Summer Garden

 

【さおり】

 

 

「暑いからビアガーデンに行こう」

 

と言い出したのは、まぁちゃんで。

 

金曜日。

お互いの仕事を早めに切り上げ、待ち合わせした。

 

こんな猛暑でも、皆さん飲む気だけは衰えていないらしく、仕事終わりの冷たい1杯を美味しそうに飲んでいる人ばかりだった。

 

「はぁ・・・暑いねぇ・・・勝手に汗が出てくるよ」

「札幌じゃ考えられない暑さだからね」

「でも、好きでしょ夏」

「好きに決まってるわ、帰ったらサマーウォーズだなこりゃ」

「賛成!ポテチ買って帰ろう!」

「ポテチ好きだねきみ」

 

そんなくだらない話でも、まぁちゃんと一緒なら楽しいのだ。

社会人になってから、札幌を出て、東京で2人暮らしを始めた。

昼間は働いて、夜や休日は舞台とかイベントに参加して。

最高に充実している!

 

(あーソワレが見れるとか最高だな・・・)

(仕事終わりにイケメンを見れる喜び・・・)

(札幌だったら土日に来るしかなかったけど)

(思い切ってこっちにきて良かったよ)

 

仕事も楽しくやってるし、今の私に不満は何もなかった。

とにかく充実してるの一言!

彼氏はいないけどね!!

彼氏より二次元だから全然OK!!

 

 

ワイワイ ガヤガヤ

 

 

ビアガーデンは大盛況。

かなりの人だった。

けっこう待ってる人もいるのかなぁとあたりを見回していたところ、店員さんに声をかけられた。

 

「あの、」

「はい?」

「すみません。混んできたので相席をお願いしているのですが、よろしいですか?」

 

4人掛けの四角いテーブル。

見ると周りはびっちり埋まっていて、かろうじて空いているのは私たちのところだけみたいだ。

確かに「混雑時は相席をお願いしています」ってレジの辺りに貼ってあったなぁと思い返す。

相席と言っても、テーブルとテーブルの隙間がめちゃくちゃ近いから、隣の人たちともすでに相席状態なようなものなので、私は別に良いかなと考える。

 

「まぁちゃん、いいかい?」

「ん?まぁ混んでるから仕方ないね」

「あ、じゃあ、相席大丈夫です」

「ありがとうございます!」

 

そう言って、店員さんはお客さんを迎えにいったん戻っていった。

 

「相席とかホントはいやだけど仕方ないね」

「まぁ混んでるしね」

「混んでる時は譲り合うものだからね」

 

そういうところは真面目な私たちは、隣の椅子にあったカバンを避ける。

ついでに机を少し片付けてと・・・

 

 

すぐにさっきの店員さんが戻ってきた。

 

 

「こちらのお席でお願い致します」

 

 

そう言って、連れてきた2人の男性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(;゚д゚)ェ. . . . . . .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めっちゃイケメンなんだけど・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケメンすぎて目ん玉飛び出るかと思った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(舞台よく見に行くけど・・・)

(え・・・なんか、普通に舞台にいそう・・・)

(え、大丈夫?)

(なんか芸能人かなんか?)

(こんなところにいて大丈夫なの!?)

(あ、でも2人ともスーツだし、ビジネス用のカバン持ってる・・・)

(え・・・なんなんだろう・・・)

(あ、わかった)

(ホストさんかな・・・)

 

 

 

 

 

 

あまりのイケメンっぷりに、普通のサラリーマンではないだろうと勝手に決めた。

マジで、イケメンすぎて、やばい。

直視出来なくなったので、早々に視線を外す。

 

 

「あ、すみません」

「お隣失礼します」

 

 

ペコリと頭を下げて2人はそれぞれ私たちの隣に座った。

私の隣がちょっと茶色い髪の人。

そして、まぁちゃんの隣が、私の好みの超絶イケメン。

まるで王子様のようなその出で立ちに圧倒される。

 

マジで目つぶれる。直視できない。隣もやだけど、斜めに座られるのも嫌だな。まぁちゃん見る時視界に入っちゃうじゃん・・・

 

そう思いながら、少なくなったグラスの中身を見た。

 

 

「お飲物は?」

「あ、ほなビール2つ」

「メニューどれですか?」

「メニューはそちらに・・・」

 

 

私たちのほうにメニューがあったので、私はハッと気づき、すぐに取ってあげる。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

私の斜めの超絶イケメンがニコッとしながらお礼を言われた。

「いえ」と言うのが精いっぱいだった。死ぬ。とりあえず、イケメンと話せた喜びで今日は死ねる。

 

 

まずはビールを持ってくると言って、店員さんがいなくなり、2人はメニューを見始めた。

 

 

 

「何食う?」

「何でもええで」

「んー、ほな適当に頼むか」

「おん」

 

 

 

しかも、超絶イケメンの上に関西弁という萌え要素たっぷりの人たちだった。

 

 

 

「まぁちゃん」

「わかる」

 

 

 

さすがまぁちゃんだ。

言いたいことがわかったらしい。

うんうん、萌えるよね。イケメンで関西弁超萌えるよね!?

はぁ・・・この素晴らしい萌え要素に感謝するしかない・・・

 

 

そう思いながら、持っていたグラスに口を付けると、隣のイケメンさんが、私たちの手元を見ているような気がした。

 

 

「どないしてん」

「いや、めっちゃ美味そうやなと思って。それなんですか?」

「(え!?私たちに話しかけてる!?)」

「え?これ?これ砂肝と椎茸の香草バター焼き」

「(まぁちゃん食べながら答えてえらい!)」

「めっちゃ美味そう!!白石、これ頼もう!」

「おん、ええで」

「え、そっちは何?」

「ドライベジタブルとゴルゴンゾーラチーズのディップ添え」

「(まぁちゃん…えらいぞ…)」

「俺、そっちのが気になっとったわ」

「お前チーズ好きやもんな、ほなこれも頼もう」

 

 

こうして、2人はメニューを決めて、ビールを持って来た店員さんにお願いしていた。

 

 

「ほな、お疲れ」

「おう、」

 

 

乾杯した2人をチラッと見る。

あーかっこいいわ。マジでかっこいいわ。

このままじゃダメだわ、何かまぁちゃんと会話しなければ・・・

でも、何を話せば・・・

イケメンの前でイケメンの話とか出来ない・・・

 

 

「今日さ、」

 

 

その時、唐突にまぁちゃんから話しかけてきてくれた。マジでまぁちゃんグッジョブだわ。

 

 

「うん」

「会社でさ」

「うん」

「課長のカツラが落ちてさ」

「え」

「みんな見て見ぬふりするのさ」

「え!?落ちたの気付いてなかったの!?」

「なんか急いで走って戻ってきた時でさ、課長」

「うん」

「急いでなんか探し物してたっぽくて」

「え、うん」

「めっちゃ焦ってて気づいてないのさ」

「うん」

「でも、そのまま探し物見つかったら社内走って行っちゃうじゃん」

「うん、そうだね」

「だから、拾ってさ、こっそり後ろに隠してさ」

「うん」

「そっと近づいて、元に戻してあげたんだ」

「え!?直接返すのではなく!?」

「うん」

「え!?そんなこと可能なの!?」

「マジで焦ってて気づいてなかった」

「え」

「前くんどうしたって言われてさ」

「ニコって笑って誤魔化したんだ」

「うん」

「そんで、課長探し物あったみたいでまた走って行ったんだけど、」

「うん」

「カツラ逆だったさ・・・」

「え」

 

 

「「ブッ!!!」」

 

 

噴き出したのは私ではなく、隣の2人だった。(私は笑えずまぁちゃんなにやってるのと思っていた)

まぁちゃんはちょっと睨んで隣を見た。

 

 

「あ、すまん!」

「ククッ・・・おもろいな!」

「自分めっちゃおもろいな!」

「すまんな、なんか盗み聞きするつもりなかってんけど、あまりにもおもろくて」

「カツラネタはあかんよな~」

「え、2人はどないな関係なん?同僚?」

 

 

いきなりイケメンに話しかけられて、ビックリしてしまった。

え、何なんだろう、なんか普通に気さくに話しかけて来たけど・・・。

え、まぁちゃんなんか機嫌悪くなったから答える気ないなこりゃ。

 

 

「あ、いえ姉妹です」

「そうなんや!」

「え?どっちがお姉さんなん?」

「あ、私です」

「言われたらめっちゃ似とるな!」

「ほんまや、そっくりやん」

「あ、はい、双子です」

「え!?双子なん!?」

「雰囲気ちゃうけど、確かにそっくりやな!!」

「そうなんか~双子やったんか~」

「へぇ~」

 

 

「さおちゃん、明日どこ行く?富士急行こうよ」

 

 

まぁちゃんがいきなり話を変えてきた。

つまり、こういうことだ。

 

 

話 し か け ん な

 

 

まぁちゃんは私以上に人見知りで、男の人に並々ならない恨みを抱いている・・・(なぜ)

いきなり話しかけてきたし、もしかして、ナンパかと思ってるかもしれない。

(でも確かに、初対面でタメ語ってちょっと引く)

(女慣れしてる感じがする)(こんなちんちくりんのブスに話しかけないでほしいわ)

 

 

「富士急推すねきみ」

「推すよ!今、ソフトクリームフェアやってるんだよ!ドドンパ乗ってアイス食べるよ!」

「ドドンパ絶対乗らないよ」

「知ってた」

「絶叫系大好きすぎるよきみ」

「楽しいしょ」

 

 

「絶叫系好きなん?」

 

 

私の隣のイケメンがまぁちゃんに話しかけた。

おお、なんかこんなイケメンがなぜ私たちに話しかけてくるのか謎すぎてやばい。

まぁちゃんはチラッとそちらを見たあと、ぷいっとした。

ぷいっと。

 

子どもか。

 

まるで子供のようだ・・・

あからさますぎる・・・

 

 

「まぁちゃん、ダメだよそんな態度・・・すみません・・・」

「ナンパきらい」

「え!?ナンパとちゃうで!!」

「さっきから、初対面なのにタメ口だし、馴れ馴れしいし、嫌い」

「あ・・・それはすみませんでした・・・」

「確かに、初対面で馴れ馴れしかったな、すみません」

 

 

まぁちゃんの隣の超絶イケメンもペコリと謝った。

こちらこそ、すみませんと、もう一度私も謝った。

 

もう、本当にまぁちゃんは・・・

(気持ちはわかる)(チャラいイケメンは私もNG)

 

 

「あのね、明日仕事になっちゃったんだ、ごめんね」

「え!?聞いてないよ!!!!」

「うん、午後からなんだけど・・・ちょっとイベントに写真撮りに呼ばれてて・・・」

「え!?どこいくの!?」

「大正薬科大の薬用植物園知ってる?」

「しらん」

「明日そこ行ってくるんだ、写真たくさん撮って来よう。嬉しいなぁ」

「きみ、植物園好きだな・・・」

「うん、好きだよ」

「植物園ならいいや~。なんのイベントやるの?」

「明日毒草教室があるのさ。世界の毒草植物っていう講座があって、写真撮って広報に載せることになっててね、」

 

 

「え、めっちゃ行きたい」

 

 

聞こえてきたのは、まぁちゃんの相槌ではなく、まぁちゃんの隣の超絶イケメンからだった。

え、行きたい?なぜ?イケメンが行くのはクラブでしょ?

 

 

「あ、すみません。俺、めっちゃ毒草好きなんですけど、詳しくその話教えてもらえませんか?」

 

 

超絶イケメンはこちらを向いて真剣に私に聞いてきた。

毒草が好き?変わってる趣味だなぁ・・・

絶対嘘だよなぁ・・・

イケメンは嘘ついてでも女の子ゲットするってまぁちゃんが言ってた!

でも、こんなブスに話しかけても何にも得はないと思うけど・・・

 

私は一瞬戸惑ったし、隣のまぁちゃんは相変わらず睨んでたけど、それでも聞かれたから応えなければと思って口を開いた。

 

 

「薬用植物園ってわかりますか?」

「はい、行ったことあります」

「(え、あるんだ)そこで、教授の・・・」

「村井教授?それとも下山教授ですか?」

「え、ご存知なんですか?」

「あ、俺も薬学部出てるし、今も製薬会社に勤めてて・・・」

 

仕事の関係上、名前だけは知っとるんです、とその人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

オォォーーー!! w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!!

 

 

 

 

 

 

やばい

いけめんやばい

イケメンで頭いいってどういうこと??????

マジで薬学部なの??????

やばくない??????

もう学生時代とか彼女選び放題だっただろうな・・・今もそうだと思うけど。

イケメンの微笑みにやられながら、話しを続ける。

 

 

「そうだったんですね、明日村井教授の毒草教室があるんです」

「そうやったんですか・・・」

「薬科大の教授代わりばんこで教室を開いてて、村井教授は明日だけなんですけど、実際の植物を見ながら勉強出来るみたいで・・・」

「それ、もう行けないですかね?」

「え?」

「いや、ほんまに行きたいんです」

「申込み不要なので、大丈夫だと思いますよ」

「ほんまですか!?」

「13時30分からって言ってましたよ。熱中症にならないように参加されたら良いと思いますよ」

「・・・そうですね。あの、お仕事で写真を撮りにいくって言ってましたけど、どういうお仕事なんですか?」

「あ、私、広報関係の仕事をしていて、大学とのお仕事の関係で写真を撮らせていただくんです」

「そうなんですか」

「へぇ~」

「明日良ければ行ってみてくださいね」

 

 

にこっと笑って、話しを終わらせたつもりだった。

本当にそのつもりだったんだ。

 

 

なのに、

 

 

 

「あの、良ければ名刺交換してもらえませんか?」

 

 

 

と超絶イケメンに言われて、目ん玉飛び出るかと思った。

なぜ・・・え、でも名刺ってことはお仕事が気になってるってこと?どういうこっちゃ・・・

 

イケメンがごそごそと名刺を出そうとしているのを見て、私も慌てて名刺を取り出した。

 

 

 

「●●製薬の白石と申します。」

「ご丁寧にありがとうございます。△△広告代理店の広報のまえと申します」

 

 

 

名刺交換はビジネスマンの神聖な儀式というからね・・・私も真面目に名刺交換をしたよ・・・。

 

 

 

「ありがとうございます」

「いえ・・・」

「白石、なんで名刺交換したん・・・?」

「いや、今広告代理店探してる言うてる人おったから、良ければ紹介しようかなと・・・」

「え!いえ、そんなうちなんて小さな会社なので・・・こんな大手の会社とお仕事出来るような会社じゃないですよ!」

「まぁ話だけでもええやないですか、これも何かの縁なので」

「でも・・・」

 

 

 

「さおちゃん、帰ろ」

 

 

 

まぁちゃんがそう言って、カバンを持って立ち上がってしまった。

これはかなりイライラしている顔だ。

私にはわかる。

 

 

 

「あ、すみません、失礼します」

 

 

 

私は、そう言い残して、まぁちゃんの後を追った。

 

 

 

 


 

 

【まなみ】

 

 

 

さおちゃんと楽しくビアガーデンで飲んでいたのに。

混んでいたから相席お願いしますって言われて、隣になったやつらが最悪だった。

 

めちゃくちゃ慣れ慣れしいし!

話しかけてくるし!

さおちゃんになんかしつこいし!!

 

それから、

 

さおちゃんの隣の男!

 

なんかチラチラ見て来るし!

 

 

 

(あーもう!)(腹立つ!!)

 

 

 

アタシ知ってるんだ。

馬鹿な男たちがこっちをチラチラ見てくることあるし。

アタシ可愛いからね!仕方ないけどね!

だから、あの視線は気があるね。腹立つ。

大体、あのチャラ男はなんだ。

さおちゃんと話してた男は本当に名刺が製薬会社だったから百歩譲って本当に製薬会社だとしよう。

(でもまだ信じてない、いくらでも偽装できるし)(さおちゃんの連絡先を手に入れるなんて絶許)

でも、あのチャラ男はなんだろう。

見るからにチャラそうだったから、製薬会社じゃないと思う。

だって、チャラそうだし、バカそうだもん。頭悪いでしょあれ。

ほんと、腹立つわ。

ナンパするやつきらい!!!

 

 

そんなこんなで、プンスコしてたら、さおちゃんがポテチ買って帰ろうって言ってくれた。

そうだそうだ、これからサマーウォーズを見るんだった!

ストレス溜まったから食べて太ってやるわ!!

さおちゃんも明日は午後から仕事だから大丈夫だよって言ってくれて一緒に映画を観ることにした。

 

 

 

「あ~~~しょうた~~~」

「きみ好きだね~」

「こんなかっこいい警察官いないよ・・・」

「かっこいい(笑)」

「ホントすき・・・」

「金髪で警察官」

「ギャップがたまらん」

「そういえば今日私の隣の人も派手な人だったけど、なんの仕事してるんだろうね?」

「ホストじゃね?」

「適当だね」

「だって、どうでもいいじゃん、ムカつくよ」

「途中からかなりイライラしてたね」

「そりゃそうだよ」

「関西弁のところまではキュンキュンしたんだけどね」

「そうさ、話しかけてくんなっつーの」

「きみがカツラの話をしたから悪いのでは・・・?」

「なんでさ!私悪くないしょ!」

「まぁ、話してただけだからね」

「話しかけてきて、しかもタメ語だよ!?ムカついたわ」

「まぁ気持ちはわかるけど、超絶イケメンだったわ」

「イケメンだけど、あれはダメだ」

「最初ホストかと思った~」

「あーホストっぽいよな」

「女慣れしてる感じしたしね」

「したした」

「でも、薬学部とか頭いいよね~」

「頭良くても、女癖悪かったら最悪だよ?」

「確かに」

「あれ絶対遊んでるからさ」

「遊んでるね」

「ダメだわ、さおちゃんあんな男にひっかかっちゃダメだぞ!」

「ひっかかってないしょ(笑)」

「きみはイケメン好きだから心配だ・・・名刺交換もしていたし・・・」

「でも会社の番号しか書いてないしさ、個人的な連絡は来ないと思うから大丈夫だよ」

「名刺交換する意味がわからん」

「私もなんで名刺交換の流れになったのかよくわからなかったよ」

「毒草好きとか意味わからなさすぎるしね」

「意味はわからないね」

「絶対嘘だよ、明日も植物園いないよ」

「そうだろうね、私もそう思うよ」

「彼女たちとデートだよきっと」

「彼女たち!?」

「午前中はA子と、午後は夕方までB子と、夜はC子と、あとはクラブで出会った女をお持ち帰りな」

「え!?最低でしょ!」

「最低だよ男なんて」

「本当にきみは男になんの恨みがあるの(笑)」

「男なんてクソだよ。とにかくさおちゃん気を付けてね」

「うん、気を付けるよ(笑)」

「あ、しょうた・・・かっこいい・・・」

「やっぱり二次元に限るね」

「うん、二次元に限るわ・・・」

 

 

その後も、さおちゃんとサマーウォーズを見ながら、楽しい金曜日の夜を過ごした。

今日あった出来事はもう忘れよう。

 

(はぁ・・・しょうたかっこいいな・・・)

 

 

 

 


 

 

【さおり】

 

今日も暑いなぁと思いながら、大事な商売道具のカメラを持って大学の植物園に向かった。

中に入り、まず教授と大学の広報の方に挨拶する。

始まるまで控室で教授に軽くインタビュー。

時間になったので、教授と共に会場のほうに向かう。

今日は暑いので、熱中症対策で大学の中での教室(講義)となった。

その代わり、植物の実物も教室に持ち込んでいる。

暑いからね。熱中症で倒れたら大変だし。英断だと思う。

大学内はとても涼しいので、日焼けの心配もいらないなと思いながら写真を撮る準備をする。

 

 

うん、ここまでですっかり忘れてたよね。昨日のことなんて冗談だと思ってたし。

会場に入って、写真を撮るためにカメラを構えたところで・・・

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

思わず、レンズ越しではなく、肉眼でその姿を改めて確認してしまった。

 

 

ペコリ

 

 

昨日の超絶イケメンが、こちらに会釈した。

嘘だろ、昨日のスーツもよかったけど、普通のTシャツ着てるとか私服もいいな・・・じゃなくて、なんでいるの!?

本当に毒草が好きだったの!?イミガワカラナイ

 

意味がわからないけど、教授の挨拶も始まったので、必死に写真を撮る。

実際に植物に触れる機会とかもあって、会場に遊びに来ていた子供も楽しそうだ。

大人も多く、植物に興味がある人ってけっこう多いんだなって思った。

 

そして、例の超絶イケメンに至っては、めちゃくちゃ真剣に講義の内容をメモにとりながら聞いていた・・・。

植物も必死にスマホのカメラで撮影して・・・。

え?本気で毒草が好きってこと?毒草好きってどういうことだろう?誰かを暗殺するとか?え、コナンくん案件・・・?

 

(謎が多いなイケメン・・・)

 

何はともあれ、本気で毒草が好きなようだ。

 

 

毒草教室も無事に終わり、受講者たちが帰っていく。

その中で、超絶イケメンだけ少し残り、教授に話しかけた。

 

 

「お世話になっております。●●製薬の白石と申します」

「え、●●製薬さん?こちらこそ、お世話になっております。今回もインターンの受け入れにご協力いただいて・・・」

「いえいえ、優秀な方ばかりでこちらこそ助かっています」

「今日はどうされたのかな?」

「いえ、わたしは毒草が好きなものですから、ぜひ受講したいと思いまして…。まえさんにお聞きしたんです、今日のこと」

「(え!?私のこと言われた!!)」

「あ、まえさんのお知り合いかぁ~」

「はぁ・・・(やべぇ知り合いってほどじゃないよ!!昨日ほんの15分くらい隣にいただけの仲だよ!)」

「今日の教室とても勉強になりました。こういう教室を定期的にされているなんて素晴らしいですね」

「いやいや、そういってもらえるとわたしもね、嬉しいですよ」

「また次回もぜひ参加させていただきます」

「うん、わたしは今日だけだけどね、他の教授の教室も楽しいからきてくださいね」

「はい、ありがとうございました」

「まえさんも、今日はありがとね」

「いえ、また何かあればよろしくお願い致します」

「はい、ありがとう」

 

 

そう言って、教授は帰って行った。

広報の方とはもう挨拶も終わったので、私はあとは帰るだけ。

まぁちゃん待ってるから、早く帰ろうと思ったら、

 

 

「あの!」

 

 

そう、話しかけられた。

 

超絶イケメンに・・・!!!!!!

 

 

「よく、ここの植物園来るんですか?」

「あ、はい・・・仕事のついでですけど植物園は好きなので1人で来て写真撮ってます」

「そうですか・・・」

「?」

「あの、もう帰られますか?」

「そうですね、もう終わったので帰ろうかなと思ってました」

「そうなんですか・・・良かったらこれから一緒に植物園のほう行きませんか?」

「え?」

「いや、今日暑くて中でやったからまだ植物園ちゃんと見れてなくて・・・一緒にどうかなと思うて・・・」

「え・・・」

「あきまへんか?」

「え・・・いや・・・(え?なぜ?なぜ???なぜ超絶イケメンが???なぜ???)」

「あ、忙しかったらええです」

「(忙しい・・・って言うのが正解???え?何が正解???)あーーーー・・・じゃあ少しなら・・・」

「ありがとうございます!!」

 

 

 

そしてなぜか、私は超絶イケメンと2人で植物園のほうに向かった。

(謎すぎて、終始ぼんやりした私は悪くない)

 

とりあえず、なんか話しかけられたけど、適当に相槌を打って、植物の写真を撮ることに専念した。

こえぇなイケメン、昨日あったよく知らない女と簡単に2人きりになれるのな!

怖すぎるわ!!なんだよこの展開!!謎すぎる!!

 

 

「キレイに撮りますね!」

 

 

写真のチェックをしていたら、すぐ耳元で声が聞こえた。

 

 

驚いて振り向くと、

 

 

(え)

 

 

私のカメラを覗き込む形だったので、めっちゃ顔が近い。

超絶イケメンの尊顔がこんなに近くに。

 

 

 

あわわわわ

 

 

 

 

チ───(´゚ェ゚`)───ン

 

 

 

 

「あ、すみません」

 

 

そう言って、イケメンは離れた。

 

 

「写真好きなんですね」

「・・・はぁ・・・(近かった・・・びびった・・・)」

「めっちゃええ写真ですね」

「そうですかね・・・昔から写真撮るのが好きで・・・」

「そうなんですか、その写真もらえませんか?」

「え!?」

「俺も植物がめっちゃ好きなんで・・・」

「はぁ・・・じゃあ、どうしよう・・・昨日の名刺のアドレスに送ってしまって大丈夫でしょうか・・・」

「はい、お願いします」

「わかりました。じゃあ、休み明けに送りますね」

「あ、別に急いでないので時間ある時でええです」

「はぁ・・・わかりました」

「あの、これ見たら帰りますか?」

「あ、はい(まぁちゃん待ってるし・・・)」

「時間あったら良ければ食事でも行きませんか?」

「え!?」

「いや、昨日飲んでるの邪魔してもうたなぁと思うてて・・・俺おごりますんで!」

「え、いえいえ、ダメです!奢ってもらうなんて!」

「でも、昨日邪魔してもうたしなぁ・・・」

「大丈夫です!邪魔とか思ってないので!!妹も待ってるので・・・」

「あ、妹さん!ほな、妹さんと昨日いた俺の友達と4人で行きませんか?」

「え!?」

「妹さんの分も出すので、お詫びさせてください」

 

 

断っても、どうしてもと言われてしまって。

仕方がないので、イケメンが見てるからまぁちゃんにしぶしぶ連絡をしたのだった・・・。

(絶対いやだって言うだろうな・・・)

 

 

 


 

 

【まなみ】

 

 

昨日の製薬会社のやつがマジで大学に行ってたらしい。

うける。

 

(マジで毒草好きとか)(どんな趣味だよ)(きもい)(うける)

 

そんで、なんかさおちゃんと会って、昨日失礼な態度とったからお詫びに奢ってくれるらしい。

 

 

タダ飯なら私は行こうと思う。

 

 

(さおちゃんは断ると思ってたし、断ってほしかったと言っていたけど)(今日作るのめんどくさくてカップ麺の予定だったし・・・)

(ただで美味いもん食べれるなら喜んで・・・)

 

 

どうやら、昨日のチャラ男もいるらしい。

 

 

さおちゃん困ってるだろうなぁと思いながら、待ち合わせの駅前に来た。

 

 

「あ、まぁちゃん!!」

 

 

さおちゃんはアタシの姿を見ると、喜んで駆け寄ってきた。

めっちゃホッとしてるところを見ると、相当つらかったんだろう。顔面レベルが高いやつといるのはつらいよな。

見ると、すでにチャラ男もいて、4人で居酒屋に入った。

 

今日は、さおちゃんとアタシが隣。

そんでさおちゃんの前に製薬会社のやつ、アタシの目の前にチャラ男。

 

飲み放題で良いということだったので、飲み放題にしてもらって、4人で乾杯した。

 

 

 

「はぁ、タダで飲む酒は美味い」

「まぁちゃん、ダメだよ、あとで払うよ」

「なんで、タダだから来たんだよアタシ」

「はは、ええよ、俺らも奢る気やったし」

「昨日反省しててん、失礼やったなって。今日は昨日の分も食べて飲んでや!」

 

 

そう言うと、チャラ男は「何食べる?」とメニューを差し出してきた。

 

うむ。良い心がけだな!

 

 

とりあえず、今日はおごりなので遠慮なしにいろいろと頼んでみた。

食べたいものたくさんあったからね!

製薬会社だからお金あるだろう。きっと。

 

 

「まぁちゃん・・・ちょっとは遠慮しなよ」

「しないよ、食べる」

「まぁちゃん・・・」

「ええやん、えっと、さおりさんやっけ?」

「え!あ、はい!(どきっ)(名前で呼ばれた!!)」

「さおりさんはしっかりしとるんやな。妹さんは何て名前なん?」

「まなみ」

「だからまぁちゃんて呼ばれてたんか!」

「双子言うてたから、名前で呼んでええ?さおりさんと、まなみさんな」

「さんとキモイwwwせめてまなみちゃんだろwww」

「え、まなみちゃんでええの?」

「まなみでいいわ、まなみちゃんとか呼ばれたい人限られてるから(かずきちとかマコとか・・・)」

「呼び捨てでええの!?ほな、俺は謙也って呼んでや!俺、忍足謙也って言いますー」

「けんや」

「おん、よろしくな!」

「え、っちゅーか、2人何歳なん?年上・・・?え、何歳やろ?仕事しとるから学生さんではないしなぁ」

「そっちは何歳さ」

「俺ら26歳の歳やで。こいつ26になって、俺早生まれで25」

「じゃあ年上だ」

「せやんな!なんかそんな気しとったわ!!めっちゃ若いもんな」

「え、いくつ?」

「24の歳。早生まれだから、まだ23」

「2コ下かぁ、うちの弟と一緒や」

「うちも妹と一緒や、けどさおりさんめっちゃしっかりしとるから、大人っぽく見えるな」

「さおちゃんは昔から老けてる」

「老けてるって言わないでよ・・・」

「年下なのに、仕事しっかりしとってえらいな。今日もめっちゃ頑張ってたよな」

「いえ、そんなことは・・・」

「さおちゃんは真面目だから」

「え、自分はどないやねん」

「アタシはトイレでよく寝てる」

「寝とるんかwww」

「仕事早く終わらせて寝てる」

「要領めっちゃええやんwww」

「まぁちゃん・・・」

「双子なのに性格ちゃうんやな!おもろいな!」

「面白いことなんて何一つないよ」

「いや、充分おもろいで。昨日のカツラとかwww」

「カツラwww」

「カツラ逆で乗せたあとどないしたんか聞きたかったんやけどwww」

「カツラ?カツラ逆につけたら課長そのまま走って行ってしまったから、カツラ逆なまま社内をうろついていたらしい」

「そうなんかwww」

「でも、カツラなの全社員知ってるから問題ない」

「問題ないんかwww」

「でも、また戻って来たときにはカツラ治ってからどっかで誰かに言われたのか自分で気づいたのか・・・」

「不憫やなぁ・・・」

 

 

そこで、ご飯が運ばれてきて、うひょーwwwってなった。

はぁ・・・タダ飯・・・幸せ・・・

 

 

「製薬会社はいいけど、ホストなのに大丈夫なの?」

「え?ホスト?誰が?」

「え、けんや」

「え!?俺ホストちゃうで!?」

「おまっwwwホストに間違われてんのかwww」

「製薬会社の名刺見るまで、あんたもホストだと思ってたよ」

「え!?俺も!?」

「お前のがホストっぽいやんwww」

「ホストちゃうで!俺はホンマに製薬会社!」

「アンタはわかったって、今日教授とあいさつしてたって聞いたし。けんやはホストでしょ?」

「ちゃうって!」

「じゃあ何してるの?フリーター?」

「フリーターwww」

「お前は・・・どうしても俺をそういう職業にしたいんやな・・・」

「え、なんで?違うの?何してるのさ」

「医者」

「は?」

「せやから、医者。まぁ詳しく言うと研修医やけど」

「うそだ」

「食い気味に否定したな」

 

 

 

信じられなかった。耳を疑った。

嘘だろ!?そんなはずがない!!!

こんなチャラそうな医者がいてたまるか!!!!

頭いいとか嘘だろ!?絶対バカじゃん!?

 

 

 

「嘘やないって!ホンマに」

「あ、わかった、医者って言って女の子ゲットする手口だ。さおちゃん、こういう男には注意しないとダメだよ」

「ちゃうから!ホンマに!!!研修医!!!将来おとんの病院継ぐ予定!!」

「うそだ」

「嘘やないって!!!」

 

 

なんで信じないねん!って怒ってたけど、うん。信じられるはずがない。

絶対嘘だと思う。

 

 

嘘だと思うのに、

 

 

本当に、医者なら、

 

 

すごい、よねぇ・・・?

 

 

(うそだうそだうそだ)(男はすぐそうやって嘘つくからな!)(信じないぞ!)

 

 

そう思ったけど、たくさん料理も食べて、飲んで、あっさりお金を払ってくれるから、5%くらいなら信じてあげようと思った。

こういう手口なのかもしれないけど。

 

 

帰り際、「カラオケでもいかへん?」と誘われたけど、早く帰りたかったから断った。

さおちゃんも帰りたがってたし。

何より我々もうねむい。

 

 

「あかんかぁ」

「うん、だめだ」

「もちろんおごりやで!」

「(女の子と必死に遊ぼうとするのがやだな)いかない」

「どうすれば行ってくれる?」

「もっと仲良くなってから」

「仲良く・・・!?わかった、ほな連絡先教えてや!」

「え」

「仲良くなるためやん!」

「えーチャラい」

「チャラいってなんやねん!めっちゃ緊張しとるわ!!」

「うそだwww絶対慣れてるしょwww」

「慣れとらんわ!!女の子の連絡先とか聞いたことないわ!!」

「それは本当に嘘だ(真顔)」

「いや、ほんまに・・・ずっと勉強しとったし・・・」

「え、まだ医者とか言ってるの?絶対嘘でしょ」

「うそやないって!!どうすれば信じんねん・・・」

「信じないよ。そもそも医者って言えば女がついてくると思ってる感じがやだ」

「いや、それは思うてへんけど、嘘は言ってへんねん」

 

 

 

ホンマにホンマ。嘘つくはずないやん。

 

 

 

そう言った、この人の顔が少し困った顔をしていたからか。

なんだか目が話せなくて、ドキリとしてしまったのは素直に認めたくはない。

結局、連絡先を交換してしまったのは一時の気の迷いとすることにした。

もう夜の10時近いのに蒸し暑いこの暑さのせいだということにして、新しく増えた「忍足謙也」の文字を見る。

 

 

(話してるテンポとか、ノリとか)

(悪くないと思ってしまった・・・)

 

 

果たして、この名前はいつまで私のスマホにあるだろうと思いながら、タクシーに乗り込んだのだった。

 

 

 


 

 

【さおり】

 

 

まぁちゃんが、けんやさんと話している時、私は白石さんと攻防戦を繰り広げていた。

 

 

「ダメです、お金払います」

「誘ったのはこっちやし、ええから」

「嫌です」

「なんでやねん、ええってホンマに」

「おごられるの嫌いです」

「そうなん!?」

「嫌いです。お金払います」

「いや、ほんまにええって!」

「受け取ってください!」

「受け取れんて、昨日のお詫びやし、誘ったんこっちやで!」

「でも、私だって食べたり飲んだりしたし・・・」

「・・・さおりさん、ええ子やな」

「え!?」

「いや、おれの周りの女は、男におごられるの当たり前って考えのやつばっかりやし」

「え」

「目からうろこやで、こんな考えの女の子もおるって思うと」

 

 

ハハッと彼は笑ったけど、合コンいったり、女の子と遊びまくっているのだろうか。

そんな女ばかり周りにいるのだろうか。

そんな女と比べないでほしい。

 

尚更、お金を渡さなくてはと思った。

 

 

「やっぱり、お金払います」

「ええって、どうしたら諦めてくれんねん。妹さんのほうはおごってもらう気満々やで」

「私は嫌なんです」

「けどなぁ・・・俺もここは譲れんし」

「嫌なんです本当に」

「ほな、」

 

 

次回、おごってくれる?

 

 

白石さんはそう言った。

 

 

(次回?)

 

 

私はその時はあまり何も考えられずに、返事をしてしまった。

(今思えば、反省している)

 

 

「次回?次回おごらせてくれますか?」

「おん、それでお相子やろ」

「・・・わかりました」

「ほな、次はいつ空いてますか?}

「え?」

「おごってくれるんやろ?」

「あ、はい!次は、えっと、基本的に土日は休みで・・・あ、でも用事ある時もあるけど、来週は空いてます」

「ほな、来週の土曜日でもええですか」

「はい、わかりました(おごるぞ!)」

「どっか行きたいとこありますか?」

「え、また居酒屋でいいですけど(おごるから)」

「いやいや、どうせなら朝から遊びませんか?」

「ああ・・・はい、大丈夫ですけど」

「じゃ、とりあえずまたあとで計画しましょう」

「はい、わかりました」

「連絡しますね」

「はい」

 

 

 

「さおちゃん、タクシー乗るよ!」

 

 

 

まぁちゃんが、そういうから、私も急いでまぁちゃんの方に向かった。

 

 

 

「今日はご馳走様でした。ありがとうございました。」

 

 

 

ペコリとおじぎをして、タクシーに乗り込む。

2人共、手を振ってお見送りしてくれた後、まぁちゃんがタクシー代をもらっていたことに驚愕した。

そして、来週はタクシー代の分も払わなくてはと心に誓う。

 

 

 

「はぁ・・・来週タクシー代の分まで払わなくちゃ・・・」

「え?来週ってなに?」

「いや、来週おごる約束してて」

「は?なにそれ?さおちゃんあいつとデートすんの?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

Σ(;゚ω゚)ハッ!!

 

 

 

 

 

 

そこでやっと気づいた私はなんなのか・・・

 

次回の約束をまんまとしてしまったことを言われてから気づいた。

 

男の人と会うのなんて無理と泣き付いた私に、まぁちゃんは「会わなきゃいいじゃん」と言ったけど、やっぱりお金のこともあったし、名刺も好感してるしなと思うと、どうしても会わないという選択肢は選べない私だったのだ。

 

結局、私1人には荷が重いことに気付いて、最期までメソメソしていた私だった。

 

 

 

 

 

月曜日――――――――

 

 

義理堅く、真面目な私は、約束した写真を白石さんのメールアドレスに送信した。

そこで帰って来たのが、お礼と、白石さんの個人的な番号。

 

『どこに行きたいか希望はありますか?』

 

そう書かれた一言に、私は覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 


 

 

【まなみ】

 

 

 

ミーンミーン

 

 

晴天。

あちこちからセミの鳴き声が聞こえる。夏だなぁと思いながら、飲み物を口にする。

 

 

「あーこれええなー」

 

 

携帯用扇風機で風を浴びている隣の男を見た。

なぜこうなったのか。

 

 

 

 

それは、さおちゃんが白石とかいう製薬会社の男とうっかり約束してしまったから。

純粋なさおちゃんに付け込んで、次回の約束をするなんて許せないと思った。言いくるめられた感じだったみたいだから、腹立つわ!

結局、2人きりで会うのは嫌だと言ったさおちゃんに誘われて、富士急に遊びに来た。

希望の富士急だ!製薬会社のやつが車出してくれたから、正直楽だった…。

さおちゃんと2人ならいつもバスとかだから、マジで楽だった…。

 

富士急は、絶叫系と、あとホラー系が有名なんだよね。ホラー系もある意味絶叫系だけど。なぜかお化け屋敷めっちゃある。

さおちゃんは絶叫系嫌いだけど、脱出ゲームが大好きだから、いつも一緒に来てくれるんだ。

今回絶叫系が新しくなったとかで、それはそれで楽しみにしていた。

けど、絶叫系に乗れないさおちゃんなので、なぜか私の隣にはずっとけんやがいたのだった。

 

 

「でもこんだけ暑いと、風もぬるいなぁ」

 

 

ほれ、と言いながら、アタシに携帯扇風機の風をかけてくるこいつは、のんきだと思った。

そして、わかった。

こいつは無害である、と。

 

私はいろんな男を見て来たけど、大体男は2人きりになったら、手繋ごうとしたり、くっつきたがったりしてくる。

彼女じゃねーからやめろと思うけど、2人きりになった時点で心を許してくれたと思うのか、彼氏面してくる男をアタシはいろいろ見てきた。

でも、この男はそれがないのである。

むしろ、アホだ。

アホだから無害。

以上。

 

 

(まぁ今まで会った男の中では、)(かなりマシということだ・・・)

 

 

「暑いから熱中症に気をつけなあかんで」

「うん」

「飲み物なくなったら、俺買ってくるからな!」

「うん(めっちゃ使える)」

「それにしても、こんな暑いのにみんなよう並ぶわ~、あ、暑かったら休んでてええからな!」

 

そういって笑うこの男は、本当に優しいし、めちゃくちゃ動くからとても便利だと思った。

 

 

連絡先を交換したあの夜。

早速「よろしくな!」とメッセージが届いていたけど、既読スルーした。

なぜなら男にいちいち返信しない私だからである。

それから、既読スルーだったからか、連絡がなかったけど、さおちゃんが製薬会社の男と約束して、富士急なら行くと言ったあとにまた連絡があった。

 

「絶叫系好きって言うてたよな?俺もめっちゃ好きやねん!楽しみやな!」

 

そしてアタシは、また既読スルーをした。

そして、今日、製薬会社の男と一緒に迎えに来たこの人に車の中で、

 

「既読スルーしないで!」

 

と言われたけど、それだけで終わった。

ネガティブなやつは、ウジウジしているだけなので、それで終わって、その後も普通に話しかけてくるから、逆に好感度は上がった。

(絶対に言えないけど)

 

なので、男と2人きりとかって普段は嫌なのに、なぜか気を使わなくて良いこの人の隣は、居心地がいいと感じてしまっている…。

 

「あ、ほら進んだで!」

 

そろそろ乗れるな!と笑うけんやの顔を見る。

かつて、こんなに気を使わないでよかった男はいただろうか。

いや、いない。

本気でこの人はアホなのだ。

そんなこの人の笑顔に助けられると感じた私だった。

 

 

 


 

【さおり】

 

大変だ。

そもそも、まぁちゃんが一緒に来てくれない可能性があったから、まぁちゃんが来たがっていた富士急を選択したところから間違っていた。

なぜなら私は絶叫系が乗れないからである。絶叫系乗れないけど、きっと3人で乗って私はぼっちでOKと思っていたのだった。

でも、あのけんやとか言う人も絶叫系が好きらしくてまぁちゃんと一緒に絶叫系を乗りに2人だけで行ってしまった。

なぜだか、白石さんは私の横にいる。

絶叫系行けばいいのに。

「みんなと行ってください」と言ったのにも関わらず、「別にええねん」と言われて私の横にいる。

絶叫系行けばいいのに。

最初から間違えていたのだ。富士急を選んだ時点で間違えたのだ。

(ちなみに、富士急のフリーパスも先に前売りで買われていたので、私は今日はフリーパスの分も奢らなければいけない使命があるのだった)

 

私がいろいろと考え事をしていると、白石さんが話しかけてきた。

 

「なぁ、さおりさん」

「はい?」

「あれ食べたい」

 

指を指した先には、アイスのワゴンが。

 

(゚0゚)ハッ

 

ここは、奢れるチャンスだ!!

 

そう思って、「私、買ってきます!」とアイスのワゴンに財布を出して向かった。

(やったーこれで少し返せる!!)

 

そう思って、アイスを買って、白石さんに手渡した。

 

「どうぞ!!」

「おおきに」

 

ニコリと受け取ってくれた白石さん。

よかったよかった、少しだけ心が楽になった…。

(でもまだまだアイスの分だけだから、これから巻き返す)

 

「これ食い終わったら、どっか行く?」

「あーはい、そうですね・・・えーっとそしたら、ボート乗るこれがいいです」

「ホンマに絶叫系苦手なんやな」

「すみません・・・よかったら皆さんと行って来てください(私1人のほうが気楽なので)」

「いやいや、ええねん」

「そうですか・・・」

「このボート乗ったら、合流して昼飯やな」

「そうですね・・・」

 

 

アイスしかまだ奢っていない私は、お昼ごはんは絶対に出そうと意気込むのだった。

 

 

 


 

【白石】

 

 

ビアガーデンで初めて会った時。

おもろい子やなと思った。

聞き耳立ててるわけやないけど、内容もおもろいし、言うてることも真面目やなと思った。

 

何より、一番嬉しかったんは、毒草教室の情報を聞けたこと!

 

こんなことってある!?と思った。

仕事が忙しいし、なかなか植物園とか最近は見て周ることも出来ず、毒草のことも調べる機会が少なくなって。

でも、ほんまに好きなことやし、行きたいなぁと思った。

 

ほんで、きっと真面目であろう彼女の名刺を思わず交換してしまった。

最初から個人的な連絡先を聞くよりも、名刺交換ならしてくれるんやないかと思うて。

俺の打算的な考えは、まさにその通りやった。

毒草教室の後に一緒に植物園に誘っても、断らずについてきてくれて、あまりにも綺麗な写真を撮るから欲しいと行ったら、律儀に会社のメールに送って来てくれた。

ホンマにええ子やと思った。

 

それと同時に、彼女に対する興味も強くなって言った。

 

いや、興味というより、もうこれは、

 

 

(好き・・・になってもうたんかな・・・)

(いやいや早すぎるやろ・・・)

 

 

仕事中の彼女を見てもホンマに真面目やし、こうして話してても遠慮する。

何より、居酒屋に行った時にずっと「奢られるのが嫌だ」と言っていたのが印象的やった。

女なんておごられて当たり前なんやと思うてたわ!!

ねーちゃんもゆかりもそうやったし。

せやから、「こんな子おるんや」と素直に関心してもうた。

それが、ええ子やなと思うきっかけとなっても、不思議ではない。

俺はすっかり、彼女に夢中になっていて、気付けば彼女に会いたいと思うようになっていた。

 

奢られるのが嫌だという彼女に、「次はおごって」と言うたのも、次の約束を取り付けるため。

ほんで、奢られっぱなしも嫌だろうと思い、アイスをお願いしたところ、

 

「私、買ってきます!」

 

と財布を握って走りだし、

 

「どうぞ!!」

 

と言ってアイスを手渡してくれたその目がキラキラしていたから、あまりの必死さに笑いそうになった。

 

(かわええなぁ)

(こういうとこええな)

 

必死なところも、真面目なところも、素直なところも。

 

全部全部、惹かれないわけないやろ?

 

「白石さん、ボート漕ぎますから私!!」

 

そういって、必死にボートを漕ぐ彼女を見て、どうしたらこの真面目な彼女を振り向かせられるのか考えるのやった。

 

 

 


 

【けんや】

 

 

まず、最初に言っておく。

 

 

正直、かなり好みやった。

 

 

ビアガーデンで相席をお願いされた時、「かわええ!ラッキー♪」と思ったところから始まっている。

その後、彼女の話がおもろくて、笑ってもうた自分がおった。

 

もうな、

 

ツボ

 

やねん。

 

可愛くて、話しがおもろくて、一緒にいて楽しいと思える。

 

こんな相手最高やん?

 

 

なんやろ、アラサーになるとな、いろんなこと見えてくんねん。

学生時代はわからんかった女子のいろんなことな。

でも、最近はそれが恐怖で・・・。

一応医者を目指してる身分として、ちゃんとせなと思うてるけど、そうやって外見を見繕っても意味がない。

医者のイメージが先行してて、疲れるねん。

せやから、職場で出会う人の前では、いつも疲れとる。

 

それもあってか、やっぱりこの歳になると、一緒にいて楽な相手がええなと思うてた。

 

それが、おってん。

楽できる子。

今、目の前におるこの子や。

 

もうな、ほんまに、

一緒にいるとめっちゃ楽。

 

無理しなくてもええねん。

普通に友達と一緒にいるような感じで楽やねん。

 

可愛くて、話しがおもろくて、一緒にいると楽しくて、素の自分でいられて。

 

こんなことってある?

ホンマに神様に感謝した。

既読スルーも気にならんくらい、彼女のことが気になっとる!

 

 

散々2人で絶叫系乗って、ほんで、昼に白石たちと合流して。

昼飯食った後は、みんなで脱出ゲームに挑戦して。

アイスも食って、また絶叫系乗って。

学生の頃みたいに、一日中笑ってばっかりやった。

 

 

気付けば、空は夕焼けになっていて。

最後に何を乗るかという話になっていた時、比較的空いていた、観覧車に乗ることになった。

 

最後に2人でもう少し深い話を出来ればと思いながら、俺たちは観覧車に並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで白石と乗ってんねん!!」

「知らんわ!俺かて何でお前と乗ってるのか不思議やわ!!」

「あーまさか観覧車苦手やったとは・・・」

「直前で逃げられると思わんかったよな・・・」

「ホンマにな・・・けどお前ら来るまでは乗ってくれようとしとったから、まぁ優しい子やで」

「・・・お前、惚れた?」

「なんやねん急に!?」

「いや、今日ほとんどまなみとおったやん」

「おん」

「楽しかったやろ?めっちゃ楽しそうやったし」

「・・・楽しかったなぁ」

「惚れた?」

「・・・まぁ、正直、惚れた」

「やろうな」

「そ、そういうお前はどないやねん!!お前かて、絶叫系乗れるくせにずっと彼女と一緒におったやないか」

「俺は多分、もう最初から惹かれとったで」

「え」

「せやって、めちゃくちゃええ子やねんもん」

「まぁ・・・せやな。お前の周りにはおらんタイプよな」

「せやろ!?もうな逆ナンしてくる女多すぎるっちゅーねん!なんやねん!自分から誘ったくせに奢らせるってなに!?意味わからん!」

「おお・・・いつも言うてるなそれ」

「けど、あの子ほんまええ子やわ・・・惚れない理由はないよな」

「せやんな、俺も一緒にいて楽しい・・・」

「おん、ほな頑張ろ」

「あーけどまだ彼氏いるかも聞けてへん・・・」

「そんなんこれからやんけ」

「おん・・・」

「ま、お互い頑張ろ」

「おん」

「これで結婚したら親戚やな!」

「結婚・・・!?まだ早いわ!!」

「そう?俺は付き合うならそれくらいの気持ちで行くで」

「お前、昔からそういうとこあるよな」

「そういうとこってどういうとこやねん」

「わかった、俺もがんばる」

「おう、がんばろう」

「おん」

 

 

今年の夏に神様がくれたチャンスを、せっかくなら掴みたいと、

この腐れ縁の男と2人で決意を新たにするのやった。

 

 

 


 

 

【さおり】

 

 

「まぁちゃん、今日楽しかった?」

 

観覧車の前を通った時、今まさに乗ろうとしているまぁちゃんたちに会った。

するとまぁちゃんは「代わって!」と白石さんといきなり交代してしまった。

観覧車微妙にトラウマだもんね。

 

私がそう聞くと、まぁちゃんは

 

「楽しかった」

 

そう素直に言った。

 

(お、珍しい)

 

「きみが素直に言うなんて、珍しいね」

「そうかい」

「良い人そうだもんね」

「うん、良い人だった」

「そっかぁ。付き合えば?」

「多分付き合う」

 

冗談で言った私の言葉に、そんな返事が返ってきて驚いた。

 

「え!?ホントに!?」

「うん、だって、多分アタシのこと好きだしあの人」

「え!?告られた!?」

「告られてないけど、わかるよ」

 

めちゃくちゃ優しくしてくれるから。

 

そうまぁちゃんは言った。

 

「この人の彼女になったら、毎日こんなに優しくしてくれるのかなと思ったら、付き合うのも悪くないと思ったよ」

「ほんと!」

「しかも、めっちゃ動くから楽ださ」

「あ~確かにいろいろ動いてくれてたよね・・・なんか明るくてきみと合う感じする」

「でしょ、だからいいかなって思ってる」

 

 

まぁ、いつになるかわかんないけどね。

焦らないで少しずつ進むよ。

 

 

とまぁちゃんは言った。

 

 

(焦らないで少しずつ・・・)

 

 

「きみは?あの白石とか言う男とどうさ」

「え!?私はダメだよ、あんなイケメンと付き合うとか無理だ」

「でも、向こうは多分きみに気があると思うよ」

「え!?そんなはずないしょ!絶対彼女いるって!」

「そうかな、見てたらきみに対する態度が違うと思ったよ」

「うそ!」

「なんかきみのこと見る目が違ったし」

「うそだぁ!」

「嘘じゃないっつーの、きみはさ、もう少し自信を持ちなよ」

 

 

ちょっと前に進んでみようよ、せっかくの夏だし。

一緒に。

 

 

まぁちゃんのその言葉にドキンとした。

 

 

(一緒に・・・か)(一緒なら、進めるのかな・・・)

(夏・・・だもんね)(私たちの大好きな夏・・・)

(明るい気持ちの時なら、進みやすいのだろうか・・・)

 

 

 

観覧車が一周して戻ってきた。

中から2人が出てくる。

そして、私の姿を見つけて、ニコリと笑った彼の顔を見て、

 

ドキリ

 

なんだか、胸が高鳴った。

 

 

(まぁちゃんとあんな話してたから・・・)

 

 

どうせなら、夕飯も一緒に食べよう。

 

そう言われて、今度こそおごるぞと決意を新たにする私は、

結局また奢られて、まんまと彼の思惑通りに翌週も会うことを約束してしまうのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「まぁちゃん準備できたー!?」

「下駄どこ行ったっけ?」

「玄関出しといたよー」

「ありがと」

 

 

ピンポーン

 

 

「あ、来たみたい」

「じゃあ行こう」

「うん」

「浴衣きつい」

「そんなもんだよ」

「浴衣のまま飲みに行けるだろうか・・・」

「飲みに行くことばっかりだな」

「せっかくだから、この夏を楽しもうと思って」

「だね」

 

 

 

カランコロン

 

 

 

下駄を鳴らしながら、玄関を開ける。

そこには、私たちを見て笑顔を見せてくれる2人が立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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