第27話:エピローグ

 

「これはこちらでよろしいでしょうか?」

 

 

材木を運ぶのを手伝い王が尋ねた。

 

 

「ありがとう王様、こちらで大丈夫です」

 

 

今、この国は復興中で、王様も必死に国民と共に力仕事をし働いていた。

 

 

「皆さん、少しお休み下さい、お昼ご飯をお持ちしました」

 

 

王妃と侍女たちが自ら作ったおにぎりを運んでくる。

 

 

「ありがとうお妃様!」

「王様もお妃様もこうして率先して復興のために働いてくれるなんて、俺たちは本当に素晴らしい国で暮らせてよかった」

 

 

国民たちが口々に感謝の言葉を述べると、王様の顔が曇った。

 

 

「・・・しかし、私はこの復興が終わったら王を退任しようと思ってます」

 

 

それまで皆さんよろしくお願いしますね、そう王様が微笑むとその場がどよめき立った。

 

 

「何を言ってるんだよ王様!退任だなんて・・・」

「そうだよ王様、どうして王様やめるだなんて!」

 

 

王様の側に、淋しそうに笑うお妃が立った。

 

 

「・・・私たちは罪を犯しました」

「王様たちが何をしたと言うんだ!」

「まずは・・・禁止されている人の記憶を消すように、魔術師にお願いしました」

「それは第二皇女を救うためだろ?」

「・・・それでも、やったことに変わりはありません・・・」

 

 

悲しそうに王様が言うと、隣にいた妃も口を開いた。

 

 

「それに・・・私には見えていたのです。荼枳尼天が国を滅ぼすその時が・・・それを皆さんに伝えなかった・・・1人でも多くの人を救えたはずなのに、言うと未来が変わってしまう・・・今のこの未来を変えられなくて何も言えなかった、私の罪です・・・本当にごめんなさい」

「・・・私たちには国を治める資格はないのです」

 

 

罰でも何でも受けます、それまではどうかこの国の復興を一緒に続けさせてください

 

 

王様と妃はそう頭を下げた。

 

 

「バカ言ってんじゃないわよ!」

 

 

そう大声でツカツカと現れたのは、この国の元大臣 政子だった。

 

 

「私の中に入り込んだ荼枳尼天を育ててしまったのは私よ。それに姫を誘拐したのも、呪いをかけたのも・・・あの時は荼枳尼天に操られていたとしても私がやったことに変わりはない。大勢の人を殺したのも私から生まれた荼枳尼天よ。罰せられるなら私でしょ?」

 

 

ねぇ、あなたたちもそう思うでしょ?

 

 

政子が民衆に問いかけた。

 

 

「・・・そうは思わねーな」

 

 

国民のひとりが口を開いた。

 

 

「なっ・・・!だから!悪いのは私で国王や妃は関係ないのよ!わかる!?」

 

 

そう政子が慌てて反論すると

 

 

「・・・荼枳尼天は人の心に潜む妬みや恨みが集まって生まれた存在なんだろ、賢者様が言ってたぞ」

「そうだ。そんなものはアンタの心だけじゃない、俺だって持っていたさ」

「え・・・?」

「誰の心にもそんなもんあるんだ」

「たまたま魔力が強いアンタの心に宿っちまっただけだろ?」

「それに、王様もお妃様もなんにも気にすることないさ」

「むしろ記憶を消さずにあのまま姫を見殺しにした方が俺は許せんな」

「おれもだ。それに未来が変わったことでもっとひどい結末だったかもしれん・・・それこそ国が完全に滅びていたかもしれない」

「そうならずに、こうしてまたこの国で暮らせるのは王様たちや若いみんなが頑張ってくれたおかげさ!」

「俺たちはみんな、王様たちに感謝はすれど誰も訴えようなんて思っていないよ」

「これからもよろしくな!王様!」

「それでも気が引けるってんなら、農家や店の手伝いもお願いしようね」

「そうだそうだ、まずは復興をがんばろう王様!」

 

 

王も妃も政子も 呆気に取られてしまった。

 

そして、この温かい国民がいるこの国を誇りに思った。

 

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

罪はこの国を必ず幸せにすることで償おう

 

3人は国民に感謝し、涙を流しながら復興の手伝いに力を入れるのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「もっとさぁ、魔法でちょちょいっと家建て直せないもんかね?」

 

 

アタシがそう聞くと オイカワは だーかーらー と口を開いた。

 

 

「家建てるのって基礎が大事だからね!土台作ったり木を切ったりネジ閉めたりめちゃくちゃ細かい魔法の積み重ねなの!シャランラ~って簡単には建たないんだってば!」

「なんだよ、それじゃあ人の手で家建てるのと大して変わんないじゃん。魔法も案外使えねぇな」

「重い材木運ぶとか高いところの作業とかそういうのは魔法でやるけどさ!やっぱりそういう作業は人の手が一番ってこと!わかる!?」

 

 

プンプンと怒りながらもオイカワは私の歩くペースに合わせてくれてるし、荷物も持ってくれている。

相変わらずフェミニストだなぁと思いながら ゆっくりと隣国までの道を歩いた。

 

 

あれからボロボロになった国の復興は国民全員で行われた。

王族も貴族も騎士も魔法使いも商人も百姓も大人も子供も関係ない。

生きてる人みんなで協力して一つの国を復興しようとがんばっていた。

こんなに国民がひとつになってがんばってるのも、今まで父さんが国民に寄り添って国を治めてきたからなんだろうと思った。

色々大変だったけど・・・サオちゃんも無事に戻ってきて荼吉尼天もやっつけてもう言うことはない・・・あとは復興のお手伝いめっちゃがんばろうと思う・・・(しみじみ)

 

 

「・・・もう、マナミちゃんってば、聞いてるの?」

「聞いてる聞いてる」

「もっとデート楽しもうよ♡」

「デートじゃねぇだろ、隣国の王に挨拶に行くだけだろ」

「えー!そこはデートって言ってよぉ!」

 

 

ひどいなぁマナミちゃんは・・・とブツブツオイカワは言ってるけど

こいつが復興のためにめちゃくちゃ魔力使いまくってがんばってるの、アタシは実は知っている。

めんどくさそーにしてよくイワイズミに蹴られてるけどw

こうして魔力温存のために空も飛ばず歩いて荷物持ってお供してくれてんのもちゃんとわかってる。

まぁ3年は一応恋人同士だったわけだしな。こいつ、かっこつけマンだからそういうのナイショにしてるけど知ってんだこっちは。だからうちの親からも信頼厚いの知ってんだ。何があってもオイカワがいれば大丈夫とアタシのお供に選んだのも知ってんだ。

ちなみに今は隣国の王に会食に呼ばれ国を代表して向かっているところ。

隣国も荼吉尼天のせいで心を操られた人々が暴動起こしたり大変だったみたいなんだよね。なんでこんなことになってんだか最初わかんなかったみたいなんだけど、荼吉尼天やっつけたら暴動もピタッと治まって荼吉尼天のせいだったとわかったらしくて

倒したお礼にうちの国に復興の手伝いのための兵を出してくれたり、協定結んでこれからはもっと隣国同士協力していきましょうって話になってだな。

まぁうちの親は今会食どころじゃないからアタシが代わりにお呼ばれしたってわけさ。そのお供にオイカワが選ばれたんだよね。

だから決してこれはデートでもなんでもないんだけどオイカワはデートだと言い張ってるわ。

 

 

「ねぇ、マナミちゃん、手繋いでもいい?」

「いいわけないだろwww」

「えー、いいじゃん、今までだっていっぱい繋いできたんだしさぁ」

「やめろ!黒歴史だそれは!お前が変な魔法かけるからだろうが!!」

「黒歴史とか言わないでよ!!ねぇ、少しでいいからさー」

「ダメだっつーの!!」

「ちぇっ。いいよ、じゃあ今度本当のデートの時には繋いでよね!!」

「本当のデートwwww」

「約束したじゃん!!10回はデートしてもらわないと困るからね!!」

「10回wwww多いなwwww」

「そうでもしないと割に合わないじゃん!荼吉尼天やっつけるのオイカワさんめちゃくちゃがんばったしぃー」

「待て、がんばったのお前だけじゃねーからなwみんな命がけでがんばってんだからな!!」

「もー、マナミちゃんは厳しいなぁ・・・。ま、そーいうところが好きなんだけどね!!」

「知ってる」

「・・・ところでさ」

「うん」

 

 

アレ、どうにかしてくんない?

 

 

と、オイカワは後ろを振り向き 指をさして言った。

 

 

(あぁ)

(アレねwww)

 

 

「ケンヤ、出ておいで」

 

 

アタシが声をかけると ガサガサと草木の間に隠れたケンヤがそっと出てきた。お前は犬か。

 

 

「・・・気づかれたか」

「バレバレだわ!!」

「なんだよお前!俺とマナミちゃんのデート邪魔するなよな!!」

「デ、デート!?隣国に会食に行くだけとちゃうんか!?」

「そうだぞ、デートでもなんでもないぞ」

「デートちゃう言うてるやんか!」

「それでも王様から護衛に任命されたのは俺だぞ!お前は帰れよ!!」

「な・・・!!お、俺かて!任命はされとらんけど!!彼女を守るのは恋人の役目や!!俺がマナミを守ったる!!」

「はー?言っとくけど、俺だって彼女とまだ別れるとは言ってないからね」

「「え」」

「婚約は解消するって言ったけど、彼女と別れるとは言ってないもんね!!!!」

「すげーヘリクツwwwwww」

「そ、そんなん婚約解消した時点で別れたも同然や!!今更渡さへんで!!」

「俺だって渡さないよ!3年間付き合って来たしさ、キスだってもうしてるもんね~」

「なっ!!!!!!」

「してない。口にはしてない。」

「しーたーの!!それ以上のことだって!!!」

「!!!(絶句)」

「してない。せいぜい手繋いだだけ。」

「もう!マナミちゃん邪魔しないでよ!」

「そ、そそそそんなん!そんな過去の話!これから塗り替えていけばええねん!!き、気にせぇへんで俺は!!(動揺)」

「プッ。めちゃくちゃ動揺してんじゃん」

「おいこらお前ら、何でもいいから静かにしろ。モンスターに見つかるだろうが」

 

 

こうしてギャーギャーと騒がしい旅路は

隣国につくと 隣国の国王も混ざりさらにカオスになるのであった。

 

 

あーあ!こんなことならタナカとノヤを連れてくればよかったぜ!!!!!

 

 

 


 

 

 

「クラノスケくん、もう目を開けてもいい?」

 

 

荼吉尼天との戦いでたくさんの負傷者が出た。

建物もほぼ壊滅状態だったけど、今は国中のみんなで協力して少しづつ人の住める場所が出来ているところだった。

賢者のクラノスケくんもクロウさんと一緒に復興に協力してくれていて、負傷者のヒーリングも毎日してくれていた。

今日はクラノスケくんが必要な薬や魔術書を取りに行くっていうから 手伝うよって声をかけたら

ほな、目を瞑って とわけもわからぬまま手を引かれて彼に連れられてきたのであった。

 

 

「もう着くで」

「どこに行くの?」

「薬や魔術書があるところや」

「え、だからそれはどこなの?」

「ついたで」

「え!?もう目、開けていいの?」

「ええよ」

 

 

その声を聴いて 私はそっと目を開けた。

 

 

(・・・・・・わ・・・)

 

 

その場所は。

荼吉尼天があんなに暴れて国を破壊したのに何の影響も受けずに

花が咲き誇り蝶が舞い小鳥が歌い とても穏やかな姿を保っていた。

 

 

(あぁ・・・)

 

 

そして私がこの場所を 忘れることは 二度とないのだ。

 

 

(・・・クラノスケくんと過ごした あの小屋)

 

 

クラノスケくんは隣で 覚えとるかな、 と少し不安そうに呟いた。

 

 

「・・・覚えてるに決まってるよ。ここで毎日初めましてしたんだもん、私たち」

「毎日、初めまして したな。覚えとってくれたんか・・・」

「うん・・・毎日毎日・・・ここでクラノスケくんと一緒に過ごしたね」

 

 

それはきっと 私の想像を絶するくらいのツライ日々だっただろうって

全てを思い出した今ならわかる。

毎日記憶を失い、毎日何もわからずただ怯える私を

彼は不安にさせないよう 大切に大切にしてくれて。

 

 

(改めて思うと・・・)

(大変だっただろうな・・・)

(何も覚えてなかったから・・・)

(クラノスケくん、毎日 誰?って言われて つらかっただろうな)

 

 

それでもあなたは私を見捨てず ずっと傍にいれくれたんだね。

 

 

(毎日 守ってくれていたんだね)

 

 

「・・・薬、中やねんけど 入ってみる?」

「うん、入りたい」

 

 

ギィ

 

 

少しきしむ扉を開けて 私と彼は中に入った。

 

 

「・・・なんだか少し前まで住んでたはずなのに もう懐かしいと感じちゃうよ」

「ハハ、せやねん。俺も今はここに住んでへんし、久々に来たわ」

「え?ここ元々はクロウさんと住んでたんでしょ?今は違うの?」

「ここは荼吉尼天に見つかってもうてたからな。師匠がまた強力な結界張って異空間に新しい家作ったんや」

「そうだったんだ、知らなかった!」

「賢者の力は強いから、どこの国にも属せへんし、干渉もでけへんから 誰にも住んでる場所は知られたらあかんねん」

「そっか・・・でもこのおうち本当に可愛いよね?お庭もすごく綺麗。昔からこんなに綺麗なの?」

「いや、俺がサオリが少しでも安心できるようにって可愛らしく作ったんや」

「そうだったんだ!」

「目が覚めた時、汚い家や庭やと嫌やろ?」

「うん、家も可愛いしお庭がこんなに綺麗だから私すごく心地よくて何もわからないのに外に出ちゃったことあったんだよね・・・」

「あぁ!あの時はビビったで!!まさかサオリがいなくなるとは思わへんし!サオリの身に何かあったらどうしようかと・・・」

「ふふ、ごめんね。驚いたよね。妖精さんが綺麗な歌を歌ってたの、窓から聞こえてきてさ・・・」

 

 

そういえばこっちが私の部屋だったよね。

 

 

私はそう言って 私が数年間何もわからずに目覚めた あの部屋の扉を開けた。

 

 

「・・・懐かしい」

「全部そのままやからな」

「ここ、このベッド」

 

 

ギシっと音の鳴るベッドに私は寝転んで 天井を見つめた。

 

 

「・・・目が覚めた時、いつもこの天井が一番に目に入って来たの」

「あぁ」

「天井も、窓から差し込む光も、小鳥の鳴き声も、自分の手だってわかるのに 自分が誰かなんて全然わからなくて」

「・・・」

「でも、何も覚えてないのに いつの間にかここが・・・この家が私の居場所になってたんだよ」

「え?」

「・・・クラノスケくんと離れて お城に連れ戻された時ね、 いつも家に帰りたいって泣いてたの」

「家、て・・・」

「一番に目に映る天井がここと違うの、記憶なんかないのに ここじゃない って思って怖くて」

「うそやろ・・・」

「サワムラくんが毎日護衛のために傍にいてくれたんだけど、目が覚めた時に彼を見て、この人じゃないって思ってたんだ」

「それって、」

「うん・・・私、記憶がなくても ちゃんと覚えてたよ、この二人で過ごした家のことも、クラノスケくんのことも」

「・・・・・・」

 

 

彼は黙って じっと私を見つめた。

 

 

(・・・うん)

 

 

私はそれに答えるように 小さく深呼吸すると目を瞑り

 

 

そして そっと目を開けたあと

 

 

「・・・・・・あなたは だぁれ?」

 

 

彼を見て そっと呟いた。

 

 

「・・・俺は、クラノスケや」

 

 

うん

 

 

「で、きみはサオリ」

 

 

・・・うん

 

 

「・・・ほな、朝ごはん 食べよか」

 

 

うん、

 

 

「・・・・・ちょっと待って、あなたと私は どんな関係なの?」

 

「どんな関係やと思う?」

 

 

うん

 

 

うん、うん、うん

 

 

(毎日)

 

(毎日)

 

(毎日)

 

 

毎日 同じ会話で

 

毎日 私は何もわからず

 

毎日 あなたは私の世話をして

 

 

毎日、毎日、毎日

 

 

(・・・・・うん、そう)

(これだったね)

(私たちの一日は)

(これで始まってたんだよね)

 

 

涙が溢れた

 

 

そして私は そっと次の言葉を紡いだ。

 

 

「・・・恋人同士だと、いいなぁ」

 

「・・・」

 

 

彼はベッドに近づき

 

私を抱きしめた。

 

 

「・・・俺も、恋人同士がええ。なぁ、何も覚えてへんお嬢さん。俺の恋人に なってくれんかな?」

 

 

それは今までで一番 優しく、甘く、そっと

 

いつも 今日はそれでいこか! と笑ってごまかしていた彼の 本心。

 

 

あぁやっと言えた、 と彼は強く私を抱きしめた。

 

それに答えるように、私はまた涙を流しながら強く強く彼を抱きしめ返して

 

 

「・・・うん、私、クラノスケくんとずっと一緒にいたい・・・恋人になりたい」

 

 

そう答えた。

 

 

「・・・おおきに。ちゃんと戦いが終わったら伝えるて言うてたのに、遅くなってごめんな」

「ううん、お互い忙しかったんだから大丈夫・・・」

「・・・俺もう一生こんな日が来ぃへんと思うてたわ」

「・・・ずっと記憶ないままの私でよかったの?」

「よくはないけど!けどな、サオリが生きててくれればそれでええって、そう思うてた」

 

 

せやから今こうしておることが奇跡っちゅーか!!幸せでしゃーないねん! と彼は泣きそうな顔で微笑んだ。

 

 

(そんなの 私だって)

(同じ気持ちだよ)

 

 

「うん、私も幸せだよ」

「これからもずっと一緒におれるんやな」

「うん、ずっとずっと一緒だよ」

「なぁ、サオリ」

「ん」

「愛してるで」

「・・・うん」

 

 

私もずっと

ずっとずっとあなたを 愛してる

 

 

彼の手が私の頬を包み込んだ。

このままハッピーエンドでめでたしめでたし となることを祈って。

私はそっと 目を瞑るのだ。

 

 

 

 

こうしてとある国の双子のお姫様は

つらいことも苦しいことも乗り越えて

とても頼もしい街の人たちと優しい王様やお妃様と

そして大好きな王子様・・・いえ、それぞれの運命の人と

ずっとずっと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし!

 

 

 

 

HAPPY END!!

 

 

 

 

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