きの気楽にきれる服が全然ない・・・)
(長く外にいるだろうしコルセットつけたら痔になるわ!!!)
(今の私若いけど絶対痔になるわ!!!!)
どうしよう
もうすぐ待ち合わせの時間なのにな・・・
(一応こっちの世界では貴族のお嬢様やってきたからな・・・)
(やっぱり正装じゃない服で外に出るのは気が引ける・・・)
(でも学生のお出かけなのにドレスで行く意味とは・・・?)
(シライシくんだってまさかスーツ着てこないだろうし、私がドレスなら引いちゃうよな・・・)
(あ~もーーー服がない!!!)
そんなことを悩みながら
気がつけば進む時計を見て慌てて支度するのだった
「あ、サオリちゃん、おはよう!」
女子寮の門の前でソワソワしながら待っていてくれたシライシくんは
今日も愛らしい笑顔を私に向けてくれた。
今日も彼は素敵だ・・・
尊い・・・(^q^)
そして私服が・・・・・・!!!
私服が!!!!
眩しいです!!!!!!
。゚(゚´ω`゚)゚。ピィ-
初めて会った時の社交界用のスーツもよかったけど
学園で見かける制服も素敵だけど
今日が1番輝いて見えるかもしれない・・・
とにかく私は彼の顔が抜群に好きなのである・・・
「サオリちゃん?」
固まった私を心配そうに覗き込む彼。
!!!( ゚д゚)ハッ!!!!
「あ、あの、シライシくん、私服も素敵ね」
社交界では相手を誉めてなんぼだからな、褒めることには定評あるよ私は・・・
「おおきに!サオリちゃんは・・・制服やな」
彼がクスクス笑ってそう言った。
「あっ!ご、ごめんね、せっかくのお出かけなのに私、気軽に着れる服これしか持ってなくて・・・」
「あぁ、そうなんや・・・お嬢様やもんな・・・俺の方こそ気が付かんでごめんな」
(???)
なぜシライシくんが謝るんだろう???
「謝ることないよ?」
「いや、女性に恥をかかせてもうたな」
「え!全然だよ!むしろごめんねシライシくん・・・恥ずかしかったら離れて歩くから・・・」
「いや、俺は平気やで!!」
今日はしっかりエスコートさせてな
と、彼はギュッと私の手を握った
握った
握っ・・・・・・
うえぇやぁぁぁぁくぁw背drftgyふじこlp;@:「」
手を
繋いでしまったあぁぁ!!!!!
こんな!!!
イケメンと!!!!!!
やばーーーーい!!!!!!!
カァ///
(いや・・・この世界では男性が女性を大切にしてエスコートするのは当たり前のことだから)
(誰にだってすることだから!!!!)
(気にするな私・・・!!!!!!)
(相手は13歳13歳13歳・・・)
(私22歳22歳22歳・・・)
犯罪じゃねーか!!!!!
(いや違う落ち着け!!!)
(私も今は13歳!!!!)
(周りから見たらあら可愛らしいカップルねうふふ、くらいにしか見えないはず!!)
(なぜならお互いこどもだからだ!!!)
(22歳だろ!!!!!)
(意識するな私!!!!!!)
そう思いながらも男性とデートしたことがない私は13歳の彼とのデートに心躍るのだった。
「今日はまず、街の方に行こか」
そう彼に提案されて、特に何も考えていなかった私は素直に頷いていたのだけど。
(なぜ私は今)
(着せ替えさせられてるのでしょうか)
やったら可愛いお洋服をあれこれ着せられていることに頭の中がハテナでいっぱいだった。
「お、この色も似合うなぁ」
そして着替える度に彼が大絶賛してくれるのもおかしい。だから嫌だとかそんな言葉なんにも言えない。だって彼に褒めてもらえるの嬉しいからね・・・!!!
(でもデート、って)
(ショッピングだったのかな)
(シライシくんが考えてくれたのは買い物・・・?)
(はっ( ゚д゚)待てよ……?もしややはり制服でデートなんて来んなクソがとか思われてる!!?)
(制服でデートって頭おかしいと思われてるの!?!?)
(ああぁぁぁ・・・私ってばなんて失礼なことを・・・!!!!)
(せっかくのデートなのに制服着た女連れ回すなんて貴族の沽券に関わることなんだ、きっと!!!!)
ずーーーーーーん
なんだか上の空で服を着る私に、彼は「・・・あ、もしかして余計なことしてもうた?」と申し訳なさそうに声をかけた。
「え!?!?いや、全然!!そんなこと!!!私としては制服しか気軽に着れる服がないからとてもありがたいんだけど・・・あの・・・私の方こそ前もってきちんと服を用意してなくてごめんね・・・一緒にいるシライシくんに迷惑かけたよね・・・」
「へ!?!?何を言うてるんや!?!?ぜんっぜん迷惑とちゃうけど!!!制服姿はむしろ可愛らしいから全然着ててもらっても構わないんやで!?!?」
私がショボンとしたものだから、優しいシライシくんは必死にそんなことを言ってくれて・・・
うぅ・・・
優しいな・・・( ; ᯅ ; `)
別にデートに制服で来るなボケくらい言ってくれてもいいのにな( ; ᯅ ; `)
と、思ってたんだけど。
「・・・けど、サオリちゃんが気にするやろ?」
彼が顔を傾げながらそんなことを言った。
なんだそのポーズ可愛すぎるだろいい加減にしろ!!!!!自分がどれだけ輝かしい人間なのかいい加減に自覚持て!!!!!!!シライシくんは可愛すぎて危険だ!!!!!変態おじさんに狙われてしまう!!!!!!!!!!私が守らねば!!!!!!
頭の中にそんな言葉が先に浮かんだので
「何を気にするの?」と聞くのが遅れてしまった。
多分挙動不審であったであろう私に、彼はそっと
「・・・・・・周りキョロキョロしたり、袖いじってソワソワしたりしとったやろ?俺が私服やのに制服なん気にしとるんかなって思うて・・・」
やっぱ俺も制服で来たらよかってんけど……ごめんな
となぜか彼が謝ってきた。
は????
どんだけいい子なの???????
尊いカンストしてるんですけど????????
殺す気かよ???????????
いい加減にしろっ!!!!!!!!!!(理不尽なブチ切れ)
どんだけ天使なんだよお前は!?!?!?!?
あぁもう・・・・
SUKI・・・
「シライシくん・・・ありがとう」
「ん?いやいや、なんもお礼言われるようなことしてへんよ」
「色々悩んで制服にしたけど・・・シライシくんの言う通りやっぱり本当はこのままじゃ私服のシライシくんに釣り合わないなって思ってて」
「そんなことないで!?」
「・・・こうして私を思って服を一緒に選びに来てくれて・・・若いのに本当に素晴らしいね・・・」
「え・・・?若いのに・・・?」
「なんというか・・・とても素敵なご家庭で育ったのだなと伝わってくるよ・・・」
「いや・・・まぁ・・・」
「本当に出来た人だね・・・ありがとう・・・」
「え、ちょ、待って???めっちゃ褒められるやん俺!!!」
「それは白石くんが素晴らしいからだよ・・・」
「いやいやいや!!!ほめ過ぎちゃう!?恥ずかしくなってきたわ!!!!」
「なんで?恥ずかしがることはないよ、シライシくんは最高に素晴らしい・・・それは事実だから・・・」
「や、もう、ええわ!!ほな、次、これ着てみて・・・!!」
シライシくん・・・耳まで真っ赤だ・・・
ふふふ・・・
可愛いな・・・
こういうところは少年っぽいな・・・
「あ、サオリちゃん・・・あのな、俺は位の高い貴族やのにそうやって人を褒めることができるさおりちゃんのほうがすごいと思うで」
と
不意打ちで、彼が顔を近づけて言うものだから
カァァァァァ
つられて私まで真っ赤になって、急いで試着室へと飛び込んだ。
(や・・・っばい・・・!!)
破壊力やべぇ・・・!!!
こうして私とシライシくんの初デートは、その後もめちゃくちゃ平和に楽しく終わったのである・・・
「で?服買って、街ブラして、美味しいもの食べて帰って来たのか」
「うん、すごい可愛いワンピース買ってもらっちゃった・・・いいって言ったのに・・・お礼しようと思ってたのに・・・」
「そりゃあ!デートで男が金払わないのは恥だからね!!」
「いやわかってるけどさ、何から何まで払ってもらって全然お礼になってないじゃん・・・」
「お礼はきみとの時間だろ?あいつもそこそこいいところのお坊ちゃんなんだろ、問題ないよ」
「問題しかないよ・・・」
「その割にはずっとデレデレしてるね」
今日は日付が変わって日曜日。
まぁちゃんがお引越ししてくる日だ。
と、言っても、すごく狭い部屋に4人で暮らしてたらしくて荷物はトランク1つだけだったので引っ越しは一瞬で終わった。
これからは毎日まぁちゃんと暮らせるし、たくさんお話出来るのが死ぬほど嬉しい!!!!
まぁちゃんと会えない間とてつもなく寂しくて苦痛だったからね・・・
もう今の私は最高にHAPPYだ!!!無敵だよ!!!!
(前世の記憶がなんなのかとか、色々と気になることはあるけど)
(とりあえず今はこれで満足かな・・・)
その後も、昨日シライシくんと見た大道芸人の話や、美味しいスイーツの話をして盛り上がったよ。
そういえばまぁちゃんはオシタリくんと仲良しみたいだけどどう思ってるんだろうね、今度聞いてみよっと。
次の日。
「どーや!!!A食堂も1番やったで!!!!」
「ほうほう、でもB食堂はどうかな・・・B食堂は無理だろうなぁ、なんせ高等部に一番近いから高等部の学生ですぐに埋まるって聞くしね・・・」
「は!?いや、俺なら取れるで!?」
「いやー無理だろ・・・」
「いけるわ!!!明日はB食堂いったるわ!!!!」
「まじかよおまえすげーな(棒読み)」
「・・・まぁちゃん、きみはまた・・・」
「ははは、おもろいな」
「あ、シライシくん!昨日はありがとうございました(ペコリ)」
「いや、こちらこそ!楽しかったで!!」
「わ、わたしも・・・!!(最高の人生初デートだった・・・!)」
「・・・よかったら、また行かへん?」
「え!!」
「あ、いや・・・かな」
「嫌じゃない!!!!嬉しい!!!!!」
「はは、よかったぁ・・・ほな、次はサオリちゃんの行きたいところ行こうな!」
「行きたいところ・・・!!あ、次こそお礼させてね!!」
「お礼はもう、充分やで」
「え?」
「次もエスコートさせてな」
死にたい
推しが尊すぎて死にたい
無理だ
私の推し(13歳)がとてつもなく眩しい
SUKI
大好き・・・!!!
推せる・・・!!!!!!!!
「あ、そういえば引っ越し終わったん?」
「まぁ引っ越しつってもパンツしかなかったしな、余裕だ」
「・・・」
「まぁちゃん!!」
「ははは」
「聞いてくれよ~1号館のご飯めっちゃ美味しいし、部屋にトイレも風呂もついてるの最高すぎるさ・・・」
「今まで違ったん?」
「今まで4人部屋だし、めっちゃ狭かったし、トイレも風呂も共用だから気を使って大変だったんだぜ・・・」
「そうなんや!!それはしんどかったな・・・」
「まぁさ、孤児院でもそんな生活だったから慣れてるんだけどね。人生初の個室だよ!!!!嬉しい!!!!」
「いや個室ではないやろ」
「個室だよ!!ウォークインクローゼットもらったんだ!!!」
「まぁちゃん、ウォークインクローゼット落ち着くって言って住みだしたんだよね・・・」
「逞しいな・・・どこでも暮らせるやん・・・」
「おぅ!孤児院出身なめんな!!」
「よっしゃ、今日も金の亀探し行こうや!!!」
「もちだ」
こんな二人の騒がしい様子を見ながら4人でご飯を食べた。
なんだかこんな日常も当たり前になっていて
少しずつ学校生活にも慣れて 穏やかに暮らせるようになってきた。
あれから月日が経ち、あっという間に私たちは3年生になった。
まぁちゃんに言われた通り私は「イザベラ」の名前は極力名乗らずに「サオリ」とだけ名乗るようした。
入学したての時はあの凶悪な「イザベラ」がいるとそれはクラスで浮いていたのだが
時間が経つと不思議と「あのイザベラとは同姓同名の別人なのでは?」という噂まで立ち、私の事を凶悪犯のイザベラだと思う人はいなくなったように感じた。
もちろん、社交界で会っていた人や元々の取り巻きの人たちはわかってるんだと思うけど・・・
私が常にまぁちゃんいるからか孤児院の者と仲良くするなんて呆れた と離れていく人も多かった。
でも今本当に平和で
まぁちゃんが傍にいてくれて、シライシくんともたまに一緒にお出かけして
新しいお友達も出来て
みんな私の事をあのイザベラだと思ってなくて
こんなに幸せでいいんだろうか?ってくらいで。
(今までのイザベラのしてきたことを考えるとこんなに平和に暮らしていいのかな・・)
(でも私は私だもんね・・・)
(生まれ変わったつもりで、いや実際あのイザベラとは別人なんだけど)
(世のため人のために尽くしていこう・・・)
そう、心に決めて自分なりに罪滅ぼしをしようと思っていた。
「サオリ」
「あ、ユキムラ・・・」
放課後の図書館で、月に1度は二人で会って
私とまぁちゃんの関係を調べて報告し合っていた。
「何か新しくわかったこと、あった?」
「いや・・・俺の方は何も・・・力になれなくてごめん」
「それは気にしないで!!私の方も全然だし・・・」
「やっぱり血液検査をしてみるべきじゃないかな?そうすれば全てがわかるだろう?」
「え、でもまぁちゃんになんて言って血をもらう?私はお父様に聞いてみるべきじゃないかと思うの」
「それこそ危険じゃないか。もしきみのお母様にバレでもしたら・・・あの方こそ何をするかわからないよ」
最悪マナミの命が危ない
そう言うユキムラの言葉にゾッとした。
そうだ。
もし捨てられたのが私の妹だとしたら。
いや、私はまぁちゃんのこと生き別れの妹だと思っているけど。
危ないのは まぁちゃん だ。
一度存在を消されようとしたのだから、また同じことをされてもおかしくはない。
「・・・今はもう幸せなんだからこのままでもいいのかな」
「サオリはどうしたい?」
「・・・私は・・・まぁちゃんとずっと一緒にいたい・・・まぁちゃんの性格上使用人とか無理だと思うし・・・うちで雇いたいけどうちには怖いお母様がいるし・・・本当は血の繋がった姉妹だと分かればずっと一緒にいれると思ってたんだけど・・・・そんなわけにもいかないよね、きっと」
「そうだね・・・バレたらどうなるかな」
「だよね・・・」
「じゃあこれ以上の詮索はやめるかい?」
「・・・まぁちゃんがね、一度でいいから自分を捨てた親に会ってみたいって言ってたの。だからやっぱりまぁちゃんが私の妹とわかったら、あの両親に会わせることはできなくても遠目からでも見せてあげたいんだ・・・」
「・・・そうか、わかったよ。ひとつ、心当たりがあるからあたってみるよ」
「ユキムラ・・・いつもありがとう」
「気にすることないよ、きみのためならこれくらい」
ニコってユキムラは笑った。
麗しいな・・・
THE貴族って感じだ・・・
気品に溢れている・・・
そして嫌いなはずの私に超やさしい・・・
本当にいい人だなユキムラは・・・
と、周りの人に恵まれてここまでこれたから
私はすっかり忘れていたのだ。
ここが ”ゲーム” の世界で
私は 悪役令嬢で
物語の本編は 私が15歳
学園の高等部1年生になってからが本番 だということを。
何が起きても イザベラ・サオリ・アヴァン は
18歳の学園卒業の日に
処刑されてしまう と、いうことを。
忘れている私は 毎日楽しく この頃は暮らしていたのだ。
あのノートのことも忘れ。
この幸せが「落とし穴」だったなんて 気付きもしなかったから。
その日は
中等部 最期の終業式だった。
春休みが終わると 私たちは晴れて高等部へ進学だ。
ザワザワ
寮を出て校舎に向かうと なんだか廊下に人だかりが出来ていた。
ザワザワ
(?)
なんだろう、と近づこうとして
「イザベラだ!!!」
誰かが、そう叫んだ。
(え?)
みんなが一斉に私の方を振り返った。
その表情は青ざめていた。
「あ、あの、ご、ごきげんよう・・・」
急いで挨拶をしたけど、 みんなは恐怖に怯えた表情で 私を見つめていた。
どうしようかオロオロした時
ズカズカズカ
と、廊下を歩いてきて 壁に貼ってあった何かをビリっと破った彼に 腕を引かれた。
「来い」
アトベだ。
「あ、あの、」
「いいからさっさと来い!!」
そしてアトベ専用の応接室に呼び出された。
「・・・残念だがテメーの平和な学園生活はもう終わりみてーだな」
「え?」
「高等部は今までみたいにいかないと思え」
「え、あの」
そうしてアトベは 先ほど廊下から破いてきた紙を私の目の前に 突き出した。
『衝撃スクープ!極悪貴族イザベラ・アヴァンはこの学園に通う イザベラ・サオリ・アヴァンだった!』
『今までの悪事の隠蔽か!?名前を隠し学園生活を平和に送るイザベラ!』
『ミドルネームの サオリ を名乗り 潜む悪魔・・・次は何をしでかすのか』
その記事を見て 息が止まる気がした。
すごく心が痛くて
ズキンズキン
と、胸が痛んだ。
「クソ・・・どこのどいつだ、こんなくだらねー真似しやがって」
アトベが舌打ちをしながら言った。
そうだ。
そうだ。
忘れてたんだ。
私は イザベラ・アヴァン で
今までたくさんの人を おもちゃを壊すようにそれは簡単に殺してきたんだ。
初めて殺したのは4歳の時。
「この人やだ、いらない!」
そう言ったら次の日からその人がいなくなった。
それと同時にペコペコして必死に機嫌を取る大人たち。
快感だった。
誰も私には逆らえない
大人ですら頭を下げる
みんななんでも言うことを聞く
少しでも気に入らなければ いらない と言えばいい。
そうすれば新しい”おもちゃ”がやってくる。
いなくなることが 殺されている と理解したのが8歳の時。
ますます自分の権力が誇らしくなるだけだった。
誰も逆らわない
みんな言うことを聞く
つまらなければ殺せばいい
そんな風に思って生きてきた12年間だった。
私があの日、頭を打つまでは。
体が震えた。
平和だったんだ、そんな日々を思い出さないほど。
まぁちゃんと暮らして、シライシくんとお出かけして
ユキムラは優しくしてくれたし、可愛いケンシンくんも学園へ入学してきた。
アトベは怖いけど なんだかんだと気遣ってくれることが多かった。
いちにいもお勉強を教えてくれたし、まぁちゃんの孤児院の弟分っていう可愛い子たちも入学してきて。
楽しかった。
楽しかったのに。
その日々が 崩れ落ちた気がした。
さっきの人々の 目 が忘れられない。
恐怖でおびえた目。
私はいつも あの目で見られていた。
(あぁそうか・・・)
(忘れていた私が悪いんだ)
自分がしてきたことを忘れて
ひとりだけ幸せになろうとしていた私が悪いんだ。
もう今までのようにはいかない。
今までのようにはしない。
私は 「イザベラ・アヴァン」 として
罪を償わなければいけない。
罪を忘れては いけないんだ。
「・・・テメーを痛い目に合わせるのは俺様だけでいい。今すぐ犯人を捜しだしてやる」
「・・・い、いいんです、やめてください」
「ハッ、テメーは仮にも第一王妃候補だぞ?こんなマネされて黙ってられるか!!!」
「いえ、これは私が忘れてはけない罪ですから・・・それに事実しか書いていない記事です。間違ってなんていません」
「ばかじゃねーのか?いいのかよ、このままで!今まで出来た友達も離れて行くぞ!?」
「いいんです!わ、わたしが・・・わたしみたいなものが、楽しそうに・・・生きていくほうが間違いなのです・・・だからお願いです、犯人探しなんてやめてください!」
「・・・つまんねーやつになっちまったな、テメーは」
でも、昔の何万倍も今の方がいい女だぜ
と、アトベは言って。
そして 勝手にしろ と部屋を出て行った。
私は 教室に戻るのが怖かったけど。
授業をサボるわけにもいかないから そっと応接室を後にした。
(・・・これは仕方がないことだ)
(自分がやったことだもん)
(仕方ないんだ)
頭の中はまだグルグル回ってるし
震えも泊らないけど 私は教室に向かって中庭を通っていた。
ヒソヒソと 私を見て話す生徒。
ヒッと 逃げる生徒。
私に近づく人はいなくなった。
仕方がない。それだけのことをしたんだし、今までもそうだった。
ただ、中等部3年間がすごく楽しかっただけのこと。
明日から春休みに入るし、高等部に上がる前に気持ち切り替えなきゃ・・・
(まぁちゃんとも暮らせなくなるかもなぁ)
(私の評判悪いし・・・)
(まぁちゃんに迷惑かかっちゃうよね)
そんなことを考えながら トボトボ歩いていた。
「サオリちゃん」
その声が聞こえて ドキン と胸が跳ねた。
(・・・シライシくん)
一番、知られたくなかった人だった。
自分でもわかってて イザベラ といことを隠してしまった。
彼には何も 知られたくなかったんだ。
背が伸びて すっかりかっこよくなってしまった彼の方へ 振り向いた。
「シライシくん・・・」
ごめんなさい!!
そう、すぐに謝った。
ごめんなさい
自分がイザベラだと 嘘をついていてごめんなさい
そう思って 謝ったつもりだったけど。
「・・・何に対してのごめんなさいなん?」
「え?あの、私・・・イザベラってこと、隠してたから・・・」
「・・・そんなん、どーでもええねん」
「え?」
「そんなん どーでもええ」
シライシくんは
私が イザベラ ってわかっても 気にしないってこと?
嬉しかった。
白石くんは 友達でいてくれるのかなって。
ずっとこのまま 一緒にいてくれるのかなって。
期待 してしまって
「・・・名前、隠してたことはどーでもええねん・・・問題は・・・きみが イザベラ・アヴァン っちゅーことや」
「・・・え?」
彼の顔を見て 違う と察した。
ヒュッと 血が逆流する気がした。
違う
これは
彼から出ているのは 優しさではない
憎しみだ。
「・・・こんなええ子が嘘やろって思った。噂と現実が違いすぎて 確認しにきてん」
「・・・」
「きみはあの イザベラ・アヴァン なんか?あの、王族の次に位の高いアヴァン家の・・・使用人や町民を 笑って殺してきた・・・イザベラ・アヴァン、本人なんか?」
「・・・」
嘘であってほしい
そう、彼の瞳から伝わって来た。
私だって 嘘だと言いたい。
私本人ではない。私はさおりだ。まえさおりだ。
イザベラではない。
ないけど、今のイザベラは私なんだ。
まえさおりって思ってる記憶が作られたものかもしれない。それなら間違いなく悪事をしたのも、この私、イザベラ・アヴァンなんだ。
彼が黙って 言葉を待っている。
私は彼に 答えなきゃいけないんだ。
「・・・そうだよ。イザベラ・アヴァンは・・・たくさんの人を処刑してきたのは 私だよ」
彼が目を大きく見開いた。
2人の間に 沈黙が続いて
彼がそっと 口を開いた。
「俺な、姉ちゃんいるって言うたやん。妹は歳近いけど姉ちゃんは結構離れてて 俺が7歳の頃にはもう18やってん」
「・・・うん・・・」
「その姉ちゃんが貴族の大きな屋敷に使用人として雇われることになって 喜んで田舎から都会に出て行ったんや」
「・・・」
「うちは今はそこそこの地位やけど当時は貴族とはいえ下級やったし田舎やから都会で勤められるのはみんな憧れててな」
「・・・」
「姉ちゃんが次の休みに帰ってくる言うて、みんな土産話を楽しみにしとったんやけど」
「・・・」
「帰って来たのは 姉ちゃんの遺体やった」
「え?」
「勤めたのは アヴァン家。殺したのは イザベラ・アヴァン」
「・・・ウソ・・・・・」
「ウソ?ウソって?は!?そんなん俺のが言いたいわ!!ウソやろ!?殺した使用人のことなんて何一つ覚えてないんやな!!」
「・・・っ」
「親父はこのままでは終わらせないってめっちゃ努力して貴族の階級を上げた。おかげで俺もこうして学園に入学できた」
「・・・」
「俺の目的はただ一つ・・・イザベラに復讐することや・・・・」
言葉が出なかった。
いや、出せなかった。
ごめんなさいなんて陳腐な言葉じゃ償いない。
何も言えなかった。言えるわけがない。
私が殺した・・・シライシくんのお姉さんを。
震えが止まらなくて
息をするのも苦しくて
心臓が張り裂けそうなくらいバクバクとして
動けなかった。
「・・・嘘であってほしかった・・・イザベラを殺すことだけを目標に生きてきたけど、3年間きみと一緒におって まさかきみがイザベラなんて信じられへんくて・・・」
「・・・」
「けど、間違いなく殺したのはイザベラで・・・憎くて・・・・・憎い・・・けど・・・きみの優しさも知ってて・・・」
「・・・」
「どれが 本当のきみなん?俺もうなんにもわからへん・・・どうしたらええのか・・・」
「・・・」
「すまん・・・今はちょっと・・・もう、一緒にはおられへん・・・」
「・・・」
シライシくんは 悲しそうで つらそうで 苦しそうで
そのまま背中を向けて去って行った。
私は 声をかけることも 身動きを取ることもできず
その場に立ち尽くしていた。
(・・・私が殺した)
(シライシくんのお姉さんを・・・)
(どうして・・・)
(なんでだろう)
(なんでイザベラはあんなことをしたんだろう)
(なんでイザベラが人を殺す前に 私にならなかったんだろう)
放心状態ってこんな感じなんだろうか。
立ってるのもやっとで その場から動けなかった。
「るせーな!!しつこいんだよお前ら!!!」
その時 ぎゃーぎゃー と騒ぎ声が聞こえてきた。
まぁちゃんの声だ
咄嗟に思った。
「いつまでも逃げてないで降りていらっしゃい」
「豚が豚になるだけよ、心配ないわ。クスクス」
「そうよ、ちょっと顔を焼くだけだもの」
「ちょっとじゃねーだろ!!!んなもん持って頭おかしいんじゃねーのか!?」
なんだか嫌な予感がした私は 急いでその声の方に向かった。
「大丈夫、少し痛いだけよぉ」
「気に食わないのよね、イザベラ様と似てるなんて」
「そうよ、わたくしたち昔からイザベラ様に憧れて近くにいたのに・・・お前と仲良くなってからイザベラ様が変わってしまったじゃないの」
「昔の強くて素敵なイザベラ様に戻ってほしくて色々準備してきたのよ」
「まさか!あの記事もお前らの仕業じゃ・・・」
「でもあれは事実だもの。嘘は書いてないでしょ?」
「さぁ、お前がいなくなればイザベラ様はまた復活するわ」
「お傍に仕えるのはわたくしたちよ」
「さっさと終わらせてあげるからキーキー猿のように木の上にいないで降りていらっしゃい」」
「劇薬振り回してとんでもねぇこと言うなブス!!!!さおちゃん泣かしたらぶっ殺すぞ!!!!!」
「・・・じゃあしょうがないわね」
「火をつけてあげるわ。木の上で 亡くなりなさい」
「顔だけで許してあげようと思ったのに」
「おバカな子ね、クスクス」
「おーまーえーらー!!いつもいつも!!!しつけぇんだよ!!!!」
(え、なんてこと・・・?)
(まぁちゃんが・・・いじめられてる!?)
(いつも!?)
(いつもやられてたの!?)
(私が まぁちゃんと仲良くしたから・・・?)
(私のせい・・・?)
(全部・・・私のせいなんだ・・・)
「やめて・・・」
火をつけようとしてるのを見て
頭が真っ白で すぐに飛び出した
「やめて、お願い・・・私が悪かったの・・・私がまぁちゃんといたかったから・・・お願い、もうまぁちゃんに手を出さないで」
「イ、イザベラ様!」
「いやですわイザベラ様!ちょっとした戯れですわ」
「そうですわ、イザベラ様、気をしっかりお持ちになって」
「強く気高いイザベラ様が素敵ですわ」
「そうですわ、わたくしたちがサポートいたしますから」
「ね、こんな孤児の娘などいりませんわ、こんな子ひとりいなくなっても・・・」
「やめて!!!!おねがい・・・もうまぁちゃんに近づかないから・・・お願い、やめて・・・」
ポロポロ
ガマンしていた涙が溢れてきた。
「イ、イザベラ様!」
「わ、わたくしたち、失礼致しますわね」
「ごきげんよう」
そそくさとまぁちゃんをいじめてたやつらは逃げて行った。
「さおちゃん!!!大丈夫!?泣いてるの!?なんかされた!?」
「・・・まぁ、ちゃん・・・・ごめんね・・・」
「え、どうしたの!?」
「ごめんね、まぁちゃん・・・私、もう一緒に暮らせない・・・ごめんね・・・・」
「なんで!?」
「もう私に近づかないで・・・ごめんね・・・」
「さおちゃん!!!待って!!!」
走って その場を去ろうとした。
ドシン
その鈍い音で 振り返った。
「・・・まぁちゃん?」
まぁちゃんが 木の下でぐったりとしている。
木から落ちたんだ。
嫌な予感がして急いで駆け寄った。
「ま、まぁちゃん!?やだ・・・!まぁちゃん!!!!」
私のせいだ
「どうしよう、まぁちゃん、やだ、やだよ、まって、まってて、今人を呼んで・・・」
どうしよう まぁちゃんが死んじゃったら・・・
どうしよう・・・!!!!
私は急いで人を呼びに行こうとした
がしっ
でも その腕は 思い切り掴まれてしまった。
まぁちゃんによって。
「え?まぁちゃ・・・」
「・・・おもいだした」
「え!?」
「・・・アタシ・・・」
「え!!?」
「アタシ、まえまなみ・・・22歳のピチピチOL・・・」
「!!?」
まぁちゃん!!!生きてた!!!よかった!!!!
そう叫びながら私は わんわん泣いた。
今までのこと全部まとめてわんわん泣いた。
まぁちゃんは 頭痛いから待って・・・ と言いながら 私の話をずっと聞いてくれていた。